この恋は始まらない

こう

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第76.1話・人を殺す魔法

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おまおまおまーけ

樹莉亜は、一人でライブ配信をしながら、一つのサイトを見ていた。
今話題のアニメのオンラインくじ。
配信して引くことで経費として献上しようとしている人間のクズである。
一人で深夜配信している理由はソレだ。
ここが事務所であり、ハジメや白鳥さんが居たら、飛び蹴りを喰らわしているであろう。
それが理解出来ない彼女ではない。
それ故に、自分の家でストロングゼロ片手にライブ配信をしていたのだ。
オンラインくじには幾つか種類があるが、樹莉亜が引こうとしていたのは確率表記がされているタイプだ。
一番豪華な景品はタペストリー。
その次にアクリルスタンドやポスターがあり、確率の大部分は缶バッジやポストカードだ。
十連で回したら八千円以上かかるから、オンラインくじは大人しか回せない。
ボタンを押すだけでかんたん決済が完了し、くじが回る。
まるで悪魔のボタンだ。
樹莉亜がボタンを押すと、画面が切り替わり、袴を着た弓道娘が弓矢を構え、的に矢を射る。
その時に矢じりが輝くと激熱演出突入だ。
黄色く光ると、最低でもアクスタ。
赤く輝くと、それ以上。
虹色なんて時もある。
しかし、そんなことはなかった。

十連で出たのは下位賞ばかり。
缶バッジやポストカードが大半を占める結果に終わる。
よくある光景だ。
そして息をするように、この馬鹿は十連回すが今日は運が悪かった。
樹莉亜が好きな推しキャラのタペストリーや、アクリルスタンドは全然当たらない。
「……当たらないにゃあ」
難儀、難儀。
三十代独身女は考える。
流石に二十連回しただけでは、欲しい景品は当たらないのは世の常だ。
あと、少しだけ。
せめて、好きなキャラの缶バッジが出るまで回したい気持ちはあった。
しかし、今後の予定を考えた場合、引いたら負けだ。
十月以降には新しいアニメのタイアップも始まる。
金銭的な余裕などないだろう。
樹莉亜は思い出す。
心の中のハジメちゃんなら、私になんて言うか。

ーー射て。

「そうだね。ハジメルならそう言う」
十連ボタンを即座に押す。

葬送されるのはお前なんだよな……。
ライブ配信では、そんなコメントが残されていた。

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