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第6話:晒された羞恥
零の身体が鎖に引き伸ばされたまま虚空に浮かぶ。
全裸の肌に冷たい鉄の感触が食い込み、手首と足首から血が細く滴り落ちる。
しかし、傷はすぐに塞がり、痛みだけが残る。
周囲は真っ暗な闇。光も、音も、温度も、何もない。ただ、無限に広がる虚無。
そんな中で突如闇の奥からゆっくりと気配が近付いて来た。
角が二本、曲がって生えた頭部。
背中から広がる黒い蝙蝠のような翼。
灰色がかった黒い肌、赤く輝く瞳。
唇に、愉悦の笑みが浮かぶ。
黒いローブが優雅に揺れ、長い爪の指先が虚空を掻く。
中性的な美しさを持つ、あの悪魔――契約の相手。
「ようこそ、私の領域へ」
声は低く、甘く響く。
零の赤い瞳が、ゆっくりと悪魔を捉える。
困惑が、恐怖に変わる。
「……なぜ、ここに? 復讐は、終わったはず……魂を捧げた代償は……」
悪魔は、ゆっくりと翼を広げた。
零の身体が、鎖に引かれてさらに引き伸ばされる。
関節が軋み、骨が悲鳴を上げる。
「ふっ……終わった? 君の復讐は、確かに完遂されたよ。三人は、精神も肉体も、粉々に砕かれた。君は、満足したね?」
悪魔の指が、零の頰をなぞる。
冷たい感触が、肌を這う。
「だからこそ、代償の時間だ。君の魂を、回収する」
零の瞳が、見開く。
「待って……! まだ……! 私は、まだ……」
言葉は途切れた。
悪魔の爪が、零の胸に触れる。
次の瞬間――
激しい痛みが、全身を貫いた。
まるで、魂そのものが引き裂かれるような、焼けるような、抉られるような痛み。
同時に、羞恥心が洪水のように押し寄せる。
自分が三人に与えた屈辱が、鏡のように返ってくる。
土下座させられた記憶。
髪を抜かれ、顔を踏まれ、血を流した記憶。
便器に押しつけられ、ゴミを口に詰め込まれた記憶。
失禁させられ、脱糞させられ、全校生徒の前で晒された記憶。
すべてが、零の心に一気に流れ込み、彼女自身が味わう。
「――あぁぁっ!」
零の口から、悲鳴が上がる。
鎖がさらに引っ張られ、四肢が限界まで伸ばされる。
肌が裂け、血が滴る。
だが、傷はすぐに癒え、痛みだけが永遠に続く。
悪魔の声が、優しく囁く。
「これが、無間地獄だよ。痛みも、羞恥も、苦しみも、悲しみも……すべてが、終わりなく続く。君が三人に与えたものを、君自身が永遠に味わう。壊れる寸前で、留めておく。壊れても、すぐに修復して、また壊す。
何度も、何度も、何度も……」
零の瞳から、赤黒い血の涙が溢れ出す。
赤い瞳が、恐怖と絶望に揺れる。
「やめて……! お願い……! もう……終わりにして……!」
悪魔は、くつくつと笑った。
長い爪が、零の額に触れる。
魂の奥底に、指を差し込むような感覚。
「終わり? 君が望んだことだよ。『復讐を完遂できるなら魂を捧げる』……そう言ったのは、君自身だ。
だから、永遠に味わいたまえ。この無限の時間の、無間の闇の中で、君の魂は、私のものになる」
零の身体が、激しく痙攣する。
痛み、羞恥、苦しみ、悲しみ――すべてが、波のように繰り返し襲いかかる。
叫び声が、虚空に響くが、誰も聞かない。
闇は、ただ広がるだけ。
悪魔は、ゆっくりと翼を畳み、零の前に立った。
愉悦の笑みが、深くなる。
「さあ……始めようか。永遠の、因果の連鎖を」
鎖のきしむ音が無限に響き続ける。
零の魂は、そこで、永遠に囚われた。
復讐の代償は、終わりなく続く。無間地獄だった。
零の叫び声が、虚空に吸い込まれるように消えた。
悪魔の爪が、彼女の胸に深く沈み込む。
――魂の回収が、始まった。
最初に襲ってきたのは、痛みだけではなかった。
生まれてから今までの記憶が渦のように巻き起こり、繰り返し再生される。
それは、三人にされたいじめだけの話ではない。
本当に、生まれてからの全て。
