Memory in Vain

サレルノのエルマンノ

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第5話

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僕とマリは直接話したことがない。
僕はマリのようにみんなと一緒に盛り上がるタイプじゃない。
マリはなぜ僕のことを憎むのだろう。
僕にはそれが理解できない。
どこかの国みたいに、僕みたいな人間を堕落の象徴だと捉えるからだろうか。
それとも理解できないものに対する嫌悪からだろうか。

そもそも誰を好きになるかなんて自由なはずだ。
マリみたいな感情を持っている人は少なくないことは知っている。
ネットで知り合った同性愛者は、苦しくなったら考えないようにしている、と言っている。
それを人は差別と呼ぶのだろうか。

憎むのではなく、ただ単に面白半分に遊んでいるだけかもしれない。
その方がむしろ残忍だ。
でも、どちらだろうと僕がひどい目に遭うのは同じことだ。
僕はそれまでも何回か同性愛の事を正当化してきたけど、お決まりの批判を浴びるだけで何の手応えも感じなかった。
僕は言った。
差別が悪いのであって、同性愛が悪いのではないと。
言う事は言われ為すべきことは為され、それでも彼らは差別をやめない。
これからも聞かされ続けるんだろう。

普通の人は男女の恋が正常で、それ以外は異常なものであると主張する。
それではなぜ異性愛が普通だといえるのか?
そのことで納得いく説明を受けたことは一度もない。
生殖のためとか、本能であるとか、もっともらしいことを聞かされるたびに、僕はうんざりする。

だからどうだっていうんだ。
僕は同性にしか興味がない。
好きになる相手が異性じゃなきゃいけない理由になっているとはとても思えない。
分かっている。
差別を避けるには孤独しかない。
その結果たとえ一生孤独であろうとも。

でも、差別を避けるために一生孤独を貫くなんてつまらない。
僕たちが互いに好きになれる相手とだけ、平和に暮らしていければそれでいい。
そこに第三者の意見は要らない。



春のひと時、僕は同性愛者が集まるといわれる街に行った。
行ったとはいえ昼間はごく普通のオフィス街だ。
だから真夜中近くでないと同性愛者たちには会えない。
その街に行くと同性愛者の出会いを求めるプライドボックスというものが点在している。
そこには同性愛者向けのフリーペーパーが入っている。

差別や感染症から身を守るための団体が発行しているチラシだ。
病気に関することのほかに、夜の街の紹介など情報量は少ないが、それでも何となくこの街の住人の様子が見て取れた。
そのチラシで昼間に空いてる喫茶店を見つけた。
昼間からこの町で営業している店は少ない。

街の端にある店の名前は「保健室」。
何回か行くうちに僕はそこで何人かの同性愛者と知り合うことができた。
同じように昼間暇にしているメンバーだった。
僕たちは少しずつ交友を深め、マリの事も話した。

今度は一人じゃない。
マリに知られても、たった一人の抵抗ではなくなる。
ネットで知り合うなんて僕にはできなかった。
セックスに興味がないわけではなかったが、よく知らない人といきなりセックスなんてできなかった。
いろんな意味で僕は不器用だったのだ。

僕はある日その街で二人目の恋人の知人に出会った。
感染症予防のボランティア団体のメンバーらしい。
偶然だと思うけど、二人目の彼も同じ店の常連だったようなのだ。
そしてその知人からの紹介で3人目の彼氏との付き合いが始まった。

そして、そこにもマリの魔の手は静かに忍び寄っていた。
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