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第二話
みっちゃん、勉強おしえて?
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一週間後の金曜日の放課後、塾に向かおうと鞄に参考書を詰めていると、「みつ」と、大夢がふと声をかけてきた。手にはバスケシューズを持っている。
「あれからどうだった?」
「あれって?」
「ワックのメモだよ。ちゃんとメッセージしたか?」
そういえば、大夢に報告するのを完全に忘れていた。
「ああそうだ聞いてよ大夢! はるひ――あのワックの店員さんから連絡きたんだ!」
嬉しさのあまりスマホをぶんぶん振ると、大夢が少し目を瞠る。
「……おお、よかったな、それで?」
「夜さ、勉強終わった後、毎日メッセージしてるんだあ」
塾から帰ったあと、塾の宿題を終え、寝る前に春日とちょっとメッセージをする。最近の僕のちょっとした息抜きだった。
春日は定時制の帰宅部で、塾にも通ってないらしい。定時制だから授業の進度も比較的ゆっくりで、ゲームをしたり家でサブスクの映画を見て、週二くらいでバイトをする生活をしているそうだ。メッセージでは、好きな映画の話とか、最近春日がハマっているドラマの話とかをする。僕は勉強ばかりで面白い話はできないけれど、春日が好きな作品やみうのことを語っているのを読んで相槌を打つこと自体がとても楽しい。ただ単に、春日が話上手なだけかもしれないけど。
こんな他愛もないやりとりがこんなに楽しいんだなんて初めて知った。
「ま、お母さんにバレないようにやれよ」
とだけ言って、大夢は部活に行ってしまった。大夢は母のことを知っている。おそらく、女の子とのメッセージにかまけているなんて知ったら激怒すると分かっているのだろう。にしても、なのに「彼女作れ」と言ってきたり、大夢の行動もなんだかよくわからない。
その日も塾に行き、帰ってきて復習を終え、風呂に入り終わって自室に戻ってきた頃だった。いそいそとスマホを取り出し、春日からメッセージが来てないか確認する。新着メッセージが一件だ。
『みっちゃん、今日もお疲れ』
たったこれだけの文字なのに、すっと身体の力が抜ける。
「そっちもお疲れ」
『今日は、体育がマラソンで超つかれた』
可愛い愚痴に、ついふふ、と笑ってしまう。
『今日のみうだよ』
みうのドアップの写真が送られてくる。別に昨日のみうと変わらないけど、やっぱり可愛かった。
その後も、塾でやった勉強の話とか、春日の学校の話とか他愛もないやりとりをしていた。時計を見たらもう十一時だ。「今日はおやすみ」っていうメッセージを送って今日はおしまいにしようとしたそのときだった。
『ねえみっちゃん』
急に名前を呼ぶだけのメッセージがくる。
「どしたの」
僕の返事に既読がついて、すぐにしゅぽん、と新しい吹き出しが生まれる。
『もしよかったら、直接会って話さない?』
指定されたカフェは、自宅のある駅の隣だった。母には「図書館で勉強してくる」と言って、実際二時間ほど勉強したあとに、いそいそと街に繰り出した。
昼下がり、曇りの影が差す雑居ビルの間を抜けると、住居兼テナントのビルの一階に「café A hui hou」はあった。
(カフェ アフイホウ……? アホ……?)
