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若君誕生! 

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 幸せの時……

 桜家は笑顔に満ち溢れていた。

 新年の睦月に十歳を迎える楓禾姫は、うずくまる体勢にて、楓菜の方の膨らんだお腹に右耳を押し宛てて。

「お母上さま! トン、トンって」

 早く逢いたくてたまらない。弟か妹。

(お母上さまのお腹を蹴っているの? )

「ふふ、早く逢いたいよ。って、蹴っているのかしらね?」


 楓菜の方が答えると。

「痛くないのですか?」

 身体を起こして、心配そうに気遣ってくれる楓禾姫。


 卵型の顔の形。二重の瞳に、鼻筋の通った、鼻先が少し丸っこい可愛いい鼻。下唇がぷくりと厚く。眉尻の少し上がった眉。形の良い耳。整った顔立ちの楓禾姫。

 腰の当たりまで伸ばした、髪の毛は、生まれつき色素が薄く、赤みがかった茶髪。

 頭の上の方で、一まとめに束ねて、毎日色とりどりの紐にて結わい付けている。

 今日は、紅い紐で結い上げていて愛らしい。


 そんな、楓禾姫を愛しそうに見つめる楓菜の方と、爽は幸せで。


「どれ。私も挨拶しようか」

「まあ、お父上さまったら!」

 クスっ

 楓禾姫の面白い言い回しに楓菜の方は、思わず笑いながら爽の重みを受け止めでいたのだが……


「全然、音しないぞ? 父上だぞ!」


「ふふ、眠ったようですね」

 楓菜の方は笑いながら、泣きたくなる位の幸福で満されていた。


 ──

 一方、凛実の方も。

 日々の、剣術 《模造刀、木刀》や、体術。勉学を、朝比奈勇より、勇の息子の稜弥と共に学び、勤しみ。親想いで心優しき、十一歳になった鈴が、逞しく成長していて幸せであった。


 最近、お針子として城に奉公にあがった。庭師の、忽那基史の娘で、詠史の姉。十六歳の、こずえ。を気に入り。自身の身の回りの世話を任せたい。と持女として迎えたのだが。

(娘が出来たみたい)

 と。幸せに穏やかに過ごしていた。


 ──

 十歳の稜弥は、爽の弟の勇の息子であり、楓禾姫の従兄。警護の為の鍛練を。勇は教えている。そして、鈴にも平等に。

 楓菜の方に近しい人物でありながら、自分達親子をも気遣ってくれて。女の身では剣術など、鈴に教える事は困難である為、感謝しかない凛実の方であった。

 十一歳の詠史は、父の基史に付いて時折城に上がり、稽古や勉学に励んでいた。


 ちなみに、楓禾姫は、縫い物や、お茶、お花の作法より。

「私にも、けんじゅつを教えて下さいませ」


 身体を動かす方が、好きなのだった。



 ──-


 そんな日々の中……

 師走の二十四日


 桜家に……


「殿様! 無事お生まれになりました! 若君様にございます!」


 若君誕生! 


「楓菜の方は、無事ですか? 母上?」


「はい……」

 楓菜姫の乳母である、母。早月《さつき》の少し涙ぐんだ笑顔に。爽は、安堵して……


「楓菜様……ありがとう。お疲れ様でした……」

「爽……楓禾姫は?」

「 『もう少し、湖紗みさ若が、落ち着いてから会いましょうね』 そう言ったら、口を尖らせてましたけどね(笑)。 弟の誕生をすごく喜んでましたよ」

「ふふ。名前は みさ ですの?」

「ええ」



 -三日後-


「湖紗若さま! 姉さまですよ。楓禾よ。よろしくね!」


 幸せそうに、可愛らしく。生まれたばかりの弟に声をかける楓禾姫に。

 その時、その場にいた者達は、皆笑顔で。

 稜禾詠ノ国の未来は明るい! と喜びあったのだった……





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