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ほっと一息
しおりを挟む優香さんには呪詛を得意とする専門業者を紹介し、私たちは帰宅した。
しばらく泣き叫んで放心状態だった彼女だが、最後はしっかりしとした目になり私たちに深く謝罪し、『自分がやったことをこれから償います。幸太郎とは離婚します』と宣言した。
祐樹さんは幸太郎さんが真栄田さんに言い寄っていた証拠や証言の録音を優香さんに渡し、少しでも優位に離婚できるよう励ました。
これから彼女は大変だろうが、きっと一からやり直せると思う。浅山さんのあの言葉を胸に、頑張ってほしいと思った。
「あーあっ。やな事件だったあ」
月乃庭に帰宅後、雅さんはそう言ってソファにダイブした。私はカバンを近くに置きながら頷き、深く同意する。
「竜崎さんから事の真相は聞いていましたけど、目の前で幸太郎さんの豹変ぶりを見るのはショックでしたね……あとは浅山さんが本当にいい人すぎて……」
「ほんとだよね。あっちと結婚してたら幸せだったろうに」
「泣いちゃいました。私のこともたくさん助けてくれてたし……」
「ちゃんと真相がわかってよかった。強制的に除霊してたら可哀想だったもん」
雅さんの言葉に、ダイニングで水を飲んでいた竜崎さんが振り返る。
「花音が浅山さんをしっかり視てくれたおかげだね。ほら、花音の力は役に立ったでしょ」
そう言われた雅さんは拗ねたように唇を尖らせる。その反応が何だか嬉しく思い、私は笑顔で雅さんに言う。
「初めて降霊というものを見ました! 雅さん、凄いですね」
「え? まあねーあれは結構才能がいるの。目的の霊だけを呼ばないといけないし、乗っ取られないように気をつけなきゃだしー」
「感動しちゃいました! あれがないと優香さん、吹っ切れなかったですよね!」
「ただ結構大変なんだよねー体力も精神力も使うし、あんまり連続では出来ない」
「ああ……そりゃそうですよねえ」
私たちの会話を聞いていた祐樹さんが、思い出したように言う。
「ていうか、雅と花音って案外気が合うっしょ。二人揃って幸太郎さんをひっぱたいたときはちょっと笑ったわ」
「だってあれは!」
「手が出ちゃうでしょ!」
私たちがそう言ったのを聞いて、祐樹さんがげらげらと笑った。何だか恥ずかしくなり、私たちは視線を泳がせる。
竜崎さんも言う。
「そうだね、案外うまく行きそうで安心したよ」
雅さんとはまだあまり時間を一緒に過ごしていないし、本当に上手く行くかどうかはわからない。でもそういえば、風呂場で私を助けてくれ、その後もフォローしてくれたのはありがたかったな、と思った。
まだお礼を言えていないことを思い出し、おずおずと口にする。
「あの雅さん。すっかりお礼を言いそびれていましたが、お風呂で私がおぼれている時、助けてくれてありがとうございました。その後の対処も色々と……助かりました」
「ベ、別に? そりゃすっぽんぽんの女を他の男に対処させるほど性格歪んでないからね! それより安易に自分から霊に近づくとかやめてよほんと」
「反省します……」
「ていうか、別に私まだあんたがここに住むの賛成したわけじゃないしー」
雅さんはそう言ってそっぽを向いてしまったが、祐樹さんが私の隣に来て耳打ちする。
「照れてるんだよ」
「ああ……」
「祐樹! 聞こえてる!!」
雅さんは目を吊り上げてそう言い、祐樹さんは口をへの字に曲げたので笑ってしまう。やっぱりみんな仲がいいんだな。
雅さんは『お風呂に入ってくる』と言い残し、ずんずんと足音を立てたままリビングから出て行ってしまった。そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、少しだけ雅さんのことが分かってきた気がした。
結構正義感を持って動いているし、恥ずかしがり屋なんだな。一緒にお風呂入ろうとかは言ってくるくせに……まだ歓迎はされていないだろうけど、多分最初ほど反対はしていない、と思いたい。あと、私が竜崎さん目当てじゃないと根気強く説明したのもよかったのかも。
一緒にこうして依頼をこなしていくと、もっと認めてもらえるのかもしれないな。
少しほっとしたところで、そういえば薬局に行きたかったんだ、と思い出す。歯磨き粉がすっかり空っぽになってしまっていたのだ。とはいえ、今日は疲れたし行くのは面倒だな。だが、歯磨き粉は誰かに貸してくださいとも言いづらい。それと出来れば、明日の朝ごはんのパンとお茶と、無くなりかけてるリップも……ああ、やっぱり行った方がいいかも。
時計を見てみると十九時で外はもう暗いが、まだ経営時間内だ。夜道を歩くのは怖いけど、最近は少し霊と視線を合わせないことに慣れてきた気もするし行ってこようか。
浅山さんを見て、怖いと思っている霊は実はそうと限らないということがよく分かった。むしろ、疑っていてすみませんと謝りたい。
「私ちょっと薬局に行ってきます」
「今から? 竜崎さんに車借りたら」
「ペーパードライバーなので、借りるのは怖いです……歩いて行ってきます」
私はそう祐樹さんに言うと、置いたカバンを手に取って外へと繰り出した。
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