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監獄島の惨劇 ジャンル:ホラー
4時25分 鮫太郎
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俺は、異形の怪物達と戦い続けていた。
通常の人型のゾンビだけではない。中には、動物の体の一部が移植されたものもいた。それらを殺し、血をすするたびに、闘争本能が昂り、血が滾っていくのが実感できた。
そして今また、新しいタイプの怪物と対峙している。
一般的な成人男性の胴体と、それに不釣り合いなほど巨大な獣の手足が移植されたゾンビだ。あれは熊の手足だろうか。黒い被毛にびっしりと覆われており、鋭い鉤爪が五本見えた。
しばらくお互いに間合いを測っていたが、俺は先手を打って、上段の構えから斬り込んだ。
ボフッ
熊ゾンビはそれを素手で受け止めた。しかも右手だけで。硬い皮膚と分厚い被毛に覆われているため、手足の部分を刀で傷つける事は難しいようだ。俺はそれをこの一太刀で悟った。
その刹那。唸るような勢いで、左手のパンチが飛んできた。俺は後ろに飛び退いて、それを間一髪のところで躱す――躱した、と思ったが、刃物のように鋭い爪が俺の服を切り裂き、胸にうっすらと三筋の傷をつけた。傷口から、たらりと血が滴り落ちる。
手足のガードを切り抜けなければ、この刀でダメージを与える事は難しそうだ。頭部や胴体の部分は通常の人型とそれほど違わないため、あの手足さえ潜り抜ければ一撃で仕留められそうなのだが……。
と、対処法を考えているうちに、背後から雑魚の人型ゾンビが襲いかかってきた。それを軽く受け流し、一撃で切り伏せる。奴にばかり集中して周囲の警戒を怠っていると、この程度の雑魚にも足元をすくわれる可能性があるかもしれない。
熊ゾンビには、自発的に仕掛けてくる様子がない。こちらの攻撃を確実に防御してからカウンターを狙う、という戦術なのだろうか。とはいえ、今のように雑魚の横槍が入って隙を作り、あの強烈なパンチをもらってしまうと、一撃で致命傷になりかねない。あまり時間をかけて戦うのは得策ではなさそうだ。
俺は再び刀を上段に構えて飛び込んだ。相手は、それを今度は左手で受け止める。分厚い皮膚に阻まれ、刀ではやはり傷をつけることすらかなわなかった。そして、さっきよりも素早い振りで右手のフックが飛んできた。
スカッ
渾身の一撃は空を切った。
上段から斬りつける、と見せかけ、俺は奴の手に刀を投げつけてすぐに後ろへ飛んだ。そして、奴がカウンターを繰り出した後の隙を狙っていたのだ。瞬時に体勢を立て直して敵の懐へ飛び込む俺と、両手を振り上げたままこちらを見下ろす相手の視線がぶつかる。驚愕の表情を浮かべる熊ゾンビの懐に潜り込み、眉間にメスを投げつけた。敵もさるもの、咄嗟に腕を振り下ろしてそれを遮ろうとしたが、僅かにこちらの攻撃が勝った。
ブシュゥゥゥゥ
メスは相手の腕をすり抜けて見事に頭部を刺し貫き、どす黒い血液が噴き出した。眉間にメスを突き立てたまま、熊ゾンビは仰向けになって倒れた。
刀とメスを回収した後、その血液を啜る。やはり不味い。それに臭い。だが、胸の傷口はみるみるうちに消えてなくなり、これまでのゾンビとは比較にならないほどのエネルギーが体に漲ってくるのがわかった。
フロア全体が静寂に包まれている。
辺りには無数のゾンビの死骸――いや、ゾンビ自体が既に死骸なのだから、残骸というべきか――が転がっている。床は一面にどす黒い血で覆われ、空気は腐臭で満たされていた。
新しいゾンビが湧いてこなくなってから、だいぶ時間が経っている。もうこれで終わりなのだろうか? ――いや、違う。これは嵐の前の静けさだ。根拠は全くないが、何故かそう確信できた。次に出てくる敵は、間違いなくこれまでと比べ物にならないぐらい強い。所謂、ラスボスである。
俺はひたすら待った。
ひたっ、ひたっ……
どこからか、微かに足音が聞こえてくる。
