12 / 32
デイジーの受難
三村くんの決断①
しおりを挟む「僕は初恋の人と結婚をするんだあ!」
デイジーの飲み会で、メンバーの酔いが回ってきて下ネタが盛んに交わされるようになったころ、急に前林がそう叫んで、グラスをテーブルに叩きつけた。
どうやら、酔っているからといって、あまりに節操なく、下衆でえげつないエロトークをしているのが聞き捨てならなかったらしい。
酔っ払いの戯言とはいえ、男だらけの飲み会では野暮な物言いだ。
水を差されて周りは気分を害したかと思いきや「マジか、お前ー!」「それじゃあ、色んな女とセックスできないだろお!」「浮気だってしたいのに!」と前以上に声高らかに、メンバーは囃し立てた。
「お前らみたいな男ばかりだから、女性に馬鹿にされるんだあ!」と普段は温厚な前林が激昂するのを、さらに面白がって周りがやんややんやしている中、ほろ酔いの俺は首を傾げていた。
初恋での結婚を願うのことの、何がおかしいのか、分からなかったからだ。
話にならないとばかりに、笑いとばしている周りのほうが、話にならないように思えた。
まさか、結婚をするために恋愛をするなんて馬鹿らしいとでも、思っているのだろうか?と。
俺もさすがには、初恋で結婚をしたいとまでは思わないというか、相手に何度もフラれて実現できなかったわけだけど、恋愛の延長線上に結婚があるという意識は持っていた。
意識するのが当たり前だと思っていたし、恋愛と結婚を切り離して考えることのほうが、無理だった。
言ってしまえば、目的は結婚することであって、恋愛は結婚をするための手段と考えていたわけだ。
結婚する目的以外に恋愛をすることに、何の意味があるのだろう。
心からそう思っていただけに、メンバーがセックスだ、浮気だ、寂しいのだと、結婚する以外に恋愛する目的を並べ立てていたものの、釈然としなかった。
酒のせいで、無駄吠えしているだけだろうと片付け、「お前はおかしい」と断罪されていた前林こそ、まともな感覚をしているものと見ていた。
という、結婚のために恋愛をする主義な俺だったのだけど、弟がおめでた結婚をしてから、そんな凝り固まっていた結婚観が揺らぎだした。
まず、それまで絶えず恋愛に熱をあげていたのが、弟の結婚を境に、完全燃焼をしたように意欲が失せた。
惚れやすく性欲も強いほうだったはずなのに、枯れた爺よろしく、魅力的な異性を目の前にしても、心拍数はどこまでも平坦で下半身もまるで反応をしない。
病気になったのかと不安になったものの、弟の子供の出産日が近づくにつれ、さらに爺らしく精神が悟ったような境地に向かい、だんだんと分かってきたことがある。
どうも、俺は、自分で思う以上に三村家の跡を継ぐことに拘っていたらしい、と。
父親がいないこともあり、母親を早く安心させたかった。
そう思っているのは自覚していたとはいえ、俺で名を途切れさせるわけにはいかない、血筋を絶やしてはならないという、根本には義務感のようなものがあって、それに尻を叩かれていたのかもしれない。
「自分が結婚しなければ終わりだ」と無自覚ながら切羽詰まっていたろうだけに、弟に子供ができたことを知らされたら、そりゃあ、つきものが落ちたようになって、性欲も削がれるとは思う。
別に世継ぎを設けるのは自分に限らなくていいと、今更に気づかされたのも大きかったけど、しかも男の子だというから、尚更「俺じゃなくてもいいじゃん」と気が抜けたのだろう。
でも、まさか、世継ぎを設けることしか頭になかったとは、自分でも思わなかった。
その目的を果たす以外に、好きな女性を守り幸せにしたいとか、家庭を築き幸せを掴みたいとか、理想や夢があって結婚をしたかったわけでないらしい。
そうでなければ、弟が先に片付いて、いくらほっとしたといって、一足飛びに枯れた爺にはならないはず。
あらためて考えてみても、どうして結婚したいのか?との答えは見つからなかったし、結婚をとくに望まないなら、結婚を遂げるための手段、恋愛にも積極的でなくなるのは必然だった。
動機や目的がなければ人は事を成そうとはしない。
とは限らないようで、世の人はゴールが見えなくてもかまわず恋愛に走り、後先考えないで、勢いまかせに結婚を決めるようだった。
俺が首をかしげた、酔っぱらいメンバーの暴言のほうが現実的なわけで、俺や前林の感覚は世間ずれしてるのかもしれない。
セックスをしたいから、浮気をしたいから、寂しいから恋愛をする。
セックスしても子供どころか、結婚まで考えないし、なんなら、恋愛をしたくて恋愛をしている。
生まれつきの性質なのか、父親のいない家庭で育ったからか、俺にはとても、そんな達観したような恋愛はできそうになかった。
「世継ぎを設けなければ」と急き立てられれば、馬車馬のように恋愛に奉仕するとはいえ、無から衝動的な思いが湧いてくることはない。
本能的で制御がききにくいはずの性欲も、お陀仏という具合だ。
理性が利いているといえば聞こえはいいものの、使命感や義務感など、言い換えれば命令がないと、何もできないロボットのような人間ともいえる。
いや、さすがに、そうだとは認めたくなかった。
三村家の家長としての責任を果たそうと気負いすぎて、すこし感覚が狂っただけ、時間が経てば軌道修正されるものと思いたかった。の
で、馬鹿なことをした。
弟が結婚してから間もなく、絶好調に枯れた爺ぶり継続中だったものを、思いきって俺に気のある女性と関係を持った。
それまでは食わず嫌いでいただけで、頭を空っぽにして、むこうみずに一歩、踏みだしてみれば、抵抗感があるワンナイトラブも、案外こなせるのではないかと、考えてのことだ。
で、結果はというと、完膚なきまでに勃起しないで彼女に(顔だけはやめてと懇願して)ボディに一発食らい、うっかり報じられてマネージャーと事務所に締め上げられ、挙句、俺は他の人のように恋愛はできない体質らしいと、思い知らされ絶望させられただけという、無残極まりない結果に終わった。
一生、普通に恋愛をして普通に結婚できないのではないかと、落ちこんだ一方で、すこし踏ん切りがついて、しばらくは弟の子供に愛情を注いで、そっち方面からは距離を置こうと思っていた。
その矢先。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる