16 / 35
きんもくせい〜明けの三日月
しおりを挟む
以前、水玉猫がミケちゃんの赤ちゃん猫のために書いた物語も載せておきます。
「渡し守の唄」から「きんもくせい~明けの三日月」
***
【 明けの三日月Ⅰ】
虹の橋行きの船を待つ船着き場。
ちいさなその子は渡し守の歌う唄を、じっと聞いていました。
三日月 みちる
みちると 満月
満月 かける
かけて 明けの三日月
二十六夜のおつきさま
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
月夜のように みちて かけても
また みちる
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
渡し守は、歌い終わると言いました。
「一生には、春夏秋冬があるというよ。百年の一生にも、たとえば数ヶ月、数日しかなかった一生にも春夏秋冬はあるんだよ。ひとつの命それぞれに、それぞれの春夏秋冬があるんだ。この世に生まれる前に去って行くことになった命にも、もちろん、春夏秋冬はあるんだ。わかるかい?」
ちいさなその子は、渡し守の腕の中で、こくんとうなずきました。
自分の目や耳や鼻では出来なかったけれど、かあさん猫のおなかの中で、かあさん猫の目や耳や鼻を通して感じた色や音や香り。
喜びや楽しさ、驚きや優しさ。
朝がくる気配。 夜が来る気配。
そして、また朝が来る気配。
昨日とは、ちがう今日の気配。
今日とは、ちがう明日の気配。
金木犀につぼみがついて 小さな花が咲きこぼれる気配。
ひとつの朝からひとつの夜の間にだって、金木犀のお花のひとつひとつにだって、春夏秋冬があるのかなと、ちいさなその子は思いました。
木の枝の葉っぱの陰に、
小さい小さいつぼみがついて、
小さい小さいお花がさいて、
そっと静かに散っていく、
お花の中の春と夏と秋と冬……。
「かしこいこだね」渡し守が言うと、その子は、だって、かあさん猫の子だものと思いました。
【 明けの三日月Ⅱ】
渡し守は、言いました。
「むくわれない命なんて、あるはずがない。もし、その命がむくわれないと見えたとしたら、それは、そう見えた人が、ただ、そう思っただけのこと。どの命も、お月さまやお星さまから見たら、みんな同じように、たいせつな命なんだよ」
ふたりのかたわらでは、虹の橋行きの船が次々に出発していきます。
渡し守は、その子を抱き上げてたずねました。
「このまま 虹の橋に出発するかい? それとも……」
【 明けの三日月Ⅲ】
その子は、かあさん猫がとても好きでした。
かあさん猫に抱かれて眠ることも、あたたかいおっぱいをのむことも、いっしょにお月さまを見ることも叶わなかったけれど、かあさん猫のおなかの中で、たくさんの優しさやなぐさめや希望が訪れ、語りかけるのを毎日感じていたのです。
かあさん猫は、外猫のひとりでした。
いわゆる野良猫。
その上、生まれ付き後ろ足が一本しかありません。
でも、かあさん猫の健気さ、ひたむきさ、無心な可愛らしさは、夜道を照らすお月さまの光のように周りの人々の心に届き、優しさや希望を照らし出しました。
人が生きて行く道は険しくて、ともすれば闇夜に迷い、茨の道で刃を振るうことにもなります。
茨のとげを刃で払えば、とげは跳ね返り、必ず我が身に突き刺さってくるにも拘わらず……。
だけど、もし、光が一時でも道を照らしてくれれば、それを避ける術が見えるかもしれない……。
そして、茨にも美しい花が咲いているのを知ることができるかもしれない……。
かあさん猫は人の心にその光を灯すことのできる、まるで、天穹から遣わされた御使いのような猫でした。
だから、ちいさなこの子は、かあさん猫を誇りに思い、かあさん猫の子であることを、とても嬉しく思っていたのです。
かあさん猫は、今日、野良猫から地域猫になるために、不妊手術を受けました。地域猫は、同じ外猫でも野良猫とは違い、見守ってくれる人たちがいる猫のことです。
その手術の際に、おなかにこの子がいることがわかったのです。かあさん猫の子宮には水がたまり、このままでは、この子もかあさん猫も命を落とすところでした。
それは、この子にも、よくわかっていました。
かあさん猫は、この子と別れる時、自らの九つの命を、このこに分けてあげました。
猫は、九つの命を持っています。
でも、この世に生まれなかったこの子は、猫の命を持ってはいませんでした。
それで、かあさん猫は、次こそ、この子が猫として生まれ、幸せな一生を送って欲しいと願いを託し、自らの命を分け与えたのです。
