【R18G】復讐の代償 ~夢の果てに壊れた少女~

黄泉坂羅刹

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最終話:永遠の因果の余韻

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午前4時を少し過ぎた頃、佐倉さくら凛花りんかのスマホが、枕元で小さく振動した。
グループ通話は、まだ繋がったままだった。
画面には、美月みづき愛華あいかのアイコンが表示され、どちらも「オフライン」ではなく「通話中」のまま。
凛花は、ぼんやりとした意識の中で、スマホを耳に当てた。

……静かだ。

誰も喋っていない。
でも、微かに、息遣いが聞こえる。
三人の、浅い呼吸。

「……ん……」

凛花が、最初に呟いた。
喉が乾いている。
夢を見ていたような気がする。
いや、夢だったはずだ。
血だまりの中で動かなくなった自分の身体。
零の赤い瞳。
頭蓋骨が砕ける音。
腰が折れる痛み。
すべてが、鮮明すぎて、夢とは思えなかった。

「凛花……起きた?」

愛華の声が、掠れて聞こえた。
いつも優しげなトーンが、かすかに震えている。

「……起きた、よ……」

凛花は、ゆっくりと上体を起こした。
部屋は暗い。
カーテンの隙間から、街灯の光が薄く差し込んでいる。
身体に、痛みはない。
頭も、腰も、普通だ。
なのに、胸の奥に、冷たいものが残っている。

「美月……いる?」

愛華が、恐る恐る呼びかけた。

「……いる」

美月の声は、低く、無表情のまま。
でも、いつもより、かすかに震えていた。
三人は、しばらく沈黙した。
通話が繋がったまま、互いの息遣いだけが聞こえる。

「……夢……だったよね?」

凛花が、ようやく口を開いた。
声が、掠れている。

「私……死んだ、と思った。頭踏まれて、骨折れて、血が出て……動けなくなって……」
「私も……トイレで、皮膚剥がされて、水かけられて……息ができなくて……」
「……体育館で……全裸で……失禁して、脱糞して……みんなに笑われて……」

三人の声が、重なる。
同じ夢。
同じ恐怖。
同じ零の姿。
赤い瞳。
冷たい微笑み。

――復讐を完遂できるなら魂を捧げる。

あの言葉が、三人の耳に残っている。

「……本当に、生きてるよね?」

凛花が、確認するように呟いた。

「生きてる……よ。身体、普通に動くし……」

愛華が、自分の腕を抓ってみせる。
痛い。
本物の痛み。

「……もう、寝れない」

美月が、ぽつりと言った。

「……うん。寝たら、また……あの夢、見ちゃうかも」

三人は、それから通話を切った。スマホを握ったまま、ベッドから起き上がる。
制服を着替え、ジャケットを羽織り、夜の街へ出た。
公園のベンチに、三人は集まった。
街灯の下で、互いの顔を見た。
凛花の金髪は乱れ、愛華の黒髪は湿り気を帯び、美月の眼鏡は曇っている。
誰も、笑わない。

「……ひどい夢だった」

凛花が、最初に口を開いた。

「天崎が……神様みたいになって、私たちを……」

愛華が、膝を抱えて続ける。

「でも、あの夢の中で……私たち、天崎にしたこと、全部返された気がする。無視とか、暴行とか、写真撮って拡散とか……全部」

美月は、無表情のまま、地面を見つめた。

「……因果応報、ってやつ?」

三人は、黙った。
風が、冷たく吹き抜ける。
公園のブランコが、きしむ音だけが響く。

「……もう、天崎に近づかない方がいいよね」

凛花が、ぽつりと言った。

「うん……」

愛華が頷く。
美月は、眼鏡を直しながら、小さく呟いた。

「……二度と、あんな夢、見たくない」

三人は、互いに顔を見合わせた。
誰も、言葉を続けられなかった。
ただ、夜の公園で、震えながら座り続けた。
通話は切れたのに、耳の奥で、まだ零の声が響いている気がした。

「復讐を完遂できるなら魂を捧げる」

あの言葉は、夢の中で終わったはずだった。
でも、三人の心に、永遠の因果のように、残り続けていた。
夜は、まだ明けなかった。
三人は、ただ、ベンチに座り、ひどい夢の余韻に震えていた。
そして、零の行方は――永遠に、闇の中へ消えたままだった。
公園のベンチで、三人は夜明けまでほとんど言葉を交わさなかった。
街灯の光が薄れ、空が少しずつ青みを帯び始めた頃、凛花がぽつりと口を開いた。

「……謝ろう」

声は小さく、震えていた。
愛華が顔を上げた。

「謝る……天崎に?」
「うん。夢じゃなかったら……本当に、天崎に酷いことしたんだよね、私たち。直接じゃなくても、間接的にでも……全部、天崎のせいじゃなかったのに」

美月は眼鏡を外し、曇ったレンズを指で拭った。
無表情のまま、しかし瞳が揺れていた。

「……謝れるなら、謝りたい。もう、あんな夢、見たくないから」

三人は、互いに視線を交わした。
誰も、すぐに言葉を続けられなかった。
でも、胸の奥に残る冷たい感覚が、決意を後押しした。

――謝る。

それだけでも、少しは因果が軽くなるかもしれない。
そう思って、三人はベンチから立ち上がった。



翌朝、学校へ向かう足取りは重かった。
制服を着て、鞄を肩にかけ、いつもの道を歩く。
でも、何かが違う。
■■の存在が、まるで最初からなかったように、日常が平穏すぎる。
教室に入ると――■■の机が、なくなっていた。
隅っこの席にあったはずの、古びた机と椅子が、跡形もなく消えている。
他の生徒たちは、誰も気づいていない。
誰も、■■のことを話題にしない。

「■■■」という名前が、誰の記憶にも残っていないかのように。

凛花は、自分の席に座りながら、隣の空席を見つめた。

「……いない」

愛華が、小さく呟いた。

「机……なくなってる」

美月は、無言で自分の席に座った。
眼鏡の奥で、視線が揺れる。
クラスメートたちは、いつも通り騒がしく、笑い、話している。
■■がいないのが、当たり前の風景。
まるで、最初から存在しなかったように。
三人は、昼休みまで我慢できなかった。



チャイムが鳴ると、互いに目配せをし、階段を上った。屋上へ。
あの、■■が飛び降りようとした場所。
鉄扉を開けると、冷たい風が吹き込んできた。
フェンスの向こうに、街並みが広がる。

そして――

――そこに、後ろ姿があった。

長い黒髪が、風に揺れている。
肩より少し長い、ストレートの黒髪。
制服のブラウスはシワだらけで、うつむき加減の背中。
■■の、後ろ姿。
三人の足が、止まった。

「天崎……」

凛花が、最初に呼んだ。
声は小さく、掠れている。

「天崎零……」

愛華が、続く。

「天崎……」

美月が、最後に、静かに呼んだ。
後ろ姿が、ゆっくりと動いた。
肩がわずかに上がり、首が回る。
黒髪が、風に舞いながら、顔をこちらへ向ける。
■■が、振り返った。
一瞬だけ。
すぐに髪が覆い隠す。
でも、三人とも見た。
間違いなく。
■■は動かない。
ただ立っている。
風がないのに、袖口がぴくりと動く。
掌の中心で、黒い霧が渦を巻く。



――■■は、まだそこにいる。
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