デイジーの受難

ルルオカ

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デイジーの受難

前林のお節介④

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デイジーの冠番組で女優さんがゲスト出演した時のこと。

恒例行事のようなもので、女優さんにデイジーの誰がタイプなのかを聞いた。

名前をあげられるので一番多いのは大路だ。
デイジーの一、二を争う人気を誇っているせいもあるけど、大路を一押しする事務所の顔色窺ったり、売れて勢いのあるデイジーに媚びているところもある。

次点が僕なのは、ファンの反感を買うことがあまりないし、無難だからだ。

というように大路と僕なんかは、芸能界で生き抜こうとする女性芸能人のしたたかな思惑があって選ばれることが多く、一方で三村くんの名前があがることは滅多にない。

選んでも、これといってメリットがないからだろうけど、だからこそ、三村くんの名をあげる女性芸能人は、損得抜きの率直な思いを口にしているように見えた。

そう、そのとき三村くんを選んだ女優さんにしろ、裏表がないような人だったし、収録中は三村くんによく視線を向けていたから、お世辞抜きにタイプだったのだろう。
「見る目があるな」とひそかに感心しつつ、どうにも嫌な予感がした。

大路が大人しかったからだ。

告白してから絶好調な大路なら、嫉妬をしながらも「俺のほうが三村くんが好きだよ!」と冗談交じりに抱きつきにいってもよさそうなところ。

一応、周りに合わせてリアクションをしたり笑い声を立てていたものの、いつものように三村くんの懐に跳びこんでいかなく、太ももの上で両拳を痛いほど握って、むしろ跳びだしていきそうなのを堪えているようだった。
気になりつつも、ゲストから顔をそらせなく、やっとカットがかかったところで、隣を見やった。

大路が人を殺しそうな目をしていた。
分かりやすく、頭に血をのぼらせて歯軋りしているのではなく、至って澄ました顔をしているのが、もっと怖かった。

映画やドラマでも、これほど、やさぐれた大路を見たことがなくて、ショックを受けつつも、「僕は勘違いしていたのではないか」とにわかに動悸を激しくした。

三村くんはとっくに大路に絆されていたのかもしれないと、思ったのだ。

問題児ながらに見た目は天使だった幼い大路に「三村くんが一緒じゃなきゃやだ」と泣きつかれて、絆されないわけがない。

そうして、すっかり骨抜きにされてしまった三村くんは、成長していった姿を正視しないまま、今も成熟した成人男性として、見ているようで見ていないのではないか。

そうでなければ、自分より逞しい体をして、腕っぷしも強そうな男に迫られて、「べつに自分を犠牲にしているような感じはないし」なんて、余裕をかませないだろう。

大路は、三村くんが幼気な大路にしか目がないことに、気がついた。
だから、女優さんに嫉妬しつつも、とっくに幼気ではなくなった自分を見ろとばかり、凄んでいたのかもしれない。

「三村くん、行っちゃやだ」と泣いてすがるなんて、生易しいものではない。
嫉妬に狂って女優に殺意を向けるような、醜くあくどい大人になったことを、分からせてやりたくて。

嫌われてでも関心を持たれたいと暴走した彼女を、目の当たりにした僕には、大路の心境が分からないでもない。
ただ、彼女にも思ったことだが、不思議なのだ。

心の底から嫌われてしまって、一生、縁を切られたら元も子もないではないか。
修復不可能な破滅を招くことを恐れて、彼女や大路は二の足を踏まないのだろうかと。

とはいえ、彼女が躊躇わずとも、どれだけ悪循環に関係をこじらせようと、僕は中々、彼女と絶交をできなかった。
僕の底が知れても、見捨てないでいてくれる人は、彼女を置いていないように思えたからだ。

彼女以外に、そういった人と知り合える保証もないとなれば、手放しがたくもなる。
何をしても許してくれるような好意に、執着したがるのは当然といえば当然で、だから彼女は躊躇わずに、僕の足元を見て迷惑行為をしてきたのだろう。

たしかに僕は執着を捨てられなかった。

だからといって、彼女に関心を向ける機会が訪れることはなかった。

だって、そうだろう。
もともとあった関心が執着に取って代わっただけなのだから。

関心と執着は全くの別物だ。
それに執着から関心は生まれにくい。

そのことに気づいて、やっと諦めがついたから、突きとばされた彼女は、あんなに穏やかな顔つきになったのかもしれない。

大路はとても、そこまで悟ってはいない。

かつての彼女がそうだったように、好意を取り上げて試すようなことをすれば、自分を見てくれるかもしれないと、おそらく勘違いをしている。

勘違いしたまま三村くんを傷つけて欲しくなかった。

なにせ、大路は男だし、彼女がプラトニック的だったのとは対照的に、節操なく勃起するようだから、暴走したら、彼女がしたことの比にならない、大惨事を招くだろう。
「デイジーグループ内で強姦事件」なんて見出しを、スポーツ紙の一面に飾られるなんて、ごめんだった。





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