12 / 104
水の国《ライプツィヒ》編 狂楽の祀り
2-2 捜索
しおりを挟む
◆
ゼフィールがいなくなってから三日。
リアンとユリアは彼の行方を捜していた。
始めはゼフィールが行きそうな場所――泉、酒場、各種商店など――を回り、見つからなかったので、町中をくまなく探した。
酒場や商店で行方を尋ねてみたりもしたが、彼の足取りはようとして知れない。
何かが起きているのは間違いなかった。
ゼフィールがふらりといなくなることはたまにあったが、何も言わずに一日以上帰らなかったことは無い。
それに、彼の荷は、竪琴以外全て宿に置かれたままだった。出掛けるのであれば金銭くらいは持って行くだろう。それが置かれたままだということは、彼が長時間出掛けるつもりではなかったことを指している。
二人が真っ先に思い浮かべたのは人さらい。
「青い血を持つ者は人狩りにあう」――商隊の団長からも釘を刺されていた事だった。
しかし、一体いつ彼の青い血を見られたのだろう。彼が人前で怪我をする事のないよう、常に注意を払ってきたはずだ。
「あと話を聞いて無いのは貴族達くらいかしら」
街路樹の作る日陰に入りながらユリアが呟いた。口にこそ出しているが、リアンに意見を求めているのではなく、自らの行動を確認している。そんな口調だ。
元々保養地だったミーミルの町には貴族達の別荘が多い。そのほとんどが木造二階建ての小ぶりなもので、泉の周囲に広がる森や町並みに実に馴染んでいる。
こういったセンスの良さは《ライプツィヒ》貴族の洗練されているところだ。
「そうだけど、どうやって聞きに行くのさ? 敷地に黙って入ったら怒られそうだけど」
「だからって、もしどこかの別荘に捕まってたらどうするのよ?」
「そりゃ僕もどうにかしたいけどさ。僕達が怒られても彼が帰ってくるわけじゃないし。まぁ、何か飲みながら考えようよ」
すぐ目の前に見える喫茶店をリアンは指さした。
季節は初夏。猛烈に暑くはないが、それでも、日中は日陰を求める程度に暑い。暑さはそれだけで人の忍耐力や思考力を削る。
決して我慢が得意ではないユリアに落ち着いてもらうため、リアンは彼女に少しでも快適になってもらう道を選んだ。
店に入ると、席に座り二人分の飲み物を頼む。運ばれてきた飲み物に早速口を付けると、冷たくて美味しい。ユリアを落ちつけるために入った店だが、冷えた飲み物のお陰で自分も涼めた。心持、頭の回転も良くなった気がする。
(なんかいい方法ないもんかな~。危なくない方向で)
机に頬杖を付きながらリアンが思案していると、通りを眺めていたユリアが口を開いた。
「もしもゼフィールをさらったとして、隠すなら自分の家よね?」
「だろうね。少なくとも、僕ならそうする。あ、でも、ユリア。それを言い出したら、貴族達の別荘だけじゃなくて、一般人の民家にいる可能性もあるから。とりあえず、貴族達に話を聞く事を考えよう」
「あんたやたら落ち着いてるわね。あいつのこと心配じゃないの?」
ユリアが机をバンと叩いた。振動でグラスがわずかに跳ねる。考えていることを口に出さなくても、彼女の場合は表情が雄弁に語ってくれる。今だと、冷たいやつだ。と、思っているようだ。
「心配だよ? だから、こうやって捜してるんじゃないか」
リアンとて、ゼフィールを心配していないわけではない。ただ、ユリアほど表に出さないだけだ。
それに、焦るユリアの姿を見ると、逆に自分は冷静にならねばと思うのだ。二人で焦ったところで良い結果は生まれない。
「とりあえずさ、どこの別荘に今人がいるのか調べてみようよ。で、その後で、使用人なり、貴族なりに話を聞いてみるってことで」
「わかったわ」
「強引に敷地に侵入して警備に捕まらないようにね。調べた別荘はこの地図にチェックして行こう」
リアンはポーチから一枚の紙を取り出すと、それをユリアに渡した。先日露天で買ったミーミルの町観光地図だが、意外にも子細に貴族達の別荘も描かれている。二度手間になったり、調べ残しを回避するために印付けするのにはもってこいだ。
「それぞれ地図にチェックしておいて、宿に戻ってきた時にお互い報告ね」
「わかったわ。それじゃあ私は北側の別荘から調べて行くわね」
「んじゃ、僕は南から」
