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1日目
優香side.
しおりを挟むこんな偶然があるのだろうか。
私は応募された書類の、ある一枚の写真を見ながら、自然にクスリと笑みが浮かぶ。
「まさか、こんな形で会えることになるなんて」
思ってもみなかった。
「有馬」
私は、部屋の入り口に佇む、私の専属執事に先程まで見ていた写真を投げた。
「その写真の彼´を採用するわ。早急に採用の連絡と、こちらの連絡先を教えておいて」
「…承知致しました」
有馬は私に一礼をすると、部屋を出て行った。
幼い頃に母と父を亡くし、義父と義母に引き取られるまで、兄と二人で生きていた時があった。
私は今でも時々、その時の生活が頭をよぎる。
「お兄ちゃん…おなか、すいた」
「うん、ちょっと待ってろ。お兄ちゃんが今から飯作ってやるからな。今日は優香の好きなカレーだぞ」
「わぁい!ゆうか、カレーだいすき!」
「優香は本当にカレーが好きだな。」
「うん!まいにちカレーでもいい!」
「ハハハ…ま、毎日…かぁ…毎日はお兄ちゃんが嫌だな?」
「えー…なんでー」
「毎日は飽きちゃうだろー。テレビでアニメでもやってるだろうから、それ観ていい子で待ってろよ?」
「うん!」
父と母が亡くなったことは、幼い私にとって辛すぎる出来事だったが、兄が傍に居てくれたから、私は寂しい思いをすることは無かったのだ。
「ゆうかね、パパとママがいなくて さびしいけど、おにいちゃんがいつもいてくれるから、さびしくないよ!」
「そうか…優香は偉いな。優香が強い子で、お兄ちゃんも嬉しいぞ」
「えへへ…うん!」
「優香にはお兄ちゃんがついてるからな。お兄ちゃんが、優香を守ってやる」
お兄ちゃんが守ってやる。そう言ってくれたから。
ずっと一緒に、お兄ちゃんと生活していけるんだ、と
私はそう思っていたのだ。
幼い子供の純粋さは、時として周囲の迷惑になることもある。
私は義父と義母に引き取られることになった時、兄に捨てられるのかと思い、嫌だと散々、我が儘を言った。
あの時の兄の困ったような、泣きそうな顔は、忘れることができない。
でも、迎えにきてくれると約束したから。
私は兄の言葉を信じて、義父と義母の元へ養女として迎えられた。
だが、不慮の事故で義母と義父が亡くなり、私は行く宛が無くなってしまった。
そんな状況になっても、お兄ちゃんは迎えには来なかった。
今となっては、連絡先も知らない
どこで何をしているのかも分からないとなると、私を迎えにくるのは不可能であるから、当たり前だと分かる。
でも、心のどこかで、お兄ちゃんは私を捨てたんだと、悲しさと怒りでいっぱいだった。
そんな途方にくれた私を救ってくれたのは、今の保護者である義祖父だった。
義母の父親である義祖父は、ある大企業の社長であり、私一人を養女に迎えてくれるのは、簡単なことだったのだろうが、私はただただ感謝するしかない。
だって、血の繋がりの無い赤の他人を、自分の子供同然に扱ってくれ、次期の社長候補にまでしてくれた。
だから私は、少しでも義祖父の役に立てるようになろうと、勉学に励み
業界のことにも詳しくなった。
毎日、社長令嬢として、相応しい暮らしをしていた。
そんな時だ。兄が義祖父と私の住んでいる屋敷に、メ´イ´ド´として応募してきたのは。
「…何年ぶりに会うことになるのかしら…いえ、きっと兄は今更私を見ても誰だか分かるわけないわ……」
私は、有馬が居なくなり、一人になった部屋で、ぽつりと呟いた。
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