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第11話 湯気の奥に見える文明開花(風呂)
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宴の翌日。
俺は早起きして、領地を見回していた。
「そういえば水路、結局全然進んでないんだよなぁ…」
捕まえたスライム様のおかげで、下水周りの目処は立ったけど、今の水路は土を掘っただけ。
水は泥だらけで水路というより、どちらかというとドブに近い。
「…よし、今日から本格的に水路工事だ」
重い腰をあげて分身を出した。
ボンッ、ボンッ、ボンッ——
20人。
「お前ら、今日は水路を整備する。川から領地まで、石と木材で護岸しよう!」
「「「「「了解」」」」」
「任せろ」
「石、どこにある?」
「川の上流に転がってたぞ」
「じゃあ運ぶか」
分身たちが散っていく。
採掘スキルはドラゴン戦で身についている。石を削るのも運ぶのもお手の物だ。
ガコン、ガコン、ガコン——
分身たちが川原で石を割る音が響く。
ザブザブと水路に入って、底に石を敷き詰める俺。
木材を切り出して護岸を作る俺。
土嚢を積んで流れを調整する俺。
20人の俺が一斉に動くと、作業が恐ろしく早い。
「おーい、ここ傾斜が足りねえぞ」
「じゃあ掘り下げるか」
「待て、下流から順にやらないと水が溜まる」
「あー、確かに」
分身同士で相談しながら進めている。
ようやく、こうして自律的に動いてくれるようになった。
一方、ダリオたちは——
「よいしょっ、よいしょっ!」
畑で鍬を振るっている。
リーシャが持ってきた苗を植え、土を耕し、水をやる。
農業班の本領発揮だ。動きに無駄がない。
「領主様ー! この辺りの土、結構肥えてますよ!」
ダリオが汗を拭きながら報告してくる。
「ほーう。それはよかったなー!」
「ええ! 来年にはきっと、立派な麦畑になりますぜ!」
目が輝いている。本当に農業が好きなんだなぁ。うんうん。よかったよかった。
畑仕事の合間には、自分たちの家も建てているらしい。
骨組みだけだった小屋もいくつかは「家」っぽくなり始めていた。
そして、信徒たちは——
「「「「「我らの聖堂を……より荘厳に……」」」」」
教会本部の建設に没頭していた。
砦から少し離れた丘の頂上では、黒っぽい建物が建ちつつある。
一般的な、ファルス教の教会とは明らかに雰囲気が違う。
なんというか……禍々しい。
「リーシャ、あれ大丈夫なのか?変な呪いとか込めてないだろうな…?」
オルファが眉をひそめる。
「大丈夫ですよ~。と~っても神聖な教会じゃないですか~」
リーシャがにこにこ答える。
「……まあ、領主のアンタがいいなら、別にいいんじゃない?」
オルファが諦めたようにため息をつき、俺の肩をポンと叩いた。
驚いたことに、教会本部には治癒所も併設されるらしい。
「治癒所?」
「はい!私や信徒の何人かは回復魔法が使えるので~、怪我や病気の方を治療してあげようかなと~」
「へえ、それは助かるな。ぜひお願いしたい」
領民が増えれば、怪我人や病人も出るだろう。
医療施設があるのは心強い。
ただ……
俺は建設中の治癒所に目をやった。
——めちゃくちゃ光ってる。
今まさに使徒の1人が疲労回復(?)の魔法を受けている最中だ。
普通、神聖魔法って白く光るもんじゃないのか?
あれ、どう見ても……どす暗い紫色に光ってるんだが?
