血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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仇討ち

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 何度も何度も、今すぐにでもクソほど殴って整形してやりたいと思っていたニヤケ顔が目の前に三つ。この俺の目を持ってしても喋らない事以外には違和感が感じられないとか完全再現にも程がある。
 ダンジョンを完全に攻略して外に出てからじゃないと無理だと......撲殺出来ないと思って諦めていたモノが今――目の前にある。

 偽だけど親族殺し! 喜ばずにはいられないッ!
 身体中が歓喜と殺意に震えるぞハート!
 細胞の一つ一つすら喜んでいるのがわかる。多分体温も上がっている。俺は今完全にコイツらの血縁である事を辞めるぞッ!!
 嗚呼......ご褒美階層がこんなにも短期間に連続して来てくれるなんて思ってもみなかった。

「ヒャハァッ!!」

 真ん中にあるネットリしたニヤケ顔に狙いを定めて懐に飛び込み、匠は金砕棒を全力で振り切った。体勢を崩すとか避けられた場合の事とかは考えていない渾身の一発。

 地面が砕ける程の鋭い踏み込み、体の回転や腰の捻りは驚く程にスムーズに、流れるような動きで一切のロスなく金砕棒に乗るエネルギー。
 鞭のように撓る腕が振るう金砕棒を更に加速させ、当たる前なのにわかる会心の一撃がクソ親父に化けた鏡に迫っていく。あと――当たるまで一cm。

『――――』

 クソ父鏡の口元が僅かに動いた。何を呟いたかは消えなかったかはわからない。
 でもまぁ何かするつもりだろうが、もうこの距離だから避けられそうにないぞ。さぁ......貴様はここからどんな悪足掻きをする?

「フッッッ!!」

 最後の仕上げ。インパクトの瞬間腕に更に力を込め、手首の捻って押し込む。

 ――ギィィィィィンッ!! ......ミシッ。

 金砕棒がぶち当たった瞬間、精巧な人の形をしたモノから出たとは思えない音が鳴り響く。想定していない事態にはなったが、確かにダメージは与えた。

『ギィッ!?』
『............』
『ギャハッ♪』

 クソ父鏡はダメージに驚く程度。カス母鏡はニヤケ顔のまま微動だにせず。そして、ゴミ姉鏡は愉しそうに嗤った。

「何笑ってんだよクソッ......がぁぁぁッ!?!?」

 クソみたいな汚い笑顔をぶっ潰そうと動き出した俺に激しい衝撃が襲い掛かり、その力に耐えきれずパンッと弾けて俺の右腕は消えた。

 ――何を、された?

 意味がわからない、とは言わない。少しだけ冷静さを取り戻した俺の貧弱な頭脳は直ぐにひとつの答えを弾き出した。流石日本、こういったファンタジーな予備知識は豊富にある。もう義務教育に入れちまえよ。

「鏡って事......だよなぁ......面倒臭ぇ」

 このクソ鏡が俺にした事はカードゲームで廃人が出たりするアレでよく見た某トラップカードみたいなモンだろう。
 初見殺し過ぎる......けど、これくらいの効果で良かった。流石に攻撃を何倍にもして返されていたらヤバかったけど、等倍で触れた部位にしか返せないんなら俺の敵じゃない。

 それに......あの防御力、そう簡単に壊れない。

 最っ高じゃないか!!!

 本物は多分すぐ壊れるだろうから、代わりに思う存分殴らせて貰おう。それで殺意や怨恨が消える訳はないけど多少はスッキリする。血を回復させておいてよかった。本当に、よかった。

「アハハハハッ!!」

 クソとカスとゴミ、覚悟はいいか?
 俺の血の貯蔵は十分。

 コイツらは、前の俺の仇敵だ......遠慮はいらない。



 ◆◆◆◆◆


 ――アハハハハハハハァッ!!!

 ――ビキッ

 ――ゴッ! ゴッ! ッパァンッ!

 ――バキンッ

 デプスサイコミラーフォルム匠姉こと匠命名ゴミ姉鏡は、頭を押さえつけたまま壁に押し付け、交差させた棘でボス部屋の壁に縫い付けられて動けずにいた。外そうと踠いてみたものの深く刺さりすぎていて自身の腕力では外せそうになくただただ藻掻くだけ。
 敵は壁際まで追い込むと動きを止めて高笑いしながら殴っては腕を吹き飛ばし、その隙に再生していた逆の腕で殴り吹き飛び、また再生していた腕でまた殴る。それを相手が死ぬまで繰り返すだけだが逃れられそうもない。これが匠が適当に考えて実行した匠式カウンター鏡攻略法だった。
 母鏡がちょうど死んだところだった。父鏡も姉鏡と同じ様に胴回りを壁に突き刺さったヌンチャクで縫い付けられて暴れている。

 元々デプスサイコミラーには真っ当な声帯が実装されていないのでコピー元の言語は喋れないが、匠の記憶にある時点までの家族の記憶や性格、性能は確りとコピーされていて尚且つデプスサイコミラーの能力も乗っかる&思い出補正も加わる。故に苦手なモノが高性能であればあるほど厄介になるモンスターだが、性格が崩壊しているだけの普通の人間になったのは鏡達にとっては悲劇だったであろう。もし大半の人が苦手なGになっていたら、小さくて素早く、超カッチカチで緊急回避能力があり、環境適応能力抜群で30体以上即座に増やしつつも攻撃を反射する悪夢が誕生していただろう。

