殺されるのは御免なので、逃げました

まめきち

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メリアーヌの嘘

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その日、王宮は妙な緊張に包まれていた。

廊下を行き交う侍女や騎士たちの表情がどこか強張っている。

リディアーヌの部屋にも、その空気はすぐに届いた。

夕方――
扉が勢いよく開いた。

入ってきたのはシアンだった。

だが、いつもと違う。

空気が張り詰めている。
怒りを押し殺しているのがはっきり分かった。

「……シアン?」

彼は数歩で距離を詰めると、低い声で言った。

「確認したいことがある」

胸がざわつく。

「メリアーヌが言ったことを……お前はどこまで信じている」

心臓が跳ねた。

「え……?」

「俺の子を宿したという話だ」

頭が真っ白になる。

「……だって……本人が……」

声が震える。

その瞬間――

シアンははっきりと言った。

「嘘だ」

空気が止まった。

理解できない。

「……え……?」

「医師が確認した。あいつは妊娠していない」

耳鳴りがした。

言葉の意味が頭に入ってこない。

「そんな……でも……」

シアンの瞳が鋭く光る。

「さらに言えば、俺はあいつに触れてすらいない」

その一言で、世界が崩れた。

リディアーヌの身体から力が抜ける。

「……嘘……」

呟きが零れた。

するとシアンは続ける。

「侍女が証言した。あいつは自分で腹を押さえて“つわりの演技”をしていたらしい」

呼吸が浅くなる。

あの日の記憶が蘇る。

涙を浮かべた妹。
震える声。

――お姉様、私……

全部。

全部――

嘘だった。

視界が滲む。

「……どうして……」

膝から崩れ落ちそうになる身体を、シアンが咄嗟に支えた。

「理由は簡単だ」

低い声。

「お前を追い詰めるためだ」

胸がえぐられる。

リディアーヌの瞳から涙が溢れた。

「私……ずっと……」

罪悪感で。
妹に対する裏切りだと思って。

自分の気持ちを否定してきた。

「……私……シアンに惹かれてはいけないって……」

声が崩れる。

シアンの腕に力がこもった。

「もう止める理由はない」

低く、はっきりとした声。

「お前が背負っていた罪は最初から存在しない」

その言葉で、張り詰めていた心が切れた。

涙が止まらない。

「……ひどい……」

妹への悲しみと裏切り。
自分の愚かさ。

全部が混ざる。

シアンは静かに言った。

「俺は許さない」

声に明確な怒りが滲んでいた。

「お前を傷つけたことも、利用したことも」

そして――

「二度と近づけない」

その言葉には王としての決意があった。

リディアーヌは震えながら彼を見上げる。

「……シアン……」

彼は迷いなく言った。

「これでわかっただろう」

一歩近づく。

「お前が自分の気持ちから逃げる理由は、もうどこにもない」

胸が大きく揺れた。

罪悪感という鎖が完全に外れる。

残ったのは――

自分の本心だけだった。
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