メッセンジャーを確認すると、ちゃんと店名も住所も合っている。おそるおそるドアを開くと、濃厚なコーヒーの香りが呼吸とともに肺に流れていく。
店内を観察していると、カウンターの中の男の人と目が合った。
「いらっしゃいませえー」
カウンターの奥にいた男性が柔らかく微笑んだ。
三十代後半くらいにみえるマスターは、深いグリーンのアロハシャツに濃紺のエプロンをしていた。店内はホワイトを基調にしていて、こぢんまりとしているけど洒脱としている。今は、他にお客さんはいなかった。ところどころにトロピカルな観葉植物やハワイっぽいアートワークが飾られていて、ドア一枚を隔てて時間がゆっくりと流れているような、そんな落ち着く空間だった。
「おひとりさま?」
真っ黒でウェーブがかった少し長めの髪をうしろでくくったスタイルは、店内のハワイ調に似合ったアロハな感じがした。お洒落だけど社交的で優しそうな人だ。
「あ、いえ、待ち合わせで」
「そうなんですね。お好きな席どうぞー。ご注文は?」
「あっ、えーと、オレンジジュースで」
メニュー表をざっと見て適当に決めた。一番奥の席に女性客が一人いるだけで、空いている。
「OK。ねえ、君、はるひの友達?」
急にマスターに問われる。
「あ、はい」
そうなんだ、とマスターは微笑む。はるひの行きつけの店なのだろうか。
(そういえば、春日って、かすがじゃなくて、はるひって苗字なんだよね……珍しい……)
そんなことに気を取られていると、ちゃらん、というベルの音とともに勢いよく店のドアが開いた。その瞬間、胸の高鳴りが最高潮に達する。あの可愛い春日を目に浮かべ、ドアの方に目を向けた。
見上げるくらい高い位置にある、波うったピンクミルクベージュの髪。深くくすんだグレーの瞳。四つのピアス。どこかで見たことがある。
ワックで見た、あの「真ん中男子」だった。
「えっ……?」
「真ん中男子」は僕を確認すると、ずかずかと店内に入って、僕の前にどかっと座った。その様子も気にも留めないマスターに「いつもの?」と聞かれ、「うん」とすげなく答えると、「はいはい」とマスターは微笑した。
(なんで? どうしてあのヤンキーがいるの?)
混乱していると、
「どしたの?」
耳の奥まで響くような低い声で問われた。
「あ、あ、あ、あの」
「なに?」
「なんで、あの、あなたがここに?」
「なんで? って? どーゆーこと?」
目の前の真ん中男子は平然とした顔で答える。真ん中男子は今日はジャージではなく私服で、大きめで淡いオフホワイトのデニムのセットアップを完全に着こなしている。
「だって、俺が、はるひだから」
「えっ……?」
「俺、はるひ」
彼は自分を指さして、にこりと笑った。
「ん?」
そのとき、ちょうどオレンジジュースが目の前に二つ置かれる。
「んんっ?」
あまりに意味が分からなさ過ぎて、つい声が裏返ってしまう。すると目の前の彼はスマホを取り出すと、画面を僕のほうに向けてきた。示されたのは、LINEのプロフィール画面だ。最近いつもみているあのダックスフンドのみうの写真。
(なんでこいつがみうの写真を持っているの?)
僕の頭の中で疑問符が弾けた瞬間、先に口を開いたのは彼だった。
「ほら、ここ、春に日って書いて、はるひ。すみや はるひ」
真ん中男子は財布の中から健康保険証を取り出してテーブルに置いた。
澄野春日。
「ね、はるひでしょ?」
そう言って、彼は、スマホの画面上の「はるひ」の文字を指で叩いていった。
春日望結。
澄野春日。
同じ字の名前――。
「えっ……。そんなあ……」
頭の中でパズルのピースが合致した瞬間、思わずテーブルの上で頭を抱えた。
僕の目の前で春日望結に渡された春日の連絡先が、僕のところに来た。きっと、春日望結さんがわざとこの澄野春日の渡してきた連絡先を、僕のトレイに紛れ込ませた。
そして、それを勝手に誤解した僕が、春日望結と勘違いしてこの澄野春日と嬉々として毎日LINEをしていた、ということだ。
「あのワック出るときさ、あの店員さんに呼び止められて渡されたの、これ」
そう言って、真ん中男子が僕の目の前でメモ用紙をひらひらさせる。僕がワック店員・春日さんに渡したナンパメモだ。
「そんで、俺のメモがそっちのトレイに行ったってわけ」
なんで春日望結さんはそんな面倒なことをしたのか? 悪戯?――疑問だけど、もう確かめようがないし、恥ずかしすぎてあのワックにはもうしばらくいけなさそうだ。
君はこのことに気付いていたの?――という疑問が喉まで出かかるが、もし気付いていたら負けな気がして、変なプライドが邪魔して言えなかった。完全に二人の掌の上で転がされていて、恥ずかしいにもほどがある。
とりあえず、この真ん中男子が僕を騙してメッセージしていた奴だってことは分かった。もう最悪だ。可愛い女の子だと思って、好きな女の子のタイプとか恥のオンパレードな浮ついたメッセージをこいつに送り続けていたんだと思うと、恥ずかしすぎて目を合わせられない。
そして、僕は言いようのない絶望に突き落とされる。何日もなんて無為な時間を過ごしていたんだろう、浮かれていたあの頃の自分を張り倒したくなる。
「う……うぐう」
悔しくて恥ずかしくて思わず変な声が出た。
そんなテンションだだ下がりの僕に気もとめず、ピンク髪男子は勝手に続けた。
「ねえみっちゃんさー、今日、このあと塾?」
快活さと紙一重な強引さに気圧される。勝手に「みっちゃん」呼ばわりされるし。まあもう二度と会うことないと思うけどね。だから好きに呼んでいいよ。
「あ、うん……はい」
「大学どこ目指してるの?」
「……医学部、です」
馴れ馴れしいタメ語にそれとなく対抗するかのうように、つい敬語になってしまう。
「へー! 頭いいね、すごーい」
人懐っこい犬みたいな笑顔で言って、ピンク髪男子はへらりと笑った。大人っぽい顔立ちに、可愛いが混ざったような笑顔は見ていてつい心地がよくなる。背も高くて顔も小さいから、よく手入れされた綺麗な大型犬みたいだ。でも喋り方はやっぱりちょっと馬鹿っぽくて、普段あまり学校で接しないタイプの子だから、どう会話してよいか悩む。
「あ、あの、春日くんは」
「はるって呼んでよ」
「あ、うん、はるひくん……あ、はるは? 学校どこですか?」
「あれ? 話さなかったっけ。ほら、坂上のバス停の前、定時制高校あるじゃん。あそこ」
「そ、そうなんだ、へえ」
くわしい校名までLINEで話したかどうかも忘れてしまった。定時制については、正直なところよくその実態は分からない。高卒資格を得るため社会人が夜に通ったり、学校になにかしらの理由で通えない高校生が通っているイメージしかない。一度も定時制高校の生徒と直接話したことがないから、全然イメージが湧かない。だから、とりあえず曖昧に返事を濁した。
「……で、話があるってなんですか?」
にこにこしながらオレンジジュースを一気に飲み干した真ん中男子こと春日におそるおそる話を切り出すと、「ああ」と春日は思い出したように口を開いた。
「俺に勉強教えてくんない?」
その真意を理解できず、しばし固まってしまう。勉強? 教える? なんで?
「みっちゃんー? 聞いてる?」
フリーズした僕の前で、春日が手を振る。
「えっ、ど、どういうこと?」
「だーかーら、みっちゃん、頭いいから俺に勉強教えてくれない? って言ってるんだけど」
「いや意味わかんないです」
つい脊髄反射みたいに答えてしまった。
高三の五月末。これから一学期の期末テストも近くなってくるし、高三最後の行事もいくつかある。単純にとても忙しい。
春日は右耳のピアスをつん、と指でつついたり弄びながら言った。
「俺、見たら分かると思うけど、勉強嫌いなわけ。学校の先生達の授業って超つまらないから勉強もやる気出ないんだよねー。だからみっちゃんに教えてほしいんだ。みっちゃんとメッセージしてて、俺ものすごく楽しかったんだ。だから、みっちゃんに勉強教えてほしいの」