 それはさておき、そんな匠以外の親子鏡は今現在現実の方はアレだが一応コピーした時点では仲間意識は強かったというか普通に家族だったのでそれも当然受け継がれており、死んだ母鏡を悼み、涙を流して怒りの形相で匠を睨んでいる。口も「コレを外せ! 殺してやる!」と動いているが、匠には読唇術は備わっておらずザンネンながら通じていない。

「一応俺も親子の括りなんだけどなぁ......俺が死んでもお前ら誰も泣かない癖に、情の深い事で......もういいや本番前の練習として殺すだけだ」

 それを見た匠は一瞬殺る気スイッチが切れてヒトに戻り寂しそうにポツリとそう零したが、次の瞬間には殺る気スイッチが再び入り嬉々として姉鏡へと殴りかかった。メインディッシュは最後に取っておかない派の匠でも父の姿をした鏡をラストに据えるのはずっと決めていた事柄だったらしく、無意識に最後に持ってきていたのは流石の恨みの蓄積量である。

 動けなくされた挙句目の前で姉鏡と母鏡が撲殺されていくのを見守るだけしか出来ない父鏡。
 姉鏡が虫の息になるにつれて、父鏡の顔に怯えの感情が浮かんでくるのが見えて匠にイライラが募る。これくらいで怯えるな、あれだけ好き勝手やり散らかして殺意が貯まらないと思ってんのか、と。心の内に留める事が出来ずに咆哮するように内心を吐露してしまうが、ソレをこれからぶつけられる父鏡と現在ノンストップで殴られ続けている姉鏡は......正直それどころじゃなかった。



 ◆◆◆◆◆



『ギッ......ギュッ......』

 ゴミ姉鏡からカウンターで返ってくる反動が消え、されるがままに殴り続けられビクビクするだけになっていた。既に殺したカス母鏡と同じ反応で死期が近いと気付いてしまい、匠の気分が落ち込んでしまう。

 ――もう残るはクソ父だけなのか、と。

 振り切った拳が何かを砕き、パキンッと甲高い音が響いた後ゴミ姉鏡は動かなくなった。

『ギィア......』

 まるで悲劇のヒロインのように項垂れて涙を流すヒトモドキ。本当に気持ち悪い。せめてそれがクソ父の姿じゃなければまだお涙頂戴できたんだろうけど、その姿だとただの気持ち悪い中年が浸っているだけだ。

「オラァッ!! 悔しかったらソレ引っこ抜いて抜け出してみろよ。オラァッ!! ほらほらどうしたボスモンスターのクセして雑魚すぎじゃねぇかァッ!!」

 殴りながら煽ってみても、カウンターしか使ってこないクソザコナメクジ中年鏡。どうせ失うモンなんて生命しかなかったし、これならあの時刺し違える覚悟で抵抗していればよかった......嗚呼情けない......
 それにしてもなんなんだよコイツ、本っ当につまんねぇヤツだな......所詮群れていて安全圏からじゃないと他人を攻撃出来ないクソでしかないじゃん。

「ねえッ!! 今ァッ!! どんなッッ!! 気持ちィィィッ?? ねぇッ!! 見下してたクソザコにィィ!! フルボッコされるゥゥッ!! 気持ちはァァァァ!!!!」

 高物魔防のカウンター特化タイプの天敵みたいな高火力ゾンビが相手でさえなければ、ニヤニヤしたまま余裕で戦闘終了していただろう。
 そう....本当にボス部屋にやって来たのが匠でさえなければ......そして、変身したのが匠の不倶戴天の敵である元家族でさえなければ......
 デプスサイコミラーとしては「お前はこの姿の相手が苦手なんじゃなかったのかよ!!!」とこの世の理不尽を嘆きたい。殺意剥き出しにしてカウンターをモノともせずに殴り掛かってくるなんて思いもしていなかった。何なんだよ、コイツ怖ぇよ......という本体の思いを抱えたまま諦めの極地となり、必死の抵抗虚しく途中から抵抗を止め、己の死を待った。

 最期に思った事は......己の耐久性への怨嗟だった。


 ――バキャッ

「あっ......死んだか。つまらんボス戦だったなぁ......多少はスッキリしたけどさぁ......コイツ俺の苦手なモノ以外にの......苦戦した相手とかリベンジしたい相手に化けてたらヤバかったよなぁ絶対」

 死んだ偽クソ家族の死体は姿形はクソ家族そのまま材質だけを鏡に戻していた。ザ・偽物って感じになって残念な気持ちが膨らむ。是非そのままの状態で死んでいて欲しかった......これじゃあ死体蹴り出来ないじゃないか、という気持ちが強く残った。

『レベルが8上がりました』
『リミッターが解除されました』

 アッ、ハイとしか思わない。なんだろう......とても虚しい。やはり殴った感触が肉じゃなかったのが原因だと思う。あと喋んなかった事。命乞いとか懺悔(笑)とかを聞きたかった......
 まぁそれでも、都合よくなんかのリミッターが解除されたし一つの区切りがつけられたって事でおっけーとしておこう。うん。

「......んー、血やっぱ無いか。ナイフ君コレ食えそう? 食えそうなら食っていいよ」

 ある程度食って満足したナイフが戻ってきたので金砕棒で残りを粉々に砕いた後、一個だけドロップしていた手鏡を拾ってからボス部屋を出て次へと向かった。

 モドキだが怨敵を殺した事で何か吹っ切れたのか匠の歩みは力強く、ナイフがちょこちょこ着いていく後ろ姿には風格のようなモノが漂っていた。

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