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♯128 婚約者の兄
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リグが詠唱すると“バチッ”という破裂音がして、エイトリウスの部屋の本棚の上に監視球が姿を現した。
「停止――風運」
それをリグが無効化してエイトリウスの手元まで風魔法で運ぶと、エイトリウスはそれを受け取り握りしめた。
「こんなふざけた真似しやがるのはどこのどいつだ…?見つけ次第ぶちコロしてやる…」
怒りを露わにするエイトリウスに対して、リグは難しい顔で考えながらボソリと呟いた。
「鑑定」
リグの詠唱と同時にエイトリウスのもっている監視球が淡く発光し、すぐに光が消えた。
それを見てリグがため息混じりにつぶやいた。
「やっぱりセキュリティロックがかかってて、師匠が扱うようなハッキング用の魔法陣でも使わないとどこに映像が飛ばされてるか鑑定できないや…でもこのかすかに残る魔力の痕跡…どこかで感じたことがあるような気がするんだけどなぁ……」
「は…?!だれだよ?!この屋敷の人間か?!」
エイトリウスが食い気味にリグに詰め寄ると、リグは首を横に振って途方に暮れた。
「いや…それがわかってたら言ってるよ…ってか、これいつからだろう…?まさかあの契約を交わした日より前から置いてあったりしないよね…?もしそうなら色々と終わるんだけど…はぁ…」
エイトリウスはそんなリグを複雑そうな視線で見つめた。
「俺にもわからん…ただやはり父じゃないと思う…もしお前の動きとこの契約のことを知ってたら、絶対に阻止して利用するために俺に色々と命令してくるだろうし」
リグはそれはその通りだと思った。
あの、どんな汚い手を使ってでも自分の思い通りに事を運ぼうとするアルゼンハイト公爵だ。
もし自分が公爵の弱みを握ってることや、エルとこんな関係になってるを知ったとしたら、すぐ動かないはずはない。
もしくは、エルが嘘をついている可能性もあるけど、じっと観察してみても嘘をついているようには見えないな、とリグは思った。
そのリグの視線に気づいたエイトリウスは、ハッとしてリグを睨みつけた。
「なっ?!俺を疑ってるのか?!俺は父のようにそんな汚い手を使ってお前を騙したりするわけっ…!――っ…」
そこまで口にして、自分も今まさにリグに汚い手を使って言う事を聞かせているという事実が頭によぎり、言葉に詰まった。
しかし、自分はあんなヤツとは違うと自分に言い訳をして口を開いた。
「…いや…その…俺は父と違ってこの家がどうなろうとどうだっていいし……!もちろんリグを騙すつもりは絶対ない!それは誓ってもいい!…ただ…俺はただ…その…お前の……リグのことが…好…」
“コンコン……コン”
まるでエイトリウスの言葉を遮るかのようなタイミングでドアのノック音が部屋に響いた。
「…失礼いたします。リグ様のお鞄より、しばらくの間通信機のコール音が鳴り続けております。ご対応なさいますか?」
「いや、今じゃないだろ!?」
エイトリウスがキッと扉の方を睨みつけながら怒鳴ると、扉の外にいたジークが何かを察して、扉の向こう側に聞こえないように小さくため息をついた。
「…それは…大変失礼いたしました…ですが、ご用件が急ぎでございましたら、ご不便をおかけするかと」
また怒鳴りつけようと口を開いたエイトリウスに、リグは片手をあげて制止すると、扉を開けた。
「ありがとうございます。助かりました。」
リグがジークから差し出された鞄を受け取り、中から、“ピピピピ”と鳴り続ける通信機を取り出すと、父親からの通知だったので、急いで応答ボタンを押した。
「はい、なんでしょ――」
『今すぐ帰ってこい』
リグが言葉を終えるよりも早く、父が抑圧的な口調で言い放った。
その父の様子で、何か急を要する重大な問題があったであろう事を理解したリグだったが、こちらもこちらで重大すぎる問題が発覚したばかりなので、もう少しだけ調べたいと思い、切り出す。
「こちらも少し立て込んでおりまして…少しだけ待ってもらえませ――」