「リーシャ、あの光……」
「効果は抜群ですよ~! むしろ普通の回復魔法より良く効くんです~!」
そう言われると、確かに周りの信徒たちの動きもキビキビしている。
以前より元気そうだ。
「あと、私が作る『回復薬』も好評なんですよ~」
「薬?」
「飲むと疲れが取れるんです~。作業効率も上がりますし~気分も爽快にィ!」
……そこはかとなく怪しい。
でも、信徒たちは確かに元気に働いている。
細かいことは気にしないでおこう。うん。
——————————————————————
水路工事は5日ほどで完了した。
川から拠点の中心まで、石と木材で護岸された水路が通っている。
水は澄んでいて、 見た感じは飲み水としても十分使えそうだ。
今は念の為、煮沸するかリーシャに浄化魔法をかけてもらっている。
「よし、次は風呂だ」
俺は設計図を広げた。
……といっても、布の裏地に適当に描いただけのものだが。
「湯船は一旦木で作ろうか。手頃なものがあればいいんだけど……」
「この辺りの森には香りが良さそうな木も多いわね。楢や榛木なんてどう?……少し奥に行けばあるかも」
オルファが地図を見ながら言う。
「よく分からんが、とにかく香りの良さそうなやつだな?探してくる!」
———森の奥でオルファが教えてくれたっぽい木を見つけた。
分身10人がかりで伐採し、運び出す。
「重っ……」
「でもいい匂いはするな!」
「ああ!風呂に入るのが楽しみだ」
「早く作ろうぜ」
「さっさと次も運ぶぞ!」
分身たちのモチベーションが妙に高い。
俺(本体)の風呂への渇望は思ったより大きいようだ。
湯船の制作は、意外と難航した。
「木を曲げるのって難しくないか?」
「蒸してから曲げるんだよ」
「蒸す? どうやって」
「……わからん」
分身同士で首を傾げている。
結局、切り出した木板を組み立てて湯船を作ることにした。
持ってきた大木を半分に割り、なるべく一枚板にできるように慎重に切り出す。
ゴリゴリ、ゴリゴリ——
切るというより削るに近か作業だ。
採掘スキルが地味に役立った。
木を削るのも、石を削るのも大差ないらしい。
2日後。
なんとか湯船が完成した。
大人が3~4人なら余裕で入れるサイズ。
森の清潔感、そこにほのかな甘さと樹脂の温かみが混ざる。そんな香りだ。
何の木かは知らないが、風呂に使うのにぴったりだ。灰枝領の名物にしよう。
「次は湯を沸かす仕組みだな…」
ここが問題だ。
薪で沸かすのは手間がかかるし、火の管理も面倒だ。
「魔石を使いましょう~」
リーシャが提案してきた。
「魔石?」
「以前見せていただいた、ゴーレムの核がありましたよね?あれに炎の魔力を込めれば、熱源になります~」
「おお、なるほど」
無くしたと思って、倉庫にしまってあったのを忘れてた。
ゴーレムの魔石を持ってくる。
拳大の赤い石だ。まだ微かに魔力が残っているのか脈動しているようにも見える。
「ヴォル、ちょっと来てくれ」
呼ぶと、ヴォルが肩に飛び乗ってきた。
「この石に、炎をちょっと吹きかけてくれないか?」
「グルル?」
ヴォルは首を傾げながらも、言われた通り小さな炎を吐いた。
ボッ——
魔石が淡く光り始める。
「おお、入った入った」
魔石を手で触ると、じんわり温かい。
これを湯口に入れておけば——
「もっともっと!」
言われるがままにヴォルは炎を吐き続ける。
「……ピシッ!」
急に魔石が高温になった。慌てて炎から逸らす。
「充電しすぎちゃったみたいですね~。加減が難しそうです」
リーシャが苦笑する。
その後、何度か試行錯誤して適温を保てる魔力量を見つけた。
ヴォルも「このくらい」という加減を覚えてくれたようだ。
湯船の周りには、洗い場も作った。
床には平らな石を敷き詰め、壁は例の木の板で囲う。
掛け湯用の桶もきちんと設置済みだ。
排水は、そのまま下水へ流れるようにした。
下水にはスライムがいるから、汚れた水も川に戻る頃にはすっかり綺麗になる。
「あ、そうだ。トイレも作らないと」
風呂に夢中ですっかり忘れていた。先にこっちを完成させておこう。
原理は風呂とほぼ同じ。
個室を作って、下に穴を掘って、下水に繋げる。
こんな感じでいいだろう。
1時間とたたず完成した。
「文明だ……」
俺は完成したトイレを見て、しみじみと呟いた。
森で用を足していた日々が嘘のようだ。
——————————————————————
そして——
念願の風呂が完成した。
「入るぞ……!」
俺は湯船の前に立っていた。
湯気が立ち上っている。柑橘みたいに明るい木の香り。
そしてこの地に来てはじめての「湯」。
ここ数週間、川で水浴びしかできなかった。
冷たい水で体を擦るだけの日々。
それが今、目の前に——本物の風呂がある。
「っあ゙ぁ゙~~~……」
ゆっくりと湯に浸かる。
最高だ。
体の芯から、疲れが溶けていくような感覚。
「……極楽」
思わず声が漏れた。
天井を見上げる。梁の隙間から夜空がのぞく。
なんと風情のあることか。一句したためたい気分だ。
湯船に体を預けて、目を閉じる。
——ああ、生きてて良かった。
大袈裟かもしれないが、本気でそう思った。
「アルト様~、私も入っていいですか~?」
外からリーシャの声。
「俺が出てからね!」
そうくると思って内鍵をつけておいてよかった。
「えー、一緒がいいです~」
「ダメ!」
「けちー!」
しばらくガチャガチャと鍵に触っていたようだが、諦めたみたいだ。リーシャの気配が遠ざかっていく。
……ふう。危なかった~
風呂から上がると、オルファが待っていた。
「どうだった?」
「最高。マジで最高!」
「そう。じゃあ私も入るわね」
オルファが風呂場に消えていく。
しばらくして——
「なにこれ、どこで手に入れたのよ?!」
ただならぬ表情でオルファが飛び出してきた。
「な、なに?」
「この木!お風呂に使ってるやつ!」
「森の奥にあったやつだよ?いい香りがしたからオルファが言ってたやつなのかと思ったけど、ちがうの?」
「全然違う!この香り、楢や榛木なんかと比べ物にならないわ!」
そうなのか。
「これ、特定の地域にしか生えないといわれてる超超超高級な木よ!たしか…檜とかいったかしら?」
全然知らん。まぁ高級ならよいのではないだろうか。
「まさかこんな辺鄙な土地に来て、最高級のお風呂が味わえるなんて…灰枝領も捨てたもんじゃないわね!」
さり気なく失礼なやつだな。
「え~ずるいです~!アルト様~、私の教会の木材もこれにしていいですか~?」
「いいよ。森の奥にまだまだ沢山生えてたから、後で分身に取りに行かせとくよ」
「わーい!ありがとうございます~!」
リーシャが嬉々として飛びついてきた。
「でも、オルファが言うには檜はこの辺りには植生がないそうなので~…この素晴らしい木は、それに似た別物なんですかね~?」
「なのかな?」
「では、灰神木と名付けましょう~!」
灰って字が入るのは嫌な気もするが…
元々ここの名物にするつもりだったしな。まぁいいか。
領主である俺の名を冠するなんて、めでたい木だぜ!
その後、領民全員が交代で風呂に入った。
「うおおお、あったけえ……」
「これぞまさに、極楽の極み……」
「生き返る……」
「ありがてえ、ありがてえ……」
中から感嘆の声が聞こえた。
やはり、風呂の魔力は万人に効くらしい。
「「「「「こ、これが……湯浴み……」」」」」
信徒たちは無言で湯に浸かっていた。表情は見えないが、満足しているようでなによりだ。
ヴォルも興味を示したので、湯船の縁に乗せてやった。
前足で湯を触って、そのまま飛び込んだ。
火に水。一瞬ヒヤリとしたが、気持ちよさそうに目を細めている。
……炎のドラゴンが温泉好きって、不思議なこともあるもんだなぁ。
その後、俺は新しい寝床についた。
藁を詰めた布団。リーシャが買ってきてくれた布で作ったものだ。
以前の干し草ベッドも悪くなかったが、やはり布は肌触りが大変よろしい。
風呂で温まった体が、布団に包まれる。
「……幸せだ」
こんな当たり前のことが、こんなに幸せだなんて。
もうすぐ冬になるし、それまでには羊毛か羽毛の布団も作りたいな~…
そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちた。
俺は早起きして、領地を見回していた。
「そういえば水路、結局全然進んでないんだよなぁ…」
捕まえたスライム様のおかげで、下水周りの目処は立ったけど、今の水路は土を掘っただけ。
水は泥だらけで水路というより、どちらかというとドブに近い。
「…よし、今日から本格的に水路工事だ」
重い腰をあげて分身を出した。
ボンッ、ボンッ、ボンッ——
20人。
「お前ら、今日は水路を整備する。川から領地まで、石と木材で護岸しよう!」
「「「「「了解」」」」」
「任せろ」
「石、どこにある?」
「川の上流に転がってたぞ」
「じゃあ運ぶか」
分身たちが散っていく。
採掘スキルはドラゴン戦で身についている。石を削るのも運ぶのもお手の物だ。
ガコン、ガコン、ガコン——
分身たちが川原で石を割る音が響く。
ザブザブと水路に入って、底に石を敷き詰める俺。
木材を切り出して護岸を作る俺。
土嚢を積んで流れを調整する俺。
20人の俺が一斉に動くと、作業が恐ろしく早い。
「おーい、ここ傾斜が足りねえぞ」
「じゃあ掘り下げるか」
「待て、下流から順にやらないと水が溜まる」
「あー、確かに」
分身同士で相談しながら進めている。
ようやく、こうして自律的に動いてくれるようになった。
一方、ダリオたちは——
「よいしょっ、よいしょっ!」
畑で鍬を振るっている。
リーシャが持ってきた苗を植え、土を耕し、水をやる。
農業班の本領発揮だ。動きに無駄がない。
「領主様ー! この辺りの土、結構肥えてますよ!」
ダリオが汗を拭きながら報告してくる。
「ほーう。それはよかったなー!」
「ええ! 来年にはきっと、立派な麦畑になりますぜ!」
目が輝いている。本当に農業が好きなんだなぁ。うんうん。よかったよかった。
畑仕事の合間には、自分たちの家も建てているらしい。
骨組みだけだった小屋もいくつかは「家」っぽくなり始めていた。
そして、信徒たちは——
「「「「「我らの聖堂を……より荘厳に……」」」」」
教会本部の建設に没頭していた。
砦から少し離れた丘の頂上では、黒っぽい建物が建ちつつある。
一般的な、ファルス教の教会とは明らかに雰囲気が違う。
なんというか……禍々しい。
「リーシャ、あれ大丈夫なのか?変な呪いとか込めてないだろうな…?」
オルファが眉をひそめる。
「大丈夫ですよ~。と~っても神聖な教会じゃないですか~」
リーシャがにこにこ答える。
「……まあ、領主のアンタがいいなら、別にいいんじゃない?」
オルファが諦めたようにため息をつき、俺の肩をポンと叩いた。
驚いたことに、教会本部には治癒所も併設されるらしい。
「治癒所?」
「はい!私や信徒の何人かは回復魔法が使えるので~、怪我や病気の方を治療してあげようかなと~」
「へえ、それは助かるな。ぜひお願いしたい」
領民が増えれば、怪我人や病人も出るだろう。
医療施設があるのは心強い。
ただ……
俺は建設中の治癒所に目をやった。
——めちゃくちゃ光ってる。
今まさに使徒の1人が疲労回復(?)の魔法を受けている最中だ。
普通、神聖魔法って白く光るもんじゃないのか?
あれ、どう見ても……どす暗い紫色に光ってるんだが?
「リーシャ、あの光……」
「効果は抜群ですよ~! むしろ普通の回復魔法より良く効くんです~!」
そう言われると、確かに周りの信徒たちの動きもキビキビしている。
以前より元気そうだ。
「あと、私が作る『回復薬』も好評なんですよ~」
「薬?」
「飲むと疲れが取れるんです~。作業効率も上がりますし~気分も爽快にィ!」
……そこはかとなく怪しい。
でも、信徒たちは確かに元気に働いている。
細かいことは気にしないでおこう。うん。
——————————————————————
水路工事は5日ほどで完了した。
川から拠点の中心まで、石と木材で護岸された水路が通っている。
水は澄んでいて、 見た感じは飲み水としても十分使えそうだ。
今は念の為、煮沸するかリーシャに浄化魔法をかけてもらっている。
「よし、次は風呂だ」
俺は設計図を広げた。
……といっても、布の裏地に適当に描いただけのものだが。
「湯船は一旦木で作ろうか。手頃なものがあればいいんだけど……」
「この辺りの森には香りが良さそうな木も多いわね。楢や榛木なんてどう?……少し奥に行けばあるかも」
オルファが地図を見ながら言う。
「よく分からんが、とにかく香りの良さそうなやつだな?探してくる!」
———森の奥でオルファが教えてくれたっぽい木を見つけた。
分身10人がかりで伐採し、運び出す。
「重っ……」
「でもいい匂いはするな!」
「ああ!風呂に入るのが楽しみだ」
「早く作ろうぜ」
「さっさと次も運ぶぞ!」
分身たちのモチベーションが妙に高い。
俺(本体)の風呂への渇望は思ったより大きいようだ。
湯船の制作は、意外と難航した。
「木を曲げるのって難しくないか?」
「蒸してから曲げるんだよ」
「蒸す? どうやって」
「……わからん」
分身同士で首を傾げている。
結局、切り出した木板を組み立てて湯船を作ることにした。
持ってきた大木を半分に割り、なるべく一枚板にできるように慎重に切り出す。
ゴリゴリ、ゴリゴリ——
切るというより削るに近か作業だ。
採掘スキルが地味に役立った。
木を削るのも、石を削るのも大差ないらしい。
2日後。
なんとか湯船が完成した。
大人が3~4人なら余裕で入れるサイズ。
森の清潔感、そこにほのかな甘さと樹脂の温かみが混ざる。そんな香りだ。
何の木かは知らないが、風呂に使うのにぴったりだ。灰枝領の名物にしよう。
「次は湯を沸かす仕組みだな…」
