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第5章
その1 輝く雪の祭り
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まだ山肌に積雪が残る、早春の情景。
万年雪を頂く霊峰、白き女神の降り立つ座、ルミナレスを臨む山腹。
広い山裾に、千人をゆうに超える人々が集う。
ここ一週間ほどは、四年に一度だけ繰り広げられる『輝く雪の祭り』なのである。
それぞれ十数名単位で小さな班を作り、天幕を張ったり、岩肌に穿たれた洞穴に陣取ったり、薪をあつめ野営の準備に余念が無い。
人々の纏っているのは晴れ着だ。
鮮やかな赤や青や黄色、茶色、黒、紫などに染め上げた毛糸を編んだり織り上げたりした、自慢の装いに着飾った若い男女、中年夫婦、子ども、さまざまの年齢の家族がいる。
「うっわー! すごうい、盛況ですねぇ!」
眼下に広がる眺めに感嘆する青年がいた。
気品のある面差し、金髪に明るい若草色の瞳、色白の肌には僅かに、点々とそばかすが浮いていた。頬は雪焼けで赤みを帯びている。
「すごいすごい! にぎわってますね! 興奮しますっ!」
白いケープを翻して、ぽんぽん飛び跳ねる。
「若さま、子どもじゃないんですから」
影のように傍らにつきそう、背の高い銀髪の青年が、ぼそっと言う。
すると、上機嫌だった金髪青年の表情が、きっ、と、険しくなった。
「ミハイル! それ禁止しましたよ。覚えてますか?」
「はいはい、若さま」
銀髪の青年は、慣れっこのようである。
「また言ったっ!」
金髪の青年は振り返り、ミハイルの頭を、ぺしっと叩いた。
「いいですか! 確認しますよ」
「はいはい」
「我々は『聖堂教会』公式の外交官です。アステル王家の庇護は捨てました。たかが大陸の最北端の僻地アステルなど! いまや大国の気まぐれでいつなんどき消し飛ぶやもしれぬ運命。我々王族も出家して『聖堂教会』に取り入りでもしないと! そのために、せっかくルミナレス山麓で四年に一度開催される異教の祭典『輝く雪の祭り』を潜入捜査、いえ、視察にやって来たのですからね!」
「若さま、だだもれ過ぎますよ」
ミハイルはすでに呆れを通り越して諦めの境地に入っていた。
「いいですねミハイル! わたくしのことは今から、ただのプリースト・シャンティ・アイーダ・アイリ。アステルの家名は捨てたのです。これからはプリーストか、シャンティと呼びなさい」
「はあ。シャンティ殿下」
「殿下じゃないっ、バカ者!」
こうして、はるばる北方から視察に訪れた二人の青年は、初めて目にする大規模な祭典に、目を奪われるのだった。
「すごいすごい! これぞ原始宗教のあり方!」
「だからシャンティ。大声で叫ばないで……」
集まるすべての人々が、楽しげに歌い、踊り、食べ、飲み、笑い合う。
鳴り響く、太い葦の茎で作られた笛。
獣に見立てた、房を垂らした、色鮮やかな毛糸の衣服をまとい、練り歩く男達。
「すごいすごい!」
「あれは、『ウクク』ですよ。……この地方では「熊男」という意味の呼び名で。別名を『神がかりの7人』。殿下……じゃない、シャンティ。あれに選ばれるのは最高の名誉だそうで。明日、夜明けと共に、ルミナレス山頂に登って神聖な儀式を執り行うのです」
「先導している青年が二人いる。あれは?」
長い銀髪と、肩までの長さの赤みがかった金髪の、長身の青年が二人、『ウクク』に先だって歩いている。顔をすっぽり隠してしまうような、黒い毛皮でできた仮面を被り、毛皮のマントを羽織り。ひらひらと踊る。
「あれは銀竜さまと山の守り神さまに扮した者さ。近所のアルちゃんと、うちの長男アトクがやってるんだよ」
背後から、中年女の明るい声がして。
シャンティとミハイルは振り返った。
背後に、長い金髪を一つに束ね、三つ編みにした女が立っていた。
恰幅のいい、貫禄のある女性だ。
「あれはあなたの息子さんですか?」
シャンティの顔が輝いた。
「すっごい! かっこいいですね!」
「そりゃどうも、ありがとう」
貫禄のある中年の女だ。
自慢げに、息子を眺めやり、目を細めた。
ぐうううううう。
そのとき、シャンティの腹が、盛大に鳴った。
「若様! はしたないですよ」
「うう、ごめんミハイル。おなかがすいて~」
「しょうがないですねえ」
「あはははははは!」
ローサは遠慮無く笑い声を響かせた。
「さっきから見てたが、あれだけ歩き回って喋っていたら、喉も渇くし、腹もすいたろう。うちの天幕におあがりよ。料理をふるまうよ」
にっこり。
「あたしはローサ。ただの隠居だよ」
「ご隠居? それにしてはずいぶん、お若い」
「まあまあ、お世辞でも嬉しいねえ! 跡取り娘が、そろそろ婿取りをして後をつぐことになってね。今年は、ここで見合いがあるのさ。まあ、おいでな。祝い膳が用意してあるんだよ」
「そういえば、このあたりでは家督は女性が継ぐのでしたね」
「そうそう。あんた若いのに、よく知っていなさるねえ」
「勉強したんです~」
「あははははははは! 末の息子も去年、嫁取りをしたからね。今宵は披露宴。村の外の人にも祝ってもらおうと、宴席を張っているから、ちょいと、おいでなさいよ。誰でも大歓迎さ!」
「えっ披露宴? それは、おめでとうございます」
「ありがとう、お客人」
だけどねえ、と、ローサは独りごちる。
「もっと早く、お披露目してやりたかったんだけど、いろいろ、あってねえ……」
まだ山肌に積雪が残る、早春の情景。
万年雪を頂く霊峰、白き女神の降り立つ座、ルミナレスを臨む山腹。
広い山裾に、千人をゆうに超える人々が集う。
ここ一週間ほどは、四年に一度だけ繰り広げられる『輝く雪の祭り』なのである。
それぞれ十数名単位で小さな班を作り、天幕を張ったり、岩肌に穿たれた洞穴に陣取ったり、薪をあつめ野営の準備に余念が無い。
人々の纏っているのは晴れ着だ。
鮮やかな赤や青や黄色、茶色、黒、紫などに染め上げた毛糸を編んだり織り上げたりした、自慢の装いに着飾った若い男女、中年夫婦、子ども、さまざまの年齢の家族がいる。
「うっわー! すごうい、盛況ですねぇ!」
眼下に広がる眺めに感嘆する青年がいた。
気品のある面差し、金髪に明るい若草色の瞳、色白の肌には僅かに、点々とそばかすが浮いていた。頬は雪焼けで赤みを帯びている。
「すごいすごい! にぎわってますね! 興奮しますっ!」
白いケープを翻して、ぽんぽん飛び跳ねる。
「若さま、子どもじゃないんですから」
影のように傍らにつきそう、背の高い銀髪の青年が、ぼそっと言う。
すると、上機嫌だった金髪青年の表情が、きっ、と、険しくなった。
「ミハイル! それ禁止しましたよ。覚えてますか?」
「はいはい、若さま」
銀髪の青年は、慣れっこのようである。
「また言ったっ!」
金髪の青年は振り返り、ミハイルの頭を、ぺしっと叩いた。
「いいですか! 確認しますよ」
「はいはい」
「我々は『聖堂教会』公式の外交官です。アステル王家の庇護は捨てました。たかが大陸の最北端の僻地アステルなど! いまや大国の気まぐれでいつなんどき消し飛ぶやもしれぬ運命。我々王族も出家して『聖堂教会』に取り入りでもしないと! そのために、せっかくルミナレス山麓で四年に一度開催される異教の祭典『輝く雪の祭り』を潜入捜査、いえ、視察にやって来たのですからね!」
「若さま、だだもれ過ぎますよ」
ミハイルはすでに呆れを通り越して諦めの境地に入っていた。
「いいですねミハイル! わたくしのことは今から、ただのプリースト・シャンティ・アイーダ・アイリ。アステルの家名は捨てたのです。これからはプリーストか、シャンティと呼びなさい」
「はあ。シャンティ殿下」
「殿下じゃないっ、バカ者!」
こうして、はるばる北方から視察に訪れた二人の青年は、初めて目にする大規模な祭典に、目を奪われるのだった。
「すごいすごい! これぞ原始宗教のあり方!」
「だからシャンティ。大声で叫ばないで……」
集まるすべての人々が、楽しげに歌い、踊り、食べ、飲み、笑い合う。
鳴り響く、太い葦の茎で作られた笛。
獣に見立てた、房を垂らした、色鮮やかな毛糸の衣服をまとい、練り歩く男達。
「すごいすごい!」
「あれは、『ウクク』ですよ。……この地方では「熊男」という意味の呼び名で。別名を『神がかりの7人』。殿下……じゃない、シャンティ。あれに選ばれるのは最高の名誉だそうで。明日、夜明けと共に、ルミナレス山頂に登って神聖な儀式を執り行うのです」
「先導している青年が二人いる。あれは?」
長い銀髪と、肩までの長さの赤みがかった金髪の、長身の青年が二人、『ウクク』に先だって歩いている。顔をすっぽり隠してしまうような、黒い毛皮でできた仮面を被り、毛皮のマントを羽織り。ひらひらと踊る。
「あれは銀竜さまと山の守り神さまに扮した者さ。近所のアルちゃんと、うちの長男アトクがやってるんだよ」
背後から、中年女の明るい声がして。
シャンティとミハイルは振り返った。
背後に、長い金髪を一つに束ね、三つ編みにした女が立っていた。
恰幅のいい、貫禄のある女性だ。
「あれはあなたの息子さんですか?」
シャンティの顔が輝いた。
「すっごい! かっこいいですね!」
「そりゃどうも、ありがとう」
貫禄のある中年の女だ。
自慢げに、息子を眺めやり、目を細めた。
ぐうううううう。
そのとき、シャンティの腹が、盛大に鳴った。
「若様! はしたないですよ」
「うう、ごめんミハイル。おなかがすいて~」
「しょうがないですねえ」
「あはははははは!」
ローサは遠慮無く笑い声を響かせた。
「さっきから見てたが、あれだけ歩き回って喋っていたら、喉も渇くし、腹もすいたろう。うちの天幕におあがりよ。料理をふるまうよ」
にっこり。
「あたしはローサ。ただの隠居だよ」
「ご隠居? それにしてはずいぶん、お若い」
「まあまあ、お世辞でも嬉しいねえ! 跡取り娘が、そろそろ婿取りをして後をつぐことになってね。今年は、ここで見合いがあるのさ。まあ、おいでな。祝い膳が用意してあるんだよ」
「そういえば、このあたりでは家督は女性が継ぐのでしたね」
「そうそう。あんた若いのに、よく知っていなさるねえ」
「勉強したんです~」
「あははははははは! 末の息子も去年、嫁取りをしたからね。今宵は披露宴。村の外の人にも祝ってもらおうと、宴席を張っているから、ちょいと、おいでなさいよ。誰でも大歓迎さ!」
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