みえる彼らと浄化係

橘しづき

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 片瀬さんは頷いた。

「食べる、と言っても、おにぎりみたいに口から入れるわけではないですけどね。悪霊を自分の体の中に入れて閉じ込めるんです」

「あっ! それで昨晩、あんなことに!? 悪霊が体の中にいたから、ぐったりして黒いもやも」

「そうです。言いましたが、体の中に入れると時間をかけて消化できます。でもその間、苦しいし痛む。強い相手であればあるほど、その症状は強く出てしまう。昨晩はかなり厄介な悪量だったので、意識すら失ってしまってたんです」

「それが、私が触れるとなぜか浄化出来た、ってことですか」

 昨晩、ものすごいもやに包まれていた様子を思い出す。なるほど、体内に悪霊がいたからあんなことになったのか。やっと今回の全貌が見えてきた気がする。

 納得すると同時に、そんな体当たりな仕事をずっとやってきたことに驚いてしまった。もはや命がけと言っても過言ではないのではないか? そんな辛い思いをしてまで、どうして除霊の仕事をするのだろう。やっぱり儲かるのかな。

 私は考えながら言う。

「私もあんなことは初めてです。まあ、あんな状態の人に出会ったことがありませんでしたから……言ったように、母や弟も同じ体質なんですよね。黒いものが見えるのと、あとやたら幸運体質で。弟はともかく、母は浄化した経験はあるっぽいので、今度詳しく聞いてみようかなあ」

「井上さん」

 真剣な声が聞こえたので驚き片瀬さんを見る。彼はいつのまにか正座に座りなおしており、そして勢いよく頭を下げた。

「不躾なお願いだと分かっています。これからもまた、柊一の浄化を手伝ってくれませんか」
 
 こんな風に誰かに頭を下げられたことはない。驚きで固まってしまった。

「え、片瀬さん?」

「お願いできませんか。そうすれば柊一の負担がずいぶん軽くなるはず。こいつ、どんどんやつれていって」

「暁人」

 厳しい声が割り込んだ。振り返ると、ベッドの上から黒崎さんが片瀬さんを見下ろしている。先ほどとは違い、真面目な顔立ちでいた。

「そんなの駄目に決まってる。勝手なことをしないでほしい」

「でも柊一、お前も楽だったろ?」

「今、遥さんの体に異変が起こってないとはいえ、今後何か出てくるかもしれない。巻き込むわけにはいかないよ」

 厳しくそういった黒崎さんにかまわず、片瀬さんは私にさらに言った。

「もちろん、途中で辞めてもらってもいいです。試しにやってみてもらえませんか」

「暁人!」

「ただとは言いません、謝礼ももちろん」

 謝礼、という言葉にぴくっと反応してしまった。自分の中でいろんな意見が繰り広げられる。

 いいんじゃない、だって手を握ってあげただけじゃん。でもそのあと、すごい眠気に襲われたけどね。いや眠いだけならいいんじゃない? いやいや、とはいえ除霊のお仕事ってちょっと怪しいし、黒崎さんが言うように、今後何か健康被害が出るかも。だから途中で辞めてもいいって言ってるよ。とはいえ、さすがに決めるのは早すぎないか。でも謝礼って言葉の響きは大きいでしょ。それに、昨晩あんなに苦しそうだった黒崎さんを、見殺しにすることは出来ない。
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