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プロローグ
その4 おくさまは魔女
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4
「気づいたのね、泰三さん」
沙織が、寂しげに微笑んだ。
「そうよ、わたしたちはもう死んでいるの。だから、また会えたのよ」
「じゃあ、これから、死後の世界に向かうのか? おれは、沙織と一緒にいられるなら、どんなところでもいい」
「いいえ」
彼女はかぶりを振る。
「わたしたちは、転生して人生をやり直すことになっているわ。そのためにも、もっと詳しく思い出して。わたしたちが結婚してからのこと、あなたの人生を」
「ええっ!? 転生? って輪廻転生? 天国とか地獄とかは?」
「泰三さん。言動がずいぶん若いみたいだけど、もしかすると記憶がないの? これまで生きてきた人生を、思い出して」
沙織が、おれの手を握って、目を覗き込む。
黒い髪に白い肌、青い瞳。
エキゾチックな顔立ち。無国籍っぽい美人だ。
「そうだ、結婚にこぎ着けるのは順調とは言えなかった。親父や親戚に反対されて」
思い出した。
彼女が帰国子女だから。彼女が天涯孤独だから。
『我が社にメリットがない。おまえの婚約者はもう決めてある』
親父が頑固に言い張ったんだ。
『大学に入ったばかりで結婚とか早すぎるでしょ! あたしだってまだ彼氏もいないのよっ!』
おれの五歳上の姉は、自分の見合い話がまとまらないことにいらついていた。それで八つ当たりされた気がする。
『夏子、あなたはもっと、おしとやかにしなさい。これだから見合いが決まらないのよ』
おふくろは、ため息をついて。
『泰三は、しっかりした子だから。私は応援しますよ』
賛成してくれたのはおふくろだけだった。
そんな親父も、沙織を育てた養母であるネリー・オブライエンさんが来日して会ってから、賛成に回った。
ネリーさんは巨大企業のトップだったのである。グレイの髪をひっつめた中年のご婦人で、どこにそれだけのバイタリティを持っているのかと思うほどの細身でかっこいい女傑だった。
しかし結婚の許可にはただ一つ、条件を出された。
おれが将来、親父の経営する貿易会社を継ぐことだ。
親父に反発していたおれは、それだけはやりたくなかった。だが、それが結婚を認める条件だというなら、しょうがない。
『やってやろうじゃないか!』
沙織と結婚できるなら。
悪魔とだって取引する。
『注意なさい、タイゾー』
ネリーさんは結婚式でにやけていたおれに、忠告した。
『アナタ、隙があります。運命を変えたいなら相応の対価が必要ですよ。たゆまず努力を続けなさい』
対価?
おれは大学在学中に結婚。
経営学を学んだ。
親父は引退して会長になり、おれが社長を継いだ。
おれと沙織はラブラブで。
なかなか子供はできなかったが、幸福だった。
月日は流れ、待望の娘が生まれた。
香織と名付けた。
かわいい初孫の顔を見た親父とお袋は、相好を崩して、孫に甘い『じいじ』と『ばあば』になってしまった。
香織はすくすく育って、沙織そっくりの美人になった。
けれど……
人生最大の悲しいことが起こった。
沙織が、病気で死んでしまった。
「なんで死んでしまったんだ、沙織」
「ごめんなさい。運命だったの」
「そんな!」
「あなたと結婚すれば、いずれ遠くないうちに死ぬと、わかっていた。けれど、わたしは、そうしたかったから選んだのよ」
沙織は驚くべきことを告げた。
「あなた、わたしが魔女だってことに気づいていたでしょ? うすうすは」
「……そうだな。なんとなく……不思議なことが起こって助けられたりが続いたからな。だが、そんな力があるなら、もっと生きてくれたら……」
「わたしはグラン・マの後継者の座を降りてしまった。その代償に遠くないうちに寿命がつきることはわかっていた。だけどそれでも、あなたと一緒になりたかったの」
「グラン・マ? ネリーさんのことか」
「いいえ」
沙織は儚げに微笑む。
「魔女の長よ。泰三、あなたがわたしを初めて見たのは、中学生のときだった。二度目に出会ったのは高校生のとき。……わたしは、歳をとっていなかったでしょ?」
「あれは……夢じゃ、なかったのか」
「わたしたち魔女は歴史の始まりの時から在る者たち。グラン・マの本当の姿は、十歳にも満たない幼女よ。日本に来たのは、『人形』に乗り移っていたグラン・マだったの」
「気づいたのね、泰三さん」
沙織が、寂しげに微笑んだ。
「そうよ、わたしたちはもう死んでいるの。だから、また会えたのよ」
「じゃあ、これから、死後の世界に向かうのか? おれは、沙織と一緒にいられるなら、どんなところでもいい」
「いいえ」
彼女はかぶりを振る。
「わたしたちは、転生して人生をやり直すことになっているわ。そのためにも、もっと詳しく思い出して。わたしたちが結婚してからのこと、あなたの人生を」
「ええっ!? 転生? って輪廻転生? 天国とか地獄とかは?」
「泰三さん。言動がずいぶん若いみたいだけど、もしかすると記憶がないの? これまで生きてきた人生を、思い出して」
沙織が、おれの手を握って、目を覗き込む。
黒い髪に白い肌、青い瞳。
エキゾチックな顔立ち。無国籍っぽい美人だ。
「そうだ、結婚にこぎ着けるのは順調とは言えなかった。親父や親戚に反対されて」
思い出した。
彼女が帰国子女だから。彼女が天涯孤独だから。
『我が社にメリットがない。おまえの婚約者はもう決めてある』
親父が頑固に言い張ったんだ。
『大学に入ったばかりで結婚とか早すぎるでしょ! あたしだってまだ彼氏もいないのよっ!』
おれの五歳上の姉は、自分の見合い話がまとまらないことにいらついていた。それで八つ当たりされた気がする。
『夏子、あなたはもっと、おしとやかにしなさい。これだから見合いが決まらないのよ』
おふくろは、ため息をついて。
『泰三は、しっかりした子だから。私は応援しますよ』
賛成してくれたのはおふくろだけだった。
そんな親父も、沙織を育てた養母であるネリー・オブライエンさんが来日して会ってから、賛成に回った。
ネリーさんは巨大企業のトップだったのである。グレイの髪をひっつめた中年のご婦人で、どこにそれだけのバイタリティを持っているのかと思うほどの細身でかっこいい女傑だった。
しかし結婚の許可にはただ一つ、条件を出された。
おれが将来、親父の経営する貿易会社を継ぐことだ。
親父に反発していたおれは、それだけはやりたくなかった。だが、それが結婚を認める条件だというなら、しょうがない。
『やってやろうじゃないか!』
沙織と結婚できるなら。
悪魔とだって取引する。
『注意なさい、タイゾー』
ネリーさんは結婚式でにやけていたおれに、忠告した。
『アナタ、隙があります。運命を変えたいなら相応の対価が必要ですよ。たゆまず努力を続けなさい』
対価?
おれは大学在学中に結婚。
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親父は引退して会長になり、おれが社長を継いだ。
おれと沙織はラブラブで。
なかなか子供はできなかったが、幸福だった。
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かわいい初孫の顔を見た親父とお袋は、相好を崩して、孫に甘い『じいじ』と『ばあば』になってしまった。
香織はすくすく育って、沙織そっくりの美人になった。
けれど……
人生最大の悲しいことが起こった。
沙織が、病気で死んでしまった。
「なんで死んでしまったんだ、沙織」
「ごめんなさい。運命だったの」
「そんな!」
「あなたと結婚すれば、いずれ遠くないうちに死ぬと、わかっていた。けれど、わたしは、そうしたかったから選んだのよ」
沙織は驚くべきことを告げた。
「あなた、わたしが魔女だってことに気づいていたでしょ? うすうすは」
「……そうだな。なんとなく……不思議なことが起こって助けられたりが続いたからな。だが、そんな力があるなら、もっと生きてくれたら……」
「わたしはグラン・マの後継者の座を降りてしまった。その代償に遠くないうちに寿命がつきることはわかっていた。だけどそれでも、あなたと一緒になりたかったの」
「グラン・マ? ネリーさんのことか」
「いいえ」
沙織は儚げに微笑む。
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