ついにお出ましか。
音のする方向を振り向く。その足音は、拷問室の中から響いてくるようだ。これまでのどのゾンビとも違う、柔らかく、湿った足音だ。
やがて、拷問室の分厚い扉の陰から、それは姿を表した。
黒い霧を繭のように纏いながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。距離が近付くにつれて、その黒い霧の中に包まれた華奢なシルエットが視認できるようになった。
女の体だ。
拷問室に並べられていた、バラバラに切断された死体。
肉感的ですらりと伸びた脚が、こちらへと歩いてくる。しかし、その胴体があるべき部分には、三つの下腹部がだるま落としのように積み重ねられている。その一番上の部分に、両腕が接合されていた。頭部は見当たらない。
バラバラになっていたはずの死体のパーツを、黒い霧が、糊のように繋ぎ合わせているようだ。そして、その三つの下腹部から数秒ごとに、握りこぶしほどの大きさの球体がぽこぽこと産み落とされていく。
産み落とされたその球体は、地面に落ちるとすぐに罅が入った。しかし、壊れたわけではない。割れた殻の中から、小さな生き物が這い出した。その生き物は、掌に収まりそうなほど小さかったが、確かに人の形をしていた。それも、丸々と太った人間の形だ。
「あれは……あのデブか……」
その体型には見覚えがあった。体だけではなく、顔つきまで菅山直哉にそっくりなのだ。
おそらく、あの死体に魔物が憑依したのだろう、と俺は考えた。その上、人間の体を使って新たな魔物を産卵しているようだ。
突如として、体を覆っていた黒い霧が膨れ上がり、フロア全体を覆い尽くした。吸い込んだだけで肺が重くなるような禍々しい空気。これが瘴気というやつか。
魔物は、数メートル離れたところで立ち止まった。殺気を感じ、相手の攻撃に備えて刀を構える。
俺達は、そのまま数秒間睨み合っていた。
先に動いたのは向こうだった。真正面から、こちらを目がけて突っ込んできたのだ。
(速い……!)
俺は反射的に飛び退いた。魔物の手刀が眼前を掠め、前髪が数本宙を舞った。際どいところで手刀を躱した俺は、すぐさま反撃に移る。刀を握りなおし、無防備になった胴体めがけて振り下ろした。
カキン
「何っ?」
斬撃は無情にも、その柔らかそうな皮膚に弾かれた。
(ただの人間の死体のはずなのに……何故!)
戸惑う俺の腹部に、魔物の蹴りが叩きこまれた。
「うぐっ……」
完全に虚をつかれた俺は、そのまま後ろへ数メートル吹き飛ばされて、片膝をついた。喉の奥から鉄の臭いがこみ上げてくる。
「がはっ……!」
口から、赤黒い液体が吐き出された。口元を手で拭い、手のひらをまじまじと見つめる。これは血だ……俺は血を吐いたのか。
手元に転がった刀にも、数滴の血が点々と滴り落ちた。
これまでに啜ってきた血の影響か、体内のダメージは急速に回復していき、すぐに吐血は収まった。しかし、内臓へのダメージが大きかったのか、どうにも体が重い。動けないでいるうちに、魔物はすぐ目の前まで近づいていた。右手を振り上げ、頭部へと手刀を振り下ろそうとしているのが目に入る。俺は咄嗟に首を右に曲げ、それを躱した。
ブシュッ
左肩に激痛が走る。頭部は直撃を免れたが、奴の手刀はそのまま左の鎖骨のあたりを直撃した。皮膚が抉られ、中の肉が露出している。恐らく骨も折れているだろう。
「うがぁぁっ……」
思わず悲鳴を上げた俺は、体制を立て直すために一度距離をとる必要があると判断し、その場からの逃走を試みた。一歩足を踏み出すごとに、鎖骨の辺りまでズキズキと痛みが響いてくる。しかし、逃げようとしたその先には、あの魔物が産み落とした小さな菅山の化身達が待ち構えていた。
「クソッ……あのデブが……!」
俺はダメ元で刀を振り回した。刀身についた俺の血が赤く光る。デブなだけあって反応は鈍く、そこにいた十数匹の小デブは、簡単に斬り捨てる事ができた。こいつらは本体ではないから刀が通るのだろうか?