でも、この子は今でも、じゅうぶんに幸せでした。
ちいさな自分だって、かあさん猫といっしょに、お月さまの光になって、みんなの優しさになったと知っていましたから。
かあさん猫を手術した獣医師の先生も、かあさん猫の一生を守ると決心した人も、かあさん猫を知っている人たちはみんな、この子のために涙したのです。
そして、その涙は多くの虹になって、やがては、たくさんの希望や慰めを魂たちにもたらすでしょう。
渡し守はその子を抱きしめると言いました。
「そうか、虹の橋には行かないんだね」
その子は、うなずきました。
その子は、もらった命を、かあさん猫に返し、かあさん猫の九つの命になると決めていたのです。
「かあさん猫を、守ってあげるんだよ」
渡し守が言うと、その子はにっこりと笑って、またうなずきました。
明けの三日月の下、その子は、また、かあさん猫のもとに戻っていきました。
かあさん猫の九つの命になるために。
金木犀のお花のように九つの命がよりそって、お月さまの光のように多くの希望を照らし出すために。
三日月 みちる
みちると 満月
満月 かける
かけて 明けの三日月 二十六夜のおつきさま
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
月夜のように みちて かけても
また みちる
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
二十六夜のおつきさま かけて
みそかのおつきさま
みそかのつきは みちて 三日月
三日月 みちる
「渡し守の唄」から「きんもくせい~明けの三日月」
***
【 明けの三日月Ⅰ】
虹の橋行きの船を待つ船着き場。
ちいさなその子は渡し守の歌う唄を、じっと聞いていました。
三日月 みちる
みちると 満月
満月 かける
かけて 明けの三日月
二十六夜のおつきさま
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
月夜のように みちて かけても
また みちる
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
渡し守は、歌い終わると言いました。
「一生には、春夏秋冬があるというよ。百年の一生にも、たとえば数ヶ月、数日しかなかった一生にも春夏秋冬はあるんだよ。ひとつの命それぞれに、それぞれの春夏秋冬があるんだ。この世に生まれる前に去って行くことになった命にも、もちろん、春夏秋冬はあるんだ。わかるかい?」
ちいさなその子は、渡し守の腕の中で、こくんとうなずきました。
自分の目や耳や鼻では出来なかったけれど、かあさん猫のおなかの中で、かあさん猫の目や耳や鼻を通して感じた色や音や香り。
喜びや楽しさ、驚きや優しさ。
朝がくる気配。 夜が来る気配。
そして、また朝が来る気配。
昨日とは、ちがう今日の気配。
今日とは、ちがう明日の気配。
金木犀につぼみがついて 小さな花が咲きこぼれる気配。
ひとつの朝からひとつの夜の間にだって、金木犀のお花のひとつひとつにだって、春夏秋冬があるのかなと、ちいさなその子は思いました。
木の枝の葉っぱの陰に、
小さい小さいつぼみがついて、
小さい小さいお花がさいて、
そっと静かに散っていく、
お花の中の春と夏と秋と冬……。
「かしこいこだね」渡し守が言うと、その子は、だって、かあさん猫の子だものと思いました。
【 明けの三日月Ⅱ】
渡し守は、言いました。
「むくわれない命なんて、あるはずがない。もし、その命がむくわれないと見えたとしたら、それは、そう見えた人が、ただ、そう思っただけのこと。どの命も、お月さまやお星さまから見たら、みんな同じように、たいせつな命なんだよ」
ふたりのかたわらでは、虹の橋行きの船が次々に出発していきます。
渡し守は、その子を抱き上げてたずねました。
「このまま 虹の橋に出発するかい? それとも……」
【 明けの三日月Ⅲ】
その子は、かあさん猫がとても好きでした。
かあさん猫に抱かれて眠ることも、あたたかいおっぱいをのむことも、いっしょにお月さまを見ることも叶わなかったけれど、かあさん猫のおなかの中で、たくさんの優しさやなぐさめや希望が訪れ、語りかけるのを毎日感じていたのです。
かあさん猫は、外猫のひとりでした。
いわゆる野良猫。
その上、生まれ付き後ろ足が一本しかありません。
でも、かあさん猫の健気さ、ひたむきさ、無心な可愛らしさは、夜道を照らすお月さまの光のように周りの人々の心に届き、優しさや希望を照らし出しました。
