殺されるのは御免なので、逃げました

まめきち

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想い

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朝、鳥のさえずりで目を覚ますと、ゼンはすでに台所で朝食の準備をしていた。
「リディ、起きましたか?」
その声に、私は布団の中で小さく返事をする。
ゼンは笑顔を浮かべながら、お盆にスープとパンを載せてベッドまで運んできてくれる。
「今日も、じっとしていてください」
毎日のことだが、その優しさに、私は胸の奥でほっとしつつも、どこか罪悪感を覚えてしまう。

昼は森へ散歩に出かけ、薬草を摘んだり、村の人たちに挨拶をしたりする。
ゼンは私のそばを歩き、時折手を貸してくれる。
その穏やかさに、王宮での恐怖や緊張は遠くに感じられるのだが――

ふとした瞬間、頭に浮かぶのはシアンのあの鋭い眼差しだった。
冷たくも、強く、守るべきものを見据える瞳。
ゼンの優しさと温もりを享受しながらも、心の奥ではその記憶がくすぶり続ける。

夜、小屋の暖炉の前でスープを飲みながら、私はそっと呟く。
「シアン…」
ゼンはすぐに気づいて目を細める。
「リディ、何か考え事ですか?」
「ええ、ちょっとね」
彼には言えない。心の中でいつも、シアンの姿がちらつくことを。
ゼンは静かに頷き、そっと私の肩に手を置いた。

その温もりに、私は複雑な胸の内を押し込める。
ゼンは私を守る存在――でも、心の中心には、どうしてもシアンがいる。
仮初めの夫婦としての暮らしは平穏だ。
それでも、心の奥底では、逃げ出した王宮の日々と、鋭くも熱いシアンの視線が私を離さない。

夜空を見上げると、月は新月を過ぎたばかりで、星が静かに瞬いていた。
その光に照らされながら、私はそっと決意する。
「いつか、ちゃんと決めなければ――」
ゼンに甘える心と、シアンへの想いの間で揺れる日々は、まだ始まったばかりだった。
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