10 / 71
食べる
しおりを挟む
しばらくしておにぎりを食べ終えた後、片瀬さんが差し出したお茶を飲んだ黒崎さんは、ベッドの上で壁にもたれながらやっと私の方を見た。
「……ごめんね、話の途中だった」
柔らかく微笑んでもらったのを見て、なんとなく背筋が伸びてしまった。私が返事を出来ずにいると、片瀬さんが少し離れたところに胡坐をかいて座り込み、黒崎さんに言った。
「柊一、俺が説明する。昨日タクシーでここまで帰ってきた後、家の鍵をタクシーに忘れてしまったことに気が付いた。そこで声を掛けてくれたのが井上さんだ」
「へえ」
「柊一を見て、すぐに横にさせた方がいいって部屋を貸してくれた。この人もまた、見えるんだそうだ」
黒崎さんが私をじっと見る。なんとなく、彼の視線は苦手な私は、合わせることなくうつむいていた。
「で、お言葉に甘えて中に」
「入ったの? あんな状態の僕を連れて?」
「……柊一、井上さんは見えるだけじゃない。あの時のお前に触れて平気だった上、暗気(あんき)を浄化できるみたいなんだ。今、お前がこの短時間で動くことが出来たのはこの人のおかげなんだ」
黒崎さんが目を丸くした。あんき、とは、あの黒いもやのことを呼ぶのだろうか?
黒崎さんは改めて自分の体を観察し、感心したように言う。
「それで僕はたった一晩でこんなに動けるのか」
「その疲れからか、井上さんはそのまま寝てしまったので今に至る。ただ、体調不良などはないらしい。話によると、家族も似たような力があるのでそういう家系らしい」
「……遥さん」
急に下の名前で呼ばれたので、どきりと胸が鳴った。顔を上げると、ようやく黒崎さんと目が合う。彼は心配そうに私を見ている。
「本当に体は大丈夫? ありがとう。女性のベッドに上がっちゃってごめんなさい」
「は、はい、お気になさらず! 私は全然大丈夫です」
「助けられたみたいだね。本当にありがとう」
優しい声色にドキドキが止まらない。何だろう、今まで出会ってきた人間とは違う特殊な人。綺麗だというだけではなく、オーラがあるのだ。凄い人から声を掛けてもらった、そんな感覚になっている。
片瀬さんが私に向き直った。
「そして、井上さんには何も説明してませんでしたね。俺たちはある仕事のパートナーなんです」
「お仕事の、ですか?」
「俺たちの仕事は除霊することです」
その言葉を聞き、きょとん、としてしまった。予想の斜め上の単語が出てきたからだ。
除霊、ってあの除霊だろうか? 幽霊相手に戦って、追い払ったりする、あの?
「井上さんも見える人ですよね?」
「え、幽霊ですか!? それはないです、黒いもやはたまに見ますけど!」
「そうなんですか? いや、タイミングなどが合わなかっただけかもしれません。暗気が見えるなら、幽霊も見えるはず。はっきり見えすぎて、生きてる人間と勘違いしているのかも。そういう場所へ足を運んだりしたら、きっと体験できる」
生まれてこのかた、心霊スポットなどにはいったことがないし、恐怖体験もしたことがない。暗気とやらはよく見たが、明らかな死者なんて見たことがないはずだ。……多分。
彼は続ける。
「俺と柊一はそれぞれ役割があります。俺は穏やかな霊の除霊を相手にします。行き先が分からなくてさまよってるとか、悲しんでこの世にいるとか、そういう霊ですね。そして柊一の役割は、悪霊相手です」
「悪霊、ですか……」
「俺には手に負えないほどの強い霊になると、柊一の出番です。彼は霊を食べます」
「食べる???」
信じられない言葉に呆気にとられる。でもそういえばさっき、黒崎さんも食べた、ということを言っていたような……。
「……ごめんね、話の途中だった」
柔らかく微笑んでもらったのを見て、なんとなく背筋が伸びてしまった。私が返事を出来ずにいると、片瀬さんが少し離れたところに胡坐をかいて座り込み、黒崎さんに言った。
「柊一、俺が説明する。昨日タクシーでここまで帰ってきた後、家の鍵をタクシーに忘れてしまったことに気が付いた。そこで声を掛けてくれたのが井上さんだ」
「へえ」
「柊一を見て、すぐに横にさせた方がいいって部屋を貸してくれた。この人もまた、見えるんだそうだ」
黒崎さんが私をじっと見る。なんとなく、彼の視線は苦手な私は、合わせることなくうつむいていた。
「で、お言葉に甘えて中に」
「入ったの? あんな状態の僕を連れて?」
「……柊一、井上さんは見えるだけじゃない。あの時のお前に触れて平気だった上、暗気(あんき)を浄化できるみたいなんだ。今、お前がこの短時間で動くことが出来たのはこの人のおかげなんだ」
黒崎さんが目を丸くした。あんき、とは、あの黒いもやのことを呼ぶのだろうか?
黒崎さんは改めて自分の体を観察し、感心したように言う。
「それで僕はたった一晩でこんなに動けるのか」
「その疲れからか、井上さんはそのまま寝てしまったので今に至る。ただ、体調不良などはないらしい。話によると、家族も似たような力があるのでそういう家系らしい」
「……遥さん」
急に下の名前で呼ばれたので、どきりと胸が鳴った。顔を上げると、ようやく黒崎さんと目が合う。彼は心配そうに私を見ている。
「本当に体は大丈夫? ありがとう。女性のベッドに上がっちゃってごめんなさい」
「は、はい、お気になさらず! 私は全然大丈夫です」
「助けられたみたいだね。本当にありがとう」
優しい声色にドキドキが止まらない。何だろう、今まで出会ってきた人間とは違う特殊な人。綺麗だというだけではなく、オーラがあるのだ。凄い人から声を掛けてもらった、そんな感覚になっている。
片瀬さんが私に向き直った。
「そして、井上さんには何も説明してませんでしたね。俺たちはある仕事のパートナーなんです」
「お仕事の、ですか?」
「俺たちの仕事は除霊することです」
その言葉を聞き、きょとん、としてしまった。予想の斜め上の単語が出てきたからだ。
除霊、ってあの除霊だろうか? 幽霊相手に戦って、追い払ったりする、あの?
「井上さんも見える人ですよね?」
「え、幽霊ですか!? それはないです、黒いもやはたまに見ますけど!」
「そうなんですか? いや、タイミングなどが合わなかっただけかもしれません。暗気が見えるなら、幽霊も見えるはず。はっきり見えすぎて、生きてる人間と勘違いしているのかも。そういう場所へ足を運んだりしたら、きっと体験できる」
生まれてこのかた、心霊スポットなどにはいったことがないし、恐怖体験もしたことがない。暗気とやらはよく見たが、明らかな死者なんて見たことがないはずだ。……多分。
彼は続ける。
「俺と柊一はそれぞれ役割があります。俺は穏やかな霊の除霊を相手にします。行き先が分からなくてさまよってるとか、悲しんでこの世にいるとか、そういう霊ですね。そして柊一の役割は、悪霊相手です」
「悪霊、ですか……」
「俺には手に負えないほどの強い霊になると、柊一の出番です。彼は霊を食べます」
「食べる???」
信じられない言葉に呆気にとられる。でもそういえばさっき、黒崎さんも食べた、ということを言っていたような……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
30
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる