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第一章 先祖還り

その6 ラゼル家の虹の天使、アイリス

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            6

 そしてあたしは、目を覚ました。

 えっと、あたし、どうしたんだろう。
 なんか、長い夢をみてた?

 あまりおもいだせないの。
 赤ん坊だし。

 おなかがすいた。
 おしっこがしたい。

 そのたびに、新生児であるあたしは盛大に泣いて訴える。

 すると誰かがすぐにやってきて。
 抱き上げたり、授乳してくれたり、おむつを換えてくれたり、お世話をしてくれるの。
 まだ目が開かないから、ぼんやりとしかわからないけど。

 授乳してくれるのは、サリー。「乳母や」

 お世話をしてくれるのはローサ。「小間使い」

 それから、エウニーケ。「メイド長」
 見守っていてくれるのがわかるバルドル「執事」
 
 あたしを可愛がってくれる、アイリアーナ「お母さま」マウリシオ「お父さま」
 それからエステリオ「叔父さま」

 みんな、あたしの大切な人たちだ。
 
 あたしは……ええっと。
 誰?

 新生児にふさわしく、いつもまどろみながら、小さな頭のかたすみで、あたしは考える。

         ※

 目があいて、最初に見えたのは、嬉しそうな笑顔の女性だった。
 あたしも嬉しくなった。

(ママみたいな、優しそうなひとだ。)

「まあ、あなた! マウリシオ、この子、笑ったわ! なんて可愛いの!」

「私にも見せておくれ」
 力強い腕が、あたしを持ち上げた。

「本当だ! なんて、きれいな赤ん坊だろう。おまえによく似ているよ、アイリアーナ」

「まあ、あなたったら」
 幸せそうに、女性は笑う。

「うちに天使がやってきたよ、エステリオ!」

「良かったな、兄さん。義姉さん」
 次にあたしを抱っこしたのは、まだ若い青年だった。人が良さそうな満面の笑顔で。

「この子は、虹だね。我がラゼル家に降りたった幸運の虹だ」

「その通りだ、エステリオ」
「もちろんですわ!」
 
「この子の名前はアイリス」
 お父さまが、はりのある声でろうろうと宣言した。

「千年の伝統を誇る我がラゼル家に降り立った、虹の天使! アイリス・リデル・ティス・ラゼル。これからどんなことがあろうと、おまえは私たちが守るよ!」

「わたくしも」

「わたしも誓う」

 お母さま、叔父さま。
 そして、あたしは、笑う。
 世界に満ちている、銀色の光。
 部屋の中を飛び交う、妖精たちの姿が見えて、嬉しくなった。


「まあ、お嬢さま。なんて、愛らしい……」
 お母さまたちの後ろに控えていた、メイドさんたちが見えた。みんな、嬉しそう、幸せそうだ。

『アイリス、あなたの力よ』
『あなたの笑顔は、みんなを癒やし、幸せにするのよ』

 妖精さんたちの声がした。
 ひらひらと飛び回って、光の粉をふりかけて。みんなを癒やすのは、妖精さんたちもだ。

 あたしはアイリス・リデル・ティス・ラゼル。
 この世界に生まれ出て、目が開いたばかり。

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