些細なものから、恐怖症に至るレベルのものまで。
鎖に縛られた零の身体が、激しく痙攣し始めた。
――生まれた瞬間。
病院の冷たい光。母の疲れた顔。父の不在。
初めての泣き声が、誰にも届かない孤独。
幼い頃の記憶が、フラッシュのように閃く。
保育園で、他の子たちに無視された日々。
「お前、なんか変だよ」と囁かれた言葉。
それは、些細なものだったはず。
でも、今は胸を抉る痛みに変わる。
繰り返し、繰り返し。
無視されるたび、心が少しずつ削られていく。
次に、もっと深いトラウマ。
小学校の階段で転んだ時。
膝を擦りむき、血が流れる。
誰も助けに来ない。
ただ、痛みと孤独が、永遠に続く。
中学校での失敗。
発表で声が震え、クラスメートがくすくす笑う。
その視線が、肌を刺す。
今は、針のように心臓を突き刺す。
そして、高校のいじめ。
三人にされたすべて。
腕を抓られ、髪を抜かれ、顔を踏まれ、便器に押しつけられ……
だが、それだけではない。
夜、一人で家にいる時の闇の恐怖。
家族の不在が、底なしの孤独を生む。
暗闇恐怖症。
小さな物音で震え上がる。
蜘蛛を見た時の吐き気。
虫恐怖症。
高所からの落下の感覚。
高所恐怖症。
屋上から飛び降りた記憶が、繰り返し蘇る。
痛み、羞恥、苦しみ、悲しみ――すべてが、混ざり合って襲いかかる。
零の瞳から、血涙が流れ落ちる。
「やめて……! もう……耐えられない……!」
だが、悪魔の声が、甘く響く。
「まだ始まったばかりだよ。君の魂は、永遠にこのトラウマを繰り返す。生まれてから今まで。些細な無視から、恐怖症の根源まで。すべてを、ループさせる」
零の記憶が、さらに歪む。
幸せな環境や記憶は、ありもしない。
いや、あったはずの小さな喜び――
例えば、母の作ったおにぎりの味。
父の珍しい帰宅時の笑顔。
そんなものが、塗り替えられていく。
他人の記憶のように。
追憶のように。
母の顔がぼやけ、代わりに三人の嘲笑が重ねられる。
おにぎりの味が、血の味に変わる。
父の笑顔が、悪魔の愉悦の笑みに置き換わる。
幸せだったはずの瞬間が、トラウマに侵食される。
「これは……私の記憶じゃない……! やめて……!」
零の叫びが、虚空に響く。
だが、悪魔の爪が、さらに深く魂を掴む。
痛み、羞恥、苦しみ、悲しみが、無限に繰り返す。
鎖がきしみ、身体が引き裂かれる感覚。
癒えては裂け、裂けては癒える。
永遠に。
「これが、無間地獄。終わりはないよ、零。君の魂は、永遠にここで、トラウマを繰り返す。生まれてから今まで……そして、これから先も」
悪魔の翼が広がり、闇が零を飲み込む。
零の赤い瞳が、ゆっくりと虚ろになる。
記憶のループが、永遠に続く。
復讐の代償は、壊れた少女を、永遠の因果に閉じ込めた。
零の魂が、悪魔の爪に掴まれたまま、トラウマの渦に飲み込まれていく。
記憶のループが、さらに激しくなる。
生まれてからのすべてが、塗り替えられ、繰り返す。
しかし、今度は、三人の声が加わった。
佐倉凛花、藤堂美月、黒崎愛華。
彼女たちの言葉が、呪詛のように、零の耳元で響き始める。
最初は、先ほどの命乞いの声。
弱々しく、震える。
「お願い……許して……! ごめんなさい……!」
凛花のプライドの崩れた泣き声。
美月の無表情が崩れた嗚咽。
愛華の偽りの優しさが剥がれた懇願。
それが、零の心に染み込む。
だが、次の瞬間――急転換する。
声が、恨みつらみに変わった。
甘い声が、毒のように鋭く、刺々しくなる。
「天崎……お前なんか、生きてる価値ないよ」
「キモいんだよ、存在するだけで」
「消えちゃえば? 誰も悲しまないよ」
三人の声が重なり、増幅し、虚空全体に響き渡る。
零の身体が、鎖に引き伸ばされたまま、震える。
空間が、再び歪む。
闇が溶け、体育館のステージの中心部に変わる。
美月がいた場所。
全校生徒が、零を取り囲む。
