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第七話
俺じゃ、駄目なのか?
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「……俺じゃ駄目なのか?」
それだけ言うと、また大夢は俯いてしまう。突然のことに茫然として言葉を失っている僕に、苛ついているみたいだ。
「まあいつのこと、好きなのかよ」
「そういうわけじゃ――」
「じゃあどういうことだよ」
「きゅ、急にそんなこと言われても……ちょっと信じられなくて」
いまさらやっと実感が湧いてきた。大夢に呼応するように僕まで耳たぶまで熱くなってきた。いま、大夢から告白されたのだ。そんなそぶり、今まで一度もなかったのに。高校に入ってずっと仲良くしてくれていたけど、半分いじられてるようなものだと思っていたから。
「なんで男なんだよ、意味わかんねえ」
掌で覆われた表情は見えないけれど、今にも泣きそうな震える声をしていた。
「みつに彼女ができれば……ワックの店員の女にいけば、俺だって諦められたのに、なんでよりによって男なんだよ、しかもあんなちゃらついたヤンキー……」
「大夢……」
「あいつの……春日のどこがいいんだよ。ただ頭いいだけだろ。まあ、顔もいいけど」
そして、正面から問われると、自分の気持ちがわからなくて言葉に詰まる。
大夢は、良い男だ。バスケ部でもキャプテンとして締めるところは締められる、根は真面目で、優しくて頼りがいのある男だ。先生にも後輩にも同級生にも一目置かれている。友達として、誰よりも尊敬している。
でも、春日に抱いている気持ちとは全然違う。
会えた日は楽しくて、メッセージがきたら嬉しくて、春日に恥ずかしくないように勉強を頑張ろうって思えた。
騙されたときは悲しくて、しんどくて、泣いても泣いても感情が収まらなかった。
これだけ感情が乱されるのは、きっと春日だから。
好きだったから。
「……なんか、女臭い少女漫画みたいだな。こんなところで言うつもりじゃなかったのに、わりい。受験終わるまで忘れてくれ」
大夢の声は静かさを取り戻し、顔色もいつもの大夢に戻っていた。
「でも、もう九月だぞ。もう少しで共通一次まで四ヶ月切るんだ。真剣に、あいつのことなんて忘れて勉強に集中しないとまずいぞお前」
「うん……そうだね」
冷静な大夢の忠告に、僕はゆっくりと頷いた。もう数分前の告白のせいで高鳴って止まなかった心臓の音も、少しずつ落ち着きを取り戻している。
(そうだ。もうこんなこと忘れなきゃ)
あの日々は、ただの偶発的な出来事だった。
秋からはさらに追い込まないと、医学部受験は
熾烈な戦いだ。もう後ろを振り返っている暇な
んてない。
教育大のオープンキャンパスで、背中を押してくれた感覚が蘇る。
(違う、もう忘れなきゃ)
僕はゆっくり息を吸って吐いて、プリントの間違えた解答を、消しゴムで消した。
まだ大夢に告白された余韻を引きずったまま、塾の自習室に行こうと駅に向かった。見慣れた改札外のスペースで、何やら派手な色をまとった男がスマホをいじっている。その人は僕を見つけると、ばっと笑顔を咲かせた。
「あー、みっちゃん!」
春日の友達、羽仁田ことハニだった。
「……なにか御用ですか?」
水色のカラコンに見つめられ、つい言葉尻が硬くなる。
「みっちゃん、怒んないでよー」
「べ、別に怒ってないけど……」
「今からどこ行くの? 塾?」
笑顔のまま初手から一気に距離を詰めてくる。
「はい」
「じゃあ俺もいこーっと」
ハニが当然のように言い放つ。
「えっ」
「だって、みっちゃん、あ、光成くん、W塾でしょ? うちと駅同じ」
「そうだけど」
「俺も塾の前に駅前のアニストで新作パトロールしてからいくんだー。ついでに駅まで一緒にいこ?」
