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第六十七話 大部屋

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 僕達はある大部屋に足を踏み入れていた。中では鎧が立て掛けてあり、今にも動いてきそうだ。

「不気味な所に来ちゃいましたね……」

 アサガオが少しだけ声を震わせながら言う。きっと怖いのだろう。トモはアサガオの気持ちを感じ取ったのか、そっと手を繋いであげている。
 大部屋の探索をしていると、壁際に何らかのスイッチがある。明らかに罠だと分かっていても押したくなってしまう。それでも勝手に押すのはよくないと思うので、みんなに聞いてみることにした。

「これ押していいか?」
「絶対罠だよな! これ!」

 トモに分かり切っていたことを言われてしまう。

「多分な」
「多分って、自ら危険なところに突っ込んでいくの?」

 ツキナのごもっともな意見が返ってくる。自ら危険な橋を渡ろうとしているのだ。当たり前の意見である。

「でもさ……こう言うところにお宝とかが眠っている可能性があるんだよな……」
「ヒビトさんの言う通りだと思いますよ」

 ムサシは僕と同じく、興味があるようだ。

「このメンバーならきっと大丈夫だよ」
「分かったわ! ヒビト、押していいわよ」

 リリも賛成してくれているようなので、ツキナもトモもオッケーを出してくれた。どんな罠が発動するか分からないが、とりあえず僕はボタンを押すことにした。

「じゃあ、いくよ」

 僕はそう言うとボタンを押した。ゴゴゴという大きな音とともにさっきまで壁だったところが開いていく。僕はすぐに部屋の中に入ろうと思ったのだが、中から複数の刃物が飛んできたので、動きを止める。

「ふぅ……危なかった」

 僕は最後の息を吐き出すように呟く。扉が開いた瞬間に駆け込む人達を串刺しにする罠だったらしい。
 もう一歩早く部屋の中に入っていたらかなりのダメージを受けるところだった。連続で飛んでくるかと思ったが、それはなさそうなので慎重に部屋の中に入っていく。
 部屋に入ってみると外よりは明るくなっていた。中心にある宝箱が強力な光を発しているからだ。いかにもレアなものが入ってそうだ。

「誰が代表して開ける?」

 僕はみんなに質問する。おそらくだが、宝箱を開けた瞬間に何かしらのトラップが発動するに違いない。それを分かった上で、開ける人はいるのだろうか……。多分、僕が開けることになるだろうけど……。

「僕が開けましょうか?」

 と言ってきたのはコジロウだった。このまま、誰も開ける人が現れずに僕が開けることになると予想していたので少しだけ驚いてしまう。

「なら、頼む」

 僕がお願いをするとコジロウはゆっくりと宝箱に近づいていく。コジロウが宝箱から五メートルくらいのところに着いた時、地面が砂に変わり、宝箱の真下に穴が開いた。そして宝箱が消える。宝箱は消えたが、部屋は明るいままだ。危険そさっして逃げたのだろうか……。まぁ、そんなわけはないか……。

「ぎぁぁぁぁぁぁぁ! 蟻地獄ぅぅぅぅ!」

 全力疾走で戻ってきたコジロウは僕の背後に隠れる。また虫型のモンスターが現れた。どうやらこの地下迷宮は虫型のモンスターが良く多く現れるらしい。コジロウにとっては地獄のような時間なのだろう。
 蟻地獄が砂の中から出てくる。全長が三メートルあり、立派な牙が付いている。あれに刺されたら体力を吸収されてしまうかもしれない。

「また厄介そうなモンスターが出てきたな」
「確かに」

 トモは面倒くさそうに言う。僕もトモの言葉に賛同する。蟻地獄なので、地面に潜って攻撃して来ることが多いだろう。そのため厄介だと思ったのだ。 
 蟻地獄は出てきてすぐに地面に潜る。コジロウを追って出てきたが、逃げられてしまったのですぐに戻ったのだろうか。そうだとしたら索敵範囲が狭いということが分かる。

「倒さないでもここから出れるんですかね?」

 僕と同じ結論に至ったムサシがそんな質問をしてくる。索敵範囲が狭いということは蟻地獄を避けながら対面にある扉に行くことができ、戦わずに出られるのではと思ったのだ。

「それは無理そうだわ!」
 
 僕とムサシよりも先にそのことに気づき、蟻地獄の索敵に入らないように対角線上にある扉まで移動していたツキナが大声でこちらに知らせてくれる。どうやら戦いは避けれないようだ。
 蟻地獄に攻撃を当てるには誰か一人がおとりになり、地上に引き摺り出す必要がある。

「僕がおとり役になるから蟻地獄が外に出てきたら一斉に攻撃してくれ!」
「了解!」

 僕は作戦をみんなに伝えると、蟻地獄が潜った場所に近づいていく。
 僕が近づいてすぐに地面に現実世界みたいな蟻地獄の巣が現れる。足場が滑りやすくなっており、少しでも気を抜いたら落ちてしまいそうだ。
 僕は少しずつ上へ登っていく。分かっていたことだが、上がるだけでもかなり体力を消費する。僕が落ちてこないことが分かったのか、蟻地獄は僕を喰らおうと接近してくる。

「来い! 蟻地獄!」

 僕は足に力を入れ、思いっきりジャンプする。蟻地獄の巣から脱した僕は受け身をとりみんなの元に戻る。蟻地獄が巣から出てきた。

「今だ!」

 僕の叫び声と同時に蟻地獄が出てくるのを待っていたみんなが一斉攻撃を仕掛ける。
 トモは【天眼雷】を発動した。全ての属性が混ざった矢の雨だ。この攻撃で蟻地獄は多数の属性やられ状態になる。
 リリは二つの銃を合体させ、レーザーを発射する。
 アサガオは【起爆クナイ】を、ツキナは【ライトニングウェーブ】を、そしてムサシは二刀流のチャージスキル【鉄砲雨】を発動した。腰についている鞘に二本の刀をしまい蟻地獄に十分に接近したところで、一気に刀を抜く。

「とどめだ! 天眼焔!」

 僕は体を回転させながら剣を水平に一周させる。そして二秒後、全ての属性が混ざった大爆発が起こる。
 僕とトモが使ったスキルは極光騎士が最後の最後に使ってきたものだ。あの時は【属性無効】を持っていたので、なんとか耐えれたが、蟻地獄は【属性耐性】を持っていないようだ。そのため、【属性特攻】の効果がついた攻撃には耐えることができなかったみたいだ。
 「よっしゃあ!」、「よし!」、「やったね!」などと僕達は各々の言葉で喜び合う。そんな中で何も出来なかったコジロウはしょんぼりしていた。

「すいません……力になれなくて……」
「気にするな! 誰でも苦手なものはある!」

 僕はそっとコジロウを慰めた。みんなもコジロウを攻めることは勿論しない。苦手な物が目の前に現れたら、誰だってああなると思うからだ。
 僕達は蟻地獄を倒した時に再び出現した宝箱に向かって歩いていく。
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