デイジーの受難

ルルオカ

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デイジーの受難

三村くんの決断①

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「僕は初恋の人と結婚をするんだあ!」

デイジーの飲み会で、メンバーの酔いが回ってきて下ネタが盛んに交わされるようになったころ、急に前林がそう叫んで、グラスをテーブルに叩きつけた。

どうやら、酔っているからといって、あまりに節操なく、下衆でえげつないエロトークをしているのが聞き捨てならなかったらしい。

酔っ払いの戯言とはいえ、男だらけの飲み会では野暮な物言いだ。
水を差されて周りは気分を害したかと思いきや「マジか、お前ー!」「それじゃあ、色んな女とセックスできないだろお!」「浮気だってしたいのに!」と前以上に声高らかに、メンバーは囃し立てた。

「お前らみたいな男ばかりだから、女性に馬鹿にされるんだあ!」と普段は温厚な前林が激昂するのを、さらに面白がって周りがやんややんやしている中、ほろ酔いの俺は首を傾げていた。

初恋での結婚を願うのことの、何がおかしいのか、分からなかったからだ。

話にならないとばかりに、笑いとばしている周りのほうが、話にならないように思えた。
まさか、結婚をするために恋愛をするなんて馬鹿らしいとでも、思っているのだろうか?と。

俺もさすがには、初恋で結婚をしたいとまでは思わないというか、相手に何度もフラれて実現できなかったわけだけど、恋愛の延長線上に結婚があるという意識は持っていた。

意識するのが当たり前だと思っていたし、恋愛と結婚を切り離して考えることのほうが、無理だった。
言ってしまえば、目的は結婚することであって、恋愛は結婚をするための手段と考えていたわけだ。

結婚する目的以外に恋愛をすることに、何の意味があるのだろう。
心からそう思っていただけに、メンバーがセックスだ、浮気だ、寂しいのだと、結婚する以外に恋愛する目的を並べ立てていたものの、釈然としなかった。

酒のせいで、無駄吠えしているだけだろうと片付け、「お前はおかしい」と断罪されていた前林こそ、まともな感覚をしているものと見ていた。

という、結婚のために恋愛をする主義な俺だったのだけど、弟がおめでた結婚をしてから、そんな凝り固まっていた結婚観が揺らぎだした。

まず、それまで絶えず恋愛に熱をあげていたのが、弟の結婚を境に、完全燃焼をしたように意欲が失せた。
惚れやすく性欲も強いほうだったはずなのに、枯れた爺よろしく、魅力的な異性を目の前にしても、心拍数はどこまでも平坦で下半身もまるで反応をしない。

病気になったのかと不安になったものの、弟の子供の出産日が近づくにつれ、さらに爺らしく精神が悟ったような境地に向かい、だんだんと分かってきたことがある。
どうも、俺は、自分で思う以上に三村家の跡を継ぐことに拘っていたらしい、と。

父親がいないこともあり、母親を早く安心させたかった。
そう思っているのは自覚していたとはいえ、俺で名を途切れさせるわけにはいかない、血筋を絶やしてはならないという、根本には義務感のようなものがあって、それに尻を叩かれていたのかもしれない。

「自分が結婚しなければ終わりだ」と無自覚ながら切羽詰まっていたろうだけに、弟に子供ができたことを知らされたら、そりゃあ、つきものが落ちたようになって、性欲も削がれるとは思う。

別に世継ぎを設けるのは自分に限らなくていいと、今更に気づかされたのも大きかったけど、しかも男の子だというから、尚更「俺じゃなくてもいいじゃん」と気が抜けたのだろう。

でも、まさか、世継ぎを設けることしか頭になかったとは、自分でも思わなかった。

その目的を果たす以外に、好きな女性を守り幸せにしたいとか、家庭を築き幸せを掴みたいとか、理想や夢があって結婚をしたかったわけでないらしい。
そうでなければ、弟が先に片付いて、いくらほっとしたといって、一足飛びに枯れた爺にはならないはず。

あらためて考えてみても、どうして結婚したいのか?との答えは見つからなかったし、結婚をとくに望まないなら、結婚を遂げるための手段、恋愛にも積極的でなくなるのは必然だった。

動機や目的がなければ人は事を成そうとはしない。
とは限らないようで、世の人はゴールが見えなくてもかまわず恋愛に走り、後先考えないで、勢いまかせに結婚を決めるようだった。

俺が首をかしげた、酔っぱらいメンバーの暴言のほうが現実的なわけで、俺や前林の感覚は世間ずれしてるのかもしれない。

セックスをしたいから、浮気をしたいから、寂しいから恋愛をする。
セックスしても子供どころか、結婚まで考えないし、なんなら、恋愛をしたくて恋愛をしている。

生まれつきの性質なのか、父親のいない家庭で育ったからか、俺にはとても、そんな達観したような恋愛はできそうになかった。

「世継ぎを設けなければ」と急き立てられれば、馬車馬のように恋愛に奉仕するとはいえ、無から衝動的な思いが湧いてくることはない。
本能的で制御がききにくいはずの性欲も、お陀仏という具合だ。

理性が利いているといえば聞こえはいいものの、使命感や義務感など、言い換えれば命令がないと、何もできないロボットのような人間ともいえる。
いや、さすがに、そうだとは認めたくなかった。

三村家の家長としての責任を果たそうと気負いすぎて、すこし感覚が狂っただけ、時間が経てば軌道修正されるものと思いたかった。の
で、馬鹿なことをした。

弟が結婚してから間もなく、絶好調に枯れた爺ぶり継続中だったものを、思いきって俺に気のある女性と関係を持った。
それまでは食わず嫌いでいただけで、頭を空っぽにして、むこうみずに一歩、踏みだしてみれば、抵抗感があるワンナイトラブも、案外こなせるのではないかと、考えてのことだ。

で、結果はというと、完膚なきまでに勃起しないで彼女に(顔だけはやめてと懇願して)ボディに一発食らい、うっかり報じられてマネージャーと事務所に締め上げられ、挙句、俺は他の人のように恋愛はできない体質らしいと、思い知らされ絶望させられただけという、無残極まりない結果に終わった。

一生、普通に恋愛をして普通に結婚できないのではないかと、落ちこんだ一方で、すこし踏ん切りがついて、しばらくは弟の子供に愛情を注いで、そっち方面からは距離を置こうと思っていた。

その矢先。




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