殺されるのは御免なので、逃げました

まめきち

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シアン

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森の奥で薬草を摘んでいた午後。
柔らかな日差しが木漏れ日となり、風が草を揺らす――そんな静かな時間だった。

「リディアーヌ様…?」

その声を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
振り向くと、そこには鋭くも威厳のある瞳をしたシアンが立っていた。
雨で濡れた鎧はないが、堂々とした佇まいと、変わらぬ強い眼差し。
思わず足がすくむ。

「シ…アン…」
声が震える。ゼンは後ろからさりげなく体を支え、肩越しに鋭い視線でシアンを警戒していた。

「ここまで逃げてくるとは、感心だな」
シアンの声は低く、落ち着いているが、奥底に抑えきれぬ怒りと苛立ちが感じられた。
「王宮から逃げ出した理由を聞かせてもらおうか」

ゼンが前に出る。
「リディアーヌ様は安全です。余計な手を出さないでください」
鋭く忠告する声も、どこか控えめで、シアンに敵意は向けられていない。

シアンは冷たい笑みを浮かべる。
「なるほど…君か、ゼン。相変わらずの世話焼きぶりだな」
ゼンの目が一瞬細くなるが、それでも毅然と立ち続ける。
「リディアーヌ様を守るのは私の役目です」

その間、リディアーヌは心の奥で動揺していた。
ゼンの優しさに甘え、平穏な日々に安らいでいたのに、やはり心の中心にはシアンがいる。
「シアン…どうしてここに…」
言葉にならない思いを胸に、自然と足は後ろに下がる。

シアンの瞳がゆっくりとリディアーヌを追う。
「逃げる必要はない。俺は、ただ…会いに来ただけだ」
その言葉に、胸の奥がざわつく。怒りなのか、安堵なのか、恐怖なのか――自分でもよく分からない。

ゼンはその間も、リディアーヌの後ろに立ち、守る姿勢を崩さない。
だが、リディアーヌの心は、やはりシアンの存在から離れられなかった。

三人の間に一瞬、静寂が流れる。
風が木の葉を揺らし、森の匂いだけが漂う――だが、その沈黙は、互いの感情の奔流をより強く際立たせていた。
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