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京谷小雨の日常&Fall in the moonlight ジャンル:コメディ&ホラー
9月9日(2) 小雨
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退屈な講義をぼへっとしながらやり過ごしているうちに、気付けば今日の講義は全て終わっていた。いい加減休みボケをなんとかしないと、次のテストで死んでしまうぞ……。
私と瞬は、小学校からずっと同じ学校、しかも、奇跡的にずっと同じクラスだった。だから、帰り道はいつも瞬と一緒だったのだが、瞬と真紀が付き合い始める前、二人の仲が急接近してから、私は少し二人と距離を置くようになった。どうしてわざわざ身を引こうとしているんだろうと、自分でも疑問に思いつつ。
瞬はここ数年で随分雰囲気が変わった。
子供のころから、どちらかといえばぼんやりした大人しい男の子だった。それは今でもあまり変わっていないのだが、ここ数年の彼は、随分嘘つきになってしまった。昔は顔を見るだけで何を考えているか手に取るように理解できていたのに、最近は思考が読めないことが多い。
今はまだ長年一緒にいたアドバンテージでなんとか瞬のことを理解できているつもりだ。しかし、それすらもだんだん自信がなくなってきた。それは真紀の存在とも決して無関係ではないだろう。
私は真紀みたいに可愛くないし、女の子らしくもない。嘘も下手だし、ハッタリも無理。それに、今の瞬は私よりも真紀のほうと波長が合っているような気がする。
それなのに、まだ瞬のことを諦めきれない。……いや、違う。失いそうになってようやく気付いたんだ。
私は、自分で思っていたよりずっと瞬のことが好きだったと。
ああ、感傷的になるなんて、私らしくもない。
この時期、夕方にもなると、毎日少しずつ日が短くなっていることが実感できる。今日の風は少し涼しげで、コオロギやスズムシの鳴き声が耳に心地よい。秋はもうすぐそこに迫っている。
今日はバイトのシフトも入っていない。帰りの道すがら、行きつけの書店で小説を二冊買い、コンビニ(もちろんバイト先じゃないところ)で缶チューハイを三本買った。大学二年生、実はまだ未成年の私であるが、年齢確認をされたことは一度もない。老け顔で得だったと思えることは唯一これぐらいだ。
これまでの人生、割と真面目に生きてきたつもりなのだが、今年に入ってからすっかり飲んだくれになってしまった。理由は、まあ、察していただければ幸いである。飲み始めて最初のうちは悪酔いすることもあったのだが、最近は割とアルコールと上手に付き合えるようになっていると思う。まあ、飲んだところで気が楽になるわけではないし、飲まない方がいいってことはわかっているつもりだけど。
家の前まで来ると、瞬の家の前で、彼の母親が家の前を掃除している姿が見えた。私は咄嗟に缶チューハイが入っているビニール袋を背中に隠す。まだ一応それぐらいの羞恥心は持ち合わせているんだよ。
「あ、小雨ちゃん、おかえりなさい。今日はバイトはお休み?」
瞬の母親の愛子さんは、私の母とは違って、若々しくてスレンダーな美人だ。
東北に引っ越してきて、初めて瀬名家の人々に会ってから、もう十年以上の月日が流れた。私が小学校に上がる前の年、見知らぬ東北の地に不安でいっぱいだった私達を、朗らかな笑顔で出迎えてくれたお向かいの家族。気さくでハンサムな旦那さんと、明るく朗らかに笑う奥さん。そして、そんな両親とは似ても似つかないほど大人しい、小さな男の子。
両親同士が挨拶を交わしている間、その男の子は父親の陰に隠れながら、一言も喋らずにじっと私を見ていた。当時の彼は同年代の子供達と比べても背が小さい方だったから、私の弟と同じか、もう少し下、まだあまり喋れない子なのかもしれない……それが瞬の第一印象だった。でも、別れ際、彼は私に向かってこう言ったのだ。
