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十一人目の探偵、糊口凌太郎
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『残念ながら十人目の犠牲者が出た。現在、十一人目の探偵がこちらへ向かっている。諸君は建物内の探索を続けるもよし、エントランスで新たな探偵を出迎えるもよし、十一人目の探偵がここに到着するまで、ひとまず自由に過ごしていてくれたまえ』
人数を告げる部分以外一字一句変わらないゲームマスターのアナウンスが流れた時、私はようやく一階に辿り着き、別棟へ向かおうとしていたところだった。先行した川矢探偵たちはもう別棟に入っていたはずだが、私たちは全員生贄から最も遠い場所、反対側の建物の屋上にいたのだ。この建物のどこかにいるであろう殺人者より先に生贄に接触できるわけがない。
一緒に屋上から駆け下りてきた門谷先生、東條とほぼ同時に床に膝をつきながら、さすがに今回は仕方ない、と私は思った。でも次こそは。屋上から生贄がやってくるのなら、私たちが二手に分かれて屋上で待ち構えていれば、確実に生贄の身柄を確保できるからだ。
肩で大きく息をしつつ、門谷先生や東條の顔にも僅かに安堵の色が窺えた。
しかし、私はそこではっとした。人の命がかけられているのに、ついさっきまた人が殺されたのに、私は今仕方なかったと考えた。人命より勝敗を意識した。これは危険な兆候ではないか。あまりにも立て続けに人が殺されすぎて、感覚が麻痺し始めているのかもしれない。
ふと、どこからかゲームマスターの哄笑が聞こえたような気がして私は辺りを見回したが、私以外の二人は何の反応も示していない。ただの幻聴か……。
その場で休んでいると、先行していた男の探偵達が別棟の方向からバラバラと引き返してきた。ゼエゼエと息を切らしながら最初に戻ってきたのは銀田二。運動音痴略して(略)の彼は、おそらく私たちと一番近い位置にいたのだろう。程なくして、樺川、愚藤、織田、川矢の順に、四人が合流した。
西野園「殺された人の姿は確認できましたか?」
川矢「いや、私と織田探偵は別棟の二階までは行けたが、何も見つけられなかった。屋上から降りてくる途中で殺されたのだろうな。そのまま上の探索を続けようかとも思ったが、先ずは今後の方針を決めなければならないと考えて引き返してきた」
織田「如何にも。皆さんも既にお気付きとは思うが、生贄がヘリコプターによって屋上に降ろされることがわかった以上、屋上に出てこれを待ち構えるのが得策と考えます。しかし、屋上が二つあるのだから、我々も二手に分かれて行動しなければ、さっきの二の舞となってしまうでしょう。そして、エントランスにはもうすぐ十一人目の探偵もやってくる。どのようにグループを分けるか、早めに決めておかなければなりません」
門谷「たしかに、二人の言う通り。体力や男女比も考えてグループ分けを行う必要がありそうね。とりあえず、体力のない私と西野園さん、東條ちゃん、それから銀田二さんの四人は二、二で分けて……そう、私と銀田二さんのグループ、西野園さんと東條ちゃんのグループを作って、そこに他の男性たちを二人ずつ組み合わせていくのが良さそうね。じゃあとりあえず、私と銀田二さん、織田さんに川矢さんのグループ。西野園さんと東條ちゃん、愚藤くんと樺川先生のグループ。って感じでどうかしら?」
珍しく積極的に場を仕切る門谷先生だったが、その発言はツッコミどころ満載だった。西野園『さん』と東條『ちゃん』の間にあるものは何なのか。成人と未成年の差だろうか?
いや、それよりも。まるでバランスを重視して考えたかのような口ぶりだったが、門谷先生のグループ分けはかなり恣意的で偏っている。探偵としての経験が豊富で頼れそうな二人と組みたがっているとも考えられるが、門谷先生のことだから、単に自分のタイプの男性と一緒にいたいだけなのではないか。きっとそうだ。
まあそれだけならどうぞご勝手に、と言いたいところだが、問題はむしろ戦力的な偏りである。織田、川矢の両探偵が門谷先生のグループに入るということは、こちらは全く頼りにならない愚藤と、元々運動神経は良くなさそうな上に既に長時間走り回って疲労困憊の樺川先生という組み合わせになってしまう。もしもまた愚藤が東條を口説き始めたりすると、残るのは私と樺川先生だけ。目の前に生贄がいても取り逃がしてしまう可能性すらあるかもしれない。
ああ、ここに集められているのは皆名探偵のはずなのに、どうしてこんな、人としてのモラルの範囲の問題で悩まなければならないんだろう?