数百の目が、零を否定する。
笑う顔。
蔑む視線。
指をさす手。
「零ちゃん、ほんと空気みたいだよね」
「地味でキモい、消えちゃえば?」
「存在するだけで、イラつくわ」
声が、波のように押し寄せる。
零の耳を塞ごうとしても、手は鎖に縛られ、動かない。
目を閉じようとしても、瞼が開いたまま、強制的に見せられる。
全校生徒の顔が、はっきり見える。
クラスメイト、後輩、先輩、先生。
全員が、零を否定する。
三人の声が、それに重なる。
「私たちを壊したお前が、許されると思うの?」
「恨むよ……永遠に」
「お前のせいで……死んだんだよ」
零の身体が、熱くなる。
下腹部に、急激な尿意と便意が襲いかかる。
痛みと張りが、腸と膀胱を締めつける。
我慢しようとするが、無駄。
鎖に縛られたまま、ステージの中心で、膝が震える。
全裸の肌が、冷たい空気に晒され、視線が刺さる。
「――あぁっ……!」
まず、尿が漏れ出した。
温かい液体が、内腿を伝い、床にぽたぽたと落ちる。
次に、腸が決壊する。
塊が、肛門から押し出され、床に落ちる。
臭いが広がる。
失禁と脱糞の瞬間が、スクリーンに大写しになる。
全校生徒の笑い声が、爆発する。
「うわっ、零が漏らした!」
「マジでキモい、ウンコまでwwww」
「拡散! 拡散しろ!」
「零ちゃん、ほんとゴミクズだね」
嘲笑が、零を包む。
三人の声が、それに混ざる。
「私たちと同じ目に遭えよ」
「恥ずかしいよね? でも、お前が悪いんだよ」
「永遠に、笑われ続けろ」
零の瞳から、涙が溢れ落ちる。
身体が震え、崩れ落ちる。
だが、鎖が引き上げ、強制的に立たせる。
トラウマのループが、繰り返す。
生まれてからの孤独、無視、痛み、恐怖。
そして、三人の呪詛。
幸せの記憶は、すべて塗り替えられ、否定される。
零の魂は、永遠に、この地獄を味わい続ける。
悪魔の愉悦の笑みが、闇の奥で響く。
復讐の代償は、壊れた少女を、無限の闇に沈めた。
全裸の肌に冷たい鉄の感触が食い込み、手首と足首から血が細く滴り落ちる。
しかし、傷はすぐに塞がり、痛みだけが残る。
周囲は真っ暗な闇。光も、音も、温度も、何もない。ただ、無限に広がる虚無。
そんな中で突如闇の奥からゆっくりと気配が近付いて来た。
角が二本、曲がって生えた頭部。
背中から広がる黒い蝙蝠のような翼。
灰色がかった黒い肌、赤く輝く瞳。
唇に、愉悦の笑みが浮かぶ。
黒いローブが優雅に揺れ、長い爪の指先が虚空を掻く。
中性的な美しさを持つ、あの悪魔――契約の相手。
「ようこそ、私の領域へ」
声は低く、甘く響く。
零の赤い瞳が、ゆっくりと悪魔を捉える。
困惑が、恐怖に変わる。
「……なぜ、ここに? 復讐は、終わったはず……魂を捧げた代償は……」
悪魔は、ゆっくりと翼を広げた。
零の身体が、鎖に引かれてさらに引き伸ばされる。
関節が軋み、骨が悲鳴を上げる。
「ふっ……終わった? 君の復讐は、確かに完遂されたよ。三人は、精神も肉体も、粉々に砕かれた。君は、満足したね?」
悪魔の指が、零の頰をなぞる。
冷たい感触が、肌を這う。
「だからこそ、代償の時間だ。君の魂を、回収する」
零の瞳が、見開く。
「待って……! まだ……! 私は、まだ……」
言葉は途切れた。
悪魔の爪が、零の胸に触れる。
次の瞬間――
激しい痛みが、全身を貫いた。
まるで、魂そのものが引き裂かれるような、焼けるような、抉られるような痛み。
同時に、羞恥心が洪水のように押し寄せる。
自分が三人に与えた屈辱が、鏡のように返ってくる。
土下座させられた記憶。
髪を抜かれ、顔を踏まれ、血を流した記憶。
便器に押しつけられ、ゴミを口に詰め込まれた記憶。
失禁させられ、脱糞させられ、全校生徒の前で晒された記憶。
すべてが、零の心に一気に流れ込み、彼女自身が味わう。
「――あぁぁっ!」
零の口から、悲鳴が上がる。
