デイジーの受難

ルルオカ

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デイジーの十字架

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つづけてアップテンポな三曲を歌って踊ってから、一息ついてのトークタイム。

それぞれタオルで体を拭いたり、髪を手ぐししたり、水分補給したり、一口サイズの栄養補助食を口にいれたりしながら、「今日の汗はやばい」「いっぱい食べたのに、もうお腹が空いた」「ここらへんで、美味しいものってなに」と話を途切れさせず、皆が呼吸を整え一段落できたなら「前のDVD見た!?」と三村くんが切りだした。

伊達に年を食っていない、最年長の三村くんは、こういうとき、ファンが今まさに聞きたがっていることを察して、ジャストタイミングで話をふってくれる。

「見た!」「今までで一番見た!」「やばかった!」とメンバーだけでなく「毎日見たー!」「今でも見てるー!」「最高だったー!」とファンも口々に喚きたて、「ドキュメンタリー泣けたー!」と上がった声に、すかさず「でしょ!オージ、すっごいエロかった!」と三村くんが食いついた。

「えー、エロいって。
そんな褒めないでよ。照れちゃうー」

「え、いや、褒めているとは限らないんだけど。
下手したら、デイジーのDVDがアダルトビデオになるし」

「またまた、三村くんこそ、照れちゃって。

そう、三村くんも、ドキュメンタリー良かったよね?
とくに背中がさ。

背中しか写っていないのに、なんていうか、見てて胸がきゅうってなるみたいな、抱きしめたくな」

「あーもういい!俺のことはいいから、他!
他の奴のこと、褒めてやれよ!」

昔からデイジーの最年長と最年少コンビは「兄弟みたいに仲がいい」とファンをきゃあきゃあとはしゃがせていた。

大路が成人してからは諸事情があって、やや疎遠になり、二人は周りに悟らせないようにしていたとはいえ、目敏いファンは「王子の反抗期かな」と懸念をしていたらしい。

デイジーの存続まで懸かった一波乱は、なんとか最悪な形にならないで片付き、三村くんは大路から子離れをしたようになって、大路は三村くんから親離れしたようになって、「大人っぽい関係になったよね」と前にも増してファンの心をかき乱している。
大路の秘めた恋は打ち砕かれたはずが、「なんか二人の関係、色気がでてきたよね」とも。

諸事情を知っている僕にすれば尚更、いちゃついているように見える。
ドキュメンタリーの話をするのに乗り気でないのもあって、二人の盛りあがりもファンが囃し立てるのも、耳障りだったものを、同じステージに立っていては他人事のように見てもいられず。

「背中フェチになったかもしれない」「スマホの待ちうけに背中を」と大路のもてはやしにお手上げとばかり、「でも、なんといっても、マエバの男気よ!」と三村くんがスケープゴートに僕の名をあげた。

「長年一緒に居るけど、お茶目で可愛らしいイメージが強いせいか、ああいう顔を見逃してるのかな。

私服でスカートはいてきて、それが不自然でもないし、見慣れてているし。
ドキュメンタリーを見て、ああ、こいつも男だったんだなって、妙に感心したよ」

「ああ、そりゃあ、マエバは三村くんに甘えがちだから。

同級生の俺相手には結構、兄貴面するところあるよ。
身長が足らないくせに」

「お前がでかすぎんだよ。
ていうか、今回のドキュメンタリーは、マエバが小さく見えないよな。

こう言っちゃなんだけど、前のドキュメンタリーは、マエバの小ささが強調されてて、あんま好きじゃなかったんだよ」

「三村くんの寝ぼけた、ぶちゃいくな顔も撮られていたしね」

「ばっか、あれは、カメラを意識してサービスしてやったんだ」

話の矛先を僕に変えようとするも、大路が蒸し返してくる。

「マエバ」「マエバ」と盛んに口にするのが、気に食わなくてだろう。

前なら三村くんは気にせずに、「マエバ」と尚も連呼したろうものを、「俺が言いたいのは、カメラスタッフさんが、良かったってこと!」と不自然でなく、話を逸らした。
恋愛音痴な三村くんにしては上出来とはいえ、僕にすれば、耳の痛いところだ。

「カメラスタッフが傍にいると、相手が黙っていても、どうしてもカメラを意識してしまう。
けど、前にドキュメンタリーを撮ってくれて、今回も担当してくれる人は、傍にいるのも、カメラがあるのも忘れさせてくれるんだよ」