飲み物を飲み干すと、二人は南北に別れて調査に向かった。
夜、宿に戻ってきた二人は情報をまとめた。頭を掻きながら、リアンは情報の描きこまれた地図を眺める。
「人がいるのは合わせて一二宅っと。結構あるね」
「明日も別れて動くの?」
「いやー。明日は使用人なり貴族なり捕まえないといけないし。何があるかわからないから、二人一緒に行動しようよ」
リアンとしては、ユリアが暴走して何かしでかすのを止めるために一緒に行動したいのだが、本音は言わずにおく。
言ったら逆に「私だってそんなに馬鹿じゃないわよ」とか言って、問題を起こすのが目に見えているからだ。双子の姉ながら面倒臭い性格である。
「あ、そういえば」
ユリアが何かを思い出すように首を傾けた。
「どうかした?」
「泉の近くの別荘なんだけど、なんか変だったような……。確か、昼間なのにカーテンが閉まってる部屋が二階にあったのよね」
「日に焼けると困る物でも保管してる部屋だったんじゃないの?」
「それなら元々一階北側とかに作らないかしら? 私が見たの、南東の部屋だったのよね」
納得いかない。と、ユリアは相変わらず首を捻っている。
けれど、随分と些細な違和感だ。それに、別段あり得ない話でもない。寝たきりの病人がいるとか、そんな事もあるだろう。
(だけど、こういう時のユリアの勘って、結構当たるんだよね)
何らかの成果を上げてくる可能性が高い以上、その館の話は聞き流すべきではないだろう。
「なんとも判断がつかない所だね。明日一番に調べに行ってみよっか。それどこ?」
「ココよ」
泉周辺部の森の中に隠れるように建つ一軒の別荘をユリアは指さした。
◆
ユリアが見つけた別荘はミーミルの泉から歩いてすぐの所にあった。
ぱっと見だと分かりにくいが、遊歩道とは別の小道が湖畔から館まで伸びている。下藪は自然ながらも邪魔にならぬ程度に刈り込まれ、人が通っているからか、草もさして伸びていない。
そんな小道を通って二人は別荘へ向かった。館の近くまで行くと、木々の陰に隠れ様子を探る。
湖畔の別荘も他の貴族達の別荘の例に漏れず、こじんまりとした造りをしていた。木造二階建ての建物の壁は木目調で、屋根も同じくである。外装に下手に手を入れてないお陰で森に良く馴染み、景観を壊していない。
二人が通ってきた道とは別に馬車が乗り入れ出来そうな道があるので、そちらが正式な出入り口なのだろう。
「ほら、あそこよ」
ユリアが指した場所をリアンは眺めた。確かにカーテンがひかれている。他の部屋のカーテンは全て開けられているにも関わらずだ。
人がいる気配はあったので、二人は誰かが外に出てくるのをじっと待った。
半刻ほどして、アゴに白い髭を蓄えた男性が出て来た。剪定用の鋏を持っているので庭師だろう。
庭師が小道に入ってきたところで、ユリアが彼に話しかけた。
「この別荘の方ですか?」
「そうじゃが、お前さんは?」
突然現れたユリアに庭師が警戒する。慌てて二人の間に入ると、リアンは笑顔を庭師に向けた。
「突然すいません。僕達旅の者なんですが仲間とはぐれてしまって。今探しているところなんです。泉で落ち合おうって言ってたんですけど、見つからなくて。こうして探し回ってるんですよ」
嘘を交えながら、二人がここにいる理由としてもっともっぽい話をでっち上げる。しかし、それで庭師は納得してくれたようで、警戒を解き、好々爺の顔になった。
「探し人じゃったか。確かに、たまにこの屋敷まで来てしまう者もおるのう。どれ、どんな人を探しておるんじゃ?」
「ゼフィールっていう、僕達と同じ年頃の男なんですけどね。長い銀髪と緑の瞳をしてて、僕よりちょっと背が高くて細身です。多分竪琴とか持ってると思うんですけど、どこかで見かけたりとかしてません?」
「銀髪に緑の瞳のぅ……」
リアンがゼフィールの特徴を掻い摘んで説明すると、庭師は髭を撫でながら何かを考える素振りを見せた。
「お前さん達が探している人物かわからんが、似たような人物なら三日ほど前に見たのぅ」
「どこで!?」
弾かれたようにユリアが反応した。彼女は詳細が聞きたいのか、庭師にずいっと詰め寄る。そんなユリアに特に動じるでもなく、庭師は髭を撫で続けた。
