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第2章
その11 喧嘩売ります、買います
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11
一見したところ明るい茶色の目、その底知れない金茶の瞳を覗き込んだとき。
既視感が、あった。
18金みたいに豪奢にきらめく金髪(純金の明るい金色とはまた別の雰囲気なんだよな)に、怜悧な印象を与える、しみも傷も一つとして無さそうな白い肌。
背が高く、骨格ががっちりとしている。
それなのに、貴族的なとでも表現するしかない、生まれも育ちも庶民とは世界が違うとわかる上品な面差し。ゆったりと落ち着いた雰囲気。
背筋が、すーっ、と冷えた。
『あいつ』と同じだ。
気のせいじゃない。
はっきりと似てる。
違うのは年齢。
全く違う人間、別人だと充分に承知しているのに。
胸がむかむかする。抑えられない。
王族特有のDNAか?
だとしたら相当にしぶといな、この遺伝子。
立ち尽くしていたおれの前で。
長身の屈強な美形は、わずかに上体を傾けて、挨拶の形をとった。
何かで読んだ記憶がある。
中世ヨーロッパかどこかの挨拶だったか?
「学内でも噂の的ですよ。傭兵の国『ガルガンド』三氏族評議会の長スノッリ氏族長の息子、リトルホーク殿! お初にお目に掛かり、まことに喜ばしい。わたしはフィリクス・アル・エルレーン・レナ・レギオン」
嬉しそうな満面の笑顔。
……おれはお人好しではないから、単純には信じられない。
笑顔には何を隠しているんだ?
それに、だ。
いちいち名乗るな、お貴族さま。
まだ話したことも面と向かったこともなかったが、あんたの名前くらい知ってるよ。
エルレーン公国を統べる大公殿下の第二子。公子殿下は、お兄さんのフィリップスだよな。ガルガンドを発つ前に、スノッリの親父さんからいろいろ教わったんだ。エルレーン公国に限らず貴族や王族ってとこは同じような名前がずらっと並んでいるもんだ。
歴史や伝統の重みか……。
めんどくさそうだ。
隠しているつもりだけど、おれはずいぶんイラついていた。
おれと公子の間に立つレニ。
キレイな眉がしかめられ、『ばかもの』と、口が動いてる。
よく怒られているから、その単語だけは読み取れる自信があるのだ。そんなとこに妙な自信持つなよとエーリクなら怒るだろうけど。あいついいヤツだからな。
「……で。リトルホーク殿? 私に魔法を使ったうえでの戦い方を教わりたいと」
「……ああ。たのむ」
不本意だけどな!
おれとフィリクス公子に間に、一触即発の火花が飛び散っている。
「そうですねえ。ガルガンドと言えば有名な脳筋……いや失礼、魔法よりも身体を鍛えるほうに特化しているとか。それでは確かに魔法は難しいかと」
肩をすくめた。
「フィリクス。口をつつしめ。彼は私の『伴侶』だ」
ここでレ二が口をはさんだ。
「気が進まないところ、無理を言ってしまって申し訳なかった。いろいろと忙しいだろうから、今回は、わたしが教えるとするよ」
すると急に公子は態度を軟化させる。
「いやだというわけではないよ。つい思ったものだから。それに……」
視線を向けるフィリクス。
美形青年貴族が、こんなにあからさまに態度に出していいのだろうか。
「このリトルホーク殿が、私の恋敵なのだろう?」
「ふざけんな」
そっちがぽろぽろ敵意をもらすなら、喧嘩ぐらいいつでも買ってやる。
「ただの人間に、レニをどうこうできるわけない。そんなこと、精霊たちが許すもんか。手を出してたら今頃おまえは《世界》に消されてる」
相手は大公殿下の二男だというのに、「ただの人間」とか。
我ながら口が滑る滑る。
喧嘩上等! だぜ!
ところで。
……なんで、こうなったんだっけ?