『きれいな髪だね』
私は今でもあの日の事を鮮明に覚えている。あれから、私と瞬は体だけすっかり一人前になり、私の両親は随分老け込んだ。でも、愛子さんだけはあの日と全く変わらない。髪型も、十年以上ずっとショートボブ。女性でこんなに髪型の変わらない人も珍しいと思う。真紀みたいに四半期ごとにコロコロ変わるのもそれはそれで珍しいけど。
「小雨ちゃん? ……小雨ちゃん?」
「あっ、はっ、はい、こんばんは」
やべえやべえ、ついついぼんやり回想に耽ってしまった。
「ああ、よかった。ちょっと小雨ちゃんに話したいことがあったの。今日は少しお疲れかしら?」
お話。
そんな、改まって、お話って何だろう。隠し事があると、こういうちょっとした一言がいやに気になってしまうものだ。
「いえ、ちょっと暑くてぼーっとしてただけで……」
私は年がら年中こんな感じだから別に暑さのせいというわけでもないのだが、冬は寒さのため、春は陽気のため、秋は空腹のため、そして夏は暑さのためと、冤罪の被害者が次々とスライドしてゆく。
「そう、よかったわ。実はね、来週、旦那と一緒に三泊四日で温泉旅行に行くことになったのよ」
「へえ、温泉旅行ですか~。いいですねえ」
「そう、久しぶりに、夫婦水入らずでどこか行きましょうよっていう話になってね」
その話にどう私が関係してくるのだろう。わざわざ人を呼び止めて自慢話をするような人ではないはずだ。まあとりあえずは黙って聞いてみるしかない。
話はそこから、どこどこのなんという宿に泊まって、という話題に発展していく。なんだか聚楽第みたいな、漢字検定に出てきそうな難しい漢字が用いられた名前の宿だ。
「あ、ちょっと話がそれちゃったわね。それでね、本題に入るんだけど」
あ、やっぱり逸れてたんですね。本題本題。
「私達が家を空けている間、ちょっと瞬の面倒を見てやってもらえないかしら? あの子、家事は一切できないのよ。それが唯一の不安の種で……」
「え、私がですか?」
「そう、小雨ちゃんに来てもらえたら私達も安心だわ。学校とアルバイトで忙しいとは思うし、心苦しいんだけど、他に頼める人がいなくて……」
なるほど、事情は呑み込めた。確かに瞬は家事なんかするタイプとは思えない。
多分愛子さんは私と瞬が付き合っていると勘違いしているんじゃないかしら。私じゃなくてちゃんとした彼女がいるのだから、そっちに頼むのが筋ではないかとも思うが、どうやら瞬は真紀のことをまだ両親に話していないらしいのだ。かといって、それを私の口から伝えるのも気が進まない。そんなわけで、もう何年も前から否定も肯定もされずに放置されてきたこの問題は、真紀の登場によって状況が大きく変わった今もなお手付かずのままになっていた。
まあ、真紀も料理はからっきしみたいだから、来たとしても大したことはできなさそうだけど。
「はあ……私でよければ……」
引き受けてやるか。断る理由もないし。
「ああ、よかったわぁ、これで一安心。ゆっくり羽根を伸ばせるわ」
随分大袈裟に喜んでいるけれど、おそらく愛子さんは私が断るわけがないと踏んだ上で話を持ってきたはずだ。うまく乗せられてしまったみたいで、なんか少し悔しい。
「じゃあ小雨ちゃん、瞬のことをよろしくお願いします。うちの鍵、忘れないように、もう渡しておくわね」
愛子さんはそう言って、瀬名家の鍵を私の手に握らせながら、私の耳に口を寄せた。
ぽつりと一言。
「あなたたちだって、夜中にコソコソする必要がなくなって、いいでしょう?」
「ひゃわっ?」
擬音語として忠実に文字に起こすことが不可能なほどの難解な奇声を発しながら、私は後ずさった。
「あら、気付いてないと思った? 私達の寝室は瞬の部屋の真下なんですからね、ドタドタ音がしたらわかるんですよ」
確かに、瞬の部屋は瀬名家の二階、ご両親の部屋はその真下にある。ぬかった……!