考えているうちに、すぐにまた背後から、凄まじいスピードで死体の魔物が迫ってくる。手刀を構えて、突き出そうという構えだ。狙いは心臓のあたりらしい。あれをくらってしまったらひとたまりもない。
俺は咄嗟に体を捻ってそれを避けた。一瞬前まで俺の心臓があった位置に、手刀が繰り出されている。俺はすかさず、無駄な事とは知りつつも、がら空きになったボディへ刀を振り下ろした。刀身を汚した俺の血液が、再び赤く鈍く光を放つ。
ザシュッ
驚いたことに、今度は確かに肉を切った手ごたえがあった。魔物が狼狽えたように後方へ飛び退く。頭部がないため表情は窺えないが、どうやらこの攻撃には効果があったらしい。さっきとは何が違うのだろうか。攻撃した部位? いや、さっきも胴体だった。そして、同じくカウンターだったはずだ。……いや、待てよ。
刀をしげしげと眺めた。
そうか。そういう事だったのか。
俺は、左手で刀身を強く握り、思い切りよく引き抜いた。手のひらが切れ、ボタボタと血が流れる。刀身が血で赤く染めあげられ、それを更に、刀全体へと満遍なく塗りたくっていく。
魔物が手刀を水平に構えて飛び込んできた。パワーとスピードは化け物だが、動きは読みやすい。俺は上体を反らして回避した。すぐに体勢を立て直して、下段から切り上げる。
斬撃は魔物の腿のあたりを捉え、肉を裂いた。
やはりそうだ。ダメージを与えるには、俺の血が必要だったらしい。一時は絶望的とさえ思えた状況に、一筋の光明が差してきた。
これなら戦える……!
一度は萎えかけた闘志に再び火が点いた。体中の血液が沸騰したかのように煮えたぎっている。大量のアドレナリンが分泌されているのが体感できた。
「さあ来い……魔物だろうが何だろうが……この京谷鮫太郎がブチ殺してやる!」
通常の人型のゾンビだけではない。中には、動物の体の一部が移植されたものもいた。それらを殺し、血をすするたびに、闘争本能が昂り、血が滾っていくのが実感できた。
そして今また、新しいタイプの怪物と対峙している。
一般的な成人男性の胴体と、それに不釣り合いなほど巨大な獣の手足が移植されたゾンビだ。あれは熊の手足だろうか。黒い被毛にびっしりと覆われており、鋭い鉤爪が五本見えた。
しばらくお互いに間合いを測っていたが、俺は先手を打って、上段の構えから斬り込んだ。
ボフッ
熊ゾンビはそれを素手で受け止めた。しかも右手だけで。硬い皮膚と分厚い被毛に覆われているため、手足の部分を刀で傷つける事は難しいようだ。俺はそれをこの一太刀で悟った。
その刹那。唸るような勢いで、左手のパンチが飛んできた。俺は後ろに飛び退いて、それを間一髪のところで躱す――躱した、と思ったが、刃物のように鋭い爪が俺の服を切り裂き、胸にうっすらと三筋の傷をつけた。傷口から、たらりと血が滴り落ちる。
手足のガードを切り抜けなければ、この刀でダメージを与える事は難しそうだ。頭部や胴体の部分は通常の人型とそれほど違わないため、あの手足さえ潜り抜ければ一撃で仕留められそうなのだが……。
と、対処法を考えているうちに、背後から雑魚の人型ゾンビが襲いかかってきた。それを軽く受け流し、一撃で切り伏せる。奴にばかり集中して周囲の警戒を怠っていると、この程度の雑魚にも足元をすくわれる可能性があるかもしれない。
熊ゾンビには、自発的に仕掛けてくる様子がない。こちらの攻撃を確実に防御してからカウンターを狙う、という戦術なのだろうか。とはいえ、今のように雑魚の横槍が入って隙を作り、あの強烈なパンチをもらってしまうと、一撃で致命傷になりかねない。あまり時間をかけて戦うのは得策ではなさそうだ。