「楽しかった」からの「勉強教えてほしい」の因果関係が全然分からないんだけど。
「嫌です」
「え~」
春日はいじけるように唇を尖らせる。空になったグラスの中でストローをくるくると弄ぶと、上目遣いでこちらに視線を戻した。
「S高って、校則で異性交際禁止でしょ?」
「ど、どうしてそれを」
僕が通っているS高は敬虔なクリスチャンの高校で、異性交遊が厳しく禁じられている。昨年、他校の女子とホテルから出てきたのが見つかった一学年上の先輩で数日間の謹慎処分になった人がいた。学校中に噂は瞬く間に広まり、その先輩もしばらく学校で肩身の狭い思いをしていたのは有名な話だ。それをみると、口ではみんな「彼女ほしい~」と言っても、本気で作るのは躊躇していて、彼女がいる子も、バレるのを恐れて超極秘で付き合っている。他校や塾で一緒になる女子からモテる大夢ですら、「彼女バレすると面倒だから」の一言で断り続けている。
もし万一学校側にバラされたらとても面倒くさいことになりそうだ。メッセンジャーの画面を見せて「これ、正体はヤンキー男です」って言っても信じてもらえなさそうだし。といっても春日さんと付き合ってもなくメッセージをしていただけなんだけど、職員室でめんどくさいお尋問くらいはされそうだ。
とはいえ、それを差し引いても、単純にこの春日に勉強を教えるなんて面倒すぎる。
「ね、お願い。みっちゃんが女の子とのメッセージに夢中で勉強がおざなりになってたなんて学校には言わないでおいてあげるから、ね?」
「い、いやです!」
「なんで?」
「なんで? だって、これから高三の夏だよ? 行事もあるし受験勉強忙しいし……。あ、僕週五で塾行ってるから忙しいです! 無理です!」
「週五? 行きすぎでしょ。 それなら俺に勉強教えなよ」
「いや知らんし」
ついツッコんでしまう。僕ってこんなキャラだったっけ?――と内心首をひねる。なぜか春日といるとキャラが変わってしまようだ。
「あ、それに他の人に勉強教えると、教えた人も身に着きやすいらしいよ」
それは僕も聞いたことがある。確かワシントン大学の研究だ。って、そういう話ではない。そもそも、正直なところ、僕と春日とでは、あまりにやっている勉強の難しさが違いすぎて意味なさそうだ。
「俺、大学行きたいんだよね。勉強好きじゃないけど、やっぱ今時大学行かないと就職とかきびいじゃん? うちそんなにお金ないし、妹もいるからちゃんとまっとうに稼がないと」
それならワックでナンパとゲームなんかしてないで勉強しろよ、と湧いてきた悪態はとりあえず心の中で蓋をしておく。
「ね、だから、お願い」
「嫌だよ……」
「じゃあ、俺に勉強教えてくれたら、お礼に、俺が恋愛を教えてあげる」
「れ、恋愛っ?」
突如飛び出してきたワードに、つい声が裏返ってしまった。なんで勉強と恋愛が繋がるんだ?
「俺、こうみえて結構モテるんだよね。だからお礼に、どうやったら女の子にモテるか教えてあげる。デートの練習とかしよーよ」
急に愛嬌たっぷりの笑顔で小首をかしげられて、馬鹿っぽいのにどこか悠然としている男らしさにどぎまぎしてしまった。
「別に、恋愛なんて……、大学生になっても大人になってもできるしっ……!」
しどろもどろになっている僕に向かって溜息をついた。
「みっちゃん。今年は高校生最後の夏なんだよ? 確かに夏は大学生になっても毎年くるけど、高校三年生の夏は一回しかこないよ。みっちゃんが大人になって、高校最後の夏が塾ばっかりでよかったな~って思う?」
「……別にいいよ」
「本当に?」
一度は反発したけれど、春日に問いただされ、閉口してしまう。僕だって塾ばかりの人生なんて嫌だ。でも、勉強以外に何をすればいいのかわからない。僕は頭だって良くないから、勉強しなくちゃ。この夏は、追い込みの時期だ。こんな、正直偏差値が全く違う人相手に勉強なんて教えている暇ない。
「そ、それに、べ、別に恋愛なんて興味ないし、彼女もいらない……し」