鎖がさらに引っ張られ、四肢が限界まで伸ばされる。
肌が裂け、血が滴る。
だが、傷はすぐに癒え、痛みだけが永遠に続く。
悪魔の声が、優しく囁く。
「これが、無間地獄だよ。痛みも、羞恥も、苦しみも、悲しみも……すべてが、終わりなく続く。君が三人に与えたものを、君自身が永遠に味わう。壊れる寸前で、留めておく。壊れても、すぐに修復して、また壊す。
何度も、何度も、何度も……」
零の瞳から、赤黒い血の涙が溢れ出す。
赤い瞳が、恐怖と絶望に揺れる。
「やめて……! お願い……! もう……終わりにして……!」
悪魔は、くつくつと笑った。
長い爪が、零の額に触れる。
魂の奥底に、指を差し込むような感覚。
「終わり? 君が望んだことだよ。『復讐を完遂できるなら魂を捧げる』……そう言ったのは、君自身だ。
だから、永遠に味わいたまえ。この無限の時間の、無間の闇の中で、君の魂は、私のものになる」
零の身体が、激しく痙攣する。
痛み、羞恥、苦しみ、悲しみ――すべてが、波のように繰り返し襲いかかる。
叫び声が、虚空に響くが、誰も聞かない。
闇は、ただ広がるだけ。
悪魔は、ゆっくりと翼を畳み、零の前に立った。
愉悦の笑みが、深くなる。
「さあ……始めようか。永遠の、因果の連鎖を」
鎖のきしむ音が無限に響き続ける。
零の魂は、そこで、永遠に囚われた。
復讐の代償は、終わりなく続く。無間地獄だった。
零の叫び声が、虚空に吸い込まれるように消えた。
悪魔の爪が、彼女の胸に深く沈み込む。
――魂の回収が、始まった。
最初に襲ってきたのは、痛みだけではなかった。
生まれてから今までの記憶が渦のように巻き起こり、繰り返し再生される。
それは、三人にされたいじめだけの話ではない。
本当に、生まれてからの全て。
些細なものから、恐怖症に至るレベルのものまで。
鎖に縛られた零の身体が、激しく痙攣し始めた。
――生まれた瞬間。
病院の冷たい光。母の疲れた顔。父の不在。
初めての泣き声が、誰にも届かない孤独。
幼い頃の記憶が、フラッシュのように閃く。
保育園で、他の子たちに無視された日々。
「お前、なんか変だよ」と囁かれた言葉。
それは、些細なものだったはず。
でも、今は胸を抉る痛みに変わる。
繰り返し、繰り返し。
無視されるたび、心が少しずつ削られていく。
次に、もっと深いトラウマ。
小学校の階段で転んだ時。
膝を擦りむき、血が流れる。
誰も助けに来ない。
ただ、痛みと孤独が、永遠に続く。
中学校での失敗。
発表で声が震え、クラスメートがくすくす笑う。
その視線が、肌を刺す。
今は、針のように心臓を突き刺す。
そして、高校のいじめ。
三人にされたすべて。
腕を抓られ、髪を抜かれ、顔を踏まれ、便器に押しつけられ……
だが、それだけではない。
夜、一人で家にいる時の闇の恐怖。
家族の不在が、底なしの孤独を生む。
暗闇恐怖症。
小さな物音で震え上がる。
蜘蛛を見た時の吐き気。
虫恐怖症。
高所からの落下の感覚。
高所恐怖症。
屋上から飛び降りた記憶が、繰り返し蘇る。
痛み、羞恥、苦しみ、悲しみ――すべてが、混ざり合って襲いかかる。
零の瞳から、血涙が流れ落ちる。
「やめて……! もう……耐えられない……!」
だが、悪魔の声が、甘く響く。
「まだ始まったばかりだよ。君の魂は、永遠にこのトラウマを繰り返す。生まれてから今まで。些細な無視から、恐怖症の根源まで。すべてを、ループさせる」
零の記憶が、さらに歪む。
幸せな環境や記憶は、ありもしない。
いや、あったはずの小さな喜び――
例えば、母の作ったおにぎりの味。
父の珍しい帰宅時の笑顔。
そんなものが、塗り替えられていく。
他人の記憶のように。
追憶のように。
母の顔がぼやけ、代わりに三人の嘲笑が重ねられる。
おにぎりの味が、血の味に変わる。
父の笑顔が、悪魔の愉悦の笑みに置き換わる。
