彼女に死ねと言われたら

浦登みっひ

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性善説

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「もしもし、ロザリー? 今、大丈夫だった?」
「大丈夫。こんばんは、モーリス。体調はどう?」

 スマートフォンから、ロザリーの風鈴のように優しく涼しげな声が聞こえてくる。
 会えなかった日は、寝る前に必ず通話をする。それが、僕たちの間で定められたルールだ。
 いつ頃から始められた習慣だったかはもう定かではないし、そもそもこういうルールをはっきりと決めたわけでもないような気がするけれど、頻繁に通話するようになってから、いつの間にかこれが絶対のルールになった。
 アルビノの体質のために学校を休むことが多いロザリーに学校で起こったことを伝えたり、特に何もなかった日は、他愛のない世間話をしたり。
 ロザリーに宿題を手伝ってもらうことも多い。出席日数以外優等生のロザリーは、おつむの良くない僕がウンウン唸るような問題でも大抵あっさりと解いてしまうから、いつもついつい甘えてしまうのだ。
 一日の生活を終えてロザリーの声を聞くと、とても心が落ち着いて、安らかな気持ちになれる。通話しながら寝落ちしてしまうことだって珍しくない。僕にとって一番の癒しは、やっぱり彼女なのだ。

「うん、全然平気。それより、昼間送った件なんだけど……」

 あの三人――ミヤビ様とレイさん、そしてレーヌ――が転校生として同じクラスにやってきたことを、今日学校に来なかったロザリーにも、昼間のうちに連絡しておいたのだ。

「見たよ。びっくりした。アルビノの二人は何かしつこそうだから、もしかしたらと思ってたけど、私たちを襲ってきた人まで転校してくるなんてね。表立っては行動してこないだろうと踏んでいたんだけど、随分大胆ね」
「だよねえ。昨日あんまり眠れなかったからさ、今朝はめちゃくちゃ眠かったんだけど、朝のホームルームであの三人が入ってきたのを見て、一気に目が覚めちゃったよ」
「それで、どうだった?」
「どうって?」
「同じクラスになったのなら、モーリスに接触してきたんじゃないかなと思って」

 やっぱりロザリーは鋭い。……いや、当然の推測なのか? 僕が鈍すぎるだけか?

「……うん、実はそうなんだ。ミヤビ様とレイさんは……」
「ん? ミヤビ様?」
「う、うん、彼女がそう呼べって言うから……」
「それで、言われた通りにそう呼んでいるの?」
「あ、うん……まあ……」
「ふうん……それから?」
「二人はレーヌをとても警戒していたよ。それから、ブランボヌール……だったっけ、自分たちの団体に無理に入れとは言わないから、それとは別に、ロザリーに力の使い方を教えたい、そう伝えてほしいと言っていたよ。君にとって決して無駄にはならないはずだから、って」
「そう……まあ、心に留めておく、とだけ伝えておいてもらえるかしら」
「OK。それとね、レーヌ・スターリングとも少し話をしたよ」
「えっ、そっちとも?」

 ロザリーは意外そうに声のトーンを少し上げた。

「うん。彼女ね、もうアルビノを狙うことはやめて、普通の女子高生として生きていきたいと思っているらしいよ。シャダイ王国に来たのは、よりよい環境で勉強するためだって言ってた。でも、彼女の部下たちにロザリーの心臓を狙うようしつこく進言されて、仕方なく襲っただけなんだそうだよ」
「へえ……で、モーリスはその彼女の話を信じたのね」
「えっ?」

 信じたのね、と言われると、何だか急に不安になってしまう。
 でも、レーヌはそんなに悪い子には見えなかったし、何より、彼女の話が本当であるという可能性の方を僕は信じてみたかった。楽観的すぎるかもしれないけれど、争いなんてないほうがいいし、人を疑うより信じることのほうが遥かに尊い行為だと思っている。僕は性善説が好きなんだ。

「優しいね、モーリスは。いずれ近いうちに、私も学校に行って二人と……いえ、三人と話をしてみる必要がありそうだね」
「うん、そうだね。やっぱり、直接話すのが一番だと思う。みんないい人そうだし、特にアルビノの二人とは、ロザリーも友達になれるかもしれないよ」
「うん……まあ、考えておくよ。モーリス、昨日から色々なことが一気に起こって、疲れたでしょう?」
「まあね……今日は隣にレーヌがいたから、落ち着いて居眠りもできなかったし」
「え、隣の席なの?」
「そうなんだよ……ちょっと今朝机の配置換えがあってさ。すごい緊張しちゃって」
「大変だったね……じゃあ、今夜はゆっくり休んで」
「うん、ありがとう! ロザリーと話すと、やっぱり落ち着くよ」
「ふふ……よかった。じゃあ、おやすみなさい、モーリス」
「おやすみ、ロザリー」

 通話が終わるとすぐに睡魔がやってきて、僕は数日ぶりの安らかな眠りについたのだった。
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