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家庭科男子②
しおりを挟むたこ焼きをオソソワケしようとして、床に叩きつけられてから、四日後。
ハヤル思いをとどめて、距離をおきながら見守った甲斐あって、再度、シマオくんは家庭科室付近に出現。
開けた窓から見えるに、教室のまえを通りすぎては、すこししてからUターンし、通りすぎるのを繰りかえしている。
前よりコソコソしているようだが、わんぱく相撲の力士、その立派な体格にして存在感となれば、どうしても目立ってしまう。
ただ、今回は「廊下にシマオくんが」と知らせる女子生徒はいない。
「クラブが気になっている男子がいるけど、騒ぎたてたら、恥ずかしがって逃げちゃうから、そっとしておいてあげようね」
俺が呼びかけたのを、守ってくれてのこと。
も、ありつつ、今日が裁縫の日だからだろう。
超初心者は、針の穴に糸をとおすことからはじめ、器具の使用に慣れるのを目的とし、上級者になると、ミシンを使いこなし、巾着袋や手提げ袋など、小物をつくる。
生徒の裁縫レベルによって、やることは別別なれど、手元に神経をそそぐのは誰も同じ。
廊下をうろつくシマオくんにかまってられないわけだ。
室内を歩きまわり、それぞれに指導をしつつ、ちらちら廊下を窺っているのは俺だけ。
「無理強いはいかんぞ」と自分を宥めながらも、制服の袖のボタンがとれかかっているのが、目についてしまって。
我慢できずに、歩いている最中に、窓から「こんにちは、シマオくん」と挨拶。
ぎょっとしたように跳びすさったものの、すぐにトンズラせず。
汗をかきまくり、目を泳がせまくって、でも、なんとか踏みとどまっているようなのは、前にたこ焼きをダメにしたのを気がねしてなのか。
「かわいいなあ」と笑いそうになったのを飲みこみ「ボタン、とれそうなの気になってね」と指をさす。
「こういう、とれそうでとれないボタン、俺、放っておけないんだよ。
すぐに、つけてあげるから、制服、脱いでくれるかな。
教室に入ってきても、廊下で待っていても、どっちでもいいし」
あえて入室の選択肢も示したところ、意外にも、開けっ放しのドアの敷居を跨いできて。
まあ、涙目で震えるチワワよろしく、怯えきってプルプルしていたけど。
室内にいる二十人ほどの女子生徒は、一瞥しただけで、再び裁縫に没頭。
女子のそっけなさに、逆にほっとしたらしく「ここに座って」とすすめるまま椅子に落ちつき、顔色もよくして。
そのあとは、瞬きをするのも忘れて、ボタンをつける作業をガン見。
「やめてくれ!」と拒否反応を示しつつ、やはり家庭科に強い興味や好奇心があるのだろう。
途中で「やってみる?」とすすめてみれば、しばし迷って、室内にいる女子をちらりと見てから、制服と針を受けとった。
縫い針を手に持ったのは、生まれて初めてなのか。
慣れない手つきで恐恐と縫ったものの、すこし教えただけで、飲みこみ早く上達。
糸を結んで切ると、俺が褒めるまえに「うわあ、シマオくん、上手!」「わたしより、ボタンのつけ方きれい!」とあたりから拍手が。
とたんにシマオくんが、また顔を青くして固まったとはいえ「わたしもガンバラないと!」とあっさり女子生徒たちは解散。
それぞれの課題に励んで、すっかりお口チャック。
静まりかえった教室を、呆けて見つめるシマオくんに「また、いつでも遊びにおいで」とだけ云い、その日はお別れ。
焦ってはヘタを打つと考えたからで、それにしても、女子生徒の優秀さよ。
「恥ずかしがっちゃうから」と事前に聞かせたのを守ってくれただけでなく、そもそも、シマオくんを好意的に見ているよう。
シマオくんが帰ったあと、休憩をとったとき「無口で顔がコワいけど、一生懸命ボタンをつけているのカワイかった」ときゃっきゃしていたもので。
お相撲さんがオチャメな一面を見せると、より愛嬌があるように見える。
といった心理に近いのかな?
まあ、ほかの男子なら、冷かしたかもしれないが、シマオくんは、体格に見あわず、どこか小動物的だったから。
庇護欲が掻きたてられるのだろう。
つぎのクラブの日、シマオくんが勇気をふりしぼって家庭科室に入ってきたのを、女子全員、ほほ笑ましそうに遠目に眺めるだけで、努めて干渉せず
「シマオくんが家庭科クラブにくるんだよ!」と口外もしなかったし。
そうして、しばらくは俺がつきっきりで指導し、慣れてくると、徐徐に女子たちとも交流するように。
といって、女子が話しかけるのに、うつむいて肯くばかり。
それはそれで「シャイでカワイイ!」と女子には好評だったけど。
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