俺は再び刀を上段に構えて飛び込んだ。相手は、それを今度は左手で受け止める。分厚い皮膚に阻まれ、刀ではやはり傷をつけることすらかなわなかった。そして、さっきよりも素早い振りで右手のフックが飛んできた。
スカッ
渾身の一撃は空を切った。
上段から斬りつける、と見せかけ、俺は奴の手に刀を投げつけてすぐに後ろへ飛んだ。そして、奴がカウンターを繰り出した後の隙を狙っていたのだ。瞬時に体勢を立て直して敵の懐へ飛び込む俺と、両手を振り上げたままこちらを見下ろす相手の視線がぶつかる。驚愕の表情を浮かべる熊ゾンビの懐に潜り込み、眉間にメスを投げつけた。敵もさるもの、咄嗟に腕を振り下ろしてそれを遮ろうとしたが、僅かにこちらの攻撃が勝った。
ブシュゥゥゥゥ
メスは相手の腕をすり抜けて見事に頭部を刺し貫き、どす黒い血液が噴き出した。眉間にメスを突き立てたまま、熊ゾンビは仰向けになって倒れた。
刀とメスを回収した後、その血液を啜る。やはり不味い。それに臭い。だが、胸の傷口はみるみるうちに消えてなくなり、これまでのゾンビとは比較にならないほどのエネルギーが体に漲ってくるのがわかった。
フロア全体が静寂に包まれている。
辺りには無数のゾンビの死骸――いや、ゾンビ自体が既に死骸なのだから、残骸というべきか――が転がっている。床は一面にどす黒い血で覆われ、空気は腐臭で満たされていた。
新しいゾンビが湧いてこなくなってから、だいぶ時間が経っている。もうこれで終わりなのだろうか? ――いや、違う。これは嵐の前の静けさだ。根拠は全くないが、何故かそう確信できた。次に出てくる敵は、間違いなくこれまでと比べ物にならないぐらい強い。所謂、ラスボスである。
俺はひたすら待った。
ひたっ、ひたっ……
どこからか、微かに足音が聞こえてくる。
ついにお出ましか。
音のする方向を振り向く。その足音は、拷問室の中から響いてくるようだ。これまでのどのゾンビとも違う、柔らかく、湿った足音だ。
やがて、拷問室の分厚い扉の陰から、それは姿を表した。
黒い霧を繭のように纏いながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。距離が近付くにつれて、その黒い霧の中に包まれた華奢なシルエットが視認できるようになった。
女の体だ。
拷問室に並べられていた、バラバラに切断された死体。
肉感的ですらりと伸びた脚が、こちらへと歩いてくる。しかし、その胴体があるべき部分には、三つの下腹部がだるま落としのように積み重ねられている。その一番上の部分に、両腕が接合されていた。頭部は見当たらない。
バラバラになっていたはずの死体のパーツを、黒い霧が、糊のように繋ぎ合わせているようだ。そして、その三つの下腹部から数秒ごとに、握りこぶしほどの大きさの球体がぽこぽこと産み落とされていく。
産み落とされたその球体は、地面に落ちるとすぐに罅が入った。しかし、壊れたわけではない。割れた殻の中から、小さな生き物が這い出した。その生き物は、掌に収まりそうなほど小さかったが、確かに人の形をしていた。それも、丸々と太った人間の形だ。
「あれは……あのデブか……」
その体型には見覚えがあった。体だけではなく、顔つきまで菅山直哉にそっくりなのだ。
おそらく、あの死体に魔物が憑依したのだろう、と俺は考えた。その上、人間の体を使って新たな魔物を産卵しているようだ。
突如として、体を覆っていた黒い霧が膨れ上がり、フロア全体を覆い尽くした。吸い込んだだけで肺が重くなるような禍々しい空気。これが瘴気というやつか。
魔物は、数メートル離れたところで立ち止まった。殺気を感じ、相手の攻撃に備えて刀を構える。
俺達は、そのまま数秒間睨み合っていた。
先に動いたのは向こうだった。真正面から、こちらを目がけて突っ込んできたのだ。
(速い……!)