「旦那はいつも朝までぐっすりだから気付いてないでしょうけど……まあ二人とも子供じゃないんだし、もうそんな年頃になったのかぁって、しみじみ思ってるのよ」
ああ~~~マジか……恥ずかしい……それ以上言わないで……。
俄かに顔が火照りだし、茹で蛸みたいに耳まで真っ赤になっていくのが自覚できた。
「いや、その……なんというか、すみません……」
「謝ることはないのよ、じゃあ来週、お願いしますね」
愛子さんの朗らかな笑顔が、瀬名家の玄関へ消えて行った。
あぁ、どうしよう、これから……。
私と瞬は、小学校からずっと同じ学校、しかも、奇跡的にずっと同じクラスだった。だから、帰り道はいつも瞬と一緒だったのだが、瞬と真紀が付き合い始める前、二人の仲が急接近してから、私は少し二人と距離を置くようになった。どうしてわざわざ身を引こうとしているんだろうと、自分でも疑問に思いつつ。
瞬はここ数年で随分雰囲気が変わった。
子供のころから、どちらかといえばぼんやりした大人しい男の子だった。それは今でもあまり変わっていないのだが、ここ数年の彼は、随分嘘つきになってしまった。昔は顔を見るだけで何を考えているか手に取るように理解できていたのに、最近は思考が読めないことが多い。
今はまだ長年一緒にいたアドバンテージでなんとか瞬のことを理解できているつもりだ。しかし、それすらもだんだん自信がなくなってきた。それは真紀の存在とも決して無関係ではないだろう。
私は真紀みたいに可愛くないし、女の子らしくもない。嘘も下手だし、ハッタリも無理。それに、今の瞬は私よりも真紀のほうと波長が合っているような気がする。
それなのに、まだ瞬のことを諦めきれない。……いや、違う。失いそうになってようやく気付いたんだ。
私は、自分で思っていたよりずっと瞬のことが好きだったと。
ああ、感傷的になるなんて、私らしくもない。
この時期、夕方にもなると、毎日少しずつ日が短くなっていることが実感できる。今日の風は少し涼しげで、コオロギやスズムシの鳴き声が耳に心地よい。秋はもうすぐそこに迫っている。
今日はバイトのシフトも入っていない。帰りの道すがら、行きつけの書店で小説を二冊買い、コンビニ(もちろんバイト先じゃないところ)で缶チューハイを三本買った。大学二年生、実はまだ未成年の私であるが、年齢確認をされたことは一度もない。老け顔で得だったと思えることは唯一これぐらいだ。
これまでの人生、割と真面目に生きてきたつもりなのだが、今年に入ってからすっかり飲んだくれになってしまった。理由は、まあ、察していただければ幸いである。飲み始めて最初のうちは悪酔いすることもあったのだが、最近は割とアルコールと上手に付き合えるようになっていると思う。まあ、飲んだところで気が楽になるわけではないし、飲まない方がいいってことはわかっているつもりだけど。
家の前まで来ると、瞬の家の前で、彼の母親が家の前を掃除している姿が見えた。私は咄嗟に缶チューハイが入っているビニール袋を背中に隠す。まだ一応それぐらいの羞恥心は持ち合わせているんだよ。
「あ、小雨ちゃん、おかえりなさい。今日はバイトはお休み?」
瞬の母親の愛子さんは、私の母とは違って、若々しくてスレンダーな美人だ。
東北に引っ越してきて、初めて瀬名家の人々に会ってから、もう十年以上の月日が流れた。私が小学校に上がる前の年、見知らぬ東北の地に不安でいっぱいだった私達を、朗らかな笑顔で出迎えてくれたお向かいの家族。気さくでハンサムな旦那さんと、明るく朗らかに笑う奥さん。そして、そんな両親とは似ても似つかないほど大人しい、小さな男の子。
両親同士が挨拶を交わしている間、その男の子は父親の陰に隠れながら、一言も喋らずにじっと私を見ていた。当時の彼は同年代の子供達と比べても背が小さい方だったから、私の弟と同じか、もう少し下、まだあまり喋れない子なのかもしれない……それが瞬の第一印象だった。でも、別れ際、彼は私に向かってこう言ったのだ。
『きれいな髪だね』
