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学園ミステリ その2
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悪魔シリーズ 赤川次郎
なんだかホラー小説みたいなシリーズ名だが、実際は、女子高生三人組が活躍するユーモアミステリ。シリーズ名の由来は、全てのタイトルに「~の悪魔」という文言が付くことだが、本物の悪魔が登場するわけではない(ちなみに、同著者の「天使と悪魔シリーズ」は、本当に天使と悪魔が主人公。)。姉御肌でスポーツ少女の由利子、探偵役の香子、俳優志望の旭子の三人が、それぞれの特技を活かして様々な事件に立ち向かう、という王道な設定が心地よく、著者特有の軽妙さも加わって、読み進めるのが楽しい作品。特に、とんでもないお金持ちのお嬢様で、色白の美少女、語学に長け、武術の心得もあるという香子の活躍は痛快。個人的には、友人を助けるために付近のホテルを全て満室にしたエピソードが印象深い。同級生でありながら由利子のことを「お姉さま」と呼ぶ香子と、その由利子との関係性、髪飾りを変えただけで中学生に変貌できるほど卓抜した旭子の演技力など、登場人物やその関係性にも見どころが多い。シリーズの初めの方は、彼女たちが通う学園内で起こる事件を扱っているのだが、次第に事件の規模が大きくなってゆき、由利子の妹が撃たれたり、ヨーロッパで事件を解決したりと、学園ミステリ、という枠を超えた活躍が見られるのも特色の一つ。著者の作品は、ユーモアミステリと称されるものが多いが、その実、学園内で何度も殺人が起きたり、女子中学生の友人が殺されたり、近しい人が犯罪者だったりと、主要な登場人物が中々にひどい仕打ちを受けることが多々ある。かの三毛猫ホームズシリーズでも、シリーズを眺めてみれば、主人公たちは結構な波乱万丈の人生を歩んでいる。それに対して本シリーズは、高校生向けの媒体に掲載されることが多かったせいか、被害者が死亡しない事件が多く、主人公たちの直面する困難も、どちらかというと、前向きな「冒険」という印象を受ける。刑事事件が起きるミステリでありながら、気分が落ち込んた時にも読める、稀有な作品だと思う。
『あなたに贈る×』 近藤史恵
全寮制の学校を舞台とした、これぞ美しき青春小説、と言うべき作品。唇同士を合わせるキスによって感染する病、ソムノスフォビアが蔓延した世界。そこでは、唇同士を合わせる行為は汚らわしい禁忌とされ、ソムノスフォビアで死ぬことは大変な不名誉である。そんな中、あこがれの先輩である織恵が、ソムノスフォビアによって死去したという噂が流れる。その真相を解き明かすうち、美詩は、残酷な真実に辿り着く。ある程度予測はできる展開ながら、そこに至るまでの心情描写、美しく作りこまれた世界観、閉ざされた楽園に落ちる俗世間の影などの巧みな演出が読者を飽きさせない。学園ミステリ、青春ミステリというのは、謎解きそのものより、登場人物の青春がメインテーマであるだけあって、事件の解決がそのまま彼らの屈託を晴らすものにはならない、むしろそれを深めることになるという場合が多い(私が読むものがそういうものばかりということかもしれない)が、この作品もやはりそうで、美詩は真相と、それによって一変してしまった世界に傷つきながらも、そこで生きることを選択せざるを得ない。物語のラスト、美詩が幼気な少女から大人へと変貌を遂げるシーンは、鮮烈な印象を残す。
『まごころを、君に』 汀こるもの
THANATOSシリーズの第二作。本シリーズは、人の死に遭遇することが極めて多いために死神と呼ばれる少年、立花美樹と、その双子の弟の真樹が、事件に巻き込まれ、それを解決してゆくというもので、本作は、真樹が通う高校で起こった事件を扱っている。なぜだが行く先々で殺人事件に行き当たる少年、残酷な真実、青春の痛み、大人の策略。こうして書けば、どこにでもありそうな物語にも思えるかもしれないが、本作の魅力は、こうした「お約束」を踏襲しつつ、それらをとことん突き詰めて真面目に捉え直す、というところにあると思う。特に、ミステリシリーズのメインキャラクターという存在が、事件の外側の聖域から降りる、ということがどういうことなのかが克明に描かれている。そしてその捉え直しの結果としての本作は、とにかく切なく、やりきれない。その言葉に尽きる。物語前半では、熱帯魚の飼育をめぐって、真樹が通う高校の生徒たちが、引きこもり状態の美樹を訪ね、彼らの交流が微笑ましく描かれる。しかし、その平和な日常は、多数の生徒を犠牲にした爆破事件によって、強制的に幕を下ろされる。その落差の激しさ、事件の発生に心を痛める美樹の憔悴に、心がかき乱される。明かされる真実は、もちろん許しがたく、身勝手なものではあるが、どこか共感させられる、というより、無理やり痛みを押し付けられるような感覚がある。それに反して爽やかな犯人出頭シーンは、ぜひ読んでほしい。なお、謎解きにおいては、第一作に続いて、本作も双子という設定がキーになっており、張られた伏線が、謎解きの手がかりとしての役割を果たすだけではなく、物語および登場人物の心情描写に深く絡み合っているのが見事。
『スプリング・ハズ・カム』(アンソロジー『放課後探偵団』収録) 梓崎優
高校時代に起こった事件を、大人になった主人公が解き明かす、という内容なので、企画の趣旨からは少しずれるかもしれないが、とても好きな作品。高校の同窓会に参加した主人公は、卒業式で起こった放送室ジャック事件の真相を知ることとなる。トリックの大胆さもさることながら、丁寧に張り巡らされた伏線が、予想外の地点に着地する瞬間は素直に感動した。この作品もやはり、切ない余韻を残す物語なのだが、それは、『まごころを、君に』のような、刺すような痛みをもたらすものではなく、柔らかく、優しい印象を持った切なさである。
『バチカン奇跡調査官 黒の学院』 藤木稟
これは完全に私の趣味。企画の趣旨からは大分ずれていると思うが、舞台が寄宿学校なので、ぎりぎりセーフということでご容赦願いたい。バチカン奇跡調査官シリーズの第一巻。本作はアニメ化もされていて、結構原作に忠実なので、ぜひそちらも見てほしい。なんだかアニメだけ見ていると、アニメ映えするように原作を改変したんじゃないか、というように見えるかもしれないが、実は原作もあんな感じなので、安心してほしい。つまり、本作は映像映えする作品であるということだ。主人公たちは、バチカン市国で奇跡の真贋を調査する機関に勤める二人の神父。本作では、主人公たちはあるアメリカの寄宿男子校で起こる数々の奇跡と、そこで起きる連続殺人の調査を行う。読んでもらえばわかるが、もうとにかく風呂敷が広がりに広がって、さらにはさる悪名高き歴史上の人物が出てきたりなんかして、一転伝奇ものじみた展開を見せる。様々な意味で、はまる人はとことんはまるシリーズである。伝奇的な要素は他の巻にも出てくるのだが、この巻はひときわその色が濃い。本シリーズは、かなりの確率で、どこかで秘密の地下室が出てくるので、その登場を待つのも一つの楽しみである。
なんだかホラー小説みたいなシリーズ名だが、実際は、女子高生三人組が活躍するユーモアミステリ。シリーズ名の由来は、全てのタイトルに「~の悪魔」という文言が付くことだが、本物の悪魔が登場するわけではない(ちなみに、同著者の「天使と悪魔シリーズ」は、本当に天使と悪魔が主人公。)。姉御肌でスポーツ少女の由利子、探偵役の香子、俳優志望の旭子の三人が、それぞれの特技を活かして様々な事件に立ち向かう、という王道な設定が心地よく、著者特有の軽妙さも加わって、読み進めるのが楽しい作品。特に、とんでもないお金持ちのお嬢様で、色白の美少女、語学に長け、武術の心得もあるという香子の活躍は痛快。個人的には、友人を助けるために付近のホテルを全て満室にしたエピソードが印象深い。同級生でありながら由利子のことを「お姉さま」と呼ぶ香子と、その由利子との関係性、髪飾りを変えただけで中学生に変貌できるほど卓抜した旭子の演技力など、登場人物やその関係性にも見どころが多い。シリーズの初めの方は、彼女たちが通う学園内で起こる事件を扱っているのだが、次第に事件の規模が大きくなってゆき、由利子の妹が撃たれたり、ヨーロッパで事件を解決したりと、学園ミステリ、という枠を超えた活躍が見られるのも特色の一つ。著者の作品は、ユーモアミステリと称されるものが多いが、その実、学園内で何度も殺人が起きたり、女子中学生の友人が殺されたり、近しい人が犯罪者だったりと、主要な登場人物が中々にひどい仕打ちを受けることが多々ある。かの三毛猫ホームズシリーズでも、シリーズを眺めてみれば、主人公たちは結構な波乱万丈の人生を歩んでいる。それに対して本シリーズは、高校生向けの媒体に掲載されることが多かったせいか、被害者が死亡しない事件が多く、主人公たちの直面する困難も、どちらかというと、前向きな「冒険」という印象を受ける。刑事事件が起きるミステリでありながら、気分が落ち込んた時にも読める、稀有な作品だと思う。
『あなたに贈る×』 近藤史恵