射抜いてくる春日の視線にいたたまれなくなって、語尾がどんどんか細くなる。春日はその大きい目を細め、「本当に?」と追い打ちをかけてくる。お馬鹿で無邪気な明るい犬みたいな風貌なのに、ときどきいやに鋭くて、何でも見透かしたような鷹みたいな目をしながらペースを詰めてくる。
でも、心に嘘をついているのは僕の心自身がわかっていた。だってあんなにも、気になる人と他愛もないメッセージするのが楽しいことだって知ってしまった。もしこれが、本当に好きな人ならきっともっと楽しくて幸せなんだろう。それを体験したくないわけなかった。
(でも、やっぱり夏はそんな暇ない……)
心の中で再確認していると、店のインテリアとして飾られていた小さい卓上カレンダーを見やって、春日が言った。
「じゃあさ、百日間だけでいいよ。今日が五月二十三日だから、八月三十一日まで。毎週金曜日、塾に行く前、一時間だけでいいから。どお? ダメ?」
百日間って、ほぼ三か月だ。毎週一時間で月四時間、それを三か月だから約四十八時間だ。二日間。それなら、まあいいかな。いや、二日間って結構な時間だ。
「いや、でも」
「ねえ、お願いっ!」
「あれからどうだった?」
「あれって?」
「ワックのメモだよ。ちゃんとメッセージしたか?」
そういえば、大夢に報告するのを完全に忘れていた。
「ああそうだ聞いてよ大夢! はるひ――あのワックの店員さんから連絡きたんだ!」
嬉しさのあまりスマホをぶんぶん振ると、大夢が少し目を瞠る。
「……おお、よかったな、それで?」
「夜さ、勉強終わった後、毎日メッセージしてるんだあ」
塾から帰ったあと、塾の宿題を終え、寝る前に春日とちょっとメッセージをする。最近の僕のちょっとした息抜きだった。
春日は定時制の帰宅部で、塾にも通ってないらしい。定時制だから授業の進度も比較的ゆっくりで、ゲームをしたり家でサブスクの映画を見て、週二くらいでバイトをする生活をしているそうだ。メッセージでは、好きな映画の話とか、最近春日がハマっているドラマの話とかをする。僕は勉強ばかりで面白い話はできないけれど、春日が好きな作品やみうのことを語っているのを読んで相槌を打つこと自体がとても楽しい。ただ単に、春日が話上手なだけかもしれないけど。
こんな他愛もないやりとりがこんなに楽しいんだなんて初めて知った。
「ま、お母さんにバレないようにやれよ」
とだけ言って、大夢は部活に行ってしまった。大夢は母のことを知っている。おそらく、女の子とのメッセージにかまけているなんて知ったら激怒すると分かっているのだろう。にしても、なのに「彼女作れ」と言ってきたり、大夢の行動もなんだかよくわからない。
その日も塾に行き、帰ってきて復習を終え、風呂に入り終わって自室に戻ってきた頃だった。いそいそとスマホを取り出し、春日からメッセージが来てないか確認する。新着メッセージが一件だ。
『みっちゃん、今日もお疲れ』
たったこれだけの文字なのに、すっと身体の力が抜ける。
「そっちもお疲れ」
『今日は、体育がマラソンで超つかれた』
可愛い愚痴に、ついふふ、と笑ってしまう。
『今日のみうだよ』
みうのドアップの写真が送られてくる。別に昨日のみうと変わらないけど、やっぱり可愛かった。
その後も、塾でやった勉強の話とか、春日の学校の話とか他愛もないやりとりをしていた。時計を見たらもう十一時だ。「今日はおやすみ」っていうメッセージを送って今日はおしまいにしようとしたそのときだった。
『ねえみっちゃん』
急に名前を呼ぶだけのメッセージがくる。
「どしたの」
僕の返事に既読がついて、すぐにしゅぽん、と新しい吹き出しが生まれる。
『もしよかったら、直接会って話さない?』
指定されたカフェは、自宅のある駅の隣だった。母には「図書館で勉強してくる」と言って、実際二時間ほど勉強したあとに、いそいそと街に繰り出した。
昼下がり、曇りの影が差す雑居ビルの間を抜けると、住居兼テナントのビルの一階に「café A hui hou」はあった。
(カフェ アフイホウ……? アホ……?)
メッセンジャーを確認すると、ちゃんと店名も住所も合っている。おそるおそるドアを開くと、濃厚なコーヒーの香りが呼吸とともに肺に流れていく。
店内を観察していると、カウンターの中の男の人と目が合った。
「いらっしゃいませえー」
カウンターの奥にいた男性が柔らかく微笑んだ。
三十代後半くらいにみえるマスターは、深いグリーンのアロハシャツに濃紺のエプロンをしていた。店内はホワイトを基調にしていて、こぢんまりとしているけど洒脱としている。今は、他にお客さんはいなかった。ところどころにトロピカルな観葉植物やハワイっぽいアートワークが飾られていて、ドア一枚を隔てて時間がゆっくりと流れているような、そんな落ち着く空間だった。
「おひとりさま?」
真っ黒でウェーブがかった少し長めの髪をうしろでくくったスタイルは、店内のハワイ調に似合ったアロハな感じがした。お洒落だけど社交的で優しそうな人だ。
「あ、いえ、待ち合わせで」
「そうなんですね。お好きな席どうぞー。ご注文は?」
「あっ、えーと、オレンジジュースで」
メニュー表をざっと見て適当に決めた。一番奥の席に女性客が一人いるだけで、空いている。
「OK。ねえ、君、はるひの友達?」
急にマスターに問われる。
「あ、はい」
そうなんだ、とマスターは微笑む。はるひの行きつけの店なのだろうか。
(そういえば、春日って、かすがじゃなくて、はるひって苗字なんだよね……珍しい……)
そんなことに気を取られていると、ちゃらん、というベルの音とともに勢いよく店のドアが開いた。その瞬間、胸の高鳴りが最高潮に達する。あの可愛い春日を目に浮かべ、ドアの方に目を向けた。
見上げるくらい高い位置にある、波うったピンクミルクベージュの髪。深くくすんだグレーの瞳。四つのピアス。どこかで見たことがある。
ワックで見た、あの「真ん中男子」だった。
「えっ……?」
「真ん中男子」は僕を確認すると、ずかずかと店内に入って、僕の前にどかっと座った。その様子も気にも留めないマスターに「いつもの?」と聞かれ、「うん」とすげなく答えると、「はいはい」とマスターは微笑した。
(なんで? どうしてあのヤンキーがいるの?)
混乱していると、
「どしたの?」
耳の奥まで響くような低い声で問われた。
「あ、あ、あ、あの」
「なに?」
「なんで、あの、あなたがここに?」
「なんで? って? どーゆーこと?」
目の前の真ん中男子は平然とした顔で答える。真ん中男子は今日はジャージではなく私服で、大きめで淡いオフホワイトのデニムのセットアップを完全に着こなしている。
「だって、俺が、はるひだから」
「えっ……?」
「俺、はるひ」
彼は自分を指さして、にこりと笑った。
「ん?」
そのとき、ちょうどオレンジジュースが目の前に二つ置かれる。
「んんっ?」
あまりに意味が分からなさ過ぎて、つい声が裏返ってしまう。すると目の前の彼はスマホを取り出すと、画面を僕のほうに向けてきた。示されたのは、LINEのプロフィール画面だ。最近いつもみているあのダックスフンドのみうの写真。
(なんでこいつがみうの写真を持っているの?)
僕の頭の中で疑問符が弾けた瞬間、先に口を開いたのは彼だった。
「ほら、ここ、春に日って書いて、はるひ。すみや はるひ」
真ん中男子は財布の中から健康保険証を取り出してテーブルに置いた。
澄野春日。
「ね、はるひでしょ?」
そう言って、彼は、スマホの画面上の「はるひ」の文字を指で叩いていった。
春日望結。
澄野春日。
同じ字の名前――。
「えっ……。そんなあ……」
頭の中でパズルのピースが合致した瞬間、思わずテーブルの上で頭を抱えた。
僕の目の前で春日望結に渡された春日の連絡先が、僕のところに来た。きっと、春日望結さんがわざとこの澄野春日の渡してきた連絡先を、僕のトレイに紛れ込ませた。
そして、それを勝手に誤解した僕が、春日望結と勘違いしてこの澄野春日と嬉々として毎日LINEをしていた、ということだ。
「あのワック出るときさ、あの店員さんに呼び止められて渡されたの、これ」
そう言って、真ん中男子が僕の目の前でメモ用紙をひらひらさせる。僕がワック店員・春日さんに渡したナンパメモだ。
「そんで、俺のメモがそっちのトレイに行ったってわけ」
なんで春日望結さんはそんな面倒なことをしたのか? 悪戯?――疑問だけど、もう確かめようがないし、恥ずかしすぎてあのワックにはもうしばらくいけなさそうだ。
君はこのことに気付いていたの?――という疑問が喉まで出かかるが、もし気付いていたら負けな気がして、変なプライドが邪魔して言えなかった。完全に二人の掌の上で転がされていて、恥ずかしいにもほどがある。
