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冴ゆる星の逢瀬
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「……寝れねぇ」
知らない匂いの寝具で眠れなくなるほど、繊細な性格はしていない。
オレは今晩もう何度目かわからない寝返りを打ち、諦めの溜め息を吐き出すとベッドから起き上がり両手を伸ばした。
一人きりの夜の冷たさを、久しぶりに思い知らされた。
やっぱりオレには、両手を広げても余りある寝台なんて居心地が悪すぎる。
だから、ウルのことを懐に招き入れてしまったんだ。
可哀想な目に遭わせないようにと守っているつもりで、本当はオレが自分の寂しさを埋めるためにウルを利用していた。
ウルに傷ついてほしくない。その想いに嘘はないけれど、結局はオレもウルを欲望のままに抱いていたという亡き隣国の王と大差ないんだろう。
「自分勝手だよな……」
寝台に腰掛けたオレの吐いた溜め息が、窓際のカーテンを小さく揺らす。
なんて、この広い部屋の中でそんなことがあるわけはない。
苦笑と共に立ち上がると隙間風の吹き込む窓を閉め直すために窓際に立った。
ウィリスの国はオレの生まれた国よりも、ずっと空気が冷たく澄んでいる。
窓の外に広がる夜空も、冷えた空気の中でどこまでも遠くまで煌めく星を共に伸びていた。
厳しい冷たさに初めは目が行くけれどよく見ると美しい夜空が広がっているこの国の姿はウィリスにそっくりで、オレもいつかそんな風に、生まれた国のような空気を纏った人だと思われるようになるのだろうか。
果たして、それはどんな人間なのか。今のオレには想像もできなかった。
「……あー、寒っ」
窓を閉めるために手を伸ばしたのに、気付いたら空を見上げたくて窓を押し開けていた。
静かに吹く風がカーテンを揺らし、吐き出した息の白さに思わず両手で自分の腕を擦った。
いくら星が綺麗で、自分の目で見てみたいと思ったところで、夜の寒さの前には敵わない。
眠れなくても構わない、寒いよりはずっとましだ。
そう思ってさっさと布団の中に戻ろうと留め具に手を掛けたオレの耳に、思いがけない声が届いた。
「ユリー」
「……は? ウル……!?」
普段よりも声を抑えてオレの名を呼んだウルは、外にあった背丈よりも大きな煉瓦造りの塀からひょこっと姿を現した。
音を立てないようにオレの部屋の窓辺まで駆け寄ると、気の抜けた笑みでオレを見上げる。
ウルが呼吸をするたびに、白い息が吐き出されて消えていく。月明かりだけではよく見えないけれど、ウルの鼻が赤くなっているのはこの距離でもわかった。
「ウル……お前なんで……ここ、普通は入れないはずだろ」
要人の宿泊のために用意されたこの部屋は城内でも城の内部からでないと繋がっていない通路からしか到着のできない建物の中にあった。
窓の外の中庭も庭として綺麗に整備はされているものの建物で囲まれた中に作られているためどこかの部屋から侵入をしなければ中庭には出られない作りになっている。
ウルがこっそり忍び込めるような場所ではなく、困惑が顔に浮かんでいただろうオレを見上げてウルは小さく笑った。
「オーキスが、ここまで入れてくれたから」
「オーキスが……?」
「ユリーが一人でちゃんと寝られるか心配でどうにか侵入できないかなーってうろうろしてたら、ここに案内してくれたんです」
やっぱり寝られなかったんですね、と笑うウルにオレはばつが悪くなって頬を掻きながら目を逸らす。
ウルの言うとおりだった。
今だって、ウルに会いたいと思っていたから窓を開けてしまったんだ。まさか、本当にいるなんて思わなかったけれど。
「ちゃんと帰り道も教えて貰いました。だからユリーが寝たらすぐ……」
窓枠にちょこんと乗せられたウルの手を掴む。帰らなくていいと首を振った。
「朝まで、ここにいてほしい」
オレを見上げるウルの眼差しが、期待の色で染められる。それはオレには馴染みのない夜の色で、オレにはあげられない熱だった。
