9 / 345
第一章 先祖還り
その6 ラゼル家の虹の天使、アイリス
しおりを挟む6
そしてあたしは、目を覚ました。
えっと、あたし、どうしたんだろう。
なんか、長い夢をみてた?
あまりおもいだせないの。
赤ん坊だし。
おなかがすいた。
おしっこがしたい。
そのたびに、新生児であるあたしは盛大に泣いて訴える。
すると誰かがすぐにやってきて。
抱き上げたり、授乳してくれたり、おむつを換えてくれたり、お世話をしてくれるの。
まだ目が開かないから、ぼんやりとしかわからないけど。
授乳してくれるのは、サリー。「乳母や」
お世話をしてくれるのはローサ。「小間使い」
それから、エウニーケ。「メイド長」
見守っていてくれるのがわかるバルドル「執事」
あたしを可愛がってくれる、アイリアーナ「お母さま」マウリシオ「お父さま」
それからエステリオ「叔父さま」
みんな、あたしの大切な人たちだ。
あたしは……ええっと。
誰?
新生児にふさわしく、いつもまどろみながら、小さな頭のかたすみで、あたしは考える。
※
目があいて、最初に見えたのは、嬉しそうな笑顔の女性だった。
あたしも嬉しくなった。
(ママみたいな、優しそうなひとだ。)
「まあ、あなた! マウリシオ、この子、笑ったわ! なんて可愛いの!」
「私にも見せておくれ」
力強い腕が、あたしを持ち上げた。
「本当だ! なんて、きれいな赤ん坊だろう。おまえによく似ているよ、アイリアーナ」
「まあ、あなたったら」
幸せそうに、女性は笑う。
「うちに天使がやってきたよ、エステリオ!」
「良かったな、兄さん。義姉さん」
次にあたしを抱っこしたのは、まだ若い青年だった。人が良さそうな満面の笑顔で。
「この子は、虹だね。我がラゼル家に降りたった幸運の虹だ」
「その通りだ、エステリオ」
「もちろんですわ!」
「この子の名前はアイリス」
お父さまが、はりのある声でろうろうと宣言した。
「千年の伝統を誇る我がラゼル家に降り立った、虹の天使! アイリス・リデル・ティス・ラゼル。これからどんなことがあろうと、おまえは私たちが守るよ!」
「わたくしも」
「わたしも誓う」
お母さま、叔父さま。
そして、あたしは、笑う。
世界に満ちている、銀色の光。
部屋の中を飛び交う、妖精たちの姿が見えて、嬉しくなった。
「まあ、お嬢さま。なんて、愛らしい……」
お母さまたちの後ろに控えていた、メイドさんたちが見えた。みんな、嬉しそう、幸せそうだ。
『アイリス、あなたの力よ』
『あなたの笑顔は、みんなを癒やし、幸せにするのよ』
妖精さんたちの声がした。
ひらひらと飛び回って、光の粉をふりかけて。みんなを癒やすのは、妖精さんたちもだ。
あたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼル。
この世界に生まれ出て、目が開いたばかり。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
271
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる