死霊使いと精霊姫

五月七日 外

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死闘の果てに

死闘の果てに④

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「なあ、ライオネル。その胸にある黒い箱はなんなんだ?」
「はは、お前は何だと思う?」

 ましろに問われて、ライオネルが不適に笑う。
 ましろの頭には一つだけ予想があったが、そうであってほしくないと思っていた。マスターは残留思念オーブを集める箱と言っていたが、それだけとは思えない。

「死霊を呼び寄せるとか?」
「何処かで見たのか?」
「ルベールで、その箱に死霊が群がってるのを見たんだ」
「なるほどなぁ。だがお前はそれだけだと思ってないだろ?」

 ライオネルはましろの考えを見透かしているかのように、そう聞いてきた。
 ましろは無言で頷く。

「俺は、もしかしたらその箱で死霊のコントロールも出来るんじゃないかと思う……」
「ハッハッハ!……ましろ、大体お前が考えている通りだ。だが、組織の連中はまだ未完成だと言っていた……」
「未完成?」
「ああ。この箱を使えば死霊使いになることも可能なのにな」

 実際、ライオネルはこの箱を使って死霊を手懐けていた。しかし、組織はそれだけでは未完成と言っている。

「なあ、ライオネルは組織が何をしようとしているのか知っているか?」
「さあな。俺様は組織のメンバーでもないし、連中と仲良くやろうとも思わねえ」
「え!?ライオネルって組織じゃないのか?」
「ちげえよ」
「そうだったのか、何となく組織のメンバーかと思ってたよ」

 せつなもライオネルが組織の一員だと思っていたらしく、隣でウンウン頷いている。

「ったく、俺様はただの剣帝だ」

 それだけ言うと、ライオネルはフラフラと立ち上がった。

「お、おい!まだ立つなよ」
「いや、統治者はもう俺様じゃないからな……早いとこ出ていくさ」

 ましろが止めるが、ライオネルは聞く耳を持たず、ズカズカと扉の方に歩いていく。
 扉の前まで歩くと、何を思ったのかライオネルはこちら側に振り返った。

「そうだ。お別れの前に、アドバイスを二つくれてやろう。一つは、もし剣技を磨きたいならアスヴェルに行きな。俺様の師匠がいるからな、少しは為になるだろ?それと、もう一つだ。これは、アドバイスというより思い出したことなんだが、組織のリーダーとは間違っても戦うなよ?正直、命がいくつあってもアイツには勝てる気がしねえからな」
「組織のリーダーを知ってるのか?」
「いや、チラッと見ただけだ。だが、アイツは化け物だぜ。今まで生きた中で一番死をイメージさせられたからな……まあ、見ただけで俺様が殺されることがわかる。それくらいの血からの差はあったな」

 剣帝のライオネルをしてここまで、言わせる組織のリーダーは余程強いのだろう。   
 
「分かった。リーダーとは戦わないようにするよ。それと、アスヴェルの師匠って誰なんだ?」
「……ミシェル。史上最年少で剣聖になった、いけ好かねえ女だよ」
「……剣聖」

 剣聖とは、最も速く、最も強く、最も正確な剣技を使える者に与えられる称号で、剣を扱う者の頂点とされている。
 剣聖として認められた者は、今まで世界に10人とおらず、今も生きている剣聖は4、5人だったはずた。その剣聖に最年少で認められたということは、とんでもない実力の持ち主なのだろう。
 もしかしたら、筋肉隆々の男と見間違うような人なのかもしれない。

「ミシェルさんだな。絶対にアスヴェルに行くよ」
「まあ、頑張りな……」

 そして、ライオネルが軽く手を挙げると風が吹き、一瞬でライオネルの姿は消えた。

「行ったのか……」
「そうね。もう気配も感じないし……」
「疲れたし、今日は帰るか」
「ええ……わたしもだいぶ、げんか……い」

 せつなは、力をかなり使ったのだろう。ましろに寄りかかるようにして倒れてきた。
 
「もしかしなくても、俺がおぶって帰るパターンだよな……」

 ましろは、ため息をつきたい気分だったが、倒れてきたせつなの気持ち良さそうに眠っている顔をみると、そんな気持ちは何処かに飛んで行った。

(……まあ、たまには甘やかしてあげるか……)

 ましろはせつなをおぶり、宿に向かって歩き始めた。



 

 パッチオとルベールの間にある砂漠地帯。そのど真ん中に、白い装束に身を包んだ男が立っていた。
 ただ、その男の装束は至るところに血でできた赤いシミが滲んでおり、立っているのもやっとといった様子だった。

「はあ、来るとは思ったが……予想より早かったじゃねえか?」

 男は虚空に向かって話しかける。
 すると、砂の大地に赤いシミができ、そこから二人の少女が現れた。いや、現れたというよりは生えてきたという方が正しいだろうか。まるで、木が成長して生えたかのように少女は現れた。

「えっと、これがライオネルでいいの?私」

 二人の少女は瓜二つで、双子なのだろう。
 短めの白髪。左目には黒い眼帯、右目は銀色に輝く瞳。右腕に銀色のブレスレットをつけた少女が、首を小さく傾けてそう言った。

「ええ。今から華々しく散る運命の、可哀想なひとよ。ワタシ」
 すると、短めの黒髪。右目には白い眼帯、左目は金色に輝く瞳。左腕に金色のブレスレットをつけた少女が、同じく首を小さく傾けてそう言った。

「それにしても……俺様を始末しに来たのが、お前らみたいので大丈夫なのか?」
「ねえ、ワタシ?あの人、今ワタシのことバカにしたの?」
「いいえ、私。あの人は私のことをバカにしたのよ」
「どっちもバカにしてるんだよ。それと、ややこしいからその話し方止めろ。頭が痛くなる」

 ライオネルは、そう言って頭を掻きながらも相手の観察を続ける。
 ……組織がわざわざ俺様に差し向けてきた奴だ。こんなチンチクリンでもかなり厄介なんだろうなぁ。それに、相当濃い血の臭い漂わせてやがる。つまりは、殺り慣れているのか?……

「わたし決めたわ!ねえ私?」
「わたしも決めたわ!ねえワタシ?」
 
 何を決めたのか、双子はキャッキャッとはしゃぎ始めた。

「なんだ?俺様を地獄にでも落とすってか?」
「「いいえ!天国に落としてあげる!」」

 すると、双子は懐からナイフを取りだし……

「な、な……に!?」

 あろうことか、ナイフで自らの手首を切りつけた。
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