頷いたウルが、窓枠を掴むから、それを引き寄せるようにオレはウルの腕を引き上げた。
知らない匂いの寝具で眠れなくなるほど、繊細な性格はしていない。
オレは今晩もう何度目かわからない寝返りを打ち、諦めの溜め息を吐き出すとベッドから起き上がり両手を伸ばした。
一人きりの夜の冷たさを、久しぶりに思い知らされた。
やっぱりオレには、両手を広げても余りある寝台なんて居心地が悪すぎる。
だから、ウルのことを懐に招き入れてしまったんだ。
可哀想な目に遭わせないようにと守っているつもりで、本当はオレが自分の寂しさを埋めるためにウルを利用していた。
ウルに傷ついてほしくない。その想いに嘘はないけれど、結局はオレもウルを欲望のままに抱いていたという亡き隣国の王と大差ないんだろう。
「自分勝手だよな……」
寝台に腰掛けたオレの吐いた溜め息が、窓際のカーテンを小さく揺らす。
なんて、この広い部屋の中でそんなことがあるわけはない。
苦笑と共に立ち上がると隙間風の吹き込む窓を閉め直すために窓際に立った。
ウィリスの国はオレの生まれた国よりも、ずっと空気が冷たく澄んでいる。
窓の外に広がる夜空も、冷えた空気の中でどこまでも遠くまで煌めく星を共に伸びていた。
厳しい冷たさに初めは目が行くけれどよく見ると美しい夜空が広がっているこの国の姿はウィリスにそっくりで、オレもいつかそんな風に、生まれた国のような空気を纏った人だと思われるようになるのだろうか。
果たして、それはどんな人間なのか。今のオレには想像もできなかった。
「……あー、寒っ」
窓を閉めるために手を伸ばしたのに、気付いたら空を見上げたくて窓を押し開けていた。
静かに吹く風がカーテンを揺らし、吐き出した息の白さに思わず両手で自分の腕を擦った。
いくら星が綺麗で、自分の目で見てみたいと思ったところで、夜の寒さの前には敵わない。
眠れなくても構わない、寒いよりはずっとましだ。
そう思ってさっさと布団の中に戻ろうと留め具に手を掛けたオレの耳に、思いがけない声が届いた。
「ユリー」
「……は? ウル……!?」
普段よりも声を抑えてオレの名を呼んだウルは、外にあった背丈よりも大きな煉瓦造りの塀からひょこっと姿を現した。
音を立てないようにオレの部屋の窓辺まで駆け寄ると、気の抜けた笑みでオレを見上げる。
ウルが呼吸をするたびに、白い息が吐き出されて消えていく。月明かりだけではよく見えないけれど、ウルの鼻が赤くなっているのはこの距離でもわかった。
「ウル……お前なんで……ここ、普通は入れないはずだろ」
要人の宿泊のために用意されたこの部屋は城内でも城の内部からでないと繋がっていない通路からしか到着のできない建物の中にあった。
窓の外の中庭も庭として綺麗に整備はされているものの建物で囲まれた中に作られているためどこかの部屋から侵入をしなければ中庭には出られない作りになっている。
ウルがこっそり忍び込めるような場所ではなく、困惑が顔に浮かんでいただろうオレを見上げてウルは小さく笑った。
「オーキスが、ここまで入れてくれたから」
「オーキスが……?」
「ユリーが一人でちゃんと寝られるか心配でどうにか侵入できないかなーってうろうろしてたら、ここに案内してくれたんです」
やっぱり寝られなかったんですね、と笑うウルにオレはばつが悪くなって頬を掻きながら目を逸らす。
ウルの言うとおりだった。
今だって、ウルに会いたいと思っていたから窓を開けてしまったんだ。まさか、本当にいるなんて思わなかったけれど。
「ちゃんと帰り道も教えて貰いました。だからユリーが寝たらすぐ……」
窓枠にちょこんと乗せられたウルの手を掴む。帰らなくていいと首を振った。
「朝まで、ここにいてほしい」
オレを見上げるウルの眼差しが、期待の色で染められる。それはオレには馴染みのない夜の色で、オレにはあげられない熱だった。
頷いたウルが、窓枠を掴むから、それを引き寄せるようにオレはウルの腕を引き上げた。
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