こんなわたしでもいいですか?

五月七日 外

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大魔王ディザイア=スプラウト=ノート

大魔王ディザイア=スプラウト=ノート⑥

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「でも、俺はまだ自分が誰か分からない……このままだと消えちまわないか?」
 わたしの目の前にいる男の子は真剣な顔付きでそう聞いてきた。
「うん……だから、あなたは今から自分が誰だか見つけないといけない」
「……やっぱりムリだ。今更自分が誰かなんて分からない、今まで一度もそんなこと考えたことないんだぜ……名前が無いとどうしても自分っていう自信ていうか、確信が持てない」
 目の前の男の子は落ち着かないのか足元の砂を少し蹴っている。
 (……そうだよね、わたしも自分に名前がなかったら何を根拠に自分のことを自分って言えるか分からないもん……でも、これを乗り越えてもらわないとこの人は消えちゃうし飛翔君も悲しむと思う……)
「思ったんだけど、そもそも何であなたが赤城飛翔じゃだめなの?」
「え?それは……赤城飛翔は元々アイツの名前だし、それを俺が名乗ったらややこしいだろ?」
「そっかぁ、わたしは別にあなたが赤城飛翔って名前を名乗っても良いと思うんだけどなぁ……」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺は赤城飛翔って名乗る気はないぞ」
「う~ん、どうしよっかぁ」
 彼が消えたくないと思ってくれたのはいいのだが中々彼の新しい悩みを解決する考えが思い付かなかった。

「なあ、雛田さんは名前が無かったら何を根拠に自分が雛田由依なんだって言える?」
 わたしが色々考えているとベンチから立ち上がった彼がそう聞いてきた。
「わたし?う~ん、難しいなぁ……」
「な!やっぱり難しいだろ?俺もこれは難問だと思うぞ」
 彼は自分が消えるかもしれない一大事なのに少し楽しそうだった。
「そうだよね……分かった。わたしが雛田由依だって言える根拠、一つだけあったよ」
「本当か!?何なんだ!」
 彼は自分が消えないためのヒントになると思ってテンションが高くなったのかわたしの手をガッツリと握ってきた。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ……あと少し近いから恥ずかしいし……」
「あ、ごめんごめん……ちょっとテンション上がってたわ」
 彼もわたしに言われて恥ずかしくなったのか頭を少し掻いている。
「わたしの根拠教えてもいいけど、一つだけ守って……絶対に笑わないでよ」
「もちろんだ!で何なんだ?」
「……えっと、前にわたし好きな人がいるって言ったでしょ?だから、その人のことを好きな人が雛田由依かなぁって思うの。……その、好きな人のことを好きなんだって言える内はわたしはわたしなんだって言える気がする……わたしにはこれくらいしか根拠が無いんだけど、どうかな?」
( ……何だか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。ちょっと恋愛脳すぎるかな、どうせならテニス好きにすれば良かったかなぁ……)
 わたしが少し後悔していると目の前の彼も同じことを思ったのかプルプル震えている。……あれ?もしかしなくても笑いを堪えてる?
「……ぷ、……あはは!っダメだ!面白すぎる!……そんな理由が根拠だなんて乙女過ぎるだろ!ぷはは!」
 彼はついに堪えきれなかったらしく大笑いしながらそんなことを言ってきた。
「笑わないって言ったでしょ!」
「あはは!……ご、ごめん。でもあまりにも可愛らしい理由だったからさ……」
 そこで彼は一呼吸入れてこう続けてきた。
「でも……そういうの俺、結構好きかも」
「はひ!?」
 何故か彼の言葉にドキッとして変な言葉が出てしまった。
「よし決めた!俺は今日から新生恋の大魔王ディザイア=スプラウト=ノートだ!」
「は?」
「だから、俺の根拠だよ。折角だから名前は大魔王のままでいくとして……今日からはお前の恋を応援する恋の大魔王でいくよ、それに応援するって約束もしたしな」
 (……この人はそんな根拠でいいのかな?まあ、本人が満足してそうだからいいけど……)
「でも、それが根拠だとわたしの恋が叶ったらどうするの?また根拠がなくなりそうだけど……」
 わたしは彼の根拠には問題点があるのでどうするつもりか聞いてみた。
「そのときはまた別のやつの応援をするか、自分の恋に全力になってみるよ。俺も好きな人が出来たらお前みたいな根拠ができるからな、好きな人作ってみるよ」
 どうやら彼……恋の大魔王は自分が自分だと言える根拠を見つけられたようだ。
 今の彼はわたしと初めて会ったときみたいに何もかもを楽しんでいるようないい顔をしていた。
「そっかぁ、頑張ってね!……それに、大魔王さんの言葉じゃないけど今みたいに笑ってる方がいいと思うよ。じゃないと折角のイケメンが台無しだからね」
 わたしは彼によく言われたことの仕返しにそう言ってやった。
「ありがとな、お前も昔とは違っていい顔してるよ。やっぱり笑ってた方が可愛いと思うしな……それと、どうでもいいけど俺は前みたいに髪の長いお前も良かったと思うぞ」
 大魔王さんもわたしの言葉の仕返しにそんなことを言ってくる。(……テニスをするとき髪邪魔なんだよなぁ……けど、引退したらまた伸ばしてみても良いかも……)
「さて、そうと決まったら早速恋の大魔王として頑張るか!ほれ、恋愛相談を始めようぜ」
 (……本当、楽しそうだなぁ……この人はいつもこんな感じだからわたしも一緒にいて楽しいんだろうなぁ……あれ?もしかしてわたしって……)
「そう言えばわたしってあなたにわたしの好きな人が誰か教えてたっけ?」
「いや、聞いてないはずだぞ」
「そっか、じゃあ今教えてあげる」
「おう!お前が好きになるやつだからな!きっといいやつだろ俺が保証してやるよ」
 彼は腕を組ながら一人で勝手に納得している。
 (……ふふっ、わたしの好きな人が誰か知ったらこの人はどんな顔をするんだろ?かなり驚いちゃうかなぁ?でもきっと……)
「で、誰なんだよ?早く教えてくれよ気になっちゃうだろ」
 わたしが少し考えていると大魔王さんが急かしてきた。
「わかってるって……じゃあ言うよ、わたしの好きな人は……」
「好きな人は?」


「わたしの好きな人はあなただよ!……恋の大魔王さん」
 わたしは自分史上最高の笑顔で大好きな男の子に告白した。
 
 

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