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Chapter 壱
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「ピピピピッ」
ああもう、うるさいなぁ。
私は手を伸ばして目覚ましをとめる。
また朝が来てしまったんだ。言いようのない絶望が胸にジワリと広がる。
のそりと起き上がって窓の外をみると、まだ暗かった。もう一度寝たい衝動に駆られる。早く起きたように感じるが、実際は冬で夜が明けるのが遅いだけだ。
立ち上がろうとして床に手をつくと手首に鋭い痛みが走った。
「いたっ」
ふと見ると、昨日巻いた包帯に血が滲んでいた。変な体勢をとったから、傷口が開いてしまったのだろうか。とはいえ、自分で付けたものなのだから特になんとも思わない。包帯を変えるのがめんどくさいな、程度だ。
とにかく、今日もまた学校に行かなくてはいけない。
行きたくもない場所だが、いつまでも祖母に頼れる訳じゃない。働いて、稼いで最低でも一人で暮らせるくらいにはならなくてはいけない。唯一の肉親と言える祖母に恩返しもしたい。だから最低でも中学は頑張って行くのだ。
襖を開けると冷気が部屋の中に流れ込んできた。私の部屋は畳だからまだマシなものだが、廊下の床板は冷たい。毎朝、この一歩に要する体力は相当なものである。
板の間の食卓に向かう途中で外が雨であることに気付いた。
私は晴れよりも雨の方が好きだ。傘など持っていない私は泣いてもバレないから。
食卓の上には冷たくなったご飯とおかずが並べてあった。祖母はいつものごとくもう仕事に行ったのだろう。私を養うために働いてくれるのだ。感謝しか出てこない。
「…いただきます」
白い脂の浮いた煮物はなんの味もしなかった。
ーーーーーー
「キーンコーンカーンコーン」
危なかった。もう少し上履きを探すのに手間取っていたら遅刻していたかもしれない。
遅刻ギリギリに教室に滑り込んだ私は慌てて自席に座った。
「おい、今日も遅刻かよー?」
隣の席の男子が突っついてくる。上履きを隠しておいて白々しい。ほっといてほしいのに。
「あはは、やめなよー。その子答えられるお口持ってないみたいよー」
首を突っ込んできたのは斜め前の女子。めんどくさいったらありゃしない。
「あ、そーだったわ、ごめんなブス子」
ブス子、か。私の名前なんてもう美音以外はしらないんじゃないだろうか。そう言えば、私もこの男子と女子の名前を始め、クラスにどんな人がいるのかなんて何も知らない。じゃあお互い様、だ。
「ったく、私の近くにこんな奴がいるの嫌だわー」
好きで近くにいるんじゃない。でももう気にしないって決めたんだ。
上履きが毎朝隠されてたり捨てられてたりすることも、クラスの人から無視されることも、机に「バカ」とか「死ね」って書いてあることも、気にしない。祖母にちゃんと恩返し出来るようになるために学校に行くのだから。
ーーーーーー
「幸葉ー、昼休みね、部活の集まりがあって、お昼は一緒に食べれないや。ごめんね。」
「ああ、うん、部活がんばって…ね。」
唯一話してくれる人がいなくなるのは、なんとも心細いものだ。まあ、話しかけてくれるだけで感謝なのだが。
美音とは中2になってからの付き合いだが、いつもとても仲良くしてくれるし、友達として最高だと思う。私にそんなことを言う資格があるのかは知らないけれど。
中1の最後は私にとってトラウマになるようなことばっかりだった。精神状態も、まともとは程遠いような状態だった。そんな状態を引き摺ったまま中2になって友達なんてできないと思ってた矢先に、美音が話しかけてくれた。何故か私のことを気に入ったらしい。美音のおかげで私の精神も前よりはちゃんとした状態だ。でも未だに、体に触れる、触れられることは出来ない。美音も何かを感じ取っているのか、無理に触れてこようとはしない。
それなのに、私の中で瑠衣の時の二の舞になりそうな感情が蠢くときがある。どうも人間は喉元を過ぎると熱さを忘れるというのは本当らしい。本当に困ったものだ。
ああもう、うるさいなぁ。
私は手を伸ばして目覚ましをとめる。
また朝が来てしまったんだ。言いようのない絶望が胸にジワリと広がる。
のそりと起き上がって窓の外をみると、まだ暗かった。もう一度寝たい衝動に駆られる。早く起きたように感じるが、実際は冬で夜が明けるのが遅いだけだ。
立ち上がろうとして床に手をつくと手首に鋭い痛みが走った。
「いたっ」
ふと見ると、昨日巻いた包帯に血が滲んでいた。変な体勢をとったから、傷口が開いてしまったのだろうか。とはいえ、自分で付けたものなのだから特になんとも思わない。包帯を変えるのがめんどくさいな、程度だ。
とにかく、今日もまた学校に行かなくてはいけない。
行きたくもない場所だが、いつまでも祖母に頼れる訳じゃない。働いて、稼いで最低でも一人で暮らせるくらいにはならなくてはいけない。唯一の肉親と言える祖母に恩返しもしたい。だから最低でも中学は頑張って行くのだ。
襖を開けると冷気が部屋の中に流れ込んできた。私の部屋は畳だからまだマシなものだが、廊下の床板は冷たい。毎朝、この一歩に要する体力は相当なものである。
板の間の食卓に向かう途中で外が雨であることに気付いた。
私は晴れよりも雨の方が好きだ。傘など持っていない私は泣いてもバレないから。
食卓の上には冷たくなったご飯とおかずが並べてあった。祖母はいつものごとくもう仕事に行ったのだろう。私を養うために働いてくれるのだ。感謝しか出てこない。
「…いただきます」
白い脂の浮いた煮物はなんの味もしなかった。
ーーーーーー
「キーンコーンカーンコーン」
危なかった。もう少し上履きを探すのに手間取っていたら遅刻していたかもしれない。
遅刻ギリギリに教室に滑り込んだ私は慌てて自席に座った。
「おい、今日も遅刻かよー?」
隣の席の男子が突っついてくる。上履きを隠しておいて白々しい。ほっといてほしいのに。
「あはは、やめなよー。その子答えられるお口持ってないみたいよー」
首を突っ込んできたのは斜め前の女子。めんどくさいったらありゃしない。
「あ、そーだったわ、ごめんなブス子」
ブス子、か。私の名前なんてもう美音以外はしらないんじゃないだろうか。そう言えば、私もこの男子と女子の名前を始め、クラスにどんな人がいるのかなんて何も知らない。じゃあお互い様、だ。
「ったく、私の近くにこんな奴がいるの嫌だわー」
好きで近くにいるんじゃない。でももう気にしないって決めたんだ。
上履きが毎朝隠されてたり捨てられてたりすることも、クラスの人から無視されることも、机に「バカ」とか「死ね」って書いてあることも、気にしない。祖母にちゃんと恩返し出来るようになるために学校に行くのだから。
ーーーーーー
「幸葉ー、昼休みね、部活の集まりがあって、お昼は一緒に食べれないや。ごめんね。」
「ああ、うん、部活がんばって…ね。」
唯一話してくれる人がいなくなるのは、なんとも心細いものだ。まあ、話しかけてくれるだけで感謝なのだが。
美音とは中2になってからの付き合いだが、いつもとても仲良くしてくれるし、友達として最高だと思う。私にそんなことを言う資格があるのかは知らないけれど。
中1の最後は私にとってトラウマになるようなことばっかりだった。精神状態も、まともとは程遠いような状態だった。そんな状態を引き摺ったまま中2になって友達なんてできないと思ってた矢先に、美音が話しかけてくれた。何故か私のことを気に入ったらしい。美音のおかげで私の精神も前よりはちゃんとした状態だ。でも未だに、体に触れる、触れられることは出来ない。美音も何かを感じ取っているのか、無理に触れてこようとはしない。
それなのに、私の中で瑠衣の時の二の舞になりそうな感情が蠢くときがある。どうも人間は喉元を過ぎると熱さを忘れるというのは本当らしい。本当に困ったものだ。
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