「小道の手入れが終わって帰ってきたら、王都に戻る奥様の馬車に乗せられていたのをのぅ。グッタリしてたから瞳の色はわからんし、竪琴も持っていたかわからんが。年頃と背格好はそれくらいじゃないかの」
「リアン!」
勢いよくユリアが振り向いた。見つけた! と、ユリアの目が輝いている。今まで一切情報が無かった中で、初めて手に入れた情報だった。
ユリアに頷くと、リアンは庭師に質問を投げかけた。やっと見付けた手掛かりを持つ人物だ。彼から引き出せるだけ情報を引き出しておきたい。
「あの、王都のどちらの貴族様のお宅に伺えば奥様にお会いできますかね? まだ決まったわけじゃないんですけど、他に情報も無いので、そちらに伺ってみたいんですが」
「お前さん達探しに行くのか……」
庭師がもったいぶった言い回しをした。続きがあるのか歯切れが悪い。黙って待っていると、庭師は髭を撫でるのを止め、バツが悪そうに少し遠くを見つめた。
「そうじゃのう。クリストフ侯爵家を訪ねれば探し人に会えるかもしれん。出来れば、奥様を止めてくれぬか?」
「「??」」
「お前さん達は旅人と言っておったから知らんじゃろうが、この国には年に一度、守護神アフロディテに捧げる祀りが行われるんじゃ。祭司である二侯爵家がそれぞれ代表を出し合って剣舞を奉納してたんじゃが――」
「じゃが?」
「最近は殺し合いになってしもうた。それも、金で雇った者や、どこかからかさらってきた者を使ってじゃ。奥様はその度に心を病んでしまわれてな。ワシにはそんな奥様が不憫でならんのじゃ」
「ちょっと待って! それって、ゼフィールがその祀りに担ぎ出されるってことなの!?」
ユリアが庭師の襟元を掴んだ。リアンが慌ててその手を引き離すと、庭師は苦しそうに咳き込む。それでも彼は文句を言うでもなく、言葉を続けた。
「祀りまであと二カ月じゃ。時期的にはおかしくないの」
「ふざけんじゃないわよ! リアン、さっさと王都に行くわよ!」
もはや振り返りもせず、一目散にユリアが駆け出した。そのまま王都へ向かうつもりなのだろう。庭師への礼と謝罪もそこそこに、リアンも彼女を追いかけた。
ゼフィールがいなくなってから三日。
リアンとユリアは彼の行方を捜していた。
始めはゼフィールが行きそうな場所――泉、酒場、各種商店など――を回り、見つからなかったので、町中をくまなく探した。
酒場や商店で行方を尋ねてみたりもしたが、彼の足取りはようとして知れない。
何かが起きているのは間違いなかった。
ゼフィールがふらりといなくなることはたまにあったが、何も言わずに一日以上帰らなかったことは無い。
それに、彼の荷は、竪琴以外全て宿に置かれたままだった。出掛けるのであれば金銭くらいは持って行くだろう。それが置かれたままだということは、彼が長時間出掛けるつもりではなかったことを指している。
二人が真っ先に思い浮かべたのは人さらい。
「青い血を持つ者は人狩りにあう」――商隊の団長からも釘を刺されていた事だった。
しかし、一体いつ彼の青い血を見られたのだろう。彼が人前で怪我をする事のないよう、常に注意を払ってきたはずだ。
「あと話を聞いて無いのは貴族達くらいかしら」
街路樹の作る日陰に入りながらユリアが呟いた。口にこそ出しているが、リアンに意見を求めているのではなく、自らの行動を確認している。そんな口調だ。
元々保養地だったミーミルの町には貴族達の別荘が多い。そのほとんどが木造二階建ての小ぶりなもので、泉の周囲に広がる森や町並みに実に馴染んでいる。
こういったセンスの良さは《ライプツィヒ》貴族の洗練されているところだ。
「そうだけど、どうやって聞きに行くのさ? 敷地に黙って入ったら怒られそうだけど」
「だからって、もしどこかの別荘に捕まってたらどうするのよ?」
「そりゃ僕もどうにかしたいけどさ。僕達が怒られても彼が帰ってくるわけじゃないし。まぁ、何か飲みながら考えようよ」
すぐ目の前に見える喫茶店をリアンは指さした。
季節は初夏。猛烈に暑くはないが、それでも、日中は日陰を求める程度に暑い。暑さはそれだけで人の忍耐力や思考力を削る。
決して我慢が得意ではないユリアに落ち着いてもらうため、リアンは彼女に少しでも快適になってもらう道を選んだ。