俺は反射的に飛び退いた。魔物の手刀が眼前を掠め、前髪が数本宙を舞った。際どいところで手刀を躱した俺は、すぐさま反撃に移る。刀を握りなおし、無防備になった胴体めがけて振り下ろした。
カキン
「何っ?」
斬撃は無情にも、その柔らかそうな皮膚に弾かれた。
(ただの人間の死体のはずなのに……何故!)
戸惑う俺の腹部に、魔物の蹴りが叩きこまれた。
「うぐっ……」
完全に虚をつかれた俺は、そのまま後ろへ数メートル吹き飛ばされて、片膝をついた。喉の奥から鉄の臭いがこみ上げてくる。
「がはっ……!」
口から、赤黒い液体が吐き出された。口元を手で拭い、手のひらをまじまじと見つめる。これは血だ……俺は血を吐いたのか。
手元に転がった刀にも、数滴の血が点々と滴り落ちた。
これまでに啜ってきた血の影響か、体内のダメージは急速に回復していき、すぐに吐血は収まった。しかし、内臓へのダメージが大きかったのか、どうにも体が重い。動けないでいるうちに、魔物はすぐ目の前まで近づいていた。右手を振り上げ、頭部へと手刀を振り下ろそうとしているのが目に入る。俺は咄嗟に首を右に曲げ、それを躱した。
ブシュッ
左肩に激痛が走る。頭部は直撃を免れたが、奴の手刀はそのまま左の鎖骨のあたりを直撃した。皮膚が抉られ、中の肉が露出している。恐らく骨も折れているだろう。
「うがぁぁっ……」
思わず悲鳴を上げた俺は、体制を立て直すために一度距離をとる必要があると判断し、その場からの逃走を試みた。一歩足を踏み出すごとに、鎖骨の辺りまでズキズキと痛みが響いてくる。しかし、逃げようとしたその先には、あの魔物が産み落とした小さな菅山の化身達が待ち構えていた。
「クソッ……あのデブが……!」
俺はダメ元で刀を振り回した。刀身についた俺の血が赤く光る。デブなだけあって反応は鈍く、そこにいた十数匹の小デブは、簡単に斬り捨てる事ができた。こいつらは本体ではないから刀が通るのだろうか?
考えているうちに、すぐにまた背後から、凄まじいスピードで死体の魔物が迫ってくる。手刀を構えて、突き出そうという構えだ。狙いは心臓のあたりらしい。あれをくらってしまったらひとたまりもない。
俺は咄嗟に体を捻ってそれを避けた。一瞬前まで俺の心臓があった位置に、手刀が繰り出されている。俺はすかさず、無駄な事とは知りつつも、がら空きになったボディへ刀を振り下ろした。刀身を汚した俺の血液が、再び赤く鈍く光を放つ。
ザシュッ
驚いたことに、今度は確かに肉を切った手ごたえがあった。魔物が狼狽えたように後方へ飛び退く。頭部がないため表情は窺えないが、どうやらこの攻撃には効果があったらしい。さっきとは何が違うのだろうか。攻撃した部位? いや、さっきも胴体だった。そして、同じくカウンターだったはずだ。……いや、待てよ。
刀をしげしげと眺めた。
そうか。そういう事だったのか。
俺は、左手で刀身を強く握り、思い切りよく引き抜いた。手のひらが切れ、ボタボタと血が流れる。刀身が血で赤く染めあげられ、それを更に、刀全体へと満遍なく塗りたくっていく。
魔物が手刀を水平に構えて飛び込んできた。パワーとスピードは化け物だが、動きは読みやすい。俺は上体を反らして回避した。すぐに体勢を立て直して、下段から切り上げる。
斬撃は魔物の腿のあたりを捉え、肉を裂いた。
やはりそうだ。ダメージを与えるには、俺の血が必要だったらしい。一時は絶望的とさえ思えた状況に、一筋の光明が差してきた。
これなら戦える……!
一度は萎えかけた闘志に再び火が点いた。体中の血液が沸騰したかのように煮えたぎっている。大量のアドレナリンが分泌されているのが体感できた。
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