こんなわたしでもいいですか?

五月七日 外

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彼女の失われた青春

彼女の失われた青春⑦

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 昴の記憶が24時間しか残らなくなってから季節は過ぎ……今はクリスマス前だ。あれから昴は記憶のことは隠したい!と言っていたので、(恐らくわたしが昴の記憶のことに気づいたとき、かなりショックを受けていたからだろう)わたしは『昴、天然キャラ作戦』を行い、今のところは昴の両親にしかバレていない。
 けれど……昴はどれだけ大きな思い出(体育祭や文化祭)のことでも殆ど覚えていない。……わたしはそれが悲しかった。どれだけ楽しい思い出を作っても昴は殆どのことを忘れてしまう……そのことに耐えられなくなったわたしは昴と少し距離を取りがちになっていた。
 今日もクリスマス会の買い物に来ているが昴と一緒ではない(……少し前まではいつも一緒だったのに……)
 わたしは色々と悩みながら買い物を終え、家に帰っていた。
 すると……
「だ~れだ!」
 突然後ろから目隠しをされた。(わたしにこんなことしてくるのは……)
「なによ~昴!」 
「えっ!なんでわかるの?」
 何故かバレない自信があったらしい昴は驚いていた。
「いやいや、わたしにこんなことするの昴しかいないでしょ」
「そ……そうなんだ……わたし……こんなこともしてたんだ……」
 昴は俯きながらそう言った。
「あっ!あれだよ!初めてされたけど昴だろうなぁ~って思ったていうか……」
 わたしは昴が傷ついていそうだったので咄嗟にウソをついてしまった。
「うん、由依ありがと。でもわたしにはウソ言わないでほしいな……やさしいウソでも……」
「ご、ごめん……今度からは言わないようにする」
 ……今のわたしたちは……一緒にいるだけでどちらかが傷付いてしまう……そんな関係になってしまっていた……

 このときわたしは昴が『ある決断』をしていることに気付けなかった……

 
「「かんぱーい!」」
 あれから二日が経ち、今日は12月24日 クリスマス会の日だ。
 わたしと昴、それから他にも仲の良い友達数人が集まっていた。わたしはあまり昴と話せずにクリスマス会を過ごしていた……
 
 クリスマス会は二時間ほどしてから解散になり、わたしと昴は二人で家に帰っていた。
「ねえ、由依……ちょっと寄り道してもいい?」
 珍しく昴が寄り道をしたがった。
「別にいいけど……どこいくの?」
「ちょっとついてきて」
 わたしは昴に言われるままについていった。

 そうして、わたしと昴は町の高台にある公園についた。(……たしか、ここって……)
「ねえ由依はここ覚えてる?」
 昴が尋ねてくる。
「忘れるわけないよ……ここは初めてわたしと昴が親友になってから遊びに来た公園だもん……」
 (……あそこのベンチに座って昴に絵を教えて貰ったっけ)
「それでね……わたしたちは……もうあの頃みたいには……」  
 昴が何か良からぬことを言い出す気がした
「まって!わたし……昴とずっと一緒にいたい!このまま親友で……いたい!……」
 わたしは昴の言葉を遮ってそう叫んだ。
「ううん、それはムリだよ……だって最近の由依はわたしのせいで傷ついてる……」
 昴は少し涙声でそう言った。
「だ、大丈夫だよ……こんなの全然平気!だから……そんなお別れみたいなこと……言わないでよ」
 わたしも少し涙がこぼれていた。
「ダメだよ。今のままだとわたしたちはお互いに傷つけちゃう……それにね、最近わたし……自分のことがもうよくわからないの……」
「どういう……こと?」
 わたしは何となく昴が言いたいことは分かっていたけど、昴にそう聞いた。
 「えっとね、わたし……夏休みから自分が今まで何を考えてたのか、何をしたかったのかも覚えてないし……もしかしたら、由依と一緒にいたいって、大切な気持ちも明日には忘れそうで……明日には今のわたしはいなくなってそうで……怖いんだよ……」
 昴は一呼吸開けてさらにこう言った。
「けどね、それ以上に由依が悲しそうな顔をしてるの見たくないの、それだけは絶対に嫌なの……今日のクリスマス会で思ったんだ……由依は今のわたしと一緒にいるよりも他の子と仲良くした方がいい……って」
「嫌だよ……他の子なんて……わたしは昴じゃなきゃダメなの!」
 わたしは必死に言う。……このままだと本当に今の昴がどこかに行ってしまいそうだから……
「ごめんね……こんなわたしだと由依を傷付ける……だから今日はお別れを……」
「ヤダ!絶対に嫌だ!お別れなんて……ねえ、このままじゃだめなの?」
 わたしは少し希望を込めて昴に聞いてみた。
「そんなのムリだよ……由依だってわかるでしょ!今のわたしは記憶が24時間しか残らないんだよ……そんな人と一緒にいたらお互いに傷付くだけだよ……実際そうだったでしょ?」
「そ……そんなこと……な……いよ……」
 たぶん……わたしはウソをついていた。
「由依はやさしいね……けど……わたしにはそのウソが一番ツラい……」
「…………」
 わたしには何も言えなかった。
「わたし……由依と一緒にいられて楽しかったよ……明日からはクラスメイトのお友達くらいにしよ……」
「いやだよ……」
 わたしは涙が止まらなくて声になってるかも分からないけどそう言った。
「さようなら……でも、もしも……いつの日かわたしが……ううん、そんな日は来ないか……由依!本当にありがとう!わたしに絵を描くこと以外の世界を教えてくれて……」
 (……色んな世界を教えてもらったのはわたしのほうだよ……)
「由依なら他の子とも仲良くやれると思うから大丈夫だよ!」
 (……昴はどうなの?……大丈夫なの?……)
「それじゃあ……バイバイ……」
 昴はそう言って、鞄から日記帳を取りだし……日記のページをビリビリに破り捨てた……
「す、昴!それはあなたにとって……大切な!」
「うん、そうだよ……これは夏休みから今日までの日記……わたしの大切な記憶……でも、これでわたしは忘れるから……未練は残ら……ない……でしょ?」
 昴は途中から泣きながらそう言って、公園から出て行った……
 ……あの日記は、日記に書いたことは覚えてなくても何をしたのかがわかるし……それに思い出を忘れにくくなると思ってわたしが昴にプレゼントした日記だ。そして……その日記のページを捨てたということは、もう二度と夏祭りから今日までのことは思い出すこともできないし、知ることもできない……
「う……うっ……昴……待ってよ……」 
 わたしは泣きながらそう言ったが、その言葉を聞いてくれる人は誰もいなかった……

 次の日から冬休みに入り、昴はアメリカに単身赴任している父親に会うために母親と一緒にアメリカに行ってしまったのでわたしは昴と冬休みの間会えなかった……

 そして、三学期初日 わたしは昴に会いに行ったが……
「お早う雛田さん……どうかしたの?」
 昴はわたしにそう言ってきた……
「……何でもないよ、お早う暁さん」
 (……昴がこれでいいんなら……それでも、わたしは……)
 昴は夏祭り以前の記憶はあるにも関わらず、もう由依とは呼んでくれなかった……だから、わたしは……
 
 そうして、わたしと昴は親友からただのクラスメイトの友達になってしまった……
 これがわたしと昴の思い出……わたしだけが覚えている……最後の思い出……
 
 




 

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