とりあえず、この真ん中男子が僕を騙してメッセージしていた奴だってことは分かった。もう最悪だ。可愛い女の子だと思って、好きな女の子のタイプとか恥のオンパレードな浮ついたメッセージをこいつに送り続けていたんだと思うと、恥ずかしすぎて目を合わせられない。
そして、僕は言いようのない絶望に突き落とされる。何日もなんて無為な時間を過ごしていたんだろう、浮かれていたあの頃の自分を張り倒したくなる。
「う……うぐう」
悔しくて恥ずかしくて思わず変な声が出た。
そんなテンションだだ下がりの僕に気もとめず、ピンク髪男子は勝手に続けた。
「ねえみっちゃんさー、今日、このあと塾?」
快活さと紙一重な強引さに気圧される。勝手に「みっちゃん」呼ばわりされるし。まあもう二度と会うことないと思うけどね。だから好きに呼んでいいよ。
「あ、うん……はい」
「大学どこ目指してるの?」
「……医学部、です」
馴れ馴れしいタメ語にそれとなく対抗するかのうように、つい敬語になってしまう。
「へー! 頭いいね、すごーい」
人懐っこい犬みたいな笑顔で言って、ピンク髪男子はへらりと笑った。大人っぽい顔立ちに、可愛いが混ざったような笑顔は見ていてつい心地がよくなる。背も高くて顔も小さいから、よく手入れされた綺麗な大型犬みたいだ。でも喋り方はやっぱりちょっと馬鹿っぽくて、普段あまり学校で接しないタイプの子だから、どう会話してよいか悩む。
「あ、あの、春日くんは」
「はるって呼んでよ」
「あ、うん、はるひくん……あ、はるは? 学校どこですか?」
「あれ? 話さなかったっけ。ほら、坂上のバス停の前、定時制高校あるじゃん。あそこ」
「そ、そうなんだ、へえ」
くわしい校名までLINEで話したかどうかも忘れてしまった。定時制については、正直なところよくその実態は分からない。高卒資格を得るため社会人が夜に通ったり、学校になにかしらの理由で通えない高校生が通っているイメージしかない。一度も定時制高校の生徒と直接話したことがないから、全然イメージが湧かない。だから、とりあえず曖昧に返事を濁した。
「……で、話があるってなんですか?」
にこにこしながらオレンジジュースを一気に飲み干した真ん中男子こと春日におそるおそる話を切り出すと、「ああ」と春日は思い出したように口を開いた。
「俺に勉強教えてくんない?」
その真意を理解できず、しばし固まってしまう。勉強? 教える? なんで?
「みっちゃんー? 聞いてる?」
フリーズした僕の前で、春日が手を振る。
「えっ、ど、どういうこと?」
「だーかーら、みっちゃん、頭いいから俺に勉強教えてくれない? って言ってるんだけど」
「いや意味わかんないです」
つい脊髄反射みたいに答えてしまった。
高三の五月末。これから一学期の期末テストも近くなってくるし、高三最後の行事もいくつかある。単純にとても忙しい。
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「俺、見たら分かると思うけど、勉強嫌いなわけ。学校の先生達の授業って超つまらないから勉強もやる気出ないんだよねー。だからみっちゃんに教えてほしいんだ。みっちゃんとメッセージしてて、俺ものすごく楽しかったんだ。だから、みっちゃんに勉強教えてほしいの」
「楽しかった」からの「勉強教えてほしい」の因果関係が全然分からないんだけど。
「嫌です」
「え~」
春日はいじけるように唇を尖らせる。空になったグラスの中でストローをくるくると弄ぶと、上目遣いでこちらに視線を戻した。
「S高って、校則で異性交際禁止でしょ?」
「ど、どうしてそれを」
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もし万一学校側にバラされたらとても面倒くさいことになりそうだ。メッセンジャーの画面を見せて「これ、正体はヤンキー男です」って言っても信じてもらえなさそうだし。といっても春日さんと付き合ってもなくメッセージをしていただけなんだけど、職員室でめんどくさいお尋問くらいはされそうだ。
とはいえ、それを差し引いても、単純にこの春日に勉強を教えるなんて面倒すぎる。
「ね、お願い。みっちゃんが女の子とのメッセージに夢中で勉強がおざなりになってたなんて学校には言わないでおいてあげるから、ね?」
「い、いやです!」
「なんで?」
「なんで? だって、これから高三の夏だよ? 行事もあるし受験勉強忙しいし……。あ、僕週五で塾行ってるから忙しいです! 無理です!」
「週五? 行きすぎでしょ。 それなら俺に勉強教えなよ」
「いや知らんし」
