上 下
74 / 108

バカップルか

しおりを挟む
 そう思った自分に衝撃を受けた。私は自分の付き合ってる人(夫)をカッコいい~だなんて思うイタイ女だったのか! いや、付き合ってるんだからそれくらい思ってもいいのか? これが普通なの? そりゃ巧は元々外見は整っていた。でも日常生活で、改めてかっこいいなんて思ったこと一度もなかったのに。

 非常に、戸惑っている。心がむず痒い。

「杏奈? どうした」

「あ、いえ、なん、いやあ……」

「本当風呂長かったな。俺とっくに出てきてた」

「そ、のようだね」

 とりあえず彼から顔を背けて部屋に入り襖を閉めた。しずしずと敷いてある座布団の上に正座し小さくなる。

 今更だけど私なかなかすごい人と結婚してるんだな。ビジュアルは文句の付けようがない。しかも藤ヶ谷副社長、だなんて。

「杏奈?」

「あ、お風呂すんごいよかったねーあはははは」

「なんで棒読み」

「ちょっとのぼせちゃって。あは」

「……ああ。俺の浴衣そんなに新鮮だった?」

 意地悪そうな声が聞こえて顔を上げる。見ると、巧は勝ち誇ったように口角を上げてこちらを見ていた。自信に満ち溢れているその顔をみて思い出す。

 そうだった。ビジュアルもステータスも文句なしのこの男の欠点は性格が歪んでるところだった。

 巧が立ち上がり私のところに歩み寄る。しゃがみ込み、私の顔を覗き込む。随分と嬉しそうだ。

「浴衣好きだった?」

「いえどちらかと言えば異国の王族の方が」

「は?」

「あ、いや! えーと、まあ、似合ってると思うよ」

 なんだか恥ずかしいがそこは素直に告げる。でも彼にその返事は物足りなかったらしい。ずいっと私に顔を寄せて不満げに言う。

「まあ似合ってるってなんだよ」

「え、似合ってるって褒めてるじゃん」

「見惚れるほどカッコよかったって言えばいいのに」

 この男自分でこんな台詞言ってて恥ずかしくないのか? 呆れてその顔を見上げてみると、巧が子供みたいに私を見ているのに気がついた。

 楽しそうに期待している顔で、私を見ている。

 その顔が吹き出してしまいそうなくらい面白くて可愛く見えてしまって、私はつい笑いながら言った。

「……あは、うん、そうだね」

「え?」

「見惚れてた。新鮮で、カッコよくて。すごく似合ってるよ、浴衣」

 私がそう言い終わった瞬間、あれだけ期待している顔をしていたくせにこの男は面食らったように目を見開き、そしてすぐに顔を赤くさせた。

 その光景がまたしても面白くて笑ってしまった。普段すました顔して自信家のくせに、照れたりするとすぐ赤面するのを私は知っているのだ。

 なによ、もう。こう言わせようとしてたのはそっちじゃない。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

気だるげ男子のいたわりごはん

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:966pt お気に入り:16

みえる彼らと浄化係

ホラー / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:30

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:161,327pt お気に入り:3,466

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:30,509pt お気に入り:2,333

模倣少女は今日も唄う。

青春 / 連載中 24h.ポイント:738pt お気に入り:6

落ちこぼれの神様と愛のないキスを

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:21

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:73,379pt お気に入り:3,090

桜吹雪に消えゆく面影

ホラー / 完結 24h.ポイント:753pt お気に入り:6

虎の帝は華の妃を希う

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:2,683pt お気に入り:4

完璧からはほど遠い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:80

処理中です...