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目の前で悪口をいう彼②
しおりを挟むイジメの証拠のメモを、たまたま見かけ、首謀者に「おまえのほうが死ね」と罵ったのが、ガン無視されて授業進行し、休み時間に。
皆、授業の一部の記憶を消したつもりでいたし、俺も蒸しかえしはしなかったが、千葉くんは、気が済まなかったようで。
休み時間になって、すこし経ってから、やおら俺のもとにお越しに。
窓の外を眺め、空想に浸っていた俺は「なあ」と呼ばれ、ふり向くも、ぼんやりとしたまま。
まったく無防備でいたに、殴られては、なすスベなかったろうところ、彼は拳をあげず「俺は、おまえのようなヤツを待っていたのかもしれない」とトンチンカンなことを。
「これまでずっと、だれかを痛めつけ傷つけてきた。
一応、ばれないようにしつつ、でも、気づいていたヤツはいっぱいいたと思う。
でも、だれも止めず、声もあげず、だれかに助けを求めようともせず、そ知らぬふりをして、平和を謳歌した。
どいつもこいつも、心が死んでいやがる。
世の中は腐りきって、正気のヤツは、だれ一人いないと絶望したもんだ。
てっきり、おまえも、救いようない一人かと思ったが・・・。
我が身かわいさで、関わるのを避けていたんじゃないんだな。
たんに鈍感で、イジメに気づかなかっただけで。
気づいたら気づいたで、すぐさま正面から俺を非難した。
心から俺は感動したんだよ。
正しいことを正しい、マチガッテいることをマチガッテいると、変に照れたり、皮肉らないで、率直に云える人間が、この世にはいるのかと。
イジメを放っておくヤツらばかり見てきた俺だから、おまえに、はかり知れない希少な価値があるのが分かる。
俺にとっては、かけがえのない存在に思えてしかたない。
もう、これは恋だと思うし、おまえは運命の人だ」
しまいには「俺とつきあってくれ」と申しでる始末。
そりゃあ、今度こそ、一斉にずっこけたいほど、みんな愕然とし、俺も同じ思いながら、反射的に「いやだよ」と。
「え、ていうか、なんだ、おまえは悲劇のキリストか?
とても聖人きどりできる立場じゃないのに?
たしかに、イジメに無関心なのは褒められたことじゃないけど、一方的に批判できる人は、それこそ、この世にいないと思う。
神じゃあるまいし、誰だって、弱さや欠点のある、しょせん、人間なんだから。
今まで、気づかなかった俺だって、偉そうに説教できないし、イジメの首謀者のおまえなんか最大級の『どの口が』だろ。
それとも、分かっていないのか?
おまえの口ぶりだと、イジメを無視する人に全責任があるように聞こえるけど。
イジメをすること自体が、悪なんだぞ。
どんな理由や事情があっても、ゼッタイにしてはいけないことだ」
空想癖があるせいが、その反動で、現実ではおしゃべりになりがち。
つい余計なことまで、べらべらと。
おかげで、最後はイヤミっぽくなったが「はあ!?」とキレることなく「なに、マジになってんだよ」と冷笑するでもなく。
叱られた犬のように、しょんぼりして「そうなのか・・・」と考えこむ千葉くん。
なんだ、その純粋無垢な反応は。
意外すぎる展開がつづいて、ツッコむ声を失くしているうちに、千葉くんは自分の席へ。
考える人然としたまま、銅像のように身動きせず。
結局、イジメについては有耶無耶になったとはいえ、ターゲットの鎌田くんはブジだったし。
ぎくしゃくしていた授業直後とちがって「そってしておこう」とクラスの雰囲気が和らいだこともあり、そのまま学校の一日が終了。
で、翌日、先生が「千葉が入院して、しばらく休むことになった」と。
その報告にクラスがざわめき、先生に気づかれないよう、皆が皆、俺に視線を注いだ。
そりゃあ「昨日『死んだほうがいい』と云ったから、自殺したんじゃないか」と云いたげに。
「そんなことあるかい」と内心、呆れながらも、気にならないでもなく。
クラスメイトが視線で責めるのに縮こまってではなく、罪悪感どころか、好奇心のようなものが疼いてのこと。
人をイジメて、その生き死にを賭けごとにするような極悪人のわりに「イジメダメ!ゼッタイ!」と云われて、きょとんとしたのが、妙にちぐはぐだったから。
あいつの感覚や頭のなかはどうなっているんだ?
いくら空想しても埒がないに、先生に見舞に行っていいかをカクニンし、ついでにプリントや宿題などを受けとった。
学校帰りに、早速、病院に寄って、病室を覗いたところ、思ったより、顔色はよく、なんなら、うれしそうに頬を染めて。
はにかんで曰く「胃に穴があいたんだ」と。
「べつに、おまえのせいじゃあ・・・いや、いい意味で、そうなのかな。
ずっと胃が悲鳴をあげていたのを、おまえの一言で自覚して、やっと、病院で診てもらえたというか・・・」
「一言」と聞き、どうにも、うずうずして「これは責めるつもりじゃないけど」と前置きし、切りだす。
「もしかして、千葉くん、ほんとうにイジメが悪いことだって、思わなかった・・・いや、知らなかったのか?」
「そんなことあるか?」と自分にツッコムも、まさかの首肯。
目を丸くし固まる俺を見て、苦笑し「まあ、信じられないよな」と。
「おまえのおかげで、目が覚めた今となっちゃあ、俺だって信じられない。
俺も言い訳するつもりじゃないが・・・。
俺の家や親せきの間では『勝ちこそすべて、負けたら終わり』が合言葉でさ。
身内もよそのヤツも、敵と見なして勝負するもんだって、小さいころから教わってきたし、云われたとおりに、してきた。
どんな手を使ったとしても、勝てば正当化される。
・・・オヤジの云いつけを、昨日まで真に受けていたっていうから、ほんと、俺のほうが、生きる価値がないのかもしれない」
おまえのほうが死んでほしいよ。
昨日の俺の暴言を受けてだろう。
が、当てつけではなく、肩を落として自嘲気味。
唾を飲みこんだ俺は、悪口を云った張本人ながら「いや、逆に生きたほうがいい」と訴えかける。
「イジメが悪がどうかなんて、愚問だと思ったけど、千葉くんの親たちは『イジメもときに必要』と考えているんだな。
まあ、それも生きる知恵なのかもしれないけど・・・。
そうやって納得しないで、胃に穴をあけた千葉くんは、すくなくとも、イジメを容認する大人にはならないだろ。
胃に穴をあけないまま、親のようになっていたかもしれない。
それを、せっかく途中で、思いとどまれたんだから。
生きないと、もったいないよ」
「もったいないか・・・」とくすりとし「ありがとう」と俺に目礼を。
照れてか「KYな空想くんのほうが現実的だな」と少少、憎まれ口を叩きつつ「やっぱ、スキだわ」とふと真顔に。
「俺とつきあってくれよ」
一瞬、どきりとしたものの「生きる価値がないとか云ったそばから、図太いな」と応じれば「ひひ」と笑ったに、これも照れ隠しだったよう。
ということに、今はしておこう・・・。
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