ついツッコんでしまう。僕ってこんなキャラだったっけ?――と内心首をひねる。なぜか春日といるとキャラが変わってしまようだ。
「あ、それに他の人に勉強教えると、教えた人も身に着きやすいらしいよ」
それは僕も聞いたことがある。確かワシントン大学の研究だ。って、そういう話ではない。そもそも、正直なところ、僕と春日とでは、あまりにやっている勉強の難しさが違いすぎて意味なさそうだ。
「俺、大学行きたいんだよね。勉強好きじゃないけど、やっぱ今時大学行かないと就職とかきびいじゃん? うちそんなにお金ないし、妹もいるからちゃんとまっとうに稼がないと」
それならワックでナンパとゲームなんかしてないで勉強しろよ、と湧いてきた悪態はとりあえず心の中で蓋をしておく。
「ね、だから、お願い」
「嫌だよ……」
「じゃあ、俺に勉強教えてくれたら、お礼に、俺が恋愛を教えてあげる」
「れ、恋愛っ?」
突如飛び出してきたワードに、つい声が裏返ってしまった。なんで勉強と恋愛が繋がるんだ?
「俺、こうみえて結構モテるんだよね。だからお礼に、どうやったら女の子にモテるか教えてあげる。デートの練習とかしよーよ」
急に愛嬌たっぷりの笑顔で小首をかしげられて、馬鹿っぽいのにどこか悠然としている男らしさにどぎまぎしてしまった。
「別に、恋愛なんて……、大学生になっても大人になってもできるしっ……!」
しどろもどろになっている僕に向かって溜息をついた。
「みっちゃん。今年は高校生最後の夏なんだよ? 確かに夏は大学生になっても毎年くるけど、高校三年生の夏は一回しかこないよ。みっちゃんが大人になって、高校最後の夏が塾ばっかりでよかったな~って思う?」
「……別にいいよ」
「本当に?」
一度は反発したけれど、春日に問いただされ、閉口してしまう。僕だって塾ばかりの人生なんて嫌だ。でも、勉強以外に何をすればいいのかわからない。僕は頭だって良くないから、勉強しなくちゃ。この夏は、追い込みの時期だ。こんな、正直偏差値が全く違う人相手に勉強なんて教えている暇ない。
「そ、それに、べ、別に恋愛なんて興味ないし、彼女もいらない……し」
射抜いてくる春日の視線にいたたまれなくなって、語尾がどんどんか細くなる。春日はその大きい目を細め、「本当に?」と追い打ちをかけてくる。お馬鹿で無邪気な明るい犬みたいな風貌なのに、ときどきいやに鋭くて、何でも見透かしたような鷹みたいな目をしながらペースを詰めてくる。
でも、心に嘘をついているのは僕の心自身がわかっていた。だってあんなにも、気になる人と他愛もないメッセージするのが楽しいことだって知ってしまった。もしこれが、本当に好きな人ならきっともっと楽しくて幸せなんだろう。それを体験したくないわけなかった。
(でも、やっぱり夏はそんな暇ない……)
心の中で再確認していると、店のインテリアとして飾られていた小さい卓上カレンダーを見やって、春日が言った。
「じゃあさ、百日間だけでいいよ。今日が五月二十三日だから、八月三十一日まで。毎週金曜日、塾に行く前、一時間だけでいいから。どお? ダメ?」
百日間って、ほぼ三か月だ。毎週一時間で月四時間、それを三か月だから約四十八時間だ。二日間。それなら、まあいいかな。いや、二日間って結構な時間だ。
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結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
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サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
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【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
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約束の10年後。
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どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
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サラリーマン二人、酔いどれ同伴
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