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貴方に触れたい
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「……て、ユリー起きてってば」
夢の中から現実に引き戻される瞬間は、まるで海の底に沈んでいた体が地上に打ち上げられる瞬間のようだと思っていた。
だけど最近は、そんな息苦しさを感じること無く、指先のぬくもりから身体中が息を吹き返すようだ。
まるで、春が訪れるような、朝。
そんな穏やかな目覚めが、ここにあるなんて。
「ウル……」
「もうすぐ朝日が昇るから、俺は戻りますね」
繋いだ指先が、そっと離れていく。
急に寒さを思い出して、オレは横になったまま目の前で体を起こしているウルの腰へとしがみついた。
「まだ夜だろ……」
「もう朝っすよ」
「朝じゃない……」
窓の外からは、黒と白を混ぜた光が差し込んでいる。それを夜だと言いきるのが難しいことくらい、オレもわかっていた。
「オーキスに言われたんです」
ウルも、その色を朝だと思いたくないのかオレの髪を撫でるとゆっくりと口を開いた。
「俺とユリーが親しくなることはウィリス王子にとって都合が良いんだって。何が都合が良いかは教えてくれなかったんですけど、俺やユリー、それにアッシュ王子にとっても悪いことではないって」
「ウィリスはウルのことオレから遠ざけた方が良いって思ってるみたいだったけど」
「それは建前ってやつじゃないですか? 常識的に考えたら俺がこうしてユリーと一緒にいるのはよくないし」
指先にオレの髪を絡めると、ウルは口元に薄い三日月を浮かべてオレの髪にキスを落とした。
「俺には偉い人たちの考えることはさっぱりですけど、ウィリス王子は悪い人じゃないって思うから」
うん、と頷くオレに微笑むと、ウルはオレの髪に触れていた指先でオレの頬を撫でた。
その手が触れた場所は、まるで花が咲くようにあたたかくなる。息苦しいと思っていた日々の中で、ウルの側だけが唯一オレに呼吸の仕方を思い出させた。
「なぁ、ウル」
吸い込んだ息は、簡単に吐き出される。
だからオレは、初めてウルが歌てくれた朝に聞けなかった問いかけを口にした。
「オレ以外の奴にも、こうやって歌ってやってたのか?」
ウルは目を丸くしてオレを見下ろすと、随分と子供のような笑みを浮かべて首を横に振った。
「歌ったことはあるんすけど、全然求めて貰えなかったです。……そういうのは、いらないって。ユリーだけっすよ、俺に歌ってって言ってくれたの」
偉い人たちが寝台の上で聞きたがったのは、別の声だった。ウルは、そっと呟いた。
だから、歌を求められるのは嬉しいとウルは笑っていたけれど、傷付いている心がそこに見えた気がしてオレはウルの乾いた頬を手の甲で撫でた。
「……ユリーは、俺のこと抱いてはくれないんですよね」
「抱かないよ」
ウルに頼まれたって抱かない。そう決めた。
「そっか。じゃあ……」
俺がユリーのこと抱いてもいいですか。
歌声のように優しくはない声と共に、ウルの唇がオレの唇へと触れた。
「断ってくれても良いんで、考えてみてほしいです」
やっぱり、ウルが触れた場所には春が訪れる。熱っぽい唇からは、声にならない呼吸だけが溢れ落ちていった。
夢の中から現実に引き戻される瞬間は、まるで海の底に沈んでいた体が地上に打ち上げられる瞬間のようだと思っていた。
だけど最近は、そんな息苦しさを感じること無く、指先のぬくもりから身体中が息を吹き返すようだ。
まるで、春が訪れるような、朝。
そんな穏やかな目覚めが、ここにあるなんて。
「ウル……」
「もうすぐ朝日が昇るから、俺は戻りますね」
繋いだ指先が、そっと離れていく。
急に寒さを思い出して、オレは横になったまま目の前で体を起こしているウルの腰へとしがみついた。
「まだ夜だろ……」
「もう朝っすよ」
「朝じゃない……」
窓の外からは、黒と白を混ぜた光が差し込んでいる。それを夜だと言いきるのが難しいことくらい、オレもわかっていた。
「オーキスに言われたんです」
ウルも、その色を朝だと思いたくないのかオレの髪を撫でるとゆっくりと口を開いた。
「俺とユリーが親しくなることはウィリス王子にとって都合が良いんだって。何が都合が良いかは教えてくれなかったんですけど、俺やユリー、それにアッシュ王子にとっても悪いことではないって」
「ウィリスはウルのことオレから遠ざけた方が良いって思ってるみたいだったけど」
「それは建前ってやつじゃないですか? 常識的に考えたら俺がこうしてユリーと一緒にいるのはよくないし」
指先にオレの髪を絡めると、ウルは口元に薄い三日月を浮かべてオレの髪にキスを落とした。
「俺には偉い人たちの考えることはさっぱりですけど、ウィリス王子は悪い人じゃないって思うから」
うん、と頷くオレに微笑むと、ウルはオレの髪に触れていた指先でオレの頬を撫でた。
その手が触れた場所は、まるで花が咲くようにあたたかくなる。息苦しいと思っていた日々の中で、ウルの側だけが唯一オレに呼吸の仕方を思い出させた。
「なぁ、ウル」
吸い込んだ息は、簡単に吐き出される。
だからオレは、初めてウルが歌てくれた朝に聞けなかった問いかけを口にした。
「オレ以外の奴にも、こうやって歌ってやってたのか?」
ウルは目を丸くしてオレを見下ろすと、随分と子供のような笑みを浮かべて首を横に振った。
「歌ったことはあるんすけど、全然求めて貰えなかったです。……そういうのは、いらないって。ユリーだけっすよ、俺に歌ってって言ってくれたの」
偉い人たちが寝台の上で聞きたがったのは、別の声だった。ウルは、そっと呟いた。
だから、歌を求められるのは嬉しいとウルは笑っていたけれど、傷付いている心がそこに見えた気がしてオレはウルの乾いた頬を手の甲で撫でた。
「……ユリーは、俺のこと抱いてはくれないんですよね」
「抱かないよ」
ウルに頼まれたって抱かない。そう決めた。
「そっか。じゃあ……」
俺がユリーのこと抱いてもいいですか。
歌声のように優しくはない声と共に、ウルの唇がオレの唇へと触れた。
「断ってくれても良いんで、考えてみてほしいです」
やっぱり、ウルが触れた場所には春が訪れる。熱っぽい唇からは、声にならない呼吸だけが溢れ落ちていった。
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