ここが問題だ。
薪で沸かすのは手間がかかるし、火の管理も面倒だ。
「魔石を使いましょう~」
リーシャが提案してきた。
「魔石?」
「以前見せていただいた、ゴーレムの核がありましたよね?あれに炎の魔力を込めれば、熱源になります~」
「おお、なるほど」
無くしたと思って、倉庫にしまってあったのを忘れてた。
ゴーレムの魔石を持ってくる。
拳大の赤い石だ。まだ微かに魔力が残っているのか脈動しているようにも見える。
「ヴォル、ちょっと来てくれ」
呼ぶと、ヴォルが肩に飛び乗ってきた。
「この石に、炎をちょっと吹きかけてくれないか?」
「グルル?」
ヴォルは首を傾げながらも、言われた通り小さな炎を吐いた。
ボッ——
魔石が淡く光り始める。
「おお、入った入った」
魔石を手で触ると、じんわり温かい。
これを湯口に入れておけば——
「もっともっと!」
言われるがままにヴォルは炎を吐き続ける。
「……ピシッ!」
急に魔石が高温になった。慌てて炎から逸らす。
「充電しすぎちゃったみたいですね~。加減が難しそうです」
リーシャが苦笑する。
その後、何度か試行錯誤して適温を保てる魔力量を見つけた。
ヴォルも「このくらい」という加減を覚えてくれたようだ。
湯船の周りには、洗い場も作った。
床には平らな石を敷き詰め、壁は例の木の板で囲う。
掛け湯用の桶もきちんと設置済みだ。
排水は、そのまま下水へ流れるようにした。
下水にはスライムがいるから、汚れた水も川に戻る頃にはすっかり綺麗になる。
「あ、そうだ。トイレも作らないと」
風呂に夢中ですっかり忘れていた。先にこっちを完成させておこう。
原理は風呂とほぼ同じ。
個室を作って、下に穴を掘って、下水に繋げる。
こんな感じでいいだろう。
1時間とたたず完成した。
「文明だ……」
俺は完成したトイレを見て、しみじみと呟いた。
森で用を足していた日々が嘘のようだ。
——————————————————————
そして——
念願の風呂が完成した。
「入るぞ……!」
俺は湯船の前に立っていた。
湯気が立ち上っている。柑橘みたいに明るい木の香り。
そしてこの地に来てはじめての「湯」。
ここ数週間、川で水浴びしかできなかった。
冷たい水で体を擦るだけの日々。
それが今、目の前に——本物の風呂がある。
「っあ゙ぁ゙~~~……」
ゆっくりと湯に浸かる。
最高だ。
体の芯から、疲れが溶けていくような感覚。
「……極楽」
思わず声が漏れた。
天井を見上げる。梁の隙間から夜空がのぞく。
なんと風情のあることか。一句したためたい気分だ。
湯船に体を預けて、目を閉じる。
——ああ、生きてて良かった。
大袈裟かもしれないが、本気でそう思った。
「アルト様~、私も入っていいですか~?」
外からリーシャの声。
「俺が出てからね!」
そうくると思って内鍵をつけておいてよかった。
「えー、一緒がいいです~」
「ダメ!」
「けちー!」
しばらくガチャガチャと鍵に触っていたようだが、諦めたみたいだ。リーシャの気配が遠ざかっていく。
……ふう。危なかった~
風呂から上がると、オルファが待っていた。
「どうだった?」
「最高。マジで最高!」
「そう。じゃあ私も入るわね」
オルファが風呂場に消えていく。
しばらくして——
「なにこれ、どこで手に入れたのよ?!」
ただならぬ表情でオルファが飛び出してきた。
「な、なに?」
「この木!お風呂に使ってるやつ!」
「森の奥にあったやつだよ?いい香りがしたからオルファが言ってたやつなのかと思ったけど、ちがうの?」
「全然違う!この香り、楢や榛木なんかと比べ物にならないわ!」
そうなのか。
「これ、特定の地域にしか生えないといわれてる超超超高級な木よ!たしか…檜とかいったかしら?」
全然知らん。まぁ高級ならよいのではないだろうか。
「まさかこんな辺鄙な土地に来て、最高級のお風呂が味わえるなんて…灰枝領も捨てたもんじゃないわね!」
さり気なく失礼なやつだな。
「え~ずるいです~!アルト様~、私の教会の木材もこれにしていいですか~?」
「いいよ。森の奥にまだまだ沢山生えてたから、後で分身に取りに行かせとくよ」
「わーい!ありがとうございます~!」
リーシャが嬉々として飛びついてきた。
「でも、オルファが言うには檜はこの辺りには植生がないそうなので~…この素晴らしい木は、それに似た別物なんですかね~?」
「なのかな?」
「では、灰神木と名付けましょう~!」
灰って字が入るのは嫌な気もするが…
元々ここの名物にするつもりだったしな。まぁいいか。
領主である俺の名を冠するなんて、めでたい木だぜ!
