先生、教えて。

オトバタケ

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 直人を椅子に座らせ、適温になったシャワーを体に掛けていく。

「熱くないか?」
「だいじょうぶ」
「頭にも掛けるぞ」
「うん」

 湯が入らないようにするためか、耳に指を入れて俯いている直人。
 後ろに立っているので表情は見えないが、目をぎゅっと閉じて唇を噛み締めているに違いない。
 その子供らしい顔を思い浮かべ、水に濡れて更に色気の増した男らしい体に反応しかけている自分を制する。

「よし、じゃあ頭を洗うな」

 シャンプーを手に取り、直人の鳶色の髪に触れる。
 柔らかくて手触りのいい髪が自分の指に絡まるのを見て、また脳の奥が疼いて何かを思い出しそうになった。
 靄の向こうに何かがあるのは分かるのに、全く見えないそれに苛立ちが募ってくる。

「よし、出来たぞ。流すな」

 そのうちパッと思い出すかもしれないな、と無理に思い出そうとするのは諦めて、アワアワになった直人の頭を洗い流していく。
 リンスも入っているシャンプーのようだったのでこれで頭は終わり、次は体を洗い始める。

「痛くないか?」
「ううん。気持ちいい」

 ボディーソープを付けたスポンジで背中を洗いながら聞くと、満足げな吐息と共に返された言葉。
 少し掠れた甘いバリトンに、ドクンと下腹部が熱くなる。
 施設でも同性の入浴補助をしていたが、興奮するのは同性だけだという俺でも反応したことはなかった。
 排泄補助も同様で、同性の裸を見てもブツを見ても、仕事中に下腹部が熱くなることなんてなかった。
 俺に希望を与えてくれた施設の子達と出会い、この仕事に就きたいと思うようになってから、俺の中の穢れた血は封印出来たと思っていたのに、やはり俺は獣以下の存在なんだな……。
 満足そうにニヤリと歪む生き血を啜ったような真っ赤な唇が脳裏を過り、吐き気を催す。

「先生、ちょっと痛いよ」
「あっ、ごめんな。次は前を洗うぞ」

 思い出したくない姿を浮かべてしまったので、無意識に洗う力が入ってしまったみたいだ。
 直人に謝って前に回り込み、綺麗に筋肉の付いた引き締まった体を、上から順番に洗っていく。
 封印を解かれた穢れた血が頭にも届いたのか、なんだか愛撫をしているみたいだと思ってしまい、下半身に集まる血の流れを止めることが出来なくなった。
 デリケートな場所だからと念入りに洗ったブツが、生理的な反応を起こして少し成長したのを見て、俺のモノは完全体になってしまう。
 脳内では、見下すように真っ赤な唇が嘲笑っている。

「よし、洗い終わったぞ。流すな」

 ドクドクと波打つソコを無視し、無理矢理明るい声を出して直人の体を洗い流していく。
 直人のブツは何事もなかったかのように通常モードに戻っているのに、それでもソレを見て後ろまで疼いてきてしまう。
 逃れたくても逃れられない穢れた血の存在をいやと言うほど痛感し、自分は違うんだ、とまとも人間になれた気がしていたこの五年間は幻だったのかもと思えてきてしまう。

「もう白いのに入っていい?」
「あぁ、いいぞ」

 直人が浴槽に入ると、俺をおかしくさせる裸体は消えて無邪気な顔だけが現れた。
 俺はこの笑顔に救われ、これを護るために生きていこうと決めたんだろ? 穢れた血なんかに負けず、俺自身の心で生きていくんだろ?
 穢れた血に流されて自分から獣に墜ちていった過去は消えないが、希望を見つけてそんな自分は捨てて生まれ変わったんじゃないか。

「そろそろ出ような」
「はいっ!」

 グルグル回る答えの出ない考えを断ち切り、直人のお世話のことだけを考えるようにする。
 浴槽から出た直人の体を、反応したままの己を無視して丁寧に拭いていく。

「パジャマを着られるとこまで着てみるか?」
「うん、がんばるっ!」

 下着だけ穿かせて聞いてみると、元気な返事が返ってきた。
 ズボンを穿くのに少し手間取ったが、上は上手に羽織れたので、上出来だなとウンウン頷く。
 それを見た直人は、褒められたのが分かったのか破顔する。

「今日はボタンは先生が閉めるな」

 コクンと頷いた直人のパジャマのボタンを閉めていくと、明日は自分でやれるようにとでも思っているのか、熱い視線が俺の指先に向けられた。

「髪も乾かそうな」

 洗面台の脇に置いてあった椅子に座ってもらい、髪を乾かしていく。
 さらさらと指の間を抜けていく柔らかい髪の感触に、またあの思い出せそうで出せない気持ち悪い感覚が甦ってきた。
 髪が乾くまでの間、靄の向こうにある何かを眺めていたが、結局分からずじまいだった。

 部屋に戻ると、もう十時になっていた。

「もう寝ような」
「先生も一緒?」
「あぁ、さっき風呂に入ったから一緒に寝るよ」

 俺の答えに喜んだのか、早足にベッドに向かって素早く布団に潜り込んだ直人。
 早く、と訴えてくる瞳に応えるため、俺もベッドに横になる。

「先生、ぼくのお兄さんになってくれる?」
「あぁ、いいよ」
「やったぁ!」

 大人の男が四人くらいは眠れそうなデカいキングサイズのベッドの隅で縮こまっている俺を、直人がぎゅうっと抱き締めてきた。
 自分を慰める時に妄想する相手のものと似た広い胸に抱かれて、心臓が早鐘を打つ。
 だが、直人はいなくなってしまった父親の代わりに兄として俺を求めているのだ、と勘違いしそうになっている自分に言い聞かせる。

「先生、明日はなにするの?」
「そうだな、天気がよかったら、一緒に洗濯物を干そうか」
「ぼくにできる?」
「あぁ、出来るよ」
「うん、がんばるっ!」
「じゃあ、もう寝ような」
「はいっ! 先生、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」

 尚も痛いほどに打ち続ける心臓と、半分ほど力をなくしていたのに何かを期待して力を取り戻してしまったブツを誤魔化しながらしていた会話を終えると、すぐにスースーと穏やかな寝息が髪に落ちてきた。
 それを聞いていたら、次第に体は鎮まっていった。
 何故か懐かしさを覚える直人の香りと温もりに心が穏やかになっていき、すぐに俺も眠りに落ちていった。
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