そのエラーはハンドリングできません

nao@そのエラー完結

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11月19日(月)

第16話

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「失礼します」

 佐々木が退出と入れ替わりで、矢口がミーティングルームに顔を出した。同じ部屋のはずだが、パッと空気が華やぐものだから感心する。

 机を挟んで正面の椅子に腰かけた男に、佐々木の時と同じように新体制について説明したが、特に反論もなく大人しく状況を受け入れているようだった。そうして、説明が出張の話に及ぶと、急に瞳が輝き出す。

「神戸に出張って、みんなで同じマンションに住むってことですか?」
「ああ、希望があれば別にすることもできるけど」
「瀬川さんと俺が一緒に住んじゃえば、もっと経費が浮きますよ」

 名案と云わんばかりに、微笑んでいる男に、なんだか顔がゆるんでしまう。

「矢口くん、それは会社にどう説明するつもりなのかな?」
「仲良しの同僚だからって理由では、ダメですか?」

 可愛らしく小首を傾げる矢口の仕草が、可笑しくて喉の奥で笑ってしまった。

「冗談はさておき、とにかく、希望がないなら、まとめて手配するからな」
「やっぱりダメですか。でも、同じマンションならすぐに会いに行けますね」

 嬉しくて仕方ない、という表情の男に、次の言葉を発するのが少し憚られた。

「それで、リリース後に、俺はプロジェクトから離れることに決まったから、Yシステムの追加開発からは、細川さんについていってもらいたい」

 男の顔がみるみる曇っていく。

「それで、金曜日にあんなことを聞いたんですか?」

 プロジェクトが別々になっても、会社を辞めたりしないか、と聞いたことを指しているのだろう。厳しい瞳で射ぬかれるのが耐えられず、目を伏せた。

「どうして、瀬川さんが抜けるんですか? リーダーなのに、ありえません」

 低いトーンで更に問い詰められる。

「仕方ないだろ。別の新規プロジェクトに参入することが決まったんだから」
「本社にはいるんですよね?」
「客先に常駐することになっている」
「期間は?」
「二年ぐらいかな」
「他のメンバーは誰ですか?」
「まだ白紙同然だよ」
「俺はその新規プロジェクトに入れる可能性はありますか?」
「それはありえないかな。Yシステムから矢口くんを外すことはできないだろ」
「瀬川さんが外れる方が、ありえないじゃないですか!」

 ドンッと机を叩かれて、ビクリと肩を揺らす。視線を戻すと、矢口は目元を抑えて俯いていた。

「メンバーが代わるのは、そんなに珍しいことじゃないだろ。これが第二グループの方針なのだから、受け入れてほしい」

 言いようのない沈黙の後に、矢口は口を開いた。

「これは篠田マネージャーが決めたことなんですよね?」
「……ああ、決定を下したのは篠田さんだ」
「解りました。納得します」

 俯いたまま、矢口は小さく頷いた。

 嘘は吐いていない。俺が「決めた」ことではない。けれど、この要員計画を提案したのは俺自身だ。客観的には、最良の人員配置にしたつもりである。それなのに、胸の奥にもやもやと不快な空気が充満していく。

「四ヶ月か。短いな」

 矢口は、ぽつりと呟いた。



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