人が生きて行く道は険しくて、ともすれば闇夜に迷い、茨の道で刃を振るうことにもなります。
茨のとげを刃で払えば、とげは跳ね返り、必ず我が身に突き刺さってくるにも拘わらず……。
だけど、もし、光が一時でも道を照らしてくれれば、それを避ける術が見えるかもしれない……。
そして、茨にも美しい花が咲いているのを知ることができるかもしれない……。
かあさん猫は人の心にその光を灯すことのできる、まるで、天穹から遣わされた御使いのような猫でした。
だから、ちいさなこの子は、かあさん猫を誇りに思い、かあさん猫の子であることを、とても嬉しく思っていたのです。
かあさん猫は、今日、野良猫から地域猫になるために、不妊手術を受けました。地域猫は、同じ外猫でも野良猫とは違い、見守ってくれる人たちがいる猫のことです。
その手術の際に、おなかにこの子がいることがわかったのです。かあさん猫の子宮には水がたまり、このままでは、この子もかあさん猫も命を落とすところでした。
それは、この子にも、よくわかっていました。
かあさん猫は、この子と別れる時、自らの九つの命を、このこに分けてあげました。
猫は、九つの命を持っています。
でも、この世に生まれなかったこの子は、猫の命を持ってはいませんでした。
それで、かあさん猫は、次こそ、この子が猫として生まれ、幸せな一生を送って欲しいと願いを託し、自らの命を分け与えたのです。
でも、この子は今でも、じゅうぶんに幸せでした。
ちいさな自分だって、かあさん猫といっしょに、お月さまの光になって、みんなの優しさになったと知っていましたから。
かあさん猫を手術した獣医師の先生も、かあさん猫の一生を守ると決心した人も、かあさん猫を知っている人たちはみんな、この子のために涙したのです。
そして、その涙は多くの虹になって、やがては、たくさんの希望や慰めを魂たちにもたらすでしょう。
渡し守はその子を抱きしめると言いました。
「そうか、虹の橋には行かないんだね」
その子は、うなずきました。
その子は、もらった命を、かあさん猫に返し、かあさん猫の九つの命になると決めていたのです。
「かあさん猫を、守ってあげるんだよ」
渡し守が言うと、その子はにっこりと笑って、またうなずきました。
明けの三日月の下、その子は、また、かあさん猫のもとに戻っていきました。
かあさん猫の九つの命になるために。
金木犀のお花のように九つの命がよりそって、お月さまの光のように多くの希望を照らし出すために。
三日月 みちる
みちると 満月
満月 かける
かけて 明けの三日月 二十六夜のおつきさま
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
月夜のように みちて かけても
また みちる
ねこのいのちは ここのつ ひとつ
二十六夜のおつきさま かけて
みそかのおつきさま
みそかのつきは みちて 三日月
三日月 みちる
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
新しい家族は保護犬きーちゃん
ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。
過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。
初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。
◇
🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾
🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾
🔶🐶挿絵画像入りです。
🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇♀️
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
👨一人用声劇台本「寝落ち通話」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼女のツイートを心配になった彼氏は彼女に電話をする。
続編「遊園地デート」もあり。
ジャンル:恋愛
所要時間:5分以内
男性一人用の声劇台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる