Memory in Vain

サレルノのエルマンノ

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第6話

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勉強は嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
僕は小さいときから父親のパソコンでよくプログラムをいじっていた。
将来は科学者か技術者になりたいと思っていた。
科学者は多少変わっていても市民権が得られる職種だと思っていた。
でも違った。
願いが叶わない今となっては、生きるなんて途方もなくつまらない事のように思える。

ゲイの世界に住んでいる人々はどういう人たちなのだろう。
まず同性愛の世界には3つの異なるタイプがいる。
第1に、自他ともに同性愛者であることを認めている自由なゲイたち。
第2に、自分が同性愛者であると知られることで、人生に致命的な傷を負うという抑圧された禁欲的な、通称クローゼットと呼ばれる閉じ込められたゲイ。
そして第3に、自他ともに異性愛者に見せかけることで人生を乗り切ろうとする舞台の上の俳優のようなゲイ。

第1は自由すぎて何が問題なのかわからないと思うし、第3も問題にするには申し分ない人たちだが、その人の生活に波風を立てることはしたくない。
90年代ころから同性愛者は事あるごとに注目を集めてきたが、その中にクローゼットであることの危機を扱ったものはあまりなかった。
それはその人の人生を狂わしてしまうほどの、とても敏感な問題であったから。
ならば、どうすればクローゼットの人たちは幸せになれるのだろう?

そして同性愛者の周りを取り囲む、いわば「そうではない」人々はどうか?
彼らにとって社会は、頭と下半身のどちらも満たすことができるようになっている。
結婚という権利を持っている、出産という奇跡もある、そして社会的信用というステップアップもある。
生理的にゲイを受け入れられない大多数の異性愛者に囲まれながら、どのようにゲイは存在すべきなのか。
社会のしきたり以前に、僕たち以外の遺伝子の中に、同性を好きにならないような遺伝子があるのではないか。
だから僕は少数派の中に属している。

さて、二人目の彼の知人から紹介された彼の名は、チカラといった。
チカラと僕は磁石のように惹かれあった。
そうなるともう、なぜ二人が同性愛者なのかという理由なんかどうでもよかった。
僕はマリの事を包み隠さず話した。
すると意外な反応が返ってきた。

マリは同性愛者のコミュニティから恐れられていて、同性愛者狩りをするグループを組織しているらしかった。
その組織の名前を蛮族討伐隊と言い、そのリーダーだというのだ。
殺人事件にも関与しているらしいが、なにしろ討伐隊がどのような経路でマリと関係があるのか警察にも特定できないため、捜査が難航しているとのことだ。

マリがそこまでしているとは信じたくなかったが、これは僕だけの問題ではなさそうだ。
でも今のところ、サービスの利用者からは犠牲者が出ていないようなので、僕は安心した。
暗号を使うためには、少なくともパソコンの使い方をある程度知らなければならない。

マリに気づかれてもいいように、僕はチカラに暗号のレクチャーをする必要があった。
ところが、チカラはパソコンなんかそもそも触ったことがないようなのだ。
それもそのはずだ。
パソコンが使えなくてもインターネットはできるし、あえてパソコンをいじる必要もないのだ。
だから僕はパソコンの使い方を教える代わりに、スマホでやり取りできるアプリを教えることに決めた。

暗号を使うために必要なのは知識じゃない。
今まで暗号が目立たなかったのは、使いにくかったからだと思う。
どの資料を見ても難しい数式のことが書いてあれば、だれでも使うのをあきらめてしまうだろう。

本当はマリのことなんかどうでもいい。
あいつはああいう女なんだ。
あんなやつに気を取られるだけ時間の無駄だ。
それに僕と同じような思いをしたことがあるという女子がいることも知っている。
ああいうやつはいつか仲間から裏切られて痛い思いをするのだろう。
だから、どうでもいい。
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