それには、おれ、リトルホークが男子寮に入ったその日のできごとを振り返らなくてはならない。
※
学長室を茫然自失の体で退出したおれを、待っていてくれたルームメイト二人、ブラッドとモルガン。
おれたち三人は、モルガンの提案で、大浴場に向かったのだった……。
一見したところ明るい茶色の目、その底知れない金茶の瞳を覗き込んだとき。
既視感が、あった。
18金みたいに豪奢にきらめく金髪(純金の明るい金色とはまた別の雰囲気なんだよな)に、怜悧な印象を与える、しみも傷も一つとして無さそうな白い肌。
背が高く、骨格ががっちりとしている。
それなのに、貴族的なとでも表現するしかない、生まれも育ちも庶民とは世界が違うとわかる上品な面差し。ゆったりと落ち着いた雰囲気。
背筋が、すーっ、と冷えた。
『あいつ』と同じだ。
気のせいじゃない。
はっきりと似てる。
違うのは年齢。
全く違う人間、別人だと充分に承知しているのに。
胸がむかむかする。抑えられない。
王族特有のDNAか?
だとしたら相当にしぶといな、この遺伝子。
立ち尽くしていたおれの前で。
長身の屈強な美形は、わずかに上体を傾けて、挨拶の形をとった。
何かで読んだ記憶がある。
中世ヨーロッパかどこかの挨拶だったか?
「学内でも噂の的ですよ。傭兵の国『ガルガンド』三氏族評議会の長スノッリ氏族長の息子、リトルホーク殿! お初にお目に掛かり、まことに喜ばしい。わたしはフィリクス・アル・エルレーン・レナ・レギオン」
嬉しそうな満面の笑顔。
……おれはお人好しではないから、単純には信じられない。
笑顔には何を隠しているんだ?
それに、だ。
いちいち名乗るな、お貴族さま。
まだ話したことも面と向かったこともなかったが、あんたの名前くらい知ってるよ。
エルレーン公国を統べる大公殿下の第二子。公子殿下は、お兄さんのフィリップスだよな。ガルガンドを発つ前に、スノッリの親父さんからいろいろ教わったんだ。エルレーン公国に限らず貴族や王族ってとこは同じような名前がずらっと並んでいるもんだ。
歴史や伝統の重みか……。
めんどくさそうだ。
隠しているつもりだけど、おれはずいぶんイラついていた。
おれと公子の間に立つレニ。
キレイな眉がしかめられ、『ばかもの』と、口が動いてる。
よく怒られているから、その単語だけは読み取れる自信があるのだ。そんなとこに妙な自信持つなよとエーリクなら怒るだろうけど。あいついいヤツだからな。
「……で。リトルホーク殿? 私に魔法を使ったうえでの戦い方を教わりたいと」
「……ああ。たのむ」
不本意だけどな!
おれとフィリクス公子に間に、一触即発の火花が飛び散っている。
「そうですねえ。ガルガンドと言えば有名な脳筋……いや失礼、魔法よりも身体を鍛えるほうに特化しているとか。それでは確かに魔法は難しいかと」
肩をすくめた。
「フィリクス。口をつつしめ。彼は私の『伴侶』だ」
ここでレ二が口をはさんだ。
「気が進まないところ、無理を言ってしまって申し訳なかった。いろいろと忙しいだろうから、今回は、わたしが教えるとするよ」
すると急に公子は態度を軟化させる。
「いやだというわけではないよ。つい思ったものだから。それに……」
視線を向けるフィリクス。
美形青年貴族が、こんなにあからさまに態度に出していいのだろうか。
「このリトルホーク殿が、私の恋敵なのだろう?」
「ふざけんな」
そっちがぽろぽろ敵意をもらすなら、喧嘩ぐらいいつでも買ってやる。
「ただの人間に、レニをどうこうできるわけない。そんなこと、精霊たちが許すもんか。手を出してたら今頃おまえは《世界》に消されてる」
相手は大公殿下の二男だというのに、「ただの人間」とか。
我ながら口が滑る滑る。
喧嘩上等! だぜ!
ところで。
……なんで、こうなったんだっけ?
それには、おれ、リトルホークが男子寮に入ったその日のできごとを振り返らなくてはならない。
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学長室を茫然自失の体で退出したおれを、待っていてくれたルームメイト二人、ブラッドとモルガン。
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