幸せだったはずの瞬間が、トラウマに侵食される。
「これは……私の記憶じゃない……! やめて……!」
零の叫びが、虚空に響く。
だが、悪魔の爪が、さらに深く魂を掴む。
痛み、羞恥、苦しみ、悲しみが、無限に繰り返す。
鎖がきしみ、身体が引き裂かれる感覚。
癒えては裂け、裂けては癒える。
永遠に。
「これが、無間地獄。終わりはないよ、零。君の魂は、永遠にここで、トラウマを繰り返す。生まれてから今まで……そして、これから先も」
悪魔の翼が広がり、闇が零を飲み込む。
零の赤い瞳が、ゆっくりと虚ろになる。
記憶のループが、永遠に続く。
復讐の代償は、壊れた少女を、永遠の因果に閉じ込めた。
零の魂が、悪魔の爪に掴まれたまま、トラウマの渦に飲み込まれていく。
記憶のループが、さらに激しくなる。
生まれてからのすべてが、塗り替えられ、繰り返す。
しかし、今度は、三人の声が加わった。
佐倉凛花、藤堂美月、黒崎愛華。
彼女たちの言葉が、呪詛のように、零の耳元で響き始める。
最初は、先ほどの命乞いの声。
弱々しく、震える。
「お願い……許して……! ごめんなさい……!」
凛花のプライドの崩れた泣き声。
美月の無表情が崩れた嗚咽。
愛華の偽りの優しさが剥がれた懇願。
それが、零の心に染み込む。
だが、次の瞬間――急転換する。
声が、恨みつらみに変わった。
甘い声が、毒のように鋭く、刺々しくなる。
「天崎……お前なんか、生きてる価値ないよ」
「キモいんだよ、存在するだけで」
「消えちゃえば? 誰も悲しまないよ」
三人の声が重なり、増幅し、虚空全体に響き渡る。
零の身体が、鎖に引き伸ばされたまま、震える。
空間が、再び歪む。
闇が溶け、体育館のステージの中心部に変わる。
美月がいた場所。
全校生徒が、零を取り囲む。
数百の目が、零を否定する。
笑う顔。
蔑む視線。
指をさす手。
「零ちゃん、ほんと空気みたいだよね」
「地味でキモい、消えちゃえば?」
「存在するだけで、イラつくわ」
声が、波のように押し寄せる。
零の耳を塞ごうとしても、手は鎖に縛られ、動かない。
目を閉じようとしても、瞼が開いたまま、強制的に見せられる。
全校生徒の顔が、はっきり見える。
クラスメイト、後輩、先輩、先生。
全員が、零を否定する。
三人の声が、それに重なる。
「私たちを壊したお前が、許されると思うの?」
「恨むよ……永遠に」
「お前のせいで……死んだんだよ」
零の身体が、熱くなる。
下腹部に、急激な尿意と便意が襲いかかる。
痛みと張りが、腸と膀胱を締めつける。
我慢しようとするが、無駄。
鎖に縛られたまま、ステージの中心で、膝が震える。
全裸の肌が、冷たい空気に晒され、視線が刺さる。
「――あぁっ……!」
まず、尿が漏れ出した。
温かい液体が、内腿を伝い、床にぽたぽたと落ちる。
次に、腸が決壊する。
塊が、肛門から押し出され、床に落ちる。
臭いが広がる。
失禁と脱糞の瞬間が、スクリーンに大写しになる。
全校生徒の笑い声が、爆発する。
「うわっ、零が漏らした!」
「マジでキモい、ウンコまでwwww」
「拡散! 拡散しろ!」
「零ちゃん、ほんとゴミクズだね」
嘲笑が、零を包む。
三人の声が、それに混ざる。
「私たちと同じ目に遭えよ」
「恥ずかしいよね? でも、お前が悪いんだよ」
「永遠に、笑われ続けろ」
零の瞳から、涙が溢れ落ちる。
身体が震え、崩れ落ちる。
だが、鎖が引き上げ、強制的に立たせる。
トラウマのループが、繰り返す。
生まれてからの孤独、無視、痛み、恐怖。
そして、三人の呪詛。
幸せの記憶は、すべて塗り替えられ、否定される。
零の魂は、永遠に、この地獄を味わい続ける。
悪魔の愉悦の笑みが、闇の奥で響く。
復讐の代償は、壊れた少女を、無限の闇に沈めた。
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