私は今でもあの日の事を鮮明に覚えている。あれから、私と瞬は体だけすっかり一人前になり、私の両親は随分老け込んだ。でも、愛子さんだけはあの日と全く変わらない。髪型も、十年以上ずっとショートボブ。女性でこんなに髪型の変わらない人も珍しいと思う。真紀みたいに四半期ごとにコロコロ変わるのもそれはそれで珍しいけど。
「小雨ちゃん? ……小雨ちゃん?」
「あっ、はっ、はい、こんばんは」
やべえやべえ、ついついぼんやり回想に耽ってしまった。
「ああ、よかった。ちょっと小雨ちゃんに話したいことがあったの。今日は少しお疲れかしら?」
お話。
そんな、改まって、お話って何だろう。隠し事があると、こういうちょっとした一言がいやに気になってしまうものだ。
「いえ、ちょっと暑くてぼーっとしてただけで……」
私は年がら年中こんな感じだから別に暑さのせいというわけでもないのだが、冬は寒さのため、春は陽気のため、秋は空腹のため、そして夏は暑さのためと、冤罪の被害者が次々とスライドしてゆく。
「そう、よかったわ。実はね、来週、旦那と一緒に三泊四日で温泉旅行に行くことになったのよ」
「へえ、温泉旅行ですか~。いいですねえ」
「そう、久しぶりに、夫婦水入らずでどこか行きましょうよっていう話になってね」
その話にどう私が関係してくるのだろう。わざわざ人を呼び止めて自慢話をするような人ではないはずだ。まあとりあえずは黙って聞いてみるしかない。
話はそこから、どこどこのなんという宿に泊まって、という話題に発展していく。なんだか聚楽第みたいな、漢字検定に出てきそうな難しい漢字が用いられた名前の宿だ。
「あ、ちょっと話がそれちゃったわね。それでね、本題に入るんだけど」
あ、やっぱり逸れてたんですね。本題本題。
「私達が家を空けている間、ちょっと瞬の面倒を見てやってもらえないかしら? あの子、家事は一切できないのよ。それが唯一の不安の種で……」
「え、私がですか?」
「そう、小雨ちゃんに来てもらえたら私達も安心だわ。学校とアルバイトで忙しいとは思うし、心苦しいんだけど、他に頼める人がいなくて……」
なるほど、事情は呑み込めた。確かに瞬は家事なんかするタイプとは思えない。
多分愛子さんは私と瞬が付き合っていると勘違いしているんじゃないかしら。私じゃなくてちゃんとした彼女がいるのだから、そっちに頼むのが筋ではないかとも思うが、どうやら瞬は真紀のことをまだ両親に話していないらしいのだ。かといって、それを私の口から伝えるのも気が進まない。そんなわけで、もう何年も前から否定も肯定もされずに放置されてきたこの問題は、真紀の登場によって状況が大きく変わった今もなお手付かずのままになっていた。
まあ、真紀も料理はからっきしみたいだから、来たとしても大したことはできなさそうだけど。
「はあ……私でよければ……」
引き受けてやるか。断る理由もないし。
「ああ、よかったわぁ、これで一安心。ゆっくり羽根を伸ばせるわ」
随分大袈裟に喜んでいるけれど、おそらく愛子さんは私が断るわけがないと踏んだ上で話を持ってきたはずだ。うまく乗せられてしまったみたいで、なんか少し悔しい。
「じゃあ小雨ちゃん、瞬のことをよろしくお願いします。うちの鍵、忘れないように、もう渡しておくわね」
愛子さんはそう言って、瀬名家の鍵を私の手に握らせながら、私の耳に口を寄せた。
ぽつりと一言。
「あなたたちだって、夜中にコソコソする必要がなくなって、いいでしょう?」
「ひゃわっ?」
擬音語として忠実に文字に起こすことが不可能なほどの難解な奇声を発しながら、私は後ずさった。
「あら、気付いてないと思った? 私達の寝室は瞬の部屋の真下なんですからね、ドタドタ音がしたらわかるんですよ」
確かに、瞬の部屋は瀬名家の二階、ご両親の部屋はその真下にある。ぬかった……!
「旦那はいつも朝までぐっすりだから気付いてないでしょうけど……まあ二人とも子供じゃないんだし、もうそんな年頃になったのかぁって、しみじみ思ってるのよ」
ああ~~~マジか……恥ずかしい……それ以上言わないで……。
俄かに顔が火照りだし、茹で蛸みたいに耳まで真っ赤になっていくのが自覚できた。
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