私は門谷先生の専横を止めるべく声を上げた。
西野園「ちょっと待ってください、門谷先生。それだと、こちらのグループは序盤からずっと探索を続けて疲れているメンバーが多くなってしまいます」
門谷「え? それぐらい根性でどうにかしなさいよ」
根性。探偵という人種からは最も遠い言葉だと思うのは私だけだろうか。そんな時代遅れの概念を持ち出されて、はいそうですかと引き下がるわけにはいかないのだ。
西野園「根性でどうにかなるなら、とっくにこのゲームは終わっていますよ。私は川矢探偵と愚藤さんのトレードを希望します」
探偵としての能力はさておき、ルックスだけなら愚藤も織田探偵や川矢探偵に引けを取らない。愚藤との交換なら、門谷先生も了承する可能性があるのではないかと私は考えた。まあ、愚藤の顔面は相変わらず人間よりゾンビに近い状態ではあるけれど。
川矢探偵を指名したのは、織田探偵より疲労が少ないと判断したから。まあ愚藤を厄介払いできるだけでも充分ではある。
あからさまに不満そうな表情で何か言い返そうとした門谷先生だったが、川矢探偵がそれを軽く制した。
川矢「今はこんなことで争っている場合ではない。私は西野園さんのグループに入ることにする。愚藤君は門谷さんと一緒に行動したまえ。生贄は次の探偵の到着とほぼ同時に屋上に配置されるはず。ぐずぐずしている暇はないぞ」
銀田二「生贄の到着前に全員が屋上へ向かうとなると、十一人目の探偵はどうしましょう」
織田「自分の判断で行動してもらうよりあるまい。選ばれた探偵なら、それぐらいはできるはずだ。現に、十人目の探偵――水村、といったか――の姿はエントランスにはなかった。探索を始めているなら、どこかで我々と遭遇するはず。説明が必要ならその時に行えばいいでしょう」
それができない探偵がここには複数存在するんですが、とツッコむ間もなく、私たちは二手に分かれて行動を開始した。門谷先生と愚藤、織田探偵、銀田二のグループはエントランスのある本棟へ。私と樺川先生、東條、川矢探偵のグループは別棟、つまりかつては病棟として使われていたと思しき建物へ、それぞれ急いで屋上を目指す。
私はこれまで主に本棟の方を探索してきたから、最初からゲームに参加させられている探偵であるにもかかわらず、別棟に入るのは何とこれが初めて。一部を除いて奇人変人揃いのメンバーへの説明も決して楽ではなかった、ということで許してほしい。
と、別棟の階段を駆け上がり三階まで辿り着いたところで、耳に懐かしい声が私たちを呼び止めた。
桃貫「おお、西野園さん! 樺川先生!」
声の主は、三人目の探偵として現れ、ずっと別行動をとっていた、正義感に燃える元刑事、桃貫元警部だった。このメンバーの中では最高齢の桃貫警部だが、声のした方を振り返ると、こちらめがけて廊下を走ってくる桃貫警部ともう一人、見知らぬ男性の姿がある。
すらりとした長身にボサボサの頭、端正な顔立ちと雪のように白いジャケット。しかし特に目を引くのは、両手の黒い手袋だ。季節はもう五月、都内から美矢城にやってきた私にとっても、今はもう手袋が必要な気候ではない。白いジャケットとのコントラストも手伝ってか、その黒い手袋が妙に気になった。
西野園「桃貫警部ですか? ……そちらの方は?」
桃貫「この方は水村准教授とおっしゃって……先程のアナウンスをお聞きならご存じでしょう、十人目の探偵としてここに連れられてきた方です」
水村「お初にお目にかかります、皆さん――と、のんびり自己紹介をしている余裕はなさそうですね」
桃貫「ついさっき、この別棟でばったりお会いしたのです。そちらのお二方も我々の仲間ですかな?」
西野園「ええ、はい。彼女は東條さん、彼は川矢探偵といいます」
川矢「どうも、よろしく。しかし、説明する時間が惜しい。一刻も早く屋上に向かいましょう」
桃貫「ほう、屋上?」
西野園「生贄は、どうやら屋上からヘリコプターで連れてこられているようなんです」
桃貫「なんと、ヘリコプターとな……!」
水村「そういうことなら、急ぎましょう」
准教授というと樺川先生と同じ立場。服には水村先生の方が気を使っているようだが、髪型に無頓着そうなところも似ている。銀田二にも言えることだが、探偵って髪型を気にしない人が多いのだろうか?
水村先生は白いジャケットを靡かせながら颯爽と階段を駆け上がり、私たちもそれに続いた。
!i!i!i!i!i!i!i!i!i
『我が殺人ゲームへようこそ。十一人目の探偵、糊口凌太郎くん』
十一人目の探偵の来訪を告げるアナウンスを、私たちは別棟の屋上で聞いた。しかし、その名前など誰も聞いていなかった。ほぼ同時に、頭上数メートルの高さでホバリングを始めたヘリコプターから、ロープに吊るされた生贄がゆっくりと降ろされてきたからだ。
東條「間に合った……!」
樺川「あれは……女性か?」
樺川先生が呟いた通り、新たな生贄は、ややふくよかな体型の中年女性のようだった。全ての生贄の姿を確認できているわけではないが、これまで遭遇した被害者は皆男性だったから、女性が生贄として連れてこられるのはもしかしたら初めてかもしれない。
白髪交じりの髪は肩にかかる程度で、服装は他の生贄と同じく、作業服風のグレーの上下。女性なら、逃走や万が一抵抗されたりした場合でも男性よりは対処がしやすいはず。この人を十五分間守り切れば――と思ったその矢先。
屋上で待ち構える私たちの姿を見た女性は、ぎょっとしたように大きく目を見開き、降下することを拒むようにロープにしがみつきながら、頭上のヘリコプターに向かって叫んだ。
生贄「ちょっと! どうなってんのよ! 話が違うじゃないの! これじゃどうしたって――」
けたたましく響くローターの音にかき消され、おそらくその声はヘリコプターまで届くことはない。ヘリコプターの直下にいる私たちにも、ローターから発生するダウンウォッシュの風圧が、立っているのがやっとという勢いで吹き降ろされているのだから。
必死の抵抗も空しく、女性の体は屋上の床からおよそ二メートル付近の高さまで降ろされ、そこでヘリコプター側のロープが放されて、女性は叩きつけられるように私たちの目の前に落下した。
生贄「いっててて……くっそ、これじゃあもうゲームオーバーじゃないの……」
人数を告げる部分以外一字一句変わらないゲームマスターのアナウンスが流れた時、私はようやく一階に辿り着き、別棟へ向かおうとしていたところだった。先行した川矢探偵たちはもう別棟に入っていたはずだが、私たちは全員生贄から最も遠い場所、反対側の建物の屋上にいたのだ。この建物のどこかにいるであろう殺人者より先に生贄に接触できるわけがない。
一緒に屋上から駆け下りてきた門谷先生、東條とほぼ同時に床に膝をつきながら、さすがに今回は仕方ない、と私は思った。でも次こそは。屋上から生贄がやってくるのなら、私たちが二手に分かれて屋上で待ち構えていれば、確実に生贄の身柄を確保できるからだ。
肩で大きく息をしつつ、門谷先生や東條の顔にも僅かに安堵の色が窺えた。
しかし、私はそこではっとした。人の命がかけられているのに、ついさっきまた人が殺されたのに、私は今仕方なかったと考えた。人命より勝敗を意識した。これは危険な兆候ではないか。あまりにも立て続けに人が殺されすぎて、感覚が麻痺し始めているのかもしれない。
ふと、どこからかゲームマスターの哄笑が聞こえたような気がして私は辺りを見回したが、私以外の二人は何の反応も示していない。ただの幻聴か……。
その場で休んでいると、先行していた男の探偵達が別棟の方向からバラバラと引き返してきた。ゼエゼエと息を切らしながら最初に戻ってきたのは銀田二。運動音痴略して(略)の彼は、おそらく私たちと一番近い位置にいたのだろう。程なくして、樺川、愚藤、織田、川矢の順に、四人が合流した。
西野園「殺された人の姿は確認できましたか?」
川矢「いや、私と織田探偵は別棟の二階までは行けたが、何も見つけられなかった。屋上から降りてくる途中で殺されたのだろうな。そのまま上の探索を続けようかとも思ったが、先ずは今後の方針を決めなければならないと考えて引き返してきた」
織田「如何にも。皆さんも既にお気付きとは思うが、生贄がヘリコプターによって屋上に降ろされることがわかった以上、屋上に出てこれを待ち構えるのが得策と考えます。しかし、屋上が二つあるのだから、我々も二手に分かれて行動しなければ、さっきの二の舞となってしまうでしょう。そして、エントランスにはもうすぐ十一人目の探偵もやってくる。どのようにグループを分けるか、早めに決めておかなければなりません」
門谷「たしかに、二人の言う通り。体力や男女比も考えてグループ分けを行う必要がありそうね。とりあえず、体力のない私と西野園さん、東條ちゃん、それから銀田二さんの四人は二、二で分けて……そう、私と銀田二さんのグループ、西野園さんと東條ちゃんのグループを作って、そこに他の男性たちを二人ずつ組み合わせていくのが良さそうね。じゃあとりあえず、私と銀田二さん、織田さんに川矢さんのグループ。西野園さんと東條ちゃん、愚藤くんと樺川先生のグループ。って感じでどうかしら?」
珍しく積極的に場を仕切る門谷先生だったが、その発言はツッコミどころ満載だった。西野園『さん』と東條『ちゃん』の間にあるものは何なのか。成人と未成年の差だろうか?
いや、それよりも。まるでバランスを重視して考えたかのような口ぶりだったが、門谷先生のグループ分けはかなり恣意的で偏っている。探偵としての経験が豊富で頼れそうな二人と組みたがっているとも考えられるが、門谷先生のことだから、単に自分のタイプの男性と一緒にいたいだけなのではないか。きっとそうだ。
まあそれだけならどうぞご勝手に、と言いたいところだが、問題はむしろ戦力的な偏りである。織田、川矢の両探偵が門谷先生のグループに入るということは、こちらは全く頼りにならない愚藤と、元々運動神経は良くなさそうな上に既に長時間走り回って疲労困憊の樺川先生という組み合わせになってしまう。もしもまた愚藤が東條を口説き始めたりすると、残るのは私と樺川先生だけ。目の前に生贄がいても取り逃がしてしまう可能性すらあるかもしれない。
ああ、ここに集められているのは皆名探偵のはずなのに、どうしてこんな、人としてのモラルの範囲の問題で悩まなければならないんだろう?
私は門谷先生の専横を止めるべく声を上げた。
西野園「ちょっと待ってください、門谷先生。それだと、こちらのグループは序盤からずっと探索を続けて疲れているメンバーが多くなってしまいます」
門谷「え? それぐらい根性でどうにかしなさいよ」
根性。探偵という人種からは最も遠い言葉だと思うのは私だけだろうか。そんな時代遅れの概念を持ち出されて、はいそうですかと引き下がるわけにはいかないのだ。
西野園「根性でどうにかなるなら、とっくにこのゲームは終わっていますよ。私は川矢探偵と愚藤さんのトレードを希望します」
探偵としての能力はさておき、ルックスだけなら愚藤も織田探偵や川矢探偵に引けを取らない。愚藤との交換なら、門谷先生も了承する可能性があるのではないかと私は考えた。まあ、愚藤の顔面は相変わらず人間よりゾンビに近い状態ではあるけれど。
川矢探偵を指名したのは、織田探偵より疲労が少ないと判断したから。まあ愚藤を厄介払いできるだけでも充分ではある。
あからさまに不満そうな表情で何か言い返そうとした門谷先生だったが、川矢探偵がそれを軽く制した。
川矢「今はこんなことで争っている場合ではない。私は西野園さんのグループに入ることにする。愚藤君は門谷さんと一緒に行動したまえ。生贄は次の探偵の到着とほぼ同時に屋上に配置されるはず。ぐずぐずしている暇はないぞ」
銀田二「生贄の到着前に全員が屋上へ向かうとなると、十一人目の探偵はどうしましょう」
織田「自分の判断で行動してもらうよりあるまい。選ばれた探偵なら、それぐらいはできるはずだ。現に、十人目の探偵――水村、といったか――の姿はエントランスにはなかった。探索を始めているなら、どこかで我々と遭遇するはず。説明が必要ならその時に行えばいいでしょう」
それができない探偵がここには複数存在するんですが、とツッコむ間もなく、私たちは二手に分かれて行動を開始した。門谷先生と愚藤、織田探偵、銀田二のグループはエントランスのある本棟へ。私と樺川先生、東條、川矢探偵のグループは別棟、つまりかつては病棟として使われていたと思しき建物へ、それぞれ急いで屋上を目指す。
私はこれまで主に本棟の方を探索してきたから、最初からゲームに参加させられている探偵であるにもかかわらず、別棟に入るのは何とこれが初めて。一部を除いて奇人変人揃いのメンバーへの説明も決して楽ではなかった、ということで許してほしい。
と、別棟の階段を駆け上がり三階まで辿り着いたところで、耳に懐かしい声が私たちを呼び止めた。
桃貫「おお、西野園さん! 樺川先生!」
声の主は、三人目の探偵として現れ、ずっと別行動をとっていた、正義感に燃える元刑事、桃貫元警部だった。このメンバーの中では最高齢の桃貫警部だが、声のした方を振り返ると、こちらめがけて廊下を走ってくる桃貫警部ともう一人、見知らぬ男性の姿がある。
すらりとした長身にボサボサの頭、端正な顔立ちと雪のように白いジャケット。しかし特に目を引くのは、両手の黒い手袋だ。季節はもう五月、都内から美矢城にやってきた私にとっても、今はもう手袋が必要な気候ではない。白いジャケットとのコントラストも手伝ってか、その黒い手袋が妙に気になった。
西野園「桃貫警部ですか? ……そちらの方は?」
桃貫「この方は水村准教授とおっしゃって……先程のアナウンスをお聞きならご存じでしょう、十人目の探偵としてここに連れられてきた方です」
水村「お初にお目にかかります、皆さん――と、のんびり自己紹介をしている余裕はなさそうですね」
桃貫「ついさっき、この別棟でばったりお会いしたのです。そちらのお二方も我々の仲間ですかな?」
西野園「ええ、はい。彼女は東條さん、彼は川矢探偵といいます」
川矢「どうも、よろしく。しかし、説明する時間が惜しい。一刻も早く屋上に向かいましょう」
桃貫「ほう、屋上?」
西野園「生贄は、どうやら屋上からヘリコプターで連れてこられているようなんです」
桃貫「なんと、ヘリコプターとな……!」
水村「そういうことなら、急ぎましょう」
准教授というと樺川先生と同じ立場。服には水村先生の方が気を使っているようだが、髪型に無頓着そうなところも似ている。銀田二にも言えることだが、探偵って髪型を気にしない人が多いのだろうか?
水村先生は白いジャケットを靡かせながら颯爽と階段を駆け上がり、私たちもそれに続いた。
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『我が殺人ゲームへようこそ。十一人目の探偵、糊口凌太郎くん』
十一人目の探偵の来訪を告げるアナウンスを、私たちは別棟の屋上で聞いた。しかし、その名前など誰も聞いていなかった。ほぼ同時に、頭上数メートルの高さでホバリングを始めたヘリコプターから、ロープに吊るされた生贄がゆっくりと降ろされてきたからだ。
東條「間に合った……!」
樺川「あれは……女性か?」
樺川先生が呟いた通り、新たな生贄は、ややふくよかな体型の中年女性のようだった。全ての生贄の姿を確認できているわけではないが、これまで遭遇した被害者は皆男性だったから、女性が生贄として連れてこられるのはもしかしたら初めてかもしれない。
白髪交じりの髪は肩にかかる程度で、服装は他の生贄と同じく、作業服風のグレーの上下。女性なら、逃走や万が一抵抗されたりした場合でも男性よりは対処がしやすいはず。この人を十五分間守り切れば――と思ったその矢先。
屋上で待ち構える私たちの姿を見た女性は、ぎょっとしたように大きく目を見開き、降下することを拒むようにロープにしがみつきながら、頭上のヘリコプターに向かって叫んだ。
生贄「ちょっと! どうなってんのよ! 話が違うじゃないの! これじゃどうしたって――」
けたたましく響くローターの音にかき消され、おそらくその声はヘリコプターまで届くことはない。ヘリコプターの直下にいる私たちにも、ローターから発生するダウンウォッシュの風圧が、立っているのがやっとという勢いで吹き降ろされているのだから。
必死の抵抗も空しく、女性の体は屋上の床からおよそ二メートル付近の高さまで降ろされ、そこでヘリコプター側のロープが放されて、女性は叩きつけられるように私たちの目の前に落下した。
生贄「いっててて……くっそ、これじゃあもうゲームオーバーじゃないの……」
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