『今すぐに。絶対だ』
しかし、父がさらに圧力をかけるような声色になったので、リグは仕方なく諦めた。
「…わかりました」
リグはため息混じりに通話を切ると、通信機を鞄にしまい真剣な顔でエイトリウスに向き直った。
「この件はまた改めて私にも調べさせてほしい…ただ、犯人も目的もわからないってことは、エルにも危険が及ぶ可能性もあるってことだから…気をつけてね…」
エイトリウスは暫く納得が行かなそうな顔でリグを見つめた。
しかし、先ほど通話口から聞こえたルミナーレ公爵の様子から逆らうこともできそうにないので、舌打ちをすると手元の二つの監視球に視線を落とした。
「俺も調べておく…こんな形で…色々とお前とのことが外に漏れるようなことは俺としても本意じゃない…それにリグの…身体を見やがったやつがいるということだろ…?見つけ出して目ん玉抉り出してやる」
手に持った監視球を握りつぶして破壊しそうなほどに力を込めたエイトリウスに、リグは呆れて突っ込んだ。
「いや、そこ??今、エルにとって1番問題なのはアルゼンハイト公爵家が犯した罪が外部に漏れるかもしれないってことで、私の身体なんて構ってる場合じゃないでしょ…」
「はぁ?!お前それ本気で言ってるのか…?!」
エイトリウスが信じられないと言った様子でリグに詰め寄るので、リグはまた面倒なことになりそうだなと察して身を翻すと、そそくさと玄関に向かって廊下を歩き始めた。
「あ、おい待て!――?」
エイトリウスが慌てて追いかけようとした瞬間――
突然リグが何かに気を取られて足を止めた。
エイトリウスは何事かと思い、リグの視線の先を追って自分もそちらに視線を向けると。
「やぁ。久しぶりだねリグ嬢。…相変わらず君は聡明そうな目をしているね」
そこにはキナリス・アルゼンハイト――エイトリウスの兄が爽やかな笑みを浮かべて立っていた。
「ご無沙汰しております、キナリス様。ご帰国なさっていたのですね。お変わりなくお元気そうで何よりです。過分なお言葉、恐れ入ります」
リグは鞄を左手に持ったまま、右手を静かに胸元に添え、背筋を伸ばして優雅に小さく会釈した。
「あはは。ご丁寧にありがとう。エイトリウスも久しぶり。」
キナリスは笑いながらエイトリウスにも声をかけたが、ふと何かに気づいたようにまたリグに視線を戻すと、じっと見つめた。
そして少し驚いたように目を丸くしてから、ニコッと笑った。
「…へぇ…2人が仲良さそうで安心したよ。」
リグはその含みのある言い方が引っかかって少し眉根を寄せた。
一方エイトリウスは、チラッとリグの首元を見てからフンと鼻を鳴らして不機嫌そうに目を逸らした。
その様子をキナリスは楽しそうに見つめた。
「合わない間にまた随分と嫌われちゃったみたいで悲しいよ。昔はお兄さま、お兄さまーって僕の後ろついて回ってて可愛かったのに」
「なっ――?!……」
エイトリウスは一瞬カッとなって噛みつこうと思ったが、すぐに冷静になって小さく息を吐くとボソリとつぶやいた。
「いつの話をしているんですか…」
「あらら。反応もつまんなくなっちゃった。少し前まではちょっと揶揄うと顔を真っ赤にして噛みついてきていて可愛かったのにねぇ?寂しいけど成長を喜ぶべきか。兄としては複雑だなぁ」
キナリスはまた煽るようにくすくすと笑いながらエイトリウスを眺めると、エイトリウスは流石にイラッとして身を乗り出した。
それを見たリグは、慌ててエイトリウスの前に出て申し訳なさそうな表情を作った。
「お話中大変恐縮なのですが、私は急ぎの用があるのでこの辺で失礼させていただきます」
リグは軽く会釈をするとエイトリウスを肘でこづいて、廊下を歩き出し、キナリスの横を横切って玄関へと向かった。
エイトリウスは不服そうにキナリスを睨みつけると、舌打ちを残してリグの後を追った。
「ふふ。残念。暫くこっちにいるからまた近々ゆっくりお話ししようね」
キナリスはリグとエイトリウスの後ろ姿に向かって呟くと、笑顔で2人の背中を見送った。
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