可愛い顔をこてんとかしげて、ハニがにこりと笑った。
それだけ言うと、また大夢は俯いてしまう。突然のことに茫然として言葉を失っている僕に、苛ついているみたいだ。
「まあいつのこと、好きなのかよ」
「そういうわけじゃ――」
「じゃあどういうことだよ」
「きゅ、急にそんなこと言われても……ちょっと信じられなくて」
いまさらやっと実感が湧いてきた。大夢に呼応するように僕まで耳たぶまで熱くなってきた。いま、大夢から告白されたのだ。そんなそぶり、今まで一度もなかったのに。高校に入ってずっと仲良くしてくれていたけど、半分いじられてるようなものだと思っていたから。
「なんで男なんだよ、意味わかんねえ」
掌で覆われた表情は見えないけれど、今にも泣きそうな震える声をしていた。
「みつに彼女ができれば……ワックの店員の女にいけば、俺だって諦められたのに、なんでよりによって男なんだよ、しかもあんなちゃらついたヤンキー……」
「大夢……」
「あいつの……春日のどこがいいんだよ。ただ頭いいだけだろ。まあ、顔もいいけど」
そして、正面から問われると、自分の気持ちがわからなくて言葉に詰まる。
大夢は、良い男だ。バスケ部でもキャプテンとして締めるところは締められる、根は真面目で、優しくて頼りがいのある男だ。先生にも後輩にも同級生にも一目置かれている。友達として、誰よりも尊敬している。
でも、春日に抱いている気持ちとは全然違う。
会えた日は楽しくて、メッセージがきたら嬉しくて、春日に恥ずかしくないように勉強を頑張ろうって思えた。
騙されたときは悲しくて、しんどくて、泣いても泣いても感情が収まらなかった。
これだけ感情が乱されるのは、きっと春日だから。
好きだったから。
「……なんか、女臭い少女漫画みたいだな。こんなところで言うつもりじゃなかったのに、わりい。受験終わるまで忘れてくれ」
大夢の声は静かさを取り戻し、顔色もいつもの大夢に戻っていた。
「でも、もう九月だぞ。もう少しで共通一次まで四ヶ月切るんだ。真剣に、あいつのことなんて忘れて勉強に集中しないとまずいぞお前」
「うん……そうだね」
冷静な大夢の忠告に、僕はゆっくりと頷いた。もう数分前の告白のせいで高鳴って止まなかった心臓の音も、少しずつ落ち着きを取り戻している。
(そうだ。もうこんなこと忘れなきゃ)
あの日々は、ただの偶発的な出来事だった。
秋からはさらに追い込まないと、医学部受験は
熾烈な戦いだ。もう後ろを振り返っている暇な
んてない。
教育大のオープンキャンパスで、背中を押してくれた感覚が蘇る。
(違う、もう忘れなきゃ)
僕はゆっくり息を吸って吐いて、プリントの間違えた解答を、消しゴムで消した。
まだ大夢に告白された余韻を引きずったまま、塾の自習室に行こうと駅に向かった。見慣れた改札外のスペースで、何やら派手な色をまとった男がスマホをいじっている。その人は僕を見つけると、ばっと笑顔を咲かせた。
「あー、みっちゃん!」
春日の友達、羽仁田ことハニだった。
「……なにか御用ですか?」
水色のカラコンに見つめられ、つい言葉尻が硬くなる。
「みっちゃん、怒んないでよー」
「べ、別に怒ってないけど……」
「今からどこ行くの? 塾?」
笑顔のまま初手から一気に距離を詰めてくる。
「はい」
「じゃあ俺もいこーっと」
ハニが当然のように言い放つ。
「えっ」
「だって、みっちゃん、あ、光成くん、W塾でしょ? うちと駅同じ」
「そうだけど」
「俺も塾の前に駅前のアニストで新作パトロールしてからいくんだー。ついでに駅まで一緒にいこ?」
可愛い顔をこてんとかしげて、ハニがにこりと笑った。
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