その後、領民全員が交代で風呂に入った。
「うおおお、あったけえ……」
「これぞまさに、極楽の極み……」
「生き返る……」
「ありがてえ、ありがてえ……」
中から感嘆の声が聞こえた。
やはり、風呂の魔力は万人に効くらしい。
「「「「「こ、これが……湯浴み……」」」」」
信徒たちは無言で湯に浸かっていた。表情は見えないが、満足しているようでなによりだ。
ヴォルも興味を示したので、湯船の縁に乗せてやった。
前足で湯を触って、そのまま飛び込んだ。
火に水。一瞬ヒヤリとしたが、気持ちよさそうに目を細めている。
……炎のドラゴンが温泉好きって、不思議なこともあるもんだなぁ。
その後、俺は新しい寝床についた。
藁を詰めた布団。リーシャが買ってきてくれた布で作ったものだ。
以前の干し草ベッドも悪くなかったが、やはり布は肌触りが大変よろしい。
風呂で温まった体が、布団に包まれる。
「……幸せだ」
こんな当たり前のことが、こんなに幸せだなんて。
もうすぐ冬になるし、それまでには羊毛か羽毛の布団も作りたいな~…
そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちた。
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あてがわれたのは、人が住めないと言われるS級危険地帯『死の荒野』。
しかし、彼らは知らなかった。俺の農業スキルが、レベルアップによって神の領域(ギフト)に達していたことを。
俺が耕せば荒野は豊潤な大地に変わり、植えた野菜はステータスを爆上げする神話級の食材になり、手にしたクワは聖剣すら凌駕する最強武器になる!
「ここなら誰にも邪魔されず、最高の野菜が作れそうだ」
俺は荒野で拾ったフェンリル(美少女化)や、野菜の匂いにつられた聖女様、逃げてきたエルフの姫君たちと、にぎやかで楽しいスローライフを送ることにした。
その一方で、俺の生活が、荒野に落ちていた古代のアーティファクトによって、勝手に世界中に『生配信』されていることには全く気づいていなかった。
「え、この野菜食べただけで瀕死の重傷が治った!?」
「主様、強すぎます! ドラゴンを大根で叩き落とすなんて!」
『コメント:なんだこの配信……神か?』
『コメント:勇者パーティが苦戦してるダンジョン、この人の家の庭じゃね?』
これは、無自覚に最強の農園を作り上げた男が、世界中から崇拝され、一方で彼を追放した勇者パーティが没落していく様子を、リスナーと共にほのぼのと見守る物語。
異世界の底辺村で静かに暮らしたいだけなのに、気づけば世界最強の勇者だった件
fuwamofu
ファンタジー
「村の畑を守りたいだけなんだが…?」──勇者召喚に巻き込まれて異世界に来た青年レオン。しかし才能を測る水晶が“無能”を示したため、勇者パーティから追放される。失意のまま辺境の小村でのんびりスローライフを目指すが、土を耕せば豊穣の奇跡、狩りに出れば魔王級を一撃、助けた少女たちは次々と彼に恋をする。
本人はただ平穏に暮らしたいだけなのに、気づけば国を救い、人々に「救世の英雄」と讃えられていた──。
ざまぁ、逆転、ハーレム、爽快、全部乗せ! 無自覚最強スローライフ・ファンタジー開幕!
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