「すっごい美人で、いい匂いがするのに!」は余計な一言だった。
ファンを興ざめさせないため「男の人なのに、髪長くて、美人だよね」と咄嗟に大路がフォローをする。

そう、大路は前のライブから、要人さんが男なのを知っていた。
三村くんがなびくのではないかと心配をして、他のスタッフに探りをいれたことで、早めに把握をしたらしい。

もちろん、「あの人、男だからね」と釘を刺された三村くんも、他のメンバーにしろ軟派な思いから、スタッフに聞きまわっていたから承知済み。

そのとき僕はライブと映画撮影の仕事が重なって、忙しかったこともあり、一人置いてきぼりを食ってしまったわけだ。

スタッフの大半は要人さんの経歴など詳しく知らず、見たまま女性と思っていたし、知っている人も性別を強調したり、勘違いを正そうとしなかったから、メンバーのように積極的に聞きこみをしない限り、気づけない状況にあった。

メンバーが要人さんの話をしても「男なのに」「女みたいだ」と取り立てて性別がどうこう口にしなかったせいもある。

周りは意地悪して故意に教えなかったわけではない。
でも、僕だけがめでたくも、勘違いしたままでいて「結婚してください」と口走るまで至ったとなると、いい気はしない。

今だって、大路のフォローと分かっていても「要人さんは男だよ!」と念を押されているように聞こえるのだから、かなり重症だ。
そんな僕と大路の気も知らないで、「カメラがないと、美人さんだから、ドキドキするけど」と三村くんは無神経発言を留めない。

「カメラを持ったら、視界から消えたみたいなるから、こっちも油断しちゃって、見せちゃいけない顔までさらしそうになる!」

「あー・・・だね。
体が細いのに、重いカメラ持って走り回っているのがかっこいいし、彼の仕事ぶりには、見た目以上に惚れ惚れさせられるね。

それでいて、自己主張しすぎないで、さりげなく人に寄り添ってカメラを向けるっていう」

「存在感がないっていったら、悪口のようだけど、あのカメラスタッフさんにしたら、才能のようなものだよなー」

大路が頬をひくつかせつつ、褒めるポイントを容姿ではなく、仕事の姿勢にさりげなくシフトさせ、まんまと三村くんが乗っかった。

優秀なスタッフの一人として褒める分には、まだ、まともな反応できるかと思ったのだけど、エンジンがかかったらしい三村くんに「にしてもさ、マエバはとくに、かっこよく撮られていたと思わない?」と不意打ちを食わさられる。

「俺、映画好きだから、なんとなく、分かるんだよ。
作品に愛のある監督って、映像にその思いが滲みでているわけ。

それと同じようなもんで、ドキュメンタリーを見ると、カメラスタッフのマエバへの強い思い入れが見て取れるんだ。

マエバのファンの人なら、分かるんじゃない?
そう!私が好きな、マエバくんは、これなの!って」

「そうそう!」「分かってるって思った!」「ファンの気持ち代弁してるって!」とファンの賛同する声があちこちから上がり、拍手が合わさって、わあっとさざ波のような声援になる。

途中で失言しかけたくせに、ファンに喝采され得意げな顔をする三村くんを、大路は苦笑して済ましていたけど、僕はそうもいかなかった。

心のこもった拍手と声援に満ちている会場にあって、頑なに口をつぐみ、うつむいていた。
褒められ持ちあげられて、決まりが悪く拗ねているのではない。

割と冗談でなく、三村くんに殺意を覚えていて、まさかステージ上でアイドルにあるまじき暴挙にでないよう、堪えるのに精いっぱいだったのだ。

まっとうな片思いをしていれば、デイジーの中でも要人さんに贔屓されているのでは?と指摘されたら、心が躍るだろう。
が、相手は同性だし、子持ちだし、僕はアイドルだし、そもそも「子供を巻きこみたくない」とふられている。

ほんの一欠けらも、結ばれる望みがなく、諦めるしかないところ「マエバに強い思い入れがある」と甘言を吐いて、惑わさないでほしかった。
と、年長の三村くんへの甘えもあっては、そのときは恨めしく思うばかりで、苛立つ根本の原因にまで考えが及ばなかった。

悪気ない三村くんの発言だけを責めてもしかたなかったのだ。
聞き流せない自分の心持にも問題はあった。

諦めるしかないと、分かりきっていながら、聞き分けられない自分がいて、でも、どうして諦めきれないのか、はっきりと理由を分かっていなかった。




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