こんなわたしでもいいですか?

五月七日 外

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彼の怠惰な夏休み

彼の怠惰な夏休み④

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「飛翔君もよかったら夜ご飯食べていく?」
 栞のお母さん=かえでさんが冷蔵庫に食材を入れながら聞いてきた。
「ありがたいですけど、ちょっとこの後用事があるんでそろそろ帰りますよ」
「あら、すぐできるから大丈夫よ」
「そうですよ!食べていってくださいよ~」
 栞はそんなことを言いながら抱きついてきた。
「(ばか!食べたいのは山々だけど、夜になったら大魔王が出てくるんだから食べられる訳ないだろ)」
 俺は栞にしか聞こえないようにそう言った。
「(そう言えばそうでしたね……残念ですが今日は諦めるしかなさそうです、じゃあお母さんに説明してきますよ)」
 栞はそう言うと俺から離れて楓さんと何か話にいった。まあ、上手く理由をつけているんだろう。……帰る前に何とか誤解を解かないとだなぁ……
 俺がそんなことを考えていると、説明し終えたのか栞が戻ってきた。
「ダーリン!お母さんが呼んでますよ~」
「お前なんて説明したの?」
「普通に、今日は時間が無いから今度また呼ぶよ~みたいな感じですよ」
「お前にしては普通の説明だな、何で呼ばれたんだろ?」
「さあ~?」
 ……さあ~?って適当だなぁ……栞はゲームをしていたともちゃんの遊び相手をしに行った。
「えっと、どうかしました?」
 俺は恐る恐る楓さんに話しかけた。
「そうそう、飛翔君が帰る前に聞いておきたいことがあって……飛翔君は、栞のどこが好きなの~?」
 楓さんは、夜ご飯の準備をしながらそんなことを聞いてきた。……やっぱり、もっと早い段階で誤解を解くべきだったかな……
「そのことなんですけど実は……」
「ふふ、大丈夫よ。飛翔君は栞と付き合っていないんでしょ?」
 俺が説明しようとすると、楓さんがそんなことを言ってきた。
「え!?分かってたんですか?」
「それくらいあの子と飛翔君の様子を見てたら分かるわよ。ちょっとわたしも栞の冗談に付き合い過ぎちゃったから飛翔君はビックリしたかもだけど」
 楓さんは軽く手を合わせて謝ってた。
「な~んだ良かったぁ……栞の冗談を信じてたら大変だと思ってたんですよ~」
「それは、ごめんなさいね。ところで飛翔君には栞ってどんな子に見える?」
 楓さんはともちゃんの相手をしている栞を見つめながらそう聞いてきた。
「う~ん、お母さんの前で言うのはなんですけど、変態……というか明るいやつというか……まあ、元気なやつって感じですかね?」
「なるほどね~……実は、栞って普段は恥ずかしがり屋でおとなしい子なのよ?」
「え?全然そうは思えないんですけど?」
「飛翔君は信じられないかもしれないけど、あの子は一人で本を読んだり勉強したりすることが好きでね……家事のお手伝いやともちゃんの面倒を見てくれていい子なんだけど、あまり友達も作らないで心配してたのよ……」
 ……確かに図書館でもスゴい集中力で本読んでたけど、コイツはリア充だと思ってたから意外だなぁ……
 楓さんは、優しい目でともちゃんと栞を見つめながら続けた。
「だからわたしは、飛翔君と昴ちゃんに由依ちゃんだっけ?には感謝してるの。最近はとても楽しそうだし、あの子いつも飛翔君たちのことを話してくれるのよ……栞がこんなに友達と仲良くするなんて初めてだからわたしも嬉しくてね。これからも栞の友達でいてくれると嬉しいわ」
「もちろんですよ!栞は俺にとっても大切な友達ですから」
「ありがと飛翔君、出来ればそこは彼女って言ってほしかったんだけどなぁ」
 楓さんは、そんなことを言って俺のほっぺたを人差し指指でちょんっと押してきた。
「冗談きついですよ~。それに栞も冗談で言ってるのに俺がそれを本気にしたら迷惑でしょ?」
「あはは……」
 俺が当然のことを言ったのに何故か楓さんは苦笑いをしていた。
「それじゃあ、そろそろ帰りますね」
「気を付けて帰ってね」
「わたし途中まで送りますよ~」
 栞はそんなことを言って抱きつこうとしてくる。
「いや、いいよ。女の子に送られるなんて恥ずかしいし……」
 俺は断ったのだが栞は送る気満々のようだ。まあ、いいかぁ

「お邪魔しました~」
「お兄ちゃんバイバイ~」
 ともちゃんが元気よく手を振ってくれている。
「またいつでも遊びに来てね~次は、お赤飯用意しておくから!」
 楓さんも冗談を言いながら見送ってくれた。

「ここら辺まででいいぞ?」
「もう少しだけ送りますよダーリン?」
 栞はそんなことを言って近づいてくる。
「ほら、近づくな!それからダーリンも止めろ!」
 俺はいつも通り栞にツッコむ。
「仕方ないですね~。それじゃあこの辺でわたしも帰りますよ~」
 栞は少し拗ねてるのか頬を膨らませている。
「じゃあな、今度はみんなで遊びに行くよ」
「それは、楽しみですね~」
 栞はいつも通り元気よくそんなことを言う。……図書館のときみたいに静かに本を読んでいる方が本当の栞なのかなぁ、だとしたら俺の知っている普段の栞は……俺は楓さんの話を聞いたせいかそんなことを考えていた。
「なあ、栞?」
「なんです~?」
「お前、無理したりしてないか?」
「え?全然してないですけど、急にどうしたんです?」
「いや、何でもない。いつもお前は元気がよすぎるから疲れたりしないのかちょっと気になっただけだよ」
「心配してくれてるんですか?ダーリンのそういう優しいところ大好きですよ~」
 栞がまた抱きつこうとしてくる。
「はいはい、全く……冗談でもあまり好きとか言うなよ。他の男子なら普通に勘違いするぞ?」
 俺は栞を綺麗に避けながらそう言った。
「(こんなこと飛翔さんにしか言いませんよ、それに冗談じゃないと恥ずかしくて好きな人に好きとか言えないですから……)まあ、わたしは飛翔さんになら勘違いされてもいいですけどね~」
 栞は少し顔を赤くしてそう言ってきた。
「何赤くなってるんだよ。俺が勘違いすることなんて無いからな。……っと、ここまででいいから気を付けて帰れよ」
「そうですか?それじゃあサヨナラです~」
 栞が手を振っているので俺も軽く手を上げて家に向かった。


「ハァハァ……ハァハァ、疲れたぁ~」
 俺は栞と別れた後走って家に帰っていた。……もう少しでアイツのこと好きになるところだった、危ない危ない。今度こそは好きになる人を勘違いするわけにはいかないからな。じゃないと由依のアドバイスが意味なくなるし……
 俺が勘違いしそうになったのは、きっと栞が最後に言っていた言葉のせいだ。
『 こんなこと飛翔さんにしか言いませんよ、それに冗談じゃないと恥ずかしくて好きな人に好きとか言えないですから……』
 果たしてあの言葉は栞の冗談だったのかそれとも……
 
 




 
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