アンダンテ

浦登みっひ

文字の大きさ
96 / 126
京谷小雨の日常&Fall in the moonlight ジャンル:コメディ&ホラー

9月15日(2) 小雨

しおりを挟む
 翌朝、瞬のベッドで目覚めた私は、未だ覚めきらない頭をボリボリ掻きながら時計を確認した。

 時刻は九時。

 うわっ、やっべえ!
「ちょっと瞬! 瞬! 遅刻するよ!」
 私は隣ですやすやと寝息を立てている瞬を叩き起こした。
「ええ、なに?」
「遅刻だよ遅刻!」
 一応、対外的には真面目な子ということになっているはずの私にとって、遅刻は一大事である。別に一日ぐらい遅刻したってどうってことはないのかもしれないが、例えば、ピースが欠けたジグソーパズルを額に入れて飾ろうとは思わないだろう。そういう感じ。

 瞬は大きく欠伸をしながら体を起こした。顔はまだ寝惚けているが、下半身の方は見事な朝立ちだ。男の子の体は面白い。
「……あれ? 今日一限休みじゃない?」
「……えっ?」
 え〜と、今日は……火曜?
 ああ……そうだった……。
「うわあ、マジだ。ごめん」
「いいよ……なんか、目が覚めたら腹が減ってきた……」
 瞬は腹をさすっている。確かに昨夜はいつにも増してハードだった。
「ああ、じゃあ朝御飯作るね」
「昨日のカレーの残りでいいよ」
「あ、ほんと?」

 私は、そのままエプロンだけを身に付けて、昨夜の残り、鍋に入ったままのカレーを温め始めた。
 いかに普段裸族同然の生活をしているとはいえ、他人の家でこんな格好をするのは少し落ち着かないものだ。まあ、結局は何も着てないんだけどね。今この家には私と瞬しかいないんだし。だって暑いもん。
 私に付き合ってかどうかは知らないが、二階の彼の部屋から一階にある食卓まで降りてきた瞬も、なんと全裸のままだった。下着ぐらい履けばいいのにとは思ったが、朝立ち的な問題で窮屈なのかもしれない。生えてないから知らんけど。
 彼の両親が帰ってくる前に、この辺をざーっと掃除しなきゃな。ほら、毛が落ちてたらマズいからね。

 暑い時期だから、一晩寝かせたカレーにはしっかり火を通さなければならない。もうひと煮立ちかな、とカレーをかき混ぜていると、突然、背後から伸びてきた瞬の指が首筋に触れる。
「んあっ……」
 思わず変な声が出てしまった。しかし、昨夜から今朝にかけて私が発した言葉と声の統計をとると、明らかに今の声のほうがマジョリティである。そう考えると、強ちこれが変な声とは言えない。
 あながち、って響きがなんかエロい。ああ、もう発想が完全にそっち方面に……。

 振り返ると、瞬は指先で私の髪を優しく撫でていた。さっきのは意図的なものではなく、髪を触ろうとして首筋に当たってしまったものらしい。

 彼は子供の頃、こうして私の髪を触るのが好きだった。手持ち無沙汰になると、物欲しそうな目で
『髪の毛、触ってもいい?』
って言いだすのがたまらなく可愛かったんだけど、照れくさがってしなくなったのは、いつの頃からだろう……。多分、小学校高学年ぐらいのことではないだろうか。せっかく瞬のために伸ばしていたのに。
 構ってもらえなくなって馬鹿くさくなった私は、少しずつ髪を短くするようになった。『触らないならなくなっちゃうぞ~』と、半ば脅す意味もあったのだが、全く通用せず。肩にも届かなくなったのは高校生の頃だったはずだ。
 また髪を伸ばし始めたのは大体半年ぐらい前。まあ最近ようやく撫でられるぐらいの長さになってきたところだ。

 つまり、こうして髪を撫でられるのは数年ぶりだったということ。あれぇ、こんなにくすぐったかったっけ……。
 性感帯のすぐ近くをこんなに執拗にいじられて、子供の頃の私はよく平気でいられたものだと思う……いや、おかしいのは今の私の方か。首筋は重点的に開発が進められた地域なのだ。

 首筋をまさぐっていた指先が、少しずつ下へ移動してゆく。肩、胸、腰……。
 なんだなんだ、随分積極的じゃないか。裸エプロンの威力は絶大である。
 煮立った鍋をひっくり返さないよう、指先の動きに神経を集中させて必死でこらえているというのに、瞬はあろうことか、手薄になった耳への攻撃を開始する。
「んぅっ……」
 耳たぶを弄ぶ瞬の舌の感触と熱い吐息によって、私はついに真っ直ぐ立っていられなくなった。たまらずに身を捩ると、臀部に彼の朝立ちが、ぴとっ、と触れる。

 ああ……もう、無理。



 結局、カレーは黒焦げになってしまい、朝食は白米だけになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...