店に入ると、席に座り二人分の飲み物を頼む。運ばれてきた飲み物に早速口を付けると、冷たくて美味しい。ユリアを落ちつけるために入った店だが、冷えた飲み物のお陰で自分も涼めた。心持、頭の回転も良くなった気がする。
(なんかいい方法ないもんかな~。危なくない方向で)
机に頬杖を付きながらリアンが思案していると、通りを眺めていたユリアが口を開いた。
「もしもゼフィールをさらったとして、隠すなら自分の家よね?」
「だろうね。少なくとも、僕ならそうする。あ、でも、ユリア。それを言い出したら、貴族達の別荘だけじゃなくて、一般人の民家にいる可能性もあるから。とりあえず、貴族達に話を聞く事を考えよう」
「あんたやたら落ち着いてるわね。あいつのこと心配じゃないの?」
ユリアが机をバンと叩いた。振動でグラスがわずかに跳ねる。考えていることを口に出さなくても、彼女の場合は表情が雄弁に語ってくれる。今だと、冷たいやつだ。と、思っているようだ。
「心配だよ? だから、こうやって捜してるんじゃないか」
リアンとて、ゼフィールを心配していないわけではない。ただ、ユリアほど表に出さないだけだ。
それに、焦るユリアの姿を見ると、逆に自分は冷静にならねばと思うのだ。二人で焦ったところで良い結果は生まれない。
「とりあえずさ、どこの別荘に今人がいるのか調べてみようよ。で、その後で、使用人なり、貴族なりに話を聞いてみるってことで」
「わかったわ」
「強引に敷地に侵入して警備に捕まらないようにね。調べた別荘はこの地図にチェックして行こう」
リアンはポーチから一枚の紙を取り出すと、それをユリアに渡した。先日露天で買ったミーミルの町観光地図だが、意外にも子細に貴族達の別荘も描かれている。二度手間になったり、調べ残しを回避するために印付けするのにはもってこいだ。
「それぞれ地図にチェックしておいて、宿に戻ってきた時にお互い報告ね」
「わかったわ。それじゃあ私は北側の別荘から調べて行くわね」
「んじゃ、僕は南から」
飲み物を飲み干すと、二人は南北に別れて調査に向かった。
夜、宿に戻ってきた二人は情報をまとめた。頭を掻きながら、リアンは情報の描きこまれた地図を眺める。
「人がいるのは合わせて一二宅っと。結構あるね」
「明日も別れて動くの?」
「いやー。明日は使用人なり貴族なり捕まえないといけないし。何があるかわからないから、二人一緒に行動しようよ」
リアンとしては、ユリアが暴走して何かしでかすのを止めるために一緒に行動したいのだが、本音は言わずにおく。
言ったら逆に「私だってそんなに馬鹿じゃないわよ」とか言って、問題を起こすのが目に見えているからだ。双子の姉ながら面倒臭い性格である。
「あ、そういえば」
ユリアが何かを思い出すように首を傾けた。
「どうかした?」
「泉の近くの別荘なんだけど、なんか変だったような……。確か、昼間なのにカーテンが閉まってる部屋が二階にあったのよね」
「日に焼けると困る物でも保管してる部屋だったんじゃないの?」
「それなら元々一階北側とかに作らないかしら? 私が見たの、南東の部屋だったのよね」
納得いかない。と、ユリアは相変わらず首を捻っている。
けれど、随分と些細な違和感だ。それに、別段あり得ない話でもない。寝たきりの病人がいるとか、そんな事もあるだろう。
(だけど、こういう時のユリアの勘って、結構当たるんだよね)
何らかの成果を上げてくる可能性が高い以上、その館の話は聞き流すべきではないだろう。
「なんとも判断がつかない所だね。明日一番に調べに行ってみよっか。それどこ?」
「ココよ」
泉周辺部の森の中に隠れるように建つ一軒の別荘をユリアは指さした。
◆
ユリアが見つけた別荘はミーミルの泉から歩いてすぐの所にあった。
ぱっと見だと分かりにくいが、遊歩道とは別の小道が湖畔から館まで伸びている。下藪は自然ながらも邪魔にならぬ程度に刈り込まれ、人が通っているからか、草もさして伸びていない。
そんな小道を通って二人は別荘へ向かった。館の近くまで行くと、木々の陰に隠れ様子を探る。
湖畔の別荘も他の貴族達の別荘の例に漏れず、こじんまりとした造りをしていた。木造二階建ての建物の壁は木目調で、屋根も同じくである。外装に下手に手を入れてないお陰で森に良く馴染み、景観を壊していない。
