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保健室でいちゃつくのもほどほどにしましょう
しおりを挟む美術の授業で指を切り、保健室に訪ねたところ。
けっこう血がでていたに、目がくらくらして、声もかけず扉を開けたら、デスクらへんに保健医がいなく。
部屋を見まわせば、ベッドから四本の足がはみでていた。
はみでているというか、まあ、色恋に疎い俺でも察しられたが・・・。
慌てたように起きあがったのは、まさかの俺の担任。
むっつりして、ふんぞり返りながら接近。
威圧感たっぷりに見おろし、心もち、しゃくれて告げた。
「このことを、だれかに漏らしたり、噂を広めたら、おまえを留年させてやる。
担任の俺の手によれば、退学もさせられるんだからな」
教師にして、やくざ顔負けに生徒を脅したものだが、ズボンがテントを張ったままだから、今一、かっこうがついていない。
「なんかマヌケだなあ」とまともに応じるのがバカらしく、ぼうっと見かえしたら、担任のほうが居たたまらなくなったらしく。
俺の返事を聞かずして「はっ」と鼻息を噴き、保健室から退場。
その背中を見送り「今から、トイレ行くのか」とつい考えてしまったのに「うげえ」と胸をわるくしていると「どうしたの」と背後から。
担任がおおいかぶさっていた相手。
ベッドに寝ていたもう一人が起きあがって、これまた、まさかの保健医。
女子生徒ではなければ、異性でないときたもんだ。
「大人が学校でなにやってんだ」と呆れるのが、もろバレだったらしく、苦笑した保険医は立ちあがり、乱れた髪をなおしながら「一応『保健医不在』って看板さげといたんだけどな」と。
俺の落ち度もあったかと「すみません」と云うも「謝ることじゃないし、いや、鍵をかけろっつー話だよ」と返すに、そりゃ、ごもっとも。
担任よりずっと大人気があるし、仕事上、こちらを生徒扱いするのも忘れないし、なによりズボンにテントを張っていないし。
驚きすぎて、逆に騒いだり逃げたりできなかったのだが、やっぱり緊張をしていたのだろう。
保健医が鷹揚に接してくれ、ほっとして「ほら、見てやるよ」との手招きに応じる。
「彫刻刀で切ったのか?
けっこう傷が深いな」
「ふざけているヤツにぶつかられて、ちょうど掘っているところだったから、ざっくり」
「たく、美術の先生もなにやってんだか。
今、応急処置をするけど、これ縫わなきゃならないし、どうしたもんか・・・」
指にガーゼを巻きつけながら、考えこむ保険医を見て、ふと、疑問が浮かんで。
つい考えなしに「あの」と。
「あんな先生のどこかスキなんですか」
さっき教師にあるまじきオラつき方をしたように、ふだんから担任はガラも性格もワルイ。
ベッドでいちゃいちゃしていたのを抜きに、常識人っぽい保険医のタイプに思えなくて。
指の処置をするのに集中してか、保健医はだんまり。
やっと顔をあげたなら「おまえ、やさいいな」と俺の両頬を手で包みこんだ。
「保健室でおっぱじめようとしていた、下衆な助平保健医の心配をしてくれるなんて。
そうだな、おまえのような、やさしいヤツに乗りかえたほうがいいのかも」
鼻をこすりあわせ、唇を寄せる。
唇が接触する直前に、俺は目を見開いたまま「すみませんでした」と告げた。
「怒っていますよね?
云ったあとに、気づいたし、思いだしました。
まえに俺も『なんで、あんな子スキなんだ?』ってケチをつけられたのを。
それで、とても癇に障って、胸がもやもやしたのも。
・・・あらためて、すみません」
目を見開く俺と、真ん丸の目をした保健医。
至近距離で見つめあうことしばし「ぶふう!」と噴きだして、保健医は屈みこみ大笑い。
ひとしきり笑い声を響かせたなら、にわかに起きあがって、俺の頭を撫でまわし、くちゃくちゃに。
「ほんと、おまえ、皮肉ぬきに、やさしいヤツだな!」
乱れた髪の合間から覗いた保険医は、奥歯まで剥きだしに無邪気全開な笑顔を。
男子に「すかしたヤツ」と不評で、女子に「つっけんどんなのが、逆にいい」と好評な彼の、いつもは見せないだろう無垢な一面だ。
「なあに、今更、赤くなってんだよ!」
ひひひと笑い、かるく頭を叩かれて、うな垂れる俺。
因果応報というか、なんというか。
自分がうかつに放った言葉は、自分に返ってくるというもの。
保健室で同性の教師といちゃつくヤツなんかを「なんでスキになったの?」と問われれば、ぐうの音もでなかった。
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