全寮制の学校を舞台とした、これぞ美しき青春小説、と言うべき作品。唇同士を合わせるキスによって感染する病、ソムノスフォビアが蔓延した世界。そこでは、唇同士を合わせる行為は汚らわしい禁忌とされ、ソムノスフォビアで死ぬことは大変な不名誉である。そんな中、あこがれの先輩である織恵が、ソムノスフォビアによって死去したという噂が流れる。その真相を解き明かすうち、美詩は、残酷な真実に辿り着く。ある程度予測はできる展開ながら、そこに至るまでの心情描写、美しく作りこまれた世界観、閉ざされた楽園に落ちる俗世間の影などの巧みな演出が読者を飽きさせない。学園ミステリ、青春ミステリというのは、謎解きそのものより、登場人物の青春がメインテーマであるだけあって、事件の解決がそのまま彼らの屈託を晴らすものにはならない、むしろそれを深めることになるという場合が多い(私が読むものがそういうものばかりということかもしれない)が、この作品もやはりそうで、美詩は真相と、それによって一変してしまった世界に傷つきながらも、そこで生きることを選択せざるを得ない。物語のラスト、美詩が幼気な少女から大人へと変貌を遂げるシーンは、鮮烈な印象を残す。
『まごころを、君に』 汀こるもの
THANATOSシリーズの第二作。本シリーズは、人の死に遭遇することが極めて多いために死神と呼ばれる少年、立花美樹と、その双子の弟の真樹が、事件に巻き込まれ、それを解決してゆくというもので、本作は、真樹が通う高校で起こった事件を扱っている。なぜだが行く先々で殺人事件に行き当たる少年、残酷な真実、青春の痛み、大人の策略。こうして書けば、どこにでもありそうな物語にも思えるかもしれないが、本作の魅力は、こうした「お約束」を踏襲しつつ、それらをとことん突き詰めて真面目に捉え直す、というところにあると思う。特に、ミステリシリーズのメインキャラクターという存在が、事件の外側の聖域から降りる、ということがどういうことなのかが克明に描かれている。そしてその捉え直しの結果としての本作は、とにかく切なく、やりきれない。その言葉に尽きる。物語前半では、熱帯魚の飼育をめぐって、真樹が通う高校の生徒たちが、引きこもり状態の美樹を訪ね、彼らの交流が微笑ましく描かれる。しかし、その平和な日常は、多数の生徒を犠牲にした爆破事件によって、強制的に幕を下ろされる。その落差の激しさ、事件の発生に心を痛める美樹の憔悴に、心がかき乱される。明かされる真実は、もちろん許しがたく、身勝手なものではあるが、どこか共感させられる、というより、無理やり痛みを押し付けられるような感覚がある。それに反して爽やかな犯人出頭シーンは、ぜひ読んでほしい。なお、謎解きにおいては、第一作に続いて、本作も双子という設定がキーになっており、張られた伏線が、謎解きの手がかりとしての役割を果たすだけではなく、物語および登場人物の心情描写に深く絡み合っているのが見事。
『スプリング・ハズ・カム』(アンソロジー『放課後探偵団』収録) 梓崎優
高校時代に起こった事件を、大人になった主人公が解き明かす、という内容なので、企画の趣旨からは少しずれるかもしれないが、とても好きな作品。高校の同窓会に参加した主人公は、卒業式で起こった放送室ジャック事件の真相を知ることとなる。トリックの大胆さもさることながら、丁寧に張り巡らされた伏線が、予想外の地点に着地する瞬間は素直に感動した。この作品もやはり、切ない余韻を残す物語なのだが、それは、『まごころを、君に』のような、刺すような痛みをもたらすものではなく、柔らかく、優しい印象を持った切なさである。
『バチカン奇跡調査官 黒の学院』 藤木稟
これは完全に私の趣味。企画の趣旨からは大分ずれていると思うが、舞台が寄宿学校なので、ぎりぎりセーフということでご容赦願いたい。バチカン奇跡調査官シリーズの第一巻。本作はアニメ化もされていて、結構原作に忠実なので、ぜひそちらも見てほしい。なんだかアニメだけ見ていると、アニメ映えするように原作を改変したんじゃないか、というように見えるかもしれないが、実は原作もあんな感じなので、安心してほしい。つまり、本作は映像映えする作品であるということだ。主人公たちは、バチカン市国で奇跡の真贋を調査する機関に勤める二人の神父。本作では、主人公たちはあるアメリカの寄宿男子校で起こる数々の奇跡と、そこで起きる連続殺人の調査を行う。読んでもらえばわかるが、もうとにかく風呂敷が広がりに広がって、さらにはさる悪名高き歴史上の人物が出てきたりなんかして、一転伝奇ものじみた展開を見せる。様々な意味で、はまる人はとことんはまるシリーズである。伝奇的な要素は他の巻にも出てくるのだが、この巻はひときわその色が濃い。本シリーズは、かなりの確率で、どこかで秘密の地下室が出てくるので、その登場を待つのも一つの楽しみである。
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