二人が通ってきた道とは別に馬車が乗り入れ出来そうな道があるので、そちらが正式な出入り口なのだろう。
「ほら、あそこよ」
ユリアが指した場所をリアンは眺めた。確かにカーテンがひかれている。他の部屋のカーテンは全て開けられているにも関わらずだ。
人がいる気配はあったので、二人は誰かが外に出てくるのをじっと待った。
半刻ほどして、アゴに白い髭を蓄えた男性が出て来た。剪定用の鋏を持っているので庭師だろう。
庭師が小道に入ってきたところで、ユリアが彼に話しかけた。
「この別荘の方ですか?」
「そうじゃが、お前さんは?」
突然現れたユリアに庭師が警戒する。慌てて二人の間に入ると、リアンは笑顔を庭師に向けた。
「突然すいません。僕達旅の者なんですが仲間とはぐれてしまって。今探しているところなんです。泉で落ち合おうって言ってたんですけど、見つからなくて。こうして探し回ってるんですよ」
嘘を交えながら、二人がここにいる理由としてもっともっぽい話をでっち上げる。しかし、それで庭師は納得してくれたようで、警戒を解き、好々爺の顔になった。
「探し人じゃったか。確かに、たまにこの屋敷まで来てしまう者もおるのう。どれ、どんな人を探しておるんじゃ?」
「ゼフィールっていう、僕達と同じ年頃の男なんですけどね。長い銀髪と緑の瞳をしてて、僕よりちょっと背が高くて細身です。多分竪琴とか持ってると思うんですけど、どこかで見かけたりとかしてません?」
「銀髪に緑の瞳のぅ……」
リアンがゼフィールの特徴を掻い摘んで説明すると、庭師は髭を撫でながら何かを考える素振りを見せた。
「お前さん達が探している人物かわからんが、似たような人物なら三日ほど前に見たのぅ」
「どこで!?」
弾かれたようにユリアが反応した。彼女は詳細が聞きたいのか、庭師にずいっと詰め寄る。そんなユリアに特に動じるでもなく、庭師は髭を撫で続けた。
「小道の手入れが終わって帰ってきたら、王都に戻る奥様の馬車に乗せられていたのをのぅ。グッタリしてたから瞳の色はわからんし、竪琴も持っていたかわからんが。年頃と背格好はそれくらいじゃないかの」
「リアン!」
勢いよくユリアが振り向いた。見つけた! と、ユリアの目が輝いている。今まで一切情報が無かった中で、初めて手に入れた情報だった。
ユリアに頷くと、リアンは庭師に質問を投げかけた。やっと見付けた手掛かりを持つ人物だ。彼から引き出せるだけ情報を引き出しておきたい。
「あの、王都のどちらの貴族様のお宅に伺えば奥様にお会いできますかね? まだ決まったわけじゃないんですけど、他に情報も無いので、そちらに伺ってみたいんですが」
「お前さん達探しに行くのか……」
庭師がもったいぶった言い回しをした。続きがあるのか歯切れが悪い。黙って待っていると、庭師は髭を撫でるのを止め、バツが悪そうに少し遠くを見つめた。
「そうじゃのう。クリストフ侯爵家を訪ねれば探し人に会えるかもしれん。出来れば、奥様を止めてくれぬか?」
「「??」」
「お前さん達は旅人と言っておったから知らんじゃろうが、この国には年に一度、守護神アフロディテに捧げる祀りが行われるんじゃ。祭司である二侯爵家がそれぞれ代表を出し合って剣舞を奉納してたんじゃが――」
「じゃが?」
「最近は殺し合いになってしもうた。それも、金で雇った者や、どこかからかさらってきた者を使ってじゃ。奥様はその度に心を病んでしまわれてな。ワシにはそんな奥様が不憫でならんのじゃ」
「ちょっと待って! それって、ゼフィールがその祀りに担ぎ出されるってことなの!?」
ユリアが庭師の襟元を掴んだ。リアンが慌ててその手を引き離すと、庭師は苦しそうに咳き込む。それでも彼は文句を言うでもなく、言葉を続けた。
「祀りまであと二カ月じゃ。時期的にはおかしくないの」
「ふざけんじゃないわよ! リアン、さっさと王都に行くわよ!」
もはや振り返りもせず、一目散にユリアが駆け出した。そのまま王都へ向かうつもりなのだろう。庭師への礼と謝罪もそこそこに、リアンも彼女を追いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる