白砂の咎人

杏仁みかん

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第一章 荷台に棲む獣〈こども〉たち

#2:野菜とドレッシング - 2

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 食べ物を作るにはまず材料が必要だ。
 大きく分けて、干し肉の材料となる牛や豚、ミルクを出すための牛や羊、そして栽培によって生み出される野菜や穀物である。
 砂漠の気候は極端だ。吹き荒れる砂は家畜の皮膚を台無しにするだけでなく、皮膚や肉に白い砂粒が混じった状態では食卓に並べられない。それは、野菜や穀物に対しても同様のことが言える。
 そのため、市場に出回る食材のほとんどは、この街にあるようなドーム状のプラント施設にて大量に管理されていた。

「丸い建物が二つあるね。ぼく、こういう建物を別の街で見たことがあるよ」

 アステリオンが目の前の建物を見上げながら言った。

「多分、肉と野菜に分かれてるんじゃねーか?」

 コシュカの推理に、デュランは「その通りだ」と答える。

「丁度いい、お前たちに教えておこうか」
「何を?」
「仕入れのことだよ。食べ物関連の露店を経営している場合、設営券を提示すりゃあ、ここから仕入れることも出来るんだ」

 アステリオンはへえ、と感心した。今までに仕入れは父親が担当していたので、アステリオンがプラントに来る機会は全く無かった。
 ましてや、プラントを持つ街はそこまで多くはないので、普段は食材屋と名乗る露店から仕入れることが多かったのだ。

「あれ? でもさっき、ここじゃなくて別の露店で買ったよ?」
「そりゃあ、出張露店だからな。ここは街外れだろう? わざわざ来るにはちょっと遠いのさ」
「なるほど……」

 プラントはあくまで工場であり、一般人が仕入れを行うには、街中で行うのが最善なのだと言う。
 ただし、街には滞在せず、材料を仕入れて直ぐに街を出て行くような場合には、車のままプラントへ行った方がいいらしい。街では人込みが多く、満足に車を動かせないからだ。

「まぁ、多分中を見せて貰うことは出来ないだろうから、入り口で仕入れの手順を確認しながら、係員に乾物の作り方を訊いてみよう」

 子供たちは呆気に取られた。

「中に入れるんだと思ってた」
「ルーシーはそんなこと、一言も言ってないだろう?」

 子供たちは騙された、と肩を落とした。

「そんな顔をするな。食材泥棒が出るから、中に入れるのは従業員だけなんだ。それと、生産と加工技術は企業秘密らしくてね」

 アステリオンは仮面の中で眉を潜めた。

「企業秘密? そんなに凄い技術が使われてるの?」
「そりゃあそうだ。何せ、生肉でも常温で一週間以上は保てるよう改良されているんだぞ? 本来だったら、一日と経たないうちにダメになっちまうはずだ」

 すると、コシュカはいつになく真剣な表情になった。

「クローン技術……か。……あんまし好きじゃねーんだよな、それ」

 アステリオンは意外そうにコシュカを見た。

「どうして?」
「だって、命を弄んでいるみたいじゃねーか。オレ、そういうのはどうしても気に食わねえんだ」
「クローンの事を良く知ると、あながちそうとは言えないかもしれんぞ?」デュランが楽しそうに言った。「……とにかく、こんな所で話してても推測に過ぎないから、実際に行ってみようじゃないか」

 三人は建物をぐるりと半周し、大きな搬入口を見つけた。三台のトレーラーが横に並んで停まっており、その奥に仕入れ用の窓口があった。

「ごめんください」

 カウンターに呼びかけると、ひょろっとした男性が奥から姿を現した。

「仕入れですか?」
「いえ、その、野菜の乾物について短期間で乾燥させる方法を知ってたら、教えて欲しいんですけど」

 受付の男性は黙って着席した。
 それから頭を数回ぼりぼりと掻いた後、ようやく口を開く。

「……そういうの困るんですよね。ここ、仕入れ専門の窓口ですから」
「教えてくれる所はないのか?」

 今度はコシュカが訊いた。

「ないですね。用が無ければお帰り願いたいのですが」
「まぁ、そう言いなさんなって」

 今度はデュランが対応した。

「うちの子供たちが勉強熱心なんでな。課題として乾物作りに挑戦しているんだ。いくらか実際に買ってやるから、教えてくれると助かる」

 係員は少し考えてから「仕方ないですね」と折れた。

「仕入れ後のサービスとしてお教えしますよ。だから、何か買っていって下さい」
「それじゃあ、折角の勉強会だから二人に任せよう。予算はこれだけだ」

 デュランは、アステリオンに銅硬貨を三枚渡した。
 露店を任された時、干し肉の「一の一人分」を銅四で売っていたため、つまりはそのくらいしか買えないだろう、と予想が付いた。

「アスティ、芋にしようぜ」コシュカが言った。「干し肉と対して値段変わらねーし、野菜は腐るほど買っちまったからな」

 アステリオンはコシュカの考慮に感心しながら頷いた。

「そうだね。……甘芋の一日分っていくらですか?」
「仕入れでは、日にちじゃなくて重さで頼むんだよ」係員は優しく訂正した。「甘芋の平均重量は一本辺り百グラン、市場での計算は一本が一食分だから……?」

 アステリオンはポン、と手を叩く。

「三百グランだ!」
「うん。その通りだね。値段はちょうど銅三だよ」

 アステリオンは満足そうに笑みを浮かべながら、貰ったばかりの銅貨を三枚、係員に差し出した。

「はい、確かに」

 係員は銅貨を受け取ると、奥から貯蔵していた芋を一日分、トレイに乗せて持ってきた。

「ありがとうございます!」

 アステリオンは、受け取った二本を自分の腰に下げた革袋に入れ、もう一本をコシュカに手渡した。
 初めての仕入れという行為に、アステリオンもコシュカも、どこか感慨深いものを感じていた。

「それじゃあ、約束通り、短期間で乾物を作るためのコツを教えようか」
「お願いします!」

 そうして熱心に勉強する二人の姿に、デュランは顎ひげを撫でながら微笑ましく見守っているのだった。
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