そのエラーはハンドリングできません

nao@そのエラー完結

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11月19日(月)

第15話

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 月曜日の朝は、憂鬱な空気がフロアに漂っている。そんな中でも、佐々木は淡々とパソコンに向かっていた。

「佐々木くん、少し話がしたんだけど三十分ほどいいかな」
「ええ、大丈夫です」

 聞こえるか聞こえないかの小さな声で佐々木は答えた。

 ミーティングルームで、年明けからのプロジェクト体制を説明したものの、佐々木は始終不安そうな顔で黙っていた。といっても、前髪が目元まで伸びており、黒縁の眼鏡にかかっているため、表情が上手く掴みきれない。

「私でいいんでしょうか」
「佐々木くんには随分、助けてもらっているよ」

 慎重派で口下手な彼は、人を引っ張っていくような力強さはないものの、プログラミングやインフラ知識に長けている。最初から彼を外す選択肢はなかった。

「でも、その、客先でのテストやリリース作業なんかは自信がありません」
「それはやったことがない仕事だからかな。それなら、自信がなくて当然じゃないかな? 俺だって、自分が上手くリーダーをできている自信なんてないんだ」
「瀬川さんが、ですか……?」
「自信があるフリしてるだけ……かな。でもさ、俺たちはチームなんだから、お互いに足りないところを補いながらやっていければいいと思うんだ」
「そうですね」

 ほんの少しだけ佐々木の顔がほころんだ。本当は伝える時期を遅らせた方がよかったのかもしれないが、彼にも心の準備が必要だとも思った。咳払いをひとつして、佐々木の目を見据える。

「じつは、リリース後に、俺はプロジェクトを離脱することになったんだ」
「え……追加開発が決まっているはずでは?」
「ああ、追加開発はほぼ決定しているよ。だから細川さんがNシステムと兼任で、面倒をみてくれることになったんだ。ただ、それだと体制として弱くなってしまうだろ? そこで、Yシステムの開発リーダーを立てなきゃならなくてさ。本来なら佐々木くんにお願いするところなんだけど」
「わ、私には無理です……」

 血の気が引いた顔に、俺の判断は間違ってなかったと確信する。

「そうだよな。俺も、佐々木くんには、技術面に集中してもらった方がプラスになると考えているんだ」
「そ、そうですか」

 佐々木は、安堵の息を吐く。

「だから、開発リーダーは矢口くんに任せようかと思うんだけど」
「矢口くんですか?」

 不安げに眉をしかめた佐々木に、なるべく優しい笑顔をつくってみせた。

「矢口くんは経験が浅すぎるし、不安なところがあるのはわかるよ。しっかりした先輩が支えてやらないと、彼も潰れてしまうかもしれない。だからさ、佐々木くんに矢口くんのフォローをお願いしたいんだ」
「私が、ですか?」
「もちろん、矢口くんのことは、細川さんが面倒見てくれると思うんだ。けど、あの二人は年が離れすぎてるだろ? 佐々木くんなら、矢口くんとも年も近いし、彼の相談に乗ってあげることもできるんじゃないかと思ってさ」
「そんな器用なこと、私にはできません」
「難しく考えなくていいんだ。矢口くんの決めたことがおかしかったら、指摘するだとか、相談されたら聞いてあげるだとか、そんな程度で構わないから」

 困惑している佐々木に、俺はそんなに難しい要求をしているのだろうか、と頭をひねりそうになる。

「できる限りのことはしてみます……」

 佐々木は頭を下げてると、猫背の背中を更に丸めて会議室から出ていった。
 細川リーダーからの厳しい指導に対して、精神的なフォローを、念のためお願いしたつもりだったが、彼にはあまり期待できないかもしれない。いや、矢口の人懐っこさがあれば、自分から何かしら掴みにいけるだろう。もしかすると、少し過保護過ぎたのだろうか。

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