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私が選ぶんですか!?
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二階にたどり着くと多くのソファやローテーブルなどが並んでおり、かなり種類は豊富のようだった。お洒落なデザインに心が踊り、私は目を輝かせる。
「わわ、色々ある! どれもいい、テンション上がる!」
「……ははっ」
「あ、ごめんなさい、うるさくて」
「ううん、楽しそうでいいなって思って。佐伯さんって、仕事中はしゅっとして大人びてるけど、実はかなり表情豊かな人だよね」
「仕事中とイメージが違うというセリフは成瀬さんにだけは言われたくありません」
「はは、その通りだ」
二人でとりあえず近くのテーブルに近づき、眺める。私はソファを買う予定なんてないくせに、設置してあったソファに座ってみる。ああ、いいなあソファあるって。私の部屋にはないのだ。でも買うにしてもこんな大きいのはいらないなあ。
私を真似して成瀬さんも座る。しかし、すぐに目がうっとりと細くなるのを見て慌てて立ち上がる。
「成瀬さん、駄目ですよ寝ちゃ!」
「あ、バレた? ソファに座ると睡眠スイッチが」
「座るのはやめましょう、テーブルテーブル!」
私たちがそう騒いでいると、背後から声がした。落ち着いた男性の声だった。
「何かお探しですか?」
振り返ると、五十代くらいのベテランそうな男性スタッフが立っていた。気づかぬ間に店員が近づいてきていたらしい。私たちは頷いて答えた。
「えっと、テーブルを見てて」
「ああ、新婚さんでいらっしゃいますか? 新居に?」
突如そんなことを言われたため、私は固まってしまった。一瞬彼の言った言葉が理解できなかったくらいだ。
新婚? 新婚?? ああそうか、男女が一緒に家具を見ていれば普通そう勘違いされても不思議ではない。いくら私と成瀬さんの顔面偏差値があまりに釣り合っていなくても、だ。
店員は特に深く考えて発言したわけではないと分かっているのに、戸惑いが隠せなかった。胸が苦しいほどに痛い。
けれどそんな私の隣りで、成瀬さんは笑いながらサラリと否定した。
「いえいえ、友人なんです。お互い一人暮らししていて、それぞれ欲しいものがありまして」
「ああ、そうでしたか」
「サイズ的にはこれくらいのを探してるんですが、どういうのがありますか?」
「ふんふん、ああ、こちらですと……」
一人意識してしまっている私をさしおいて二人は勝手に進んでいく。笑いながら店員と並び歩き出す成瀬さんの後ろ姿を軽く睨んだ。なぜ睨んだのかは分からない、ただ理由も分からないが酷く不愉快だったのだ。
おかしい。成瀬さんは何も悪いことはしていないというのに。
とぼとぼと後ろから後をついて行く。成瀬さんは店員から色々教えてもらい感心しながら話を聞いている。無言でそれを見ていると、ある拍子にくるりと私を振り返った。
「佐伯さんは、どっちがいいと思う?」
「え?」
「あっちのと、こっち。俺の部屋どっちが合うかな?」
彼が指さしたのは、至ってシンプルなものだ。木目調のテーブルと、セラミック調デザインのもの。どちらもお洒落で、モダンな感じだ。
「え、私に聞くんですか?」
「うん。佐伯さんが選んで」
「え!? 私が選ぶんですか!?」
「このテーブルの上に置くご飯を作ってくれるのは佐伯さんだからね、佐伯さんに決めてもらわないと」
わけのわからない理由で決断権を頂いた。少し離れたところで、あの店員さんがうんうんと頷いて、何やら生温い目で私たちを見ている。成瀬さんの発言を聞いて、何か勘違いしてないだろうか?
困って眉を下げるも、成瀬さんは期待したようにキラキラした目で私を見ている。ううんと唸り悩んだ挙句、私は恐る恐る声を出してみた。
「どちらも部屋には合うと思いますが……こっちの木目調の方が、あったかい感じがしていいかな、と」
「オッケー決まり」
「決まっちゃった!? 本当にいいんですか?」
「うん、いいの」
笑顔で店員に購入の意を伝える成瀬さん。なんだか私一人重大な判断をさせられ不公平だと思い、つい成瀬さんに言い寄った。
「じゃあ私の部屋のテーブルも成瀬さんが決めてください!」
「えっ」
「そうすれば公平です、えっと私の欲しいサイズは……」
「いや、でもさ。俺佐伯さんの家見たことないから、さすがにどれが合うかとか分かんないよ」
困ったように首を傾げる成瀬さんの発言を聞き、確かに、と納得してしまった。
私は成瀬さんの部屋を知ってるから想像しやすいし決めやすかったけど、どんな部屋に住んでるのか分からないのではさすがに決めるのは難しいだろう。成瀬さんも困るか。私は口をへの字に下げた。
「そ、そっか……でもなんか不公平ですよ! 私あんな重大な決断をしたというのに」
「大げさだなあ」
「成瀬さんに決めてもらえばお互い様だって思ったのに」
「うーんでも女の子の部屋の家具適当に決めるのもなあ」
成瀬さんも考えるようにしたあと、すぐに良案が浮かんだような顔をした。そして私の隣りに少しだけ近づき、やや声のトーンを落として言った。
「じゃあさ。佐伯さんのテーブルは、また次買いに来ない?」
「え?」
「佐伯さんの部屋を見てから俺が決める」
よし決まり、とばかりに彼は頷くも、私はぽかんとして動けずにいる。成瀬さんにテーブルを選んでほしいって言ったのは確かに私だけど、だけど……。
え、それって成瀬さんを私の部屋に招待する流れになってしまっているのでは?
「わわ、色々ある! どれもいい、テンション上がる!」
「……ははっ」
「あ、ごめんなさい、うるさくて」
「ううん、楽しそうでいいなって思って。佐伯さんって、仕事中はしゅっとして大人びてるけど、実はかなり表情豊かな人だよね」
「仕事中とイメージが違うというセリフは成瀬さんにだけは言われたくありません」
「はは、その通りだ」
二人でとりあえず近くのテーブルに近づき、眺める。私はソファを買う予定なんてないくせに、設置してあったソファに座ってみる。ああ、いいなあソファあるって。私の部屋にはないのだ。でも買うにしてもこんな大きいのはいらないなあ。
私を真似して成瀬さんも座る。しかし、すぐに目がうっとりと細くなるのを見て慌てて立ち上がる。
「成瀬さん、駄目ですよ寝ちゃ!」
「あ、バレた? ソファに座ると睡眠スイッチが」
「座るのはやめましょう、テーブルテーブル!」
私たちがそう騒いでいると、背後から声がした。落ち着いた男性の声だった。
「何かお探しですか?」
振り返ると、五十代くらいのベテランそうな男性スタッフが立っていた。気づかぬ間に店員が近づいてきていたらしい。私たちは頷いて答えた。
「えっと、テーブルを見てて」
「ああ、新婚さんでいらっしゃいますか? 新居に?」
突如そんなことを言われたため、私は固まってしまった。一瞬彼の言った言葉が理解できなかったくらいだ。
新婚? 新婚?? ああそうか、男女が一緒に家具を見ていれば普通そう勘違いされても不思議ではない。いくら私と成瀬さんの顔面偏差値があまりに釣り合っていなくても、だ。
店員は特に深く考えて発言したわけではないと分かっているのに、戸惑いが隠せなかった。胸が苦しいほどに痛い。
けれどそんな私の隣りで、成瀬さんは笑いながらサラリと否定した。
「いえいえ、友人なんです。お互い一人暮らししていて、それぞれ欲しいものがありまして」
「ああ、そうでしたか」
「サイズ的にはこれくらいのを探してるんですが、どういうのがありますか?」
「ふんふん、ああ、こちらですと……」
一人意識してしまっている私をさしおいて二人は勝手に進んでいく。笑いながら店員と並び歩き出す成瀬さんの後ろ姿を軽く睨んだ。なぜ睨んだのかは分からない、ただ理由も分からないが酷く不愉快だったのだ。
おかしい。成瀬さんは何も悪いことはしていないというのに。
とぼとぼと後ろから後をついて行く。成瀬さんは店員から色々教えてもらい感心しながら話を聞いている。無言でそれを見ていると、ある拍子にくるりと私を振り返った。
「佐伯さんは、どっちがいいと思う?」
「え?」
「あっちのと、こっち。俺の部屋どっちが合うかな?」
彼が指さしたのは、至ってシンプルなものだ。木目調のテーブルと、セラミック調デザインのもの。どちらもお洒落で、モダンな感じだ。
「え、私に聞くんですか?」
「うん。佐伯さんが選んで」
「え!? 私が選ぶんですか!?」
「このテーブルの上に置くご飯を作ってくれるのは佐伯さんだからね、佐伯さんに決めてもらわないと」
わけのわからない理由で決断権を頂いた。少し離れたところで、あの店員さんがうんうんと頷いて、何やら生温い目で私たちを見ている。成瀬さんの発言を聞いて、何か勘違いしてないだろうか?
困って眉を下げるも、成瀬さんは期待したようにキラキラした目で私を見ている。ううんと唸り悩んだ挙句、私は恐る恐る声を出してみた。
「どちらも部屋には合うと思いますが……こっちの木目調の方が、あったかい感じがしていいかな、と」
「オッケー決まり」
「決まっちゃった!? 本当にいいんですか?」
「うん、いいの」
笑顔で店員に購入の意を伝える成瀬さん。なんだか私一人重大な判断をさせられ不公平だと思い、つい成瀬さんに言い寄った。
「じゃあ私の部屋のテーブルも成瀬さんが決めてください!」
「えっ」
「そうすれば公平です、えっと私の欲しいサイズは……」
「いや、でもさ。俺佐伯さんの家見たことないから、さすがにどれが合うかとか分かんないよ」
困ったように首を傾げる成瀬さんの発言を聞き、確かに、と納得してしまった。
私は成瀬さんの部屋を知ってるから想像しやすいし決めやすかったけど、どんな部屋に住んでるのか分からないのではさすがに決めるのは難しいだろう。成瀬さんも困るか。私は口をへの字に下げた。
「そ、そっか……でもなんか不公平ですよ! 私あんな重大な決断をしたというのに」
「大げさだなあ」
「成瀬さんに決めてもらえばお互い様だって思ったのに」
「うーんでも女の子の部屋の家具適当に決めるのもなあ」
成瀬さんも考えるようにしたあと、すぐに良案が浮かんだような顔をした。そして私の隣りに少しだけ近づき、やや声のトーンを落として言った。
「じゃあさ。佐伯さんのテーブルは、また次買いに来ない?」
「え?」
「佐伯さんの部屋を見てから俺が決める」
よし決まり、とばかりに彼は頷くも、私はぽかんとして動けずにいる。成瀬さんにテーブルを選んでほしいって言ったのは確かに私だけど、だけど……。
え、それって成瀬さんを私の